学位論文要旨



No 216273
著者(漢字) 西島,浩之
著者(英字)
著者(カナ) ニシジマ,ヒロユキ
標題(和) 港湾コンテナターミナルの整備管理運営とその国際競争力に関する研究
標題(洋)
報告番号 216273
報告番号 乙16273
学位授与日 2005.06.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16273号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 國島,正彦
 東京大学 教授 家田,仁
 東京大学 教授 佐藤,慎司
 東京大学 教授 吉田,恒昭
 東京大学 教授 小澤,一雅
内容要旨 要旨を表示する

1980年代まで、日本主要港は、北米、欧州航路に就航するコンテナ本船の殆ど全てが寄港する世界のコンテナ基幹航路のメインポートであった。1990年代、東アジア諸国のコンテナ貨物量の増大、世界の海運会社の再編、コンテナ船の大型化などから、東アジアで、ハブアンドスポークの輸送形態が促進され、欧州、北米航路の日本に寄港する航路数の割合が着実に低下していった。世界の主要船社は、本船が寄港する港を厳選している。本船の寄港しない港は、フィーダー船で本船寄港港へ輸送することを余儀なくされる。日本の経済、産業の活力を維持し、高い消費水準を保つためには、低廉で安定的な貨物輸送が必要である。このためには、北米、欧州航路に就航する本船が日本主要港へ寄港し、世界と日本との間の貨物輸送を行うことが不可欠と考えられる。

本論文は、低廉で安定的な輸送を確保できるよう、日本のコンテナターミナルの国際競争力を向上させる整備管理運営制度を構築することを目的とした。

世界のコンテナ航路網の状況、世界のコンテナターミナルの管理運営実態、および海運・港湾資料等をもとに、基幹航路本船の日本主要港への寄港状況を把握するために、北米西岸航路、欧州航路の寄港港を1990年と2001年で比較検討した。上海港、釜山港、香港、シンガポール港等の港湾が全航路数に対する寄港航路数比率を増加させているが、大阪湾港、東京湾港は、寄港航路数比率を大幅に減少させていることが分かった。

コンテナターミナルの国際競争力を評価するために、(1)本船揚積コンテナ貨物量 (2)メイン航路からの乖離距離 (3)港湾費用および港湾サービス (4)本船受け入れコンテナターミナル施設等の基準を設定した。日本のコンテナターミナルの現状は、トランシップ貨物の著しい減少によって本船揚積コンテナ貨物量が伸び悩んでいること、港湾費用が高いこと、港湾サービスが低いこと等の評価結果が得られ、東アジアの主要港と比較して日本のコンテナターミナルの国際競争力が相対的に低いことが明らかとなった。

世界と日本の港湾に関する制度と運用実態、港湾管理者の業務実態等の資料を収集分析して、日本のコンテナターミナルの整備管理運営制度の課題を抽出した。世界の港湾に対する考え方は、海陸交通の結節点ということで一致しているが、日本の港湾に対する考え方は、物流機能に加え、工業、商業、業務等の機能が総合的に展開する場として捉えられている特徴がある。日本の主要港湾管理者が行ってきた事業内容は、港湾管理者事業に占める埋立事業の比率が著しく高い。日本は、港湾を核とする沿岸域が地域、都市の開発空間確保の場であったために、港湾整備管理運営制度は、(1)港湾の岸壁、防波堤等の基本的施設整備が国庫補助で行われること (2)独立採算制でないこと (3)港湾管理者が地方自治体の内部組織であること、等の3つの特色を有することが明らかとなった。したがって、日本の港湾整備管理運営制度は日本の港湾に対する考え方を反映して埋立事業を促進する制度といえる。

埋立事業の促進を見据えた3つの特色が、公共コンテナターミナルの効率性を著しく損ねていると考えられる。すなわち、(1)国庫補助が行われた公共ターミナルは、不特定多数の船社、港運会社に公平に利用させることを港湾法で義務づけられる。しかし、1つのターミナルで複数の者がばらばらな荷役作業を行えばターミナルの効率性が低下する可能性がある (2)独立採算性でないことは、収入がなくても組織が維持できることからコンテナ取扱量や集荷量を増大させる取り組みを不十分なものとし、コンテナターミナル間の競争が生じない (3)港湾管理者としての地方自治体は、ターミナルの管理運営に精通した職員が少ないなどコンテナターミナルを運営する体制になっておらず、所有する施設を貸付けることだけが業務となっている。公社コンテナターミナルの場合は、日本の港湾整備管理運営制度の特例として承継法に基づき財団法人埠頭公社が、コンテナターミナルを整備し、船社等に専用貸付けている。公社ターミナルは借受けた船社のみの貨物を取扱う施設である。不特定多数の船社がターミナルで貨物を交換するトランシップ輸送にはなじまない形態といえる。また、ターミナル間で集荷の競争も生じない。船社、ターミナルを運営する船社子会社、港運会社、港湾労働者が、それぞれの立場の既得権益を主張しつつターミナル運営に関与するので、ターミナル運営の責任体制が不明確となっている。

日本の公共ターミナル制度および公社ターミナル制度の実態を調査分析した結果、日本のコンテナターミナルの国際競争力を低下させた整備管理運営制度の改善すべき問題点は、(1)コンテナターミナルを真に管理運営し一元的に経営する主体が不在であること (2)コンテナターミナル間を競争させる仕組みがないこと、等に集約できた。現在の高い港湾費用、低い港湾サービスは、船社、港運会社、港湾労働者団体の交渉の中で形成された労働慣習によるところが大きい。現在のコンテナターミナル管理運営者は、自らのコンテナターミナル管理運営および経営に重要な影響があるこの問題の傍観者である。競争に晒されたコンテナターミナルの経営主体が存在すれば、非効率の是正を強く求めると思われる。

日本の目指すべき方向を明らかとするために、世界のコンテナターミナルの整備管理運営制度の実態を、民営化の観点から調査分析した。その結果、効率的で集荷力のあるコンテナターミナルは、(1)運営形態が不特定多数の船社を顧客とするコマーシャルターミナルであること (2)運営するコンテナターミナルの規模が、4バース以上と大規模であること (3)単一の主体によって一元的に管理運営されていること等の3つの共通した要件を備えていることが分かった。これらの要件は、民間企業がコンテナターミナルを運営することによって実現されていると思われたので、世界のコンテナターミナルの整備管理運営への民間企業の参入程度の実態を調査研究した。コンテナターミナル民営化の形態を、公設公営の民営化0型から民設民営の民営化5型まで6分類して、世界と日本のコンテナターミナルを類型化して、その特性を比較検討した。その結果、民営化が進んでいる類型ほど、コンテナターミナルの効率が良くなっていること、および民間企業間の競争が激しいほど港湾費用が安くなっていること、等が明らかとなった。

民営化の類型別の利害得失に関する総合的な比較分析に基づき、日本のコンテナターミナル整備管理運営制度の改革の方向を検討した。民間企業によるコンテナテナターミナルの一元的経営主体を確立することが必要と考えられるが、現在の日本の公共ターミナルおよび公社ターミナルは、民営化程度の低い民営化1型、民営化2型に分類できる。原則的に民営化を進める必要があるといえるが、日本のコンテナターミナルを民営化程度の高い民営化4型、5型とすることは、公共水域規制を直ちに民間に委ねること、BOT方式の経営の確立等、現在の日本では実現が著しく困難と思われる。したがって、日本のコンテナターミナルは、世界の先進国で多く見られる民営化3型を採用することが妥当と考えられる。民営化3型による民営化の場合、コンテナターミナルの整備は、費用を要する岸壁、埋立事業を国及び港湾管理者が整備し、ターミナルの運営施設であるヤード、ガントリークレーン等荷役機械、管理棟等は、民間企業が整備する仕組みとする。民間企業が運営施設を整備し所有することによって、民間企業のターミナル経営の独立性がより強いものとなる。ターミナルの管理運営は、民間企業が、不特定多数の船社と契約によって一元的に荷役サービスを提供する。このためには港湾管理者の管理する岸壁、埋立地を民間企業に一括、全面的、長期に貸し付ける必要があるので、港湾施設の公平利用原則を定めた港湾法第13条、第46条及び関連条項の改正が必要である。ターミナルを運営する民間企業の選定手続き、また、適切な公共、民間の間の事業分担、リスク分担、民間企業の自由な管理運営の保障等に関する契約は、PFI法を適用することで可能となる。

日本のコンテナターミナル整備管理運営制度を、民営化3型へと改善すれば、民間企業によるコンテナターミナルの経営主体が確立できる。その結果、ターミナル間の競争をもたらし、トランシップ貨物等コンテナ貨物の集荷対策、経営の様々な工夫によって効率性が向上すると考えられる。民間企業が経営するコマーシャルターミナルは不特定多数の船社、荷主を顧客とするので、船社と港運会社を固定化する事前協議制度とは相反する管理運営方式である。一元的に経営する主体の存在は、事前協議制度の解消を招き、船社、港運会社、労働者組合の間の労働慣習是正への動きを生じさせ、安い港湾費用および高い港湾サービスの実現、すなわち日本のコンテナターミナルの国際競争力ある整備管理運営への道を開くと考えられる。

審査要旨 要旨を表示する

1980年代まで、日本主要港は、北米、欧州航路に就航するコンテナ本船の殆ど全てが寄港する世界のコンテナ基幹航路のメインポートであった。1990年代、東アジア諸国のコンテナ貨物量の増大、世界の海運会社の再編、コンテナ船の大型化などから、東アジアで、ハブアンドスポークの輸送形態が促進され、欧州、北米航路の日本に寄港する航路数の割合が着実に低下してきた。本船の寄港しない港は、フィーダー船で本船寄港港へ輸送することを余儀なくされる。日本の経済、産業の活力を維持し、高い消費水準を保つためには、低廉で安定的な貨物輸送が必要である。したがって、北米、欧州航路に就航する本船が日本主要港へ寄港し、世界と日本との間の貨物輸送を行うことが不可欠といえる。

本論文は、低廉で安定的な輸送の確保を可能とする、日本のコンテナターミナルの国際競争力を向上させる整備管理運営制度を構築することを目的としている。

世界のコンテナ航路網の状況、世界のコンテナターミナルの管理運営実態、および海運・港湾資料等をもとに、基幹航路本船の日本主要港への寄港状況を把握するために、北米西岸航路、欧州航路の寄港港を1990年と2001年で比較検討し、上海港、釜山港、香港、シンガポール港等の港湾が全航路数に対する寄港航路数比率を増加させているが、大阪湾港、東京湾港は、寄港航路数比率を大幅に減少させていることを明らかにしている。

コンテナターミナルの国際競争力を評価するために、(1)本船揚積コンテナ貨物量 (2)メイン航路からの乖離距離 (3)港湾費用および港湾サービス (4)本船受け入れコンテナターミナル施設等の基準を設定している。日本のコンテナターミナルの現状について、トランシップ貨物の著しい減少によって本船揚積コンテナ貨物量が伸び悩んでいること、港湾費用が高いこと、港湾サービスが低いこと等を定量的に示し、東アジアの主要港と比較して日本のコンテナターミナルの国際競争力が相対的に低いことを検証している。

世界と日本の港湾に関する制度と運用実態、港湾管理者の業務実態等の資料を収集分析して、日本のコンテナターミナルの整備管理運営制度の課題を抽出している。日本の港湾に対する考え方は、海陸交通の結節点という物流機能に加えて、工業、商業、業務等の機能が総合的に展開する場として捉えられているという特徴があるため、日本の主要港湾管理者が行ってきた事業内容は、港湾管理者事業に占める埋立事業の比率が著しく高いことを示している。日本は、港湾を核とする沿岸域が地域、都市の開発空間確保の場であったために、港湾整備管理運営制度は、(1)港湾の岸壁、防波堤等の基本的施設整備が国庫補助で行われること (2)独立採算制でないこと (3)港湾管理者が地方自治体の内部組織であること、等の3つの特色を有することを明らかにしている。

埋立事業の促進を見据えた3つの特色が、公共コンテナターミナルの効率性を著しく損ねていることを分析している。すなわち、公共ターミナルの場合は、(1)国庫補助が行われるので、不特定多数の船社、港運会社に公平に利用させることを港湾法で義務づけられるが、1つのターミナルで複数の者がばらばらな荷役作業を行えばターミナルの効率性が低下する可能性があること (2)独立採算性でないことは、収入がなくても組織が維持できることからコンテナ取扱量や集荷量を増大させる取り組みを不十分なものとし、コンテナターミナル間の競争が生じないこと (3)港湾管理者としての地方自治体は、ターミナルの管理運営に精通した職員が少ないなどコンテナターミナルを運営する体制になっておらず、所有する施設を貸付けることだけが業務となっていること等の特性を抽出している。公社コンテナターミナルの場合は、(1)日本の港湾整備管理運営制度の特例として承継法に基づき、財団法人埠頭公社がコンテナターミナルを整備し船社等に専用貸付けているので、借受けた船社のみの貨物を取扱う施設となり、不特定多数の船社がターミナルで貨物を交換するトランシップ輸送にはなじまない形態であること (2)ターミナル間で集荷の競争が生じないこと (3)船社、ターミナルを運営する船社子会社、港運会社、港湾労働者が、それぞれの立場の既得権益を主張しつつターミナル運営に関与するので、ターミナル運営の責任体制が不明確となること等の特性を抽出している。

日本の公共ターミナル制度および公社ターミナル制度の実態を調査分析した結果、日本のコンテナターミナルの国際競争力を低下させた整備管理運営制度の問題点を、(1)コンテナターミナルを真に管理運営し一元的に経営する主体が不在であること (2)コンテナターミナル間を競争させる仕組みがないこと等に集約している。現在の高い港湾費用、低い港湾サービスが、船社、港運会社、港湾労働者団体の交渉の中で形成された労働慣習に影響されて、コンテナターミナル管理運営者が、自らのコンテナターミナル管理運営および経営に重要な影響があるこの問題の傍観者になっていることを示し、競争に晒され非効率の是正を求めるコンテナターミナルの経営主体の必要性を論証している。

日本の目指すべき方向を明らかとするために、世界のコンテナターミナルの整備管理運営制度の実態を、民営化の観点から調査分析している。その結果、効率的で集荷力のあるコンテナターミナルが共通して備えている、(1)運営形態が不特定多数の船社を顧客とするコマーシャルターミナルであること (2)運営するコンテナターミナルの規模が、4バース以上と大規模であること (3)単一の主体によって一元的に管理運営されていること等の3つの要件を明らかにしている。これらの要件が、民間企業がコンテナターミナルを運営することで実現するという視点に立脚して、世界のコンテナターミナルの整備管理運営への民間企業の参入程度の実態を調査分析している。コンテナターミナル民営化の形態を、公設公営の民営化0型から民設民営の民営化5型まで6分類して、世界と日本のコンテナターミナルを類型化して、その特性を比較検討している。その結果、民営化が進んでいる類型ほど、コンテナターミナルの効率が良くなっていること、および民間企業間の競争が激しいほど港湾費用が安くなっていること等を検証している。

民営化の類型別の利害得失に関する総合的な比較分析に基づき、日本のコンテナターミナル整備管理運営制度の改革の方向を検討している。現在の日本の公共ターミナルおよび公社ターミナルを、民営化程度の低い民営化1型、民営化2型に分類している。日本のコンテナターミナルを民営化程度の高い民営化4型、5型とすることは、公共水域規制を直ちに民間に委ねること、BOT方式の経営の確立等、現在の日本では実現が著しく困難と論じている。そして、日本のコンテナターミナルは、世界の先進国で数多く見られる公設民営方式の民営化3型、すなわち、コンテナターミナルの整備は、費用を要する岸壁、埋立事業を国及び港湾管理者が整備し、ターミナルの運営施設であるヤード、ガントリークレーン等荷役機械、管理棟等は、民間企業が整備する仕組みが妥当と論じ、民間企業が運営施設を整備し所有することによって、民間企業のターミナル経営の独立性が高まることを示している。民間企業が、不特定多数の船社と契約によって一元的に荷役サービスを提供するためには、港湾管理者の管理する岸壁、埋立地を民間企業に一括、全面的、長期に貸し付ける必要がある。したがって、港湾施設の公平利用原則を定めた港湾法第13条、第46条及び関連条項を改正する必要があること、ターミナルを運営する民間企業の選定手続き、公共と民間の間の事業分担、リスク分担、民間企業の自由な管理運営の保証等に関する契約は、PFI法を適用することで可能となること等を論証している。

本論文は、日本のコンテナターミナルの国際競争力を向上させる整備管理運営制度として、公設民営方式の民営化3型を提唱し、民間企業によるコンテナターミナルの一元的経営主体の確立、ターミナル間の競争、トランシップ貨物等コンテナ貨物の集荷対策や経営方針の工夫による効率性の向上が実現すると論述している。そして、民間企業が一元的に経営するコマーシャルターミナルは不特定多数の船社、荷主を顧客とするので、船社と港運会社を固定化する事前協議制度の解消を招き、船社、港運会社、労働者組合の間の労働慣習是正を生じさせ、安い港湾費用および高い港湾サービスの実現、すなわち日本のコンテナターミナルの国際競争力ある整備管理運営が実現できると論証している。その研究成果は、将来の日本の港湾コンテナターミナルの国際競争力を向上させる具体的方策の構築に資するだけでなく、我が国の公共事業システムの構造改革のためにも、従来の研究や論説に比較して、極めて斬新で数多くの有益な知見と示唆に富むものと認められる。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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