No | 216332 | |
著者(漢字) | 寺木,彰浩 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | テラキ,アキヒロ | |
標題(和) | 空間データの平面位置の精確さを評価する方法 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 216332 | |
報告番号 | 乙16332 | |
学位授与日 | 2005.09.15 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第16332号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 都市工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文は,平面位置の絶対誤差に関する理論モデルに基づき,空間データの精確さを統計的に評価する実用的な手法を提案するものである.論文は以下の6章からなる. 第1章:研究の目的・背景,および,既存の関連研究に関する整理 第2章:本論文が用いる平面位置の精確さに関する理論モデルの定式化,および,2点間の距離から空間データの精確さを評価する手法(手法1)の提案 第3章:空間データを重ね合わせて同一の点の座標のズレから精確さを推定する手法(手法2)の提案,および,手法1と手法2の比較 第4章:ISO-TC211による空間データの精確さの指標に対応した手法(手法3)の提案 第5章:実際の空間データに手法1〜3を適用したケーススタディに関する報告,および,建築物の位置と形状を用いた簡便法(手法4)の提案 第6章:まとめ 各章の概要は以下の通りである. 第1章では,研究の背景として これまで空間データの位置の精確さは,作成作業の手順を規定することにより担保されてきたこと. 都市計画分野などから,既にでき上がった空間データ全体の位置の精確さを統計的に評価することが求められているが,具体的な手法として広く知られたものは無いこと. を指摘した. そして論文の目的が,平面位置の絶対誤差に関する理論モデルに基づき,空間データの精確さを統計的に評価する実用的な手法を提案するものであることを明確にした. ついで,現在わが国で用いられている空間データの位置の精確さを評価する基準,ISO-TC211 で検討されているも草案,および,欧米諸国で用いられているものについて整理した.また,既存の関連研究についてもレビューし,本論文の目的を十分に果たすことのできる手法は知られていないことを裏付けた. 第2章では,まず,本論文で用いる平面位置座標の絶対誤差を記述する理論モデルについて定義した. このモデルは,平面位置の絶対誤差が2次元正規分布に従うという仮定に基づくものである.特に第2章及び第3章では精確さが標準偏差のみによって評価される場合を扱った.そして,空間データ上での2点の距離に基づき,その精確さを評価する手法である,手法1を提案した. この章では,空間データの平面位置が真の位置を中心に2次元正規分布するという仮定の下でエラーモデルを提案し,空間データ上での2点間の距離の確率密度関数を理論的に導出した.その性質として 真の距離に比べて長い値を示す確率が高いこと. 期待値は常に真の距離よりも大きいこと.そして真の距離が大きくなるにつれ,漸近的に真の距離に近づくこと. 分散は真の距離が大きくなるにつれて見かけの誤差の標準偏差の2乗に近づくこと. などが示された. 次いで,2点間の距離に基づき,空間データの平面位置の精確さを評価する手法,および,空間データが平面位置の精確さの点で,ある地図情報レベルを満たしているかどうかを検定する手法について提案した.前者は対象となる領域から任意の2点を組み合せた線分を標本として選び出し.最尤法によって誤差の大きさを推定するものである.後者は,空間データの標準偏差が基準値よりも小さいかどうかを統計的な検定問題として捉えたものである. 第3章では手法2を提案した.これは精確さがあらかじめわかっている空間データと重ね合わせることにより,ある空間データの平面位置の精確さを評価する手法である.また,3種類以上,誤差の標準偏差がわからない空間データがある場合には,2種類の組み合せを3組以上用意することにより,個々の精確さを評価する手法について検討した. ケーススタディとして,縮尺1/2,500の地図を基に作成された空間データを重ね合わせた事例を取り上げた.結果として,同一と見なされる点間の相対距離の分布に対し,特に距離の小さい部分で極めてよく当てはまる推定値を得た.本手法の有用性を示すものと考える. また,これまで提案された手法1および手法2について,以下のような特徴があることが明らかとなった. 手法1の利点: 手法2に比べ,あらかじめ予測される誤差の標準偏差が小さいときに.効率的である.本質的に系統誤差に頑健であると考えられる. 欠点: 対象となる領域で標本点間の精確な距離を求める必要がある.したがって,手法2に比べ,コスト面などで不利である. 手法2の利点: あらかじめ予想される誤差の標準偏差が大きいときに手法1に比べて効率的である. 空間データのみによる評価が可能で手法1に比べて簡便であり,ある程度の自動化も期待できる. 実測が必要な場合でも,手法1に比べ,コスト面などで有利である. 欠点: 手法1に比べ,本質的に系統誤差の影響を受けやすいと考えられる. 各々,欠点はあるものの,実用上重大な支障をきたすほどのものではない.それぞれ有効な手法であるということができる. 第4章においては,別の評価手法(手法3)を提案した. これは ISO-TC211 によって作成されている空間データの位置の精確さの記述の草案に対応する手法である.手法1および手法2に比べ, 真度の推定が可能であること 精度についても,誤差の分散共分散行列を求めるものであり,より詳細な評価ができること などが特徴である. ケーススタディとして建設省国土地理院で行われた実験を取り上げ, SPOT 衛星の単画像が残差が 30m という標定精度を満たしていることを示した. 手法1および手法2と同様,手法3についても,実用上,十分に有効な手法であることが示された. 第5章において,本論文に提案された手法を用いて実際に空間データの精確さを評価し,どの手法による評価が最もよくあてはまるかについて検討を行った. また,建築物の位置と形状に関する情報を用いた簡便な評価手法(手法4)を提案した. この章では,市販され,安価に,かつ,容易に入手できる空間データを対象として取り上げ,具体的なケーススタディ地区を設定し,標本点を散布して座標を計測することにより平面位置の精確さを評価することを試みた.その結果, 手法1〜3の評価結果は比較的安定していること. 本論文で取り上げた手法のうち, 手法2 による誤差モデルが最もよく当てはまること. 東京都の都市計画地図情報システムのデータは地図情報レベル 2500 を満たしていること. などが示された. 以上の検討は平面位置の絶対誤差のみを対象としており,各空間データがそれぞれの地図情報レベルを十分に完全に満たしていると保証するわけではない.しかし作成された空間データを後から統計学的に評価する試みとして,情報の質の担保に向けた第1歩と評価されるべきものである.更に事例を積み重ねるなど,今後の研究成果の蓄積を期待したい. ついで空間データを重ね合わせることによって建築物を同定する手法に対して,空間データの平面位置の誤差が及ぼす影響について,理論的モデルに基づき検討を行った. 成果として ある点が空間データとして座標が記述される場合のズレに関する理論モデル 空間データの重ね合わせによる建築物同定に関する理論モデル を得た. またケーススタディとして1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災の建築物の被災データを統合する作業を取り上げた.これは,デジタル版の住宅地図の建築物の代表点を,地図情報レベル2500のデジタルマッピングにより取得された空間データ上に散布し,後者の建築物の位置・形状を元に同定作業を行った結果から空間データの精確さを評価するものである.結果として デジタル版住宅地図の誤差の標準偏差が約 1.3m と推定されること 等を得た. 最後に第5章において,本論文の内容について簡単にまとめ,残された課題について整理した. 特に課題について以下に簡単にまとめる. 本論文で提案された手法は全く新しいものであり,実際に活用された例に乏しい.今後,適用例を増やし,実用上の問題点などが明らかになっていくことが期待される. また,それぞれの評価手法の仮定について,用いられている仮定が実際の空間データに対し,十分にあてはまるのかどうか,検証する必要がある.これは空間データを作成するときに実際に用いられている手順や,空間データ同士の組み合わせに大きく依存するものであり,基礎理論的なアプローチでは十分に検証することができない.事例の組み合わせにより実証的に示されるものであり,この点からも適用例が増えていくことが期待される. さらに,評価の対象となる空間データ上で標本点の位置を求める具体的な手順を決めることが必要である.現状ではあくまでも基礎的・理論的な評価手法に過ぎない.実際に適用する上で有用なマニュアルの作成などが求められる. | |
審査要旨 | 本論文は,空間データ内の任意の点の水平絶対座標がどの程度の精確さを有しているのか,評価する手法について検討を行うものである.既に作成された空間データを統計学的に評価するという観点から以下の4つの手法が提案されている. 空間データの定義域内の任意の2点間の長さを実際の長さと比較することにより評価を行う手法(手法1) 同一の点が異なる空間データ間で生ずるズレの長さから評価を行う手法(手法2) 同一の点が異なる空間データ間で異なる座標値を持つことから評価を行う手法(手法3) 建築物の代表点が他の空間データで建築物形状の内部に含まれるかどうかにより評価を行う手法(手法4) 論文では,第1章で研究の目的および位置付け,既存の関連研究に関するレビューが述べられている.ついで第2-4章で上記の手法1-3について検討が行われ,第5章でケーススタディに基づく手法1-3の比較および手法4に関する検討,第5章でまとめがおこなわれている.各章の内容は以下の通りである. まず1章では本論文の目的および構成について述べられた後,空間データの平面絶対座標の精確さを評価するために用いられている基準について,わが国および欧米の例,ISO-TC211の草案についてとりまとめられている.更に既存の関連研究についても概観している.空間データの位置の精確さはデータ作成時の手順を規定することによって担保されており,実際に作成されたデータの任意の点の持つ誤差を評価する手法がなかったことが示された. 2章においては,平面位置の絶対誤差が2次元正規分布に従うという仮定に基づき,本論文で用いる平面位置座標の絶対誤差を記述する理論モデルが定義されている.そして,空間データ上に散布された任意の2点を標本として,空間データにおける標本内の距離と実際の距離を比較することにより,位置の精確さを誤差の標準偏差により評価する手法(手法1)が提案された. 3章では別の評価手法(手法2)が提案されている.誤差の影響により,一般的には同一の点が互いに独立な複数の空間データで異なる座標を取る.2種類の空間データの組み合わせに対して,同一の点がそれぞれの空間データで持つ座標から1つの長さを得る.手法2はこの長さを標本として統計学的に位置の精確さを評価するものである.この手法は空間情報を組み合わせて一つの評価を得る.したがって,評価を行いたい空間情報を,あらかじめ手法1などによって精確さがわかっている空間データと組み合わせる場合と,他に2種類以上の空間情報と組み合わせる場合の2種類の利用法が合わせて提案されている. そして,手法1および手法2についてFisherの情報量に基づく効率性,系統誤差への頑健性,必要となるコストに関する理論的な比較について述べられている.すべての面で優れている手法はなかったため,目的に応じて手法を使い分ける必要があることが示された. 4章では,2章で述べられた誤差の理論モデルが拡張され,ISO-TC211の草案における誤差の精確さの記述に即した評価手法(手法3)が提案された.手法3により,同一の点がそれぞれの空間データで持つ座標を直接利用して,空間データの位置の精確さの真度を誤差の平均ベクトルとして,精度を分散共分散ベクトルとして表現することができる. 5章において,ケーススタディに基づき手法の比較が行われている.実際に手法1-3を用いて,東京都都市計画地理情報システムの地形データ及び1万円程度の価格で市販されている空間データの精確さを評価し,どの手法による評価が最もよくあてはまるかに関するAIC(AkaikeInformationCriterion)を用いた比較である.結果として手法2が最もよくあてはまることが示された. また手法4が提案されている.これは,ある空間データ上の建築物の代表点を標本として,他の空間データ上で建築物の位置および形状を表す多角形内部に入るかどうかに基づいて位置の精確さを評価する.ここでも阪神淡路大震災時に作成された建築物の被災情報を用いたケーススタディが行われている. 最後に6章において,本論文の内容について簡単にまとめられ,残された課題が整理されている. 以上のように本論文は空間データを評価する,これまでに類を見ない全く新しい4つの手法を提案している.また,これらの手法はケーススタディや手法どうしの比較を通じて実際に適用が可能であることが示されており,理論面のみならず実用面についても有用性が実証されている,学術的にも応用的にも多くの優れた成果を挙げたといえる. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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