学位論文要旨



No 216336
著者(漢字) 竹内,敏惠
著者(英字)
著者(カナ) タケウチ,トシエ
標題(和) 電磁界と運動の連成解析による電力用開閉装置の高度化研究
標題(洋)
報告番号 216336
報告番号 乙16336
学位授与日 2005.09.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16336号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大崎,博之
 東京大学 教授 仁田,旦三
 東京大学 教授 小田,哲治
 東京大学 教授 日,邦彦
 東京大学 教授 横山,明彦
 東京大学 助教授 古関,隆章
内容要旨 要旨を表示する

電力用開閉装置は過渡的な事故電流を安全かつ瞬時に開閉する装置であり、過渡電磁界現象と密接に関連する機器でありながら、過渡電磁界解析技術の適用は接点部の電磁反発現象など限られた分野での応用がほとんどであった。そこで、電力用開閉装置における過渡電磁界解析技術の新たな応用展開を研究し、さらに運動との連成解析にいち早く着眼することで、三相母線や駆動部など新たな分野への電磁界と運動の連成解析手法の提案、適用について研究した。本論文では、以上の電磁界と運動の連成解析による電力用開閉装置の高度化に関する研究成果をまとめた。

電力用開閉装置への電磁界と運動の連成解析の適用には、解析手法上、複数導体相互間の渦電流効果を考慮した過渡電磁界解析と振動解析との連成解析手法と、過渡電流を利用した電磁反発力と非線形の負荷力を考慮した電磁界と運動の連成解析手法が考えられる。

前者の具体的な適用対象が超高電圧の電力用開閉装置であるコンパクトGISの三相一括形GIBであり、本解析手法上、導体内部の渦電流効果による電流の偏流を考慮できるという特徴が得られる。特に、三相母線に異なる過渡電流が流れる短絡事故時の状態を忠実に模擬でき、導体内部の自己電流による渦電流だけでなく、三相相互間および非線形磁気特性を持つ周辺タンクの渦電流による導体電流の偏流を考慮できる。以上により、過渡電磁力を高精度に解析でき、本電磁力をもとに母線振動を解析することにより三相一括母線の短絡電磁力設計の高度化が達成された。三相一括形GIBにおける本解析手法の導入は世界初の試みであり、短絡電磁力解析精度の向上および振動解析との連携による設計手法は、母線間距離の縮小、母線の支持構造のコンパクト化およびタンク部材における鉄などに代表される安価な磁性材の適用拡大につながり、GISのコンパクト化設計における極めて重要な設計手法に位置づけることができる。

一方、後者の適用対象には高速遮断器があり、電磁力を発生しながら駆動する際の速度起電圧項を考慮した過渡電気回路と、磁界および運動を連成して解くという数値解析上の特徴がある。電磁反発駆動部とさらばねを利用した高速駆動機構を持つ高速遮断器の設計には、コンデンサを利用した電気回路から放電される電流を利用した電磁反発力を用いて、接点反発力を抑えるための強大な非線形ばね力に抗して高速に駆動する状態を解く必要があるため、電磁界と運動の連成解析の適用による駆動部設計手法が必須である。空隙距離が変化しながら長ストロークを瞬時に駆動する高速遮断器の駆動部設計への本解析手法の導入は初めての試みであった。電磁界と運動の連成解析手法を用いた高速遮断器の設計手法の確立は重要な成果であり、遮断電圧定格15kVおよび24kVの高速遮断器の世界初の実用化をもたらした。また、本解析手法は各定格電圧の高速遮断器の最適磁気設計に有効であり、実用化された高速遮断器は、定格電圧、サイズおよび駆動電源容量のいずれにおいても製造機関の中で最高の性能を達成している。

以上、表1に本研究の対象、解析手法の特徴および利点をまとめる。

以上、本研究により、高速遮断という新しい機能を持った電力用開閉装置の高精度設計および高電圧化がはかれるとともに、装置全体としてのコンパクト化および系統の安定性向上のための電力用開閉装置を設計するための設計手法を確立した。また、過渡電磁界と運動の連成解析技術の高精度化、適用範囲の拡大は、電力用開閉装置のさらなる新機能の創出とともに、一般のアクチュエータ機器の駆動解析や半導体基板内の電路部での偏流解析にも流用可能であり、多数の分野への展開に重要な研究である。

現在、電磁駆動技術の電力用開閉装置への適用は、高速遮断器から一般の遮断器へと展開されており、従来の汎用遮断器のばね操作装置への電磁駆動機構の適用へと発展している。これら電磁駆動方式汎用遮断器の発展は、装置全体の構造の単純化を図れるため保守の省力化が促進でき、部品点数の削減による信頼性向上、および、低コスト化に有効である。これらの効果は次世代開閉装置に求められる経済性、環境問題に合致している。これら電磁駆動方式汎用遮断器の研究開発においても過渡電磁界解析と運動連成解析手法が重要な設計手法であり、本研究において高度化した設計手法により最適化を実施した結果、他に類のない省エネルギー駆動を達成できている。

表1 研究対象と解析手法の選定理由および利点

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「電磁界と運動の連成解析による電力用開閉装置の高度化研究」と題し,電力用開閉装置の研究開発において,電磁界と運動の連成過渡解析をいち早く適用し,それに基づく磁気設計手法を確立して,コンパクトGIS(ガス絶縁開閉装置)の三相一括形GIB(ガス絶縁母線)や,遮断電圧定格15kVおよび24kVの高速遮断器のコンパクト化や高速駆動化に代表される高度化を達成したものであり,7章から構成される。

第1章は「序論」であり,電力用開閉装置の概要と開発動向,および最近の電力システムを取り巻く社会,経済情勢の中での全三相一括形コンパクトGISや高速遮断器の実用化への期待,次世代電力開閉機器のより高度な設計への電磁界と運動の連成解析の重要性を整理し,さらに本研究の目的と論文構成について述べている。

第2章は「コンパクトGISおよび高速遮断器の構成と設計課題」であり,具体的な解析・設計対象であるコンパクトGISと高速遮断器の基本構成,構造,要求性能などを説明し,続いて,コンパクトGISの三相一括形GIBにおける過渡電磁界解析技術の適用拡大の必要性と研究課題,高速遮断器の電磁反発機構における過渡電磁界解析と運動解析との連成技術の重要性を示している。それらに基づいて,高速遮断器の設計手法に求められる課題と開発の手順,目標仕様について整理している。

第3章は「コンパクトGIS三相一括形GIBの短絡電磁力設計」であり,550kV次世代コンパクトGISの三相一括形GIBモデルに対して,渦電流と非線形磁気特性を考慮したA-φ法の三次元辺要素有限要素法に基づく過渡電磁界解析を適用し,それにより短絡電磁力解析の高精度化を達成し,GIS機器のコンパクト化が可能であることを示唆する結果を得ている。そして短絡電磁力解析の精度を振動挙動測定結果と比較することにより検証し,本解析手法が次世代コンパクトGISの設計に極めて有益であること,さらに,本手法の適用によりGIS機器のコンパクト化の可能性を示した。

第4章は「等価回路モデルを用いた渦電流反発式高速遮断器の駆動解析」であり,渦電流反発式15kV高速遮断器の電磁誘導反発駆動部の設計手法の高度化のために,反発板上の渦電流を1ターンの誘導コイルで模擬した等価回路法による電磁界解析と運動方程式の連成解析手法を提案し,その解析結果と実験結果および有限要素法解析結果との比較により,実用に十分な精度を有していることを示した。また,反発板材料特性と駆動効率との関係を明らかにし,反発板の厚みと表皮厚さとの関係から本手法の適用限界も明確に示した。さらに,15kV高速遮断器実機の解析を本手法により行い,実測と比較評価した結果,良好に一致することを確認し,本連成解析手法の有効性を実証した。

第5章は「有限要素法電磁界運動連成解析を用いた24kV高速遮断器の時期設計」であり,24kVへ高電圧化を図る高速遮断器の電磁反発駆動部の設計手法として非線形磁気材料を含む有限要素法による電磁界解析と運動方程式の連成解析手法の適用を行い,特に,高電圧化に伴う駆動距離の長ストローク化に対応するため,可動空気領域のメッシュ変形法を採用し時間方向の離散化にクランクニコルソンのθ法を導入した。解析の結果,高効率化と定格遮断電圧格上げのためには強磁性体を用いた電磁反発機構部の高効率化が有効であることを示した。さらに,駆動電源の大容量化を抑制するためにコイルを三段に重ねた新形の電磁反発機構を提案し,本連成解析を用いた数値実験により渦電流反発式の約1/2の電源エネルギーで1.5倍の駆動距離が達成可能であることを実証した。

第6章は「24kV高速遮断器の構造設計および遮断器性能の評価」であり,第5章の磁気設計結果をもとに24kV高速遮断器単極構造の強度設計を行い,試作した単極試作機について長期信頼性,駆動特性および遮断性能を評価した結果をまとめている。3万回開閉駆動,開極時間1ms以下,投入時間約10ms,切替投入20ms(約1サイクル)以内,ピーク電流値50kA以上の遮断性能を確認し,高速遮断器に必要な長期信頼,高速開閉特性および高速遮断性能を有し,本研究の磁気設計手法が十分な実用性をもって適用が可能であることが実証された。

第7章は「結論」であり,本研究の成果を総括している。

以上これを要するに,本論文は,高速遮断やコンパクト化が要求される電力用開閉装置の母線部と電磁駆動部に,電磁界と運動を連成した三次元非線形過渡渦電流解析に基づく磁気設計手法を適用し,その有効性を実証して,高精度な設計,特性解析手法を確立するとともに,コンパクトGIS三相一括形GIBと,15kVおよび24kV高速遮断器の実用器設計に大きな成果をあげたものであり,電気工学に貢献するところが大きい。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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