No | 216347 | |
著者(漢字) | 山下,篤行 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヤマシタ,トクユキ | |
標題(和) | SREBP-1c 過剰発現によるβ細胞の脂肪毒性モデルでのインスリン分泌におけるUCP-2とトリグリセライド蓄積の役割 | |
標題(洋) | Role of UCP-2 Up-Regulation and Triglyceride Accumulation in Insulin Secretion in a β-Cell Lipotoxicity Model Overexpressing SREBP-1c | |
報告番号 | 216347 | |
報告番号 | 乙16347 | |
学位授与日 | 2005.09.28 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第16347号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 2型糖尿病は遺伝的素因と環境因子が合わさって発症する多因子病である。環境因子としては年齢、運動不足、肥満などがある。近年、特に肥満と2型糖尿病とのかかわりが注目を集めており、末梢組織への脂肪の蓄積が2型糖尿病の発症・進展に関係があると考えられるようになっている。膵β細胞においてもトリグリセライドの蓄積はグルコース応答性インスリン分泌の障害(脂肪毒性;Lipotoxicity)に関係があると考えられている。しかしながら、脂肪毒性によるグルコース応答性インスリン分泌の障害のメカニズムは明らかになっていない。そこで、膵β細胞の脂肪毒性におけるグルコース応答性インスリン分泌障害のメカニズムを理解するため、脂肪合成の調節因子であるsterol regulatory element binding protein-1c(SREBP-1c)の恒常活性型を培養膵β細胞株のINS-1細胞にアデノウイルスベクターを用いて発現させ、SREBP-1c過剰発現による脂肪毒性モデルを作成して検討を行なった。 アデノウイルスの感染によるSREBP-1cの過剰発現はウエスタンプロットにより確認された。また、過剰発現したSREBP-1cの転写活性についてはSRE領域をルシフエラーレポーター遺伝子組込んだルシフェラーゼアッセイにより確認された。次に、脂肪酸合成に関わるACL,ACC,FAS,ACSなどの遺伝子の発現を定量的リアルタイムPCRにより検討したところ、SREBP-1cの過剰発現細胞では、それぞれコントロールの3.8倍、1.9倍、16.4倍、7.5倍の発現の増加が確認された。また細胞内のトリグリセライド含量もSREBP-1cを組込んだアデノウイルスの感染量に依存して増加し、MOI 10では60%の増加が確認された。さらに、グルコース応答性インスリン分泌もSREBP-1c過剰発現細胞でMOI依存的に低下し、10 MOIでは42%の減少が確認された。また、SREBP-1cの過剰発現によってuncoupling protein-2(UCP-2)遺伝子の発現量が2倍に増加することも確認された。 UCP-2はミトコンドリアで生産されたATPを消費し、熱エネルギーに変化する役割が想定されている遺伝子である。そのためUCP-2の発現増強によって細胞内のATPが消費され、これによって起こる細胞内ATP/ADP比の減少が膵β細胞の脂肪毒性におけるグルコース応答性インスリン分泌障害の一因ではないかと考えられた。そこで、UCP-2に対するsmall interfering RNA(siRNA)を作成し、細胞に導入して、UCP-2の発現を抑制させる実験を行った。その結果、siRNAの導入によりSREBP-1c過剰発現細胞でUCP-2遺伝子の発現の抑制が確認された。このとき、細胞内ATP/ADP比も増加し、グルコース応答性インスリン分泌も部分的に回復した。しかしながら、細胞内のTG含量には変化が認められなかった。 次に細胞内のTG含量を減少させることにより脂肪毒性を解除できなかと考え、AMP-activated protein kinase(AMPK)のアゴニストである5-amino-4-imidazolecarboxamide riboside (AICAR)をINS-1細胞に添加する実験を行った。AICARはAMPKをリン酸化して活性化し、次にそのAMPKがACCをリン酸化して不活性化することが知られている。ACCの不活性化によりマロニル-CoAが増加し、脂肪酸酸化が阻害される。 AICARの添加により、SREBP-1c過剰発現細胞の1mMグルコースまたは10mMグルコース条件での脂肪酸の酸化はそれぞれ、1.7倍、2.6倍に増加した。また、AICARの添加によって、SREBP-1c過剰発現細胞における細胞内のTG含量が33%減少することが確かめられた。また、AICARの添加によって、SREBP-1c過剰発現細胞におけるグルコース応答性インスリン分泌が部分的に回復することも確認された。このとき、SREBP-1c過剰発現細胞でのAMPKのリン酸化およびACCのリン酸化は、それぞれ1.5倍、1.7倍に増加していた。またAICARの添加によってUCP-2の発現には影響が見られず、細胞内ATP/ADP比も変化しなかった。 これらのことからSREBP-1cは膵β細胞の脂肪毒性の発現に重要な役割を果たしていることが示唆された。また、UCP-2遺伝子の発現抑制やAMPKの活性化は、脂肪毒性による膵β細胞の機能障害の回復させるための有効なターゲットとなりうることが示唆された。 | |
審査要旨 | 本研究は膵β細胞の脂肪毒性におけるグルコース応答性インスリン分泌障害のメカニズムを理解するため、インスリン分泌細胞株であるINS-1において、SREBP-1cを過剰発現させて中性脂肪蓄積、UCP-2およびAMPkinaseの役割の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 アデノウイルスの感染によってSREBP-1cを過剰発現させた細胞では、脂肪酸合成に関わるACL,ACC,FAS,ACSなどの遺伝子の発現が増加していることが示された。また細胞内のトリグリセライド含量もSREBP-1cを組込んだアデノウイルスの感染量に依存して増加していることが示された。さらに、グルコース応答性インスリン分泌もSREBP-1c過剰発現細胞でアデノウイルスの感染量に依存して低下していることが示された。 SREBP-1cの過剰発現によってuncoupling protein-2(UCP-2)遺伝子の発現量が2倍に増加することが示された。 UCP-2に対するsmall interfering RNA(siRNA)の導入によりSREBP-1c過剰発現細胞でUCP-2遺伝子の発現が抑制されることが示された。このとき、細胞内ATP/ADP比も増加し、グルコース応答性インスリン分泌も部分的に回復することが示された。しかしながら、細胞内のTG含量には変化が認められなかった。 AMP kinaseのアゴニストである5-amino-4-imidazolecarboxamide riboside (AICAR)の添加により、SREBP-1c過剰発現細胞の脂肪酸の酸化が増加することが示された。また、AICARの添加によって、SREBP-1c過剰発現細胞における細胞内のTG含量が減少することが示された。さらに、AICARの添加によって、SREBP-1c過剰発現細胞におけるグルコース応答性インスリン分泌が部分的に回復することも示された。このとき、SREBP-1c過剰発現細胞でのAMP kinaseのリン酸化およびACCのリン酸化が増加していることが示された。またAICARの添加によってUCP-2の発現には影響が見られず、細胞内ATP/ADP比も変化は認められなかった。 以上、本論文はインスリン分泌細胞株であるINS-1において、SREBP-1cの過剰発現が中性脂肪含量増加、UCP-2遺伝子発現冗進を介したグルコース依存性インスリン分泌抑制を惹起すること、またAMPkinaseの活性化が中性脂肪含量の低下やインスリン分泌回復をもたらすことなどが示されている。脂肪毒性におけるUCP2やAMPkinaseの役割はこれまでにあまり知られておらず、本研究の成果は脂肪毒性のメカニズムの解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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