学位論文要旨



No 216385
著者(漢字) 細谷,真一
著者(英字)
著者(カナ) ホソヤ,シンイチ
標題(和) 多深度間隙水圧モニタリング装置の開発と気圧変動応答を用いた水理特性評価
標題(洋)
報告番号 216385
報告番号 乙16385
学位授与日 2005.11.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16385号
研究科 工学系研究科
専攻 地球システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 徳永,朋祥
 東京大学 教授 山冨,二郎
 東京大学 助教授 登坂,博行
 東京大学 助教授 福井,勝則
 東京大学 助教授 松島,潤
 岡山大学 教授 西垣,誠
内容要旨 要旨を表示する

高レベル放射性廃棄物の最終処分施設は、文献調査、概要調査、精密調査の段階を経て、その建設地が選定される。このうち、概要調査段階では、地上からの数本のボーリング調査によって、地下水流動が施設に及ぼす影響を評価して精密調査地区を選定しなければならない。この概要調査段階において、精密調査地区を選定し、精密調査の計画を立案するために重要でありながら把握が難しい水理特性は、鉛直方向の透水係数と比貯留係数である。

本研究では、概要調査段階で測定される間隙水圧に着目し、このモニタリングデータに含まれる気圧変動に対する応答から、鉛直方向の透水係数と比貯留係数を評価する方法を提案した。井戸水位から水理特性を求める方法は、従来も提案されていたが、不飽和帯での気圧変動の減衰や井戸貯留を考慮していたため、情報量に比べて未知パラメータが多く、すべての未知パラメータを一意に決めることができないことが課題であった。そこで、本研究では、情報量を増やすために間隙水圧を複数の深度で測定することを提案した。また、未知パラメータを減らすために、鉛直方向の透水係数の評価式を不飽和帯の影響を除去して導いた。

本研究では、ひとつのボーリング孔をパッカーで区切ることによって、複数の深度で測定ができる多深度間隙水圧測定装置を開発した。この装置は、概要調査段階以降も長期間にわたって利用できることを設計条件としたため、耐久性に優れていること、原位置でキャリブレーションができること、精度・分解能が深度によらず一定であること、地下水の採水ができることなどの特徴を兼ね備えている。また、測定区間の透水量係数が著しく小さくない限り、無視できるほど井戸貯留を小さくしたことによって、気圧変動応答から水理特性を求めるにあたり、井戸貯留に関するパラメータを導入する煩雑さを解消した。

開発した多深度間隙水圧測定装置を新第三紀の堆積岩地域に導入して、測定された間隙水圧のモニタリングデータから、提案した評価方法に従って鉛直方向の透水係数と比貯留係数を求めた。すなわち、提案した評価方法を用いることによって、気圧変動応答から鉛直方向の透水係数と比貯留係数が求められることを実証した。さらに、複数深度で測定することによって、鉛直方向の透水係数と比貯留係数の評価感度が共に高くなること、不飽和帯の影響を受けることなく下位の地盤の鉛直方向の透水係数が求められることも示した。また、開発した測定装置によって、提案した評価方法が十分に適用できる精度・分解能で間隙水圧変動が得られることも明らかになった。

さらに、本研究では、開発した多深度間隙水圧測定装置を概要調査段階で複数設置することを提案した。これによって、概要調査段階では自然状態の間隙水圧を、精密調査段階以降の長い期間にわたっては、地下掘削や施設建設に伴う間隙水圧変化を三次元的に把握することができる。また、概要調査段階の時系列データからは、本研究が提案したように、水理特性の概略評価が可能である。この方法は、新たに人為的な信号を与える必要がないため、効率的・合理的な評価方法であり、工学的価値は高い。精密調査段階以降の時系列データからも、水理特性の評価や水理地質構造モデルの検証が可能であると考えられる。このように、多深度間隙水圧測定装置によって得られるデータとその評価を合わせると、多様な物性評価、モデルの検証などが可能であると考えられ、新たに効率的な調査体系が提案できる。このモニタリング主体の調査体系を、従来の試験主体の調査体系の補完的位置付けで併用することによって、より信頼性の高いサイト特性評価が可能になる。ただし、地下掘削や施設建設に伴う間隙水圧変化に関して、その時系列データの評価方法については、まだ十分に検討された段階ではないため、早急な検討が必要な課題である。

なお、本研究では、放射性廃棄物処分事業を例として調査体系を提案した。しかし、本研究で開発した間隙水圧測定装置、モニタリングデータの評価方法、モニタリングを主体とした調査体系は、放射性廃棄物処分事業だけに利用を限定されるものではない。時間・空間のスケールや目的に応じて多少の修正は必要であるが、多くの調査に適用可能な考え方であり、従来型の試験主体の物性評価を補完しながら、より信頼性が高く、かつ効率的・合理的な調査のあり方として今後の発展が望まれる。

審査要旨 要旨を表示する

放射性廃棄物の処分・埋設施設では、地上からのボーリング調査、地下の坑道を利用した調査を通じて、現況の地下水流動が把握され、天然バリアの性能が評価される。地下の坑道を利用した調査は、長い時間と大きな費用が必要となるため、それ以前に施設の成立性を概略評価することが求められている。しかし、地上からの限られた数量のボーリング調査だけでは、これに必要な情報が十分に得られない場合があるものと考えられる。この研究が取り上げている鉛直方向の透水係数と比貯留係数も、施設の成立性を判断する場合あるいは地下の坑道を利用した調査の計画を立案する場合に重要な水理特性であるが、従来の方法では測定が難しいパラメータである。すなわち、地上からのボーリング調査の段階で、鉛直方向の透水係数と比貯留係数の概略値を簡便に評価する方法が求められている。

そこで、著者は、顕著な透水異方性が認められる場合のある堆積軟岩を対象に、気圧変動に伴う間隙水圧の応答を利用した鉛直方向の透水係数と比貯留係数の評価方法を提案することを本研究の目的としている。気圧変動に伴う間隙水圧の応答を利用して水理特性を評価する方法は、従来も提案されているが、これらの方法では情報量に比べて未知数が多過ぎるため、未知数を一意に決定できないことが課題であった。

著者は、上述の課題を解決するために、間隙水圧を複数の深度で測定して情報量を増やすことを提案している。また、複数の深度で得られた気圧変動応答から、不飽和帯のパラメータを除去した評価式を導き、未知数を減らしている。さらに、地盤・岩盤を等方材料と仮定して導かれていた従来の気圧変動応答の理論を、堆積軟岩に相当する水平面内等方材料に拡張している。これらの理論的研究に基づいて、著者は、複数の深度で測定した間隙水圧の気圧変動に対する応答から、鉛直方向の透水係数と比貯留係数を評価する方法を具体的に提案している。

さらに、著者は、提案した評価方法を実フィールドに適用するために、単一孔で複数深度の間隙水圧が測定できる多深度モニタリング装置を新たに開発している。この装置では、井戸貯留を極めて小さくすることに成功しており、このことによっても、従来の評価方法が含んでいた未知数を減らしている。

次に、開発したモニタリング装置を新第三紀の堆積岩地域に設置し、得られたデータに対して提案した評価方法の適用性を検討している。この結果、不飽和帯が存在しない場合と存在する場合のそれぞれについて、気圧変動に伴う間隙水圧応答から、提案した評価方法に基づいて、鉛直方向の透水係数と比貯留係数が実用的な幅で評価できることを示している。また、鉛直方向の透水係数と比貯留係数を適切に評価するためには、複数の深度で間隙水圧を測定することが有効であることを示している。

本研究で開発した多深度間隙水圧モニタリング装置は、長期間のモニタリングが可能な設計条件で製作しているため、放射性廃棄物の処分・埋設事業においても、地下坑道の建設前から長期間にわたるモニタリングデータの取得に利用することができる。すなわち、このモニタリング装置によって、地下坑道建設前のバックグラウンドおよび坑道建設に伴う影響に関するデータを得ることができる。著者は、これらのモニタリングデータを活用して工学的に有意義なデータを得る調査体系を提案しており、気圧変動応答を利用した水理特性評価方法もその一部と位置付けている。このようなモニタリングデータを利用した物性の評価は、地下水流動再現・予測の高精度化に寄与するものであることに加えて、試験に基づく物性評価方法に比べると、適用条件が限られるものの、経済的な方法であり、社会的な要請に対しても即した方法である。

この研究では、放射性廃棄物処分・埋設事業を工学的問題として取り上げているが、著者は、開発したモニタリング装置、モニタリングデータの評価方法、モニタリングデータを活用した調査体系は、放射性廃棄物処分・埋設事業以外にも応用可能であることを述べている。したがって、本研究の成果は、今後のモニタリングデータの活用方法の可能性を具体的に示したものであり、工学的意義が大きいものと認められる。また、モニタリングの重要性や経済性の考慮は、社会や技術の動向と一致しており、本研究が主張する考え方は今後の発展が期待できるものである。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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