No | 216340 | |
著者(漢字) | 渡邊,佳英 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ワタナベ,ヨシヒデ | |
標題(和) | ディーゼル車排気ガス浄化触媒システムの研究 : ディーゼル酸化触媒および炭化水素選択還元型触媒システムについて | |
標題(洋) | Study of Diesel Automotive Exhaust Catalyst System : Development of Diesel Oxidation Catalyst and HC Selective Catalytic Reduction System | |
報告番号 | 216340 | |
報告番号 | 乙16340 | |
学位授与日 | 2005.09.15 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第16340号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 化学システム工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文は触媒コンバーターを用いたディーセル車排気ガス浄化に関する実験的および数値的な研究成果をまとめたものである。 ディーゼル車排出規制は数年ごとに強化されており、それに伴い触媒による浄化技術も著しく変化を遂げている。このような状況下では実験および数値計算の両面から、最も適切な方法を局面ごとに選択しながら排ガス触媒システムの研究開発を行うことが肝要である。 排気規制の変遷に従い、ディーゼル車用触媒およびその使用技術に関する試みにより、その時代に必要な浄化技術が進歩を遂げてきた。 ディーゼル車の排出物低減技術は、初期の段階ではエンジン燃焼の制御技術を中心に達成された。しかし、ディーゼル車排出規制がますます強化されるにつれて、最初にCO、HC Hydrocarbon:炭化水素)、SOF (Soluble Organic Fractions:可溶性有機成分)およびPAH (Polycyclic Aromatic Hydrocarbon;多環芳香族炭化水素)の浄化を目的としたディーゼル酸化触媒が用いられるようになった。この酸化触媒はディーゼル車排出物低減の基礎であり、今なお重要な役割を果たしている。 次にNOxの規制が強化されてくると、選択還元型触媒(Selective catalytic reduction :SCR)が注目された。 このSCRシステムは添加する還元剤の種類によって大きく2つに分けられる。ひとつは炭化水素を用いるもの(HC-SCR)、もう一つは尿素(あるいはアンモニア)を用いるもの(Urea-SCR)である。HC-SCRシステムはUrea-SCRシステムと比べて、還元剤インフラの観点でより利便性に優れている。HC-SCRシステムでは、軽油を還元剤として用いることで新たなインフラを必要としないのに対して、Urea-SCRシステムでは尿素の供給方法の確保と尿素タンクを装備する必要がある。こうしたことから、乗用車にはHC-SCR、重量車にはUrea-SCRシステムが最適な方法と考えられた。 現在では、NOxとPM(Particulate Matter:粒子状物質)を中心にますます規制が強化されている。いくつかの種類のディーゼル排出低減技術が開発されている。 PMの低減手法として、DPF (Diesel Particulate Filter:パティキュレートフィルター)、CRT (Continuous Regenerating Trap:連続再生型トラップ) および CSF (Catalyzed Soot Filter:触媒付フィルター) 、またPM とNOx の同時低減手法としてDPNR (Diesel Particulate-NOx Reduction System) が開発されている。これらの手法は今なお発展途上のものも多く、本論文では詳細には触れない。 本論文は、ディーゼル車排気ガス排気ガス規制の変遷に対応したディーゼル車用触媒技術の研究開発に関したものであり、5章から構成される。 第1章では、排気規制の変遷、それに伴ったディーゼル車用浄化技術に関する進展を概観する。 第2章では、ディーゼル用酸化触媒に関して、新規なPt/Fe熱処理セピオライト触媒の開発と解析結果についてまとめた。 熱処理セピオライト触媒は炭化水素(HC)に対して高い完全酸化活性を示す。HCおよびSOFに対する高い完全酸化活性はディーゼル車排出低減に不可欠なものである。ただし、硫黄分を含有する軽油のエンジンでの燃焼に伴い、SO2が生成するという問題が伴う。一般的な触媒上では、このSO2がさらにSO3に酸化され、Sootと結びついてPMが増加する。そのため、HCやSOFに対しては高い酸化活性を示し、同時にSO2酸化に対しては低活性であることが触媒に求められる。また同時に高い対SOx被毒性も要求される。 本章ではPt/熱処理セピオライトにさらにFeを担持することにより、高いHC酸化活性を示し、かつSO2酸化を抑制することを見出した。 第3章では、HC-SCR触媒の数値計算モデルの構築についてまとめた。 ディーゼル車のNOx低減技術であるHC-SCRシステムでは変動運転状況下での添加HC量の制御が不可欠である。また、NOx浄化率向上のためには、吸着HCの有効利用と温度ウィンドウ保持が重要な鍵となる。そのため、吸脱着を考慮したNOx選択還元用触媒数値計算モデルを構築し、それを排気規制モードのような過渡条件下でも適用可能なことを示した。 さらに本モデルを利用して実験からでは得られない触媒内部の情報得ることができ、触媒コンバーターの設計に大変有用であることを示した。 第4章では、ディーゼル車専用排気ガス浄化技術について整理し、本研究の意義と今後の展開について総括している。 以上、本論文は触媒コンバーターを用いたディーセル車用排気ガス浄化に関する実験的および数値的な研究に関して記したものである。 新規なPt/Fe熱処理セピオライト触媒を見いだし、またこれについて新規な学術的知見を得た。さらには、HC-SCR触媒の性能を向上させる数値的方法を提案した。 | |
審査要旨 | 本論文は、「Study of Diesel Automotive Exhaust Catalyst System -Development of Diesel Oxidation Catalyst and HC Selective Catalytic Reduction System (ディーゼル車排気ガス浄化触媒システムの研究 -ディーゼル酸化触媒および炭化水素選択還元型触媒システムについて)」と題し、触媒コンバーターを用いたディーセル車排気ガス浄化に関する実験、および数値解析モデルを用いた研究成果をまとめたものであり、全4章から構成されている。 第1章は序論であり、本研究の背景、目的および論文の構成とその概要が述べられている。特に排出ガス規制の変遷と必要な浄化触媒および浄化技術の課題について言及している。 排出ガス規制の変遷に従い、ディーゼル車用触媒およびその使用方法が、その時代に必要な浄化技術として進歩を遂げてきたことを述べている。ディーゼル車の排出物低減技術は、初期の段階ではエンジン燃焼の制御技術を中心に達成されたが、ディーゼル車排出規制が強化されるにつれて、まずCO、炭化水素(Hydrocarbon:HC)、可溶性有機成分(Soluble Organic Fractions: SOF)の浄化を目的としたディーゼル酸化触媒が用いられるようになったことを述べている。この酸化触媒はディーゼル車排出物低減の基礎であり、今なお重要な役割を果たしていると指摘している。次にNOxの規制が強化されるにつれ、選択還元(Selective Catalytic Reduction:SCR)型触媒が注目されたと述べている。 ディーゼル車排出規制は数年ごとに強化されており、それに伴い触媒による浄化技術も著しく変化を遂げている。このような状況下では実験および数値計算の両面から、最も適切な方法を局面ごとに選択しながら排ガス触媒システムの研究開発を行うことが肝要であると述べている。 第2章では、ディーゼル車用の新規な排気ガス浄化用Pt/Fe熱処理セピオライト触媒の開発について述べている。HCおよびSOFに対する高い完全酸化活性はディーゼル車排出ガス低減に不可欠な条件であるが、硫黄分を含有する軽油のエンジンでの燃焼に伴い、SO2が生成する。一般に触媒上で、このSO2がさらにSO3に酸化され、煤(Soot)と結びついて粒子状物質(Particulate Matter:PM)が増加する。そのため、HCやSOFに対しては高い酸化活性を示し、SO2酸化に対しては低活性であること、即ち、高いSOx耐被毒性が同時に要求される。HCに対して高い完全酸化活性を示すPt/熱処理セピオライト触媒にさらにFeを担持することにより、高いHC酸化活性を維持しつつ、かつSO2酸化を抑制することを見出している。電子顕微鏡やメスバウアー法によるFeの状態分析、NMR、XRDによるセピオライトの構造変化の解析を行い、その浄化性能向上の原因を検討している。 第3章では、HC−SCR触媒の性能を十分に引き出すために必要なエンジンを含めた触媒使用技術の重要性を考察し、その対応策として、現実的な種類と数のパラメータに基づいた触媒反応および吸着過程について触媒工学的に検討し、過渡条件下でもよい一致を得る数値計算モデルを提示している。さらに同モデルを用いて効率的に炭化水素を添加するエンジン制御方法を最適化する手法を開発している。ディーゼル車のNOx低減技術であるHC-SCRシステムでは変動運転状況下での添加HC量の制御が不可欠である。また、NOx浄化率向上のためには、吸着HCの有効利用と温度ウィンドウ保持が重要である。そのため、吸脱着を考慮したNOx選択還元用触媒数値計算モデルを構築し、それが排気規制モードのような過渡条件下でも適用可能なことを示している。さらに同モデルを利用して、進化的プログラミングの手法によりHC添加制御マップを最適化し、浄化性能を向上させることに成功したと述べている。 第4章では、各章のまとめと本論文の成果を整理している。 以上のように本論文では、ディーゼル用排気ガス浄化技術に関する実験的および数値モデル的な研究成果について述べている。新規なPt/Fe熱処理セピオライト触媒を見いだし、その活性向上の原因について学術的知見を得ている。さらに、HC-SCR触媒の性能を向上させる数値的モデルを提案している。ここで得られた結果は、ディーゼル車用排気ガス浄化触媒の実用化に関する基本的な指針を提供したものであり、触媒工学上重要であるばかりでなく、材料化学、化学工学上も有意義な成果であると評価される。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認める。 | |
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