No | 216333 | |
著者(漢字) | 片岡,憲一 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カタオカ,ケンイチ | |
標題(和) | 低接触力LSI検査プロービング | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 216333 | |
報告番号 | 乙16333 | |
学位授与日 | 2005.09.15 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第16333号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 精密機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文は半導体デバイステスト用の低接触力マイクロマシンプローブカードを実現するための低接触力コンタクト手法を論じたものである。LSIデバイスの高集積化に伴って試験時のプロービングが困難になっている大きな要因として、従来LSI上電極と試験用プローブのコンタクトに必要とされてきた大きな接触力があることに着目した、従来の機械的なコンタクト手法に替わり、電気的絶縁破壊の一種であるフリッティングおよび表面酸化膜の還元処理による除去手法を提案し、その基本的特性を明らかにすることで低接触力のプロービング手法に有効であることを示した。さらに、マイクロマシンプローブカードを設計・製作し、これらの低接触力コンタクト手法が有効であることを示した。 本論文は6章から構成されている。第1章では,研究の背景として、半導体デバイスの高密度化とそれに対応するためのマイクロマシンプローブカードについて述べ,Al電極のスクラビングに起因する接触力の問題と低接触力プロービング手法の必要性を論じた。第2章および第3章では,新しい低接触力コンタクトの手法として、フリッティングおよびCu電極の還元処理について、コンタクト測定実験を行ってプロセスの最適化、原理の解明を行った。第4章および第5章では、低接触力プロービング手法のマイクロマシンプローブカードへの適用性について論じた。第4章ではフリッティングコンタクトの利点である低ダメージ性を生かしたマイクロスプリングおよび座屈マイクロカンチレバーを開発し、1〜10mNの接触力での低ダメージコンタクトを実現した。第5章では超多ピン・超高密度のマイクロマシンプローブカードへの適用のため、0.1mN以下の超低接触力でコンタクトするマイクロカンチレバーの開発を行った。第6章では、本論文の総括を行った。 以下、各章ごとの内容の要旨を述べる。 高密度化・高速化するLSIの試験プロセスにおいて,デバイス電極の高密度化に対応するためのプローブカードの微小化が必要になっており,マイクロマシンプローブカードがそれを実現する手段として最も有力である。一方で,従来のプロービングにおけるコンタクト手法として用いられてきたAl電極の機械的破壊であるスクラビングは,30〜100〜mNの大きな接触力を必要とし,電極やプローブに与えるダメージが大きいことが問題となっている。これまで報告されたプローブカードの例を見ると,低接触力でAlにコンタクトすることが困難になりつつあることがわかる。カンチレバーによるスクラビングコンタクトは,電極上で長さ数10μmの針痕を残すため,スクラビングしない構造のマイクロマシンプローブカードがもとめられているが,接触抵抗が低く安定しないという問題がある。また,将来の超高密度・超多ピンデバイスに対応するプローブカードでは,接触力を発生することが困難である。従って,これからの高密度デバイスに対応したマイクロマシンプローブカードの実現には低接触力コンタクト手法の開発が必要である。 フリッティングは金属表面酸化膜の比較的低い電圧での絶縁破壊現象と、破壊時に流れる電流による加熱によって接触部に低抵抗の電気的コンタクトが形成されるプロセスである。これまで数10mN以上の大きな接触力下での測定例が報告されているがプロービングへの適用は、一つの研究例を除いて報告されていないので、プロービングに必要な特性を明らかにするための実験を行った。 まずAFMカンチレバーを用いた、10μN以下の超低荷重フリッティング測定を行い,外部から力を加えることなくフリッティングが起こるこがわかった。フリッティングには外部からの接触力が必要ではないことがわかった。接触力が大きいと,低い電圧でフリッティングが起こる確率が高くなること、Al電極では15Vの電圧印加でほぼ確実に絶縁破壊が起こるがわかった。 接触抵抗は電流による加熱によるプロセス(Bフリッティング)によって低減することができ,1Ω以下の接触抵抗は,300mAの電流を流すことによって得られることがわかった。また、接触抵抗低減の効果を得ることのできる電流印加時間は1ms以下であることがわかった。接触抵抗は電流の最大値によって決まるので、接触抵抗のばらつきを押さえるためには、電流のばらつきを押さえることが有効であることを、スイッチングで電圧を印可する方法によって示した。Al電極上でのフリッティングを繰り返し行うことで、先端に付着物が堆積し、コンタクト不良が起こる現象が確認された。 フリッティング後、電極とプローブを引き離す際には、0.2〜0.5mNの引き離し力が観察され、フリッティング部が電流による加熱によって凝着していることが明らかとなった。 有限要素法を用いて,コンタクト部の加熱と体積変化に伴う表面酸化膜の応力分布を計算し,コンタクト部の温度が周囲に比べて100度程度の加熱で酸化膜の破壊強度を超える応力を生じていることがわかり,無荷重状態での酸化膜破壊のメカニズムの要因を示すことができた。 以上の結果よりフリッティングが低接触力プロービングの新しいコンタクトプロセスとして有効であることがわかり、また1Ωの低い接触抵抗を得るための条件として電流が重要なファクターであることを明らかにした。 高速信号伝送のために、デバイスの配線材料としてCuが広く使われるようになっており、将来重要性が増すと予想されるCu電極について,新しい低接触力プロービング手法として電極の表面酸化膜の除去について検討した。XPSを用いた分析によって、Cu表面のCu2Oからなる自然酸化膜が水素雰囲気中で摂氏220度以上の温度で加熱すると酸化膜層の厚さが減少することがわかった。還元処理によってCu酸化膜の厚さが減少し,接触抵抗は2分の1程度に減少する。また、還元の効果は,大気露出後100分〜200分持続することがわかった。また、水素雰囲気中の加熱によってプロービング時の接触抵抗が処理前に比べて1/2程度に減少することを示し、還元プロセスが、低接触力コンタクトでの接触抵抗の低減に有効であることを明らかにした。 低ダメージを目的として,スクラビングしない梁構造として,スプリング型および座屈変形で1mNから10mNのコンタクトカをもつものを設計,製作し,低接触力プロービングを行ってその効果を検証した。座屈プローブとしては、Fe/Ni合金によって接触力1〜10mNのマイクロプローブカードを製作した。製作したプローブは設計値どおりの座屈プローブとしての挙動を示した。AlおよびCu電極に対して,印加電圧10Vでフリッティングコンタクトを行い,プローブ自身の抵抗を含めても1〜2Ωの接触抵抗を得ることができた。また,スクラビングによっては安定したコンタクトを得ることができず,座屈プローブカードの接触抵抗の安定化のためにフリッティングが効果的であることが示された。 多層Niメッキプロセスを用いてMEMSプローブカードのためのマイクロスプリングアレイを設計,製作した。組立不要なバッチプロセスで250μmピッチの電極に対するコンタクトを行うことが可能である。製作したプローブはビームの10000回の繰り返し荷重に耐え変形せず,十分な機械的強度を持つことが確認された。マイクロスプリングとAl電極のコンタクトでは、フリッティングを起こさない場合は接触抵抗が高かったが,フリッティングを用いることによって,接触力2mN〜10mNでAl電極に対して3Ω以下の安定した接触抵抗を示した。 本章の結果より、1〜10mNの低接触力コンタクトでは、Al電極に対して機械的な接触のみでは十分低い接触抵抗が得られないが、フリッティングを用いることで安定した低ダメージのコンタクトを実現することがわかった。 本章では,マイクロカンチレバープローブカードを開発し、超高密度デバイスと低接触力プロービングの関係を調べた。まず,デバイスの高密度化とそれに対応するマイクロマシンプローブカードの接触力の関係を梁の弾性変形の式から求め、100μmピッチのエリアアレイに対応するNiメッキのカンチレバープローブカードでは、100μm以下の非常に低い接触力で接触しなければならないことが明らかとなった。超低接触力マイクロマシンプローブカードとして,メッキ層間の応力差を利用して表面から反り上がった構造のカンチレバーを開発した。十分な応力差を得るためには異なる種類のメッキ浴を用いることが有効であることがわかった。製作したカンチレバーとAl電極の間のフリッティング特性を測定し,接触力10μN以下で1.5〜2Ωの接触抵抗を得ることができ,フリッティングコンタクトが超低接触力プローブカードの実現に有効であることを示した。また、破壊には第4章の低接触力プローブカードに比べると大きな電圧が必要であることがわかった。 | |
審査要旨 | 本論文の目的は半導体デバイステスト用の低接触力マイクロマシンプローブカードを実現するための低接触力コンタクト手法の開発である。 高密度化・高速化するLSIの試験プロセスにおいて,デバイス電極の高密度化に対応するためのプローブカードの微小化が必要になっており,マイクロマシンプローブカードがそれを実現する手段として最も有力である。一方で,従来のプロービングにおけるコンタクト手法として用いられてきたAl電極の機械的破壊であるスクラビングは,30〜100mNの大きな接触力を必要とし,電極やプローブに与えるダメージが大きいことが問題となっている。すわなち、従来のカンチレバーによるスクラビングコンタクトは,電極上で長さ数10μmの針痕を残す。 従って,これからの高密度デバイスに対応したマイクロマシンプローブカードの実現には低接触力コンタクト手法の開発が必要である。 そこで本研究では、新しい低接触力プロービング手法としてフリッティングを取り上げた。フリッティングは電気的絶縁破壊による初期電流路の形成と,電流による低抵抗コンタクトの形成の2段階のプロセスに分けて考えることができるが、この現象をマイクロマシンプローブカードに広く適用するために,本研究では、1.)フリッティングコンタクトと接触力の関係、2)フリッティングコンタクトによる接触抵抗の低下、を明らかにした。 本研究では,接触力が1〜10mNの低接触力のスクラブしないプローブカードと接触力μNオーダの超低接触力マイクロマシンプローブカードを開発し,低接触力によるコンタクトを実現した。 プローブ構造として座屈カンチレバーあるいはS字スプリング構造を用いることによってスクラブのない低ダメージコンタクトが可能である。このコンタクトプローブを搭載するプローバのz方向の位置合わせ誤差やプローブカード,デバイスの表面の凹凸を合わせた,電極とプローブ先端の距離のばらつきdcは10μm以内とすることが必要であることがわかった。 エリアアレイで100μmピッチを実現するためには,dcを10μmとした場合,接触力は100μN以下でなければならない。この接触力の領域では,機械的なコンタクトで初期電流路が形成されていない場合があるが,Aフリッティングによる絶縁破壊とBフリッティングによる抵抗減少効果を利用することで,電気的コンタクトを実現することができることを示した。プローブ構造としては,より微細な構造となるため,反り上がりカンチレバーのような単純なプロセスで作製できるものが適している。さらにフリッティングコンタクトに適した材料を先端に用いることでより効果的なコンタクトが可能になることを示した。 また,さらに,将来重要性が増すと予想されるCu電極について,新しい低接触力プロービング手法として電極の表面酸化膜の除去について検討した。Cuの酸化膜は水素雰囲気中の加熱によって還元されることは知られているが,プロービングに適用された例はなく,プロセスの条件などを求める必要がある。また一度還元したCu電極表面は試験時に空気中に放置されることによって再度酸化することが予想されるため,再酸化のプロービングへの影響を評価する必要がある。本論文ではこれらの点を解明し,さらに,還元プロセスとフリッティングの併用による効果について論じた。 以上のように、本研究で得られた工学的知見は極めて大きく、また、工学の発展に寄与するところは多大である。よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |