学位論文要旨



No 216377
著者(漢字) 矢澤,徳仁
著者(英字)
著者(カナ) ヤザワ,ノリヒト
標題(和) B細胞におけるCD19を介した自然免疫調節機構
標題(洋)
報告番号 216377
報告番号 乙16377
学位授与日 2005.11.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第16377号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高戸,毅
 東京大学 教授 黒川,峰夫
 東京大学 助教授 土屋,尚之
 東京大学 講師 武内,巧
 東京大学 講師 佐伯,秀久
内容要旨 要旨を表示する

CD19は獲得免疫で重要な役割を担うB細胞表面の膜タンパクで、外界の環境の変化を察知し、シグナル伝達の闘値を調節している。これまでグラム陰性桿菌の細胞壁であるLPSはB細胞を強力に刺激することが知られており、CD19を欠く細胞においてはこの反応が減弱する事が以前より知られていた。さらに他のB細胞特異的シグナル分子を欠損するB細胞においてもLPSの反応が減弱する。

最近になり、LPSのレセプターである、Toll-likereceptor(TLR)が同定され、B細胞表面には2つのLPSレセプター(RP105とTLR4)があることが明らかにされた。そこで本研究では、CD19をはじめとするB細胞特異的シグナル分子を欠損するB細胞はなぜLPSに対する反応が減弱するのかという疑問を明らかにするために、B細胞においてCD19がLPS刺激により誘導されるシグナル伝達をどのように制御しているのかを解析した。

本研究によりCD19はこれまでよく知られているLPSシグナル伝達経路であるTLR4を介したシグナル伝達経路ではなく、RP105を介したシグナル伝達経路を介してLPSに対する反応を調節していることが明らかとなった。興味深いことに、このRP105を介したシグナル伝達経路は、哺乳類で知られている他のすべてのTLRのシグナル伝達において重要なアダプター蛋白であるMyD88を必要としていなかった。その代わりに、RP105刺激はLynを活性化し、さらにCD19をリピッドラフトヘリクルートし、そこでCD19はLynによりリン酸化されると推測された。リン酸化したCD19はLynのキナーゼ活性を増幅し、リン酸化したCD19はJNK経路の上流で機能しているとされているVavのリクルートした。

以上からB細胞ではLPSのシグナルはTLR4を介するものとRP105を介するものの2つの独立したシグナル伝達経路が存在することがわかった。これはエンドトキシンであるLPSにB細胞がどのように反応しているのかを説明できる新しい概念である。またこの概念によりこれまでB細胞においてTLRのシグナル伝達経路での関与が報告されていない様々のシグナル伝達分子の欠損によりLPS刺激反応が抑制される事実を明らかする事ができた。

さらに最近の研究ではTLRの経路の破綻が自己抗体の産生および自己免疫疾患の発生に関与している可能性も推測されている。B細胞におけるRP105を含めたTLRのシグナル伝達機構をさらに解明することは、これらの疾患の治療法への手がかりになる可能性もある。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、獲得免疫において中心的役割をしているB細胞に特異的に発現するCD19が、自然免疫において如何にそのシグナル伝達を制御しているか検討している。野生型マウスとCD19ノックアウトマウス、また野生型およびCD19陰性B細胞系列をそれぞれ用いて、LPS、RP105などの刺激を加えることにより、そのメカニズムについて下記の結果を得ている。

B細胞の自然免疫におけるシグナル伝達に関わる種々のノックアウトマウスを用いて、細胞増殖能を検討している。これまでLPSのシグナル伝達に中心的役割をしているMyD88のノックアウトマウスの細胞ではRP105刺激に対し正常に増殖するが、CD19ノックアウト細胞ではRP105刺激による増殖反応が抑制されていた。以上よりRP105刺激、LPS刺激によるB細胞のシグナル伝達はこれまで他の細胞で明らかにされているようなMyD88を介する経路ではなくCD19やさらに他のB細胞特異的な分子を介しそのシグナル伝達をしている可能性が示された。

CD19ノックアウトマウスの細胞表面上のTLR-4/MD-2、RP105発現量を検討し、その発現は野生型マウスと同程度であった。CD19ノックアウトマウスのRP105刺激、LPS刺激によるB細胞の増殖反応の抑制は細胞表面の発現量によるものではないことが示された。

野生型マウスB細胞、野生型B細胞系列を用いて、LPSと抗RP105抗体刺激を加えたところ、CD19のリン酸化がみられた。またRP105刺激により、CD19は抗原受容体刺激における主要なシグナル伝達分子であるLyn、Vav、PI-3kineseとの結合が示された。RP105とCD19の直接の結合は示してはないが、ともにRP105刺激によりラフトへ移行し、シグナル伝達をしている可能性が示された。

B細胞系列を用いて検討したところ、CD19の欠損はRP105刺激における種々のシグナルタンパクのリン酸化を減弱していることが示された。またRP105シグナルによりLyn、Vavのリン酸化がみられた。以上よりCD19はRP105刺激において、シグナル伝達分子であるLyn、Vavのリン酸化を制御していることが示された。

RP105刺激におけるシグナル伝達経路の下流について検討を加え、CD19欠損細胞ではERKのリン酸化は正常であったが、JNKのリン酸化は減弱していた。以上よりCD19はRP105刺激においてJNK活性を制御していることが示された。

RP105刺激によりCD19がPI-3kineseと結合がみられたことから、細胞内へのカルシウム流入について検討を加えている。RP105刺激により細胞内カルシウムの濃度の上昇はCD19欠損細胞では野生型細胞と比較してその上昇は緩徐であったが、ピークの濃度は同程度であることが示された。以上よりCD19とPI-3kineseはRP105刺激におけるカルシウム反応を独立的に制御していることが示された。

本研究によりB細胞においてこれまでよく知られているLPSシグナル伝達経路であるTLR4-MyD88を介したシグナル伝達経路ではなく、RP105を介したこれまでに報告されていないシグナル伝達経路を介して、CD19はLPSに対する反応を調節していることが明らかとなった。これはエンドトキシンであるLPSにB細胞がどのように反応しているのかを説明できる新しい概念と考えられる。また本研究によりこれまでB細胞においてTLRのシグナル伝達経路での関与が報告されていない様々のシグナル伝達分子の欠損によりLPS刺激反応が抑制される事実を裏付ける結果を得ている。

以上より、本研究はこれまで解析が進んでいなかった自然免疫シグナル伝達におけるCD19分子の制御機構の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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