学位論文要旨



No 216379
著者(漢字) 蔡,仁惠
著者(英字)
著者(カナ) サイ,ジンエ
標題(和) ヒューリステッィクストラクチャ(Heuristic structure)理論の構成及び建築設計構想上の応用
標題(洋) CONSTRUCTION OF THE HEURISTIC STRUCTURE THEORY AND ITS APPLICATION IN ARCHITECTURELDESIGN CONCEPTUALIZATION
報告番号 216379
報告番号 乙16379
学位授与日 2005.11.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16379号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 長澤,泰
 東京大学 教授 難波,和彦
 東京大学 教授 岸田,省吾
 東京大学 助教授 西出,和彦
 東京大学 助教授 千葉,学
内容要旨 要旨を表示する

言語学は言語構造によって、深層構造と表層構造とに分け、意味は主体による準備を通じて、内において深層構造となり、感知できる表現の形式−表層構造を通じて意味を外部に伝える。当研究は方法論の研究ではなく、認知科学及び言語学理論をもとに構成された認知理論及び操作モデルである。それを建築設計教学上に応用し、設計概念と基本設計から分化した確かな必要性がある設計状況の構成段階が研究の末明らかになった。これは、深層構造及び表層構造を分化したもので、設計概念とは、深層から表層に至るまでの転化段階である。認知科学の角度から見ると、建築表層構造中の用、強、美は認知される範疇にあり、将来さらなる応用の探索が望まれる。

空間構造とは、意味を示めす表層構造(表現形式)であり、深層構造とは表現形式を構築する操作規則である。「ヒューリスティックストラクチャ」(Heuristic Structure、以下略して「H.S.」)は、深層構造であり、関連する素材の中から系統だてて抽出した深義部分を統合して構成される。H.S.とは、主体に内面化された新しい経験で、「状況」とも呼ばれる。自分自身のフィードバックと外面の試験のために、H.S.は主、客観的交互文字論述による構築から離れられない。ロジックとは、フィードバック及び外面の試験の有効な推理及び洞察を構築し検証するためのツールであり、その効力は置信概率上に建立される。そのため、H.S.の構築は時空の相対合理を離脱できない。本研究は仮設及び階段実証及び理論探討、交互のフィードバック等の過程を通し、ロナーガン(Bernard J.F. Lonergan)のH.S.初歩問題解決概念を雛型に、より正確なH.S.操作モデル7を構築し、深層構造の主体構造としたものである。

本論文は、以下の5章から構成される。

第1章 緒論

研究全体の発端と構成を説明する。第I節、研究の背景では、文化現象からの喪失、設計創意並びに計画の必要性及び知識の交互構築時代の到来に分け、研究全体の形成背景を説明する。第II節、研究意味では、この研究の建築教育及び学習上の必要性を説明し、学生と教師の観点に分けて説明を加えている。第III節、研究対象では、H.S.研究に参与した対象をリストアップし、本研究室で指導する建築設計学生に限るが、多くの学制及び背景が含まれている。第IV節、研究目的を、建築構造―解題思考モデル―H.S.に設定し、学生の自我誘導の解題能力を訓練する。第V節、研究方法とステップでは、設計教育、理論探索、操作案例の整理、研究討論会の開催及び論文発表など5項目にわけて操作モデル及び機制を交差フィードバックする。第VI節、研究過程では、1995年から1998年の研究全体の実験とフィードバック歴を説明する。そのうち、第1小節では、自仮設及び仮設モデルの提出及び修正過程を説明する。第2小節では、設計課程フィードバック、1995年から1998年の設計課程操作案例より操作モデルの変遷への影響を説明する。第3小節、研究討論会では、学者のH.S.への操作モデル及び操作案例の評論を説明している。第4小節、アンケート調査では、各種異なる背景と操作齢の学生のH.S.操作に対する各種問題への意見を説明する。

第2章 理論基礎

異なる領域知識の探索により構築された理論のH.S.への支持について説明する。第I節ではH.S.の起こり及び基本特質を説明している。第II節では、人類の心智活動中の内化と外への現れ、深層構造の必要性及びレイヤーについて説明する。第III節では、知識の構築が主体及び客体間の相互構造を離脱できないことについて説明する。第IV節、ロジックツール及び置信概率では、ロジックと同じ構造の相対レイヤーを説明し、その効果度と置信度が関係することを推理する。第V節では、人類が追求する新経験の本質、そして常駐型経験及び非常駐型経験と主体の知識層数との密接観の関係について説明する。第VI節では、洞察(Insight)の熟考特性について説明する。

第3章 操作機制

第I節では、理論と操作モデル間の転化関係を説明する。第II節では、情況が一種の真実経験であり、一種の達成された知であることを説明し、この経験或は知が単に相対の状況下でのみ高低層に分けられることを説明する。第III節では、帰納と演訳の熟考関係及び二者とイメージ(Image)の関係を説明する。第IV節では、操作モデルの各段階の操作機構を説明する。そのうち第1小節では、問題界定及び探索方向、問題の構造化を説明し、問題格式塔を形成すると同時に内面化及び探索範囲を満足させること、いかに探索範囲内の相異類型資料を分別提出するかなどが含まれる。第2小節、重点の提示では、各相異類型資料の中、問題格式塔と無関係の資料を削除、重点を捉える。第3小節、帰結では、捉えた重点を数種の結論に帰納する。第4小節推論、演訳が操作上例えられないことを説明する。演訳の熟考動作はロジックとつながり、その学習は証明の実践を通過する必要がある。第5小節、目標状況と定義では、本段階が抽象から抽象の2段階から三段階のロジックに至り、その学習は認証を通し絶え間ない実践により創られることを説明する。

第4章 H.S.の応用例

1995〜1998年の操作案例。

第5章 結論

本研究の総合的成果、検討及び後続の研究方向を説明する。第I節、本研究は以下のいくつかの結論に分けられる。

1. H.S.全体の研究過程、これがH.S.の構築である。

2. H.S.操作成果は強い認証能力があり、独特性及び予期不能性が十分に見られる。

3. 意欲は学習のカギであり、操作モデル化及び機構明確化し、操作者に成果をあげるため意欲を持続させる。これは理論の明確性及びモデルの細密化と学習意欲及び成果が正比することを説明している。

4. モデル7による5段階、6段階、7段階の操作の違いは難易度によるものであり、その成果はレイヤーの複雜さによって異なる。

5. 教育する立場に立ち、操作年齢により異なる操作段階のモデルを採用するべきである 。

6. 構造化された語言により行われ、学習者の思考及び認証能力が明らかに進歩する。

7. 構造化された資料搜索により、学習者の資料閲読能力が大幅に向上する。

8. 理論及びモデル操作の複雜さはかなり高く、普遍化されにくい。

9. 現在7段階にある操作モデルは、非定型であり、進化が可能である。

10. 一般問題に対し、H.S.は封鎖的操作である。資料及び時間にある程度開放感があれば、 H.S.は、資料或いは時間が決定点に達するまで、開放的に動態操作ができる。

11. 問題が複雑なほど、H.S.の機能が明確に現れる。

12. H.S.操作は主体性を離脱できない。

13. 一旦H.S.が完成すると、学生の空間転化は非常に速く、かつ搖るぎなく、自信をもって行われる。

14. 説得力のある解釈が、唯一の答えではない。

第II節、本研究には現在、まだ研究の余地が残っており、今後の研究によって完成されることが期待される。今後の可能な方向は、下記のとおりである。

1. 空間構造の転化機構格式化。

2. この思考モデル及びf(x, y, z,………)の関係の探索。

3. 操作機構の更なる普遍化。

4. 開放式構造の形成、動態問題探索上での応用試行。

審査要旨 要旨を表示する

この論文は、認知科学及び言語学理論をもとに構成された認知理論、ヒューリスティックストラクチャ〔Heuristic structure、以下HSと略〕理論及び操作モデルを建築の設計教育に応用し、設計概念と基本設計から分化していく設計作業の構成段階を明らかにすることを目的としている。

本論文は、以下の5章から構成される。

第1章の緒論では、研究の糸口と全体の構成を記述している。第I節、研究の背景では、文化的現象が喪失しつつある状況において、設計における創意と確かな計画の必要性、そして知識を相互に構築する時代の到来を段階的に分け、研究全体の背景を説明している。第II節、研究の意味では、この研究の建築設計教育及び学習上の意義と必要性を学生と教師の観点に分けて説明を加えている。第III節、研究対象では、H.S.研究に関与した対象を挙げている。第IV節、研究目的では、H.S.思考モデルによる建築設計専攻学生の自己の誘導的能力を高めることを目的として設定している。第V節、研究方法とステップでは、設計教育・理論探索・操作案例の整理・研究討論会の開催・論文発表の5項目での操作モデルを解説している。第VI節、研究過程では、1995年から1998年にかけての実験とフィードバックの経過を説明している。その第1小節では、自己の仮説モデルの設定と修正過程、第2小節では、設計課程へのフィードバック、第3小節では、H.S.への操作モデル及び操作案例の専門家による評論、第4小節では、アンケート調査の結果を述べている。

第2章の理論基礎では、異なる知識領域で構築された理論によるH.S.への支持について説明している。第I節ではH.S.の起源と基本特性、第II節では、深層構造の必要性とレイヤー、第III節では、知識構築が主体と客体との相互構造を離脱できないこと、第IV節、論の信頼性についての推理、第V節では、持続型経験と非持続型経験との関係、第VI節では、洞察(Insight)の特性について説明している。

第3章の操作機制では、理論と操作モデルの概要について述べている。第I節では、理論と操作モデル間の転化関係、第II節では、現状が一種の実体験であり、一種の達成された知〔識〕であることを述べ、この経験・知〔識〕が相対的状況下でのみ高・低層に分けうること、第III節では、帰納と演訳の関係とそれらとイメージ(Image)の関係、第IV節では、操作モデルの各段階の機構を説明している。そのうち第1小節では、問題と探索方向、構造化について、第2小節では、重点項目の提示と資料のうち関係するものとしないものの峻別、第3小節では、捉えた重点項目から数種の結論に帰納、第4小節では、推論・演繹が操作上単純に使えないこと、第5小節では、抽象から抽象への二段階から三段階の論考に至り、その学習は認証を通し絶え間ない実践により創られることを説明している。

第4章のH.S.の応用例では、1995から1998年に至る建築設計教育でのHS操作モデルを応用したケーススタディを紹介している。

第5章の結論では、本研究の総合的成果について述べ、今後の研究に対する方向付けをしている。

第I節では次の項目を結論としている。(1)H.S.全体の研究過程自体がH.S.の構築であること、(2)H.S.操作による成果は強力で、独自性と予期不能性が十分に認められること(3)意欲の継続は学習の鍵で、操作のモデル化とその仕組みを明確化にすることは、学生に成果への意欲を持続させること、(4)モデル7での5〜7段階の操作の差は難易度により、その成果はレイヤーの複雜さによって異なること、(5)教育の立場から年齢によって異なる操作段階のモデルを採用すべきこと、(6)構造化された言語により学習者の思考力・認証力が向上すること、(7)構造化された資料の探索により学習者の資料理解能力が向上すること、(8)理論とモデル操作はかなり複雜で普遍化し難いこと、(9) 現在7段階にある操作モデルは、非定型で進化が可能であること、(10)一般にH.S.は閉鎖的操作であるが、資料と時間に余裕があれば、資料と時間とがある決定段階に達するまでは開放的に操作ができること、(11)問題が複雑であればあるほどH.S.のはたらきが明確になること、(12) H.S.操作は主体性を離脱できないこと、(13)一旦H.S.が完成すると学生の空間への展開は非常に速く、確固として自信に満ちて行われること、(14)説得力のある解釈が唯一の回答ではないこと。

第II節の今後の方向性では、次のような点を指摘している。(1)空間構造への展開の定型化。(2)この思考モデルとf(x, y, z,………)の関係の探索。(3)操作機構の更なる普遍化。(4)開放性構造の形成と動態問題の探求における応用試行。

以上のように、本論文は、深層構造であるヒューリスティック・ストラクチャ理論を構築して、それを建築設計教育過程に適用して、そのケーススタディの分析を通して、設計行為の意味を論じたもので、建築設計行為の基本的な知見を明確に示して、建築計画学の発展に寄与したものである。

よって本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。

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