学位論文要旨



No 216390
著者(漢字) 芳賀,直実
著者(英字)
著者(カナ) ハガ,ナオミ
標題(和) 抗癌剤誘導アポトーシスにおけるミトコンドリア凝集の意義
標題(洋)
報告番号 216390
報告番号 乙16390
学位授与日 2005.12.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 第16390号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鶴尾,隆
 東京大学 教授 一條,秀憲
 東京大学 助教授 東,伸昭
 東京大学 助教授 藤田,直也
 東京大学 講師 黒川,健児
内容要旨 要旨を表示する

序論

癌の化学療法において、癌細胞を完全に死滅させ、体内から除去することが重要な課題である点は疑いがない。このような観点から、新規抗癌剤開発において癌細胞のアポトーシスメカニズムは重要な標的となり得る。アポトーシスは生物の発生過程や多細胞生物における恒常性の維持に重要な役割を果たしている細胞死の様式の一つであり、その制御の異常は、癌をはじめとする多くの疾患の原因となる。近年の膨大な研究成果は、アポトーシスのシグナル伝達においてミトコンドリアが中心的な役割を果たしていることを示している。また、ごく最近の研究では、ミトコンドリアが単なるシグナルの受け渡し場所ではなく、それ自体の分裂・融合などの動的質的変化がアポトーシスを制御している可能性も示されている。本研究では、抗癌剤誘導アポトーシスの際に生じるミトコンドリア凝集に着目し、その分子機構、および抗癌剤感受性との相関について検討した。

第1章 抗癌剤誘導アポトーシスの進行に伴うミトコンドリア凝集

ヒト線維肉腫HT-1080細胞は他の多くの癌細胞同様、臨床で用いられている抗癌剤であるエトポシドを処理することによりカスパーゼ-3依存的なアポトーシスが誘導される癌細胞である。

通常の培養条件下では、HT-1080細胞のミトコンドリアは細胞質全体に広範囲に分布しており、特に核周辺に多く存在する。一方、エトポシド処理した細胞では、ミトコンドリアが凝集して一部に局在していることが観察された(図1)。ミトコンドリア凝集はカスパーゼ-3の競合阻害剤であるZEVDで阻害されないことから、カスパーゼ-3非依存的な現象であると考えられる。ミトコンドリア凝集の定量にはレーザースキャンニングサイトメトリー(LSC)の技術を用いた。LSCはフローサイトメトリーと異なり、培養プレートに張り付いた状態の細胞を解析できることから、ミトコンドリア凝集を検出するのに有効な手段であると考え、ミトコンドリアを蛍光標識した細胞を解析した。凝集に伴い、ミトコンドリアが占める領域の面積(Area(A))は減少し、最大蛍光量(MaxPixel(MP))が増大すると考えられる。従って、ミトコンドリアの凝集度の指標としてMP/Aを用いた。実際、MP/Aの値が大きい細胞は、ミトコンドリアが凝集しており、反対に、この値が小さい細胞は、薬剤未処理細胞に典型的なミトコンドリアの細胞内分布を示すことから、本評価法はミトコンドリア凝集を検出するのに適切であると考えられる。エトポシドの刺激によりMP/Aのピークが右に移動したことから、細胞内部でミトコンドリア凝集が誘導された細胞が増加していることが明らかとなった。

カスパーゼ-3の活性化は、チトクロムcがミトコンドリアから細胞質に放出されることにより誘導される。薬剤未処理の細胞においては、チトクロムcがミトコンドリア内に局在しており、ミトコンドリア凝集は認められない。一方、エトポシドを処理した細胞ではミトコンドリアが凝集しており、また、チトクロムcは細胞質に放出されている。チトクロムc放出(CR)とミトコンドリア凝集(MA)の関係として、1.独立した事象である、2.CRが先に起きる、3.MAが先に起きる、の3つの可能性が考えられる。エトポシドとZEVDの両薬剤を処理した細胞において、これら2つの現象を観察した結果、チトクロムcを保持したままの状態でミトコンドリアが凝集している細胞(図2、+/−)は多数見られたが、ミトコンドリアが凝集せずにチトクロムc放出が起きている細胞(図2、−/+)はほとんど見られなかった。さらに、チトクロムc放出を阻害することが知られているBcl-xLの過剰発現により、チトクロムc放出は抑制されたが、ミトコンドリア凝集は抑制されなかったことからも、アポトーシス進行の過程において、ミトコンドリア凝集は、細胞質へのチトクロムc放出よりも先に起きる現象であると考えられる。

第2章 亜ヒ酸誘導アポトーシスにおけるミトコンドリア凝集の意義

ミトコンドリア凝集と抗癌剤感受性との関係について、ヒト脳腫瘍細胞株と亜ヒ酸(As2O3)を用いて検討した。亜ヒ酸は、急性前骨髄球性白血病(APL)に対して有効な化合物で、ミトコンドリアに作用する新しいタイプの抗癌剤となることが期待されている。

亜ヒ酸がヒト脳腫瘍に対して治療効果を有するかどうかを調べる目的で、ヒト脳腫瘍細胞株A172とT98Gに対する効果を検討した。その結果、A172細胞の方がT98G細胞よりも亜ヒ酸に対する感受性が高く、アポトーシスも誘導され易いことが明らかになった。すなわち、脳腫瘍細胞に対する亜ヒ酸の効果発現にはアポトーシス誘導が重要であると考えられる。A172細胞のみにアポトーシスが誘導される条件においては、両細胞株に同様に活性酸素種(ROS)の産生が認められた。しかしながら、アポトーシス実行の原因となるミトコンドリア膜電位(ΔΨm)の低下とBaxの多量体化が認められたのは、亜ヒ酸に対する感受性が高いA172細胞のみであった。すなわち、ROSの産生以降のミトコンドリアの反応が両細胞で異なり、このことがアポトーシス感受性の差の原因になると考えられる。

亜ヒ酸を処理したA172細胞においてもミトコンドリア凝集が認められた。亜ヒ酸処理3時間経過後においては、まだミトコンドリアは凝集しないが、6時間後、A172細胞のみにおいて凝集した。A172細胞では3時間後にROSの産生が起きていることから、亜ヒ酸によるアポトーシス誘導の過程として以下のような仮説が考えられる。すなわち、まずROSが細胞内に蓄積され、このROSの刺激に反応したミトコンドリアが凝集する。凝集したミトコンドリアではΔΨmの低下とBaxの多量体化が誘導され、チトクロムcをはじめとするアポトーシス誘導因子の細胞質への放出が起きる。これらの因子は細胞質内に存在するカスパーゼの活性化を引き起こし、アポトーシスを完了させる。A172細胞ではこのようなプロセスでアポトーシスが進行するが、T98G細胞では、ミトコンドリア凝集が起きないのでその後のプロセスが進行せず、アポトーシスが起きにくくなると考えられる。すなわち、ミトコンドリア凝集はアポトーシスを正に制御する可能性が高く、ミトコンドリアは抗癌剤開発の際の標的として考えられることが明らかとなった。

第3章 ミトコンドリア凝集因子Miro-1によるアポトーシス誘導

ミトコンドリア凝集がアポトーシスを正に制御する可能性を検討する目的で、次に、Miro-1について検討を行った。Miro-1はGTPase活性を有する分子で、活性化型を細胞に発現させるだけでミトコンドリア凝集を伴うアポトーシスが誘導されることが報告されている。しかしながらその詳細な制御機構は同定されておらず、抗癌剤感受性を規定する可能性についても検討されていない。そこで、抗癌剤誘導アポトーシスにおけるMiro-1の役割を遺伝子導入実験により検討した。

マーカーとしてEGFPを独立して発現させるベクターにMiro-1遺伝子を組み込んだpCMS-EGFP-Miro-1をCOS-7細胞に導入し、亜ヒ酸に対する感受性変化を検討した。亜ヒ酸をAPLの治療に用いる場合、1-2μM程度であれば毒性がほとんどなく安全であることが知られているが、細胞生存率試験の結果によれば、この程度の亜ヒ酸では通常のCOS-7細胞に対しては全く効果がない。しかし、Miro-1を遺伝子導入したCOS-7細胞は2μM亜ヒ酸処理により顕著な形態変化を起こした。この結果は、Miro-1の発現により亜ヒ酸に対する感受性が上昇したことを示している。Miro-1のC末端にEGFPが結合した融合蛋白質を発現させるベクター(pEGFP-N1-Miro-1)を用いた実験においても、同様に、抗癌剤(エトポシド、亜ヒ酸)に対する感受性の上昇が認められた。次に、これらの形態変化がアポトーシス誘導に基づくものであることを確認するために細胞の核を観察した結果、Miro-1が発現しているCOS-7細胞においては、核の凝縮・断片化が認められ、また、これらの細胞のミトコンドリアは凝集していることが明らかとなった(図3)。以上より、Miro-1の導入によりミトコンドリア凝集が促進され、抗癌剤誘導アポトーシスが起き易くなると考えられる。

総括

本研究では、抗癌剤誘導アポトーシスの初期段階においてミトコンドリアが凝集すること、また、ミトコンドリア凝集がアポトーシスを正に制御しており、癌細胞の薬剤感受性を上昇させることを示した。生細胞のミトコンドリアの恒常性は分裂・融合を繰り返すことにより維持されており、その制御分子、および機構は近年解明されつつある。非常に興味深いことに、ミトコンドリアの形態変化を司るこれらの分子がアポトーシスを制御するとの報告もある。すなわち、ミトコンドリアの分裂・融合が、それぞれアポトーシス誘導・阻害の方向に細胞の運命を導く。凝集が分裂・融合とどのような関係にあるのかについては更なる研究が必要ではあるが、アポトーシスを促進させる方向に働くことが本研究により明らかになった。また、ミトコンドリア凝集を制御する分子(Miro-1)が癌細胞の抗癌剤感受性を規定する一因であることから、Miro-1は新規抗癌剤開発の際の新たな分子標的となり得ることが示唆された。

図1 HT-1080細胞のミトコンドリア凝集

左:薬剤未処理

右:エトポシド処理

図2 ミトコンドリア凝集(MA)とチトクロムc 放出(CR)の組み合わせ

−、+はそれぞれ、現象が起きていない場合、起きている場合を示す。

例えば、-/- は、MA も CR も起きていない細胞を示す。

図3 Miro-1による亜ヒ酸誘導アポトーシスの感受性上昇

Miro-1を一過性に発現させたCOS-7 細胞に2μM 亜ヒ酸を処理し、観察した。Miro-1 が発現していると考えられる細胞(矢頭、EGFP の蛍光が認められる細胞)のミトコンドリアは凝集し、核の凝集・断片化が認められる。

審査要旨 要旨を表示する

癌の化学療法において、癌細胞を完全に死滅させ、体内から除去することが重要な課題である。したがって、新規抗癌剤開発において癌細胞のアポトーシスメカニズムは重要な標的となり得る。アポトーシスは生物の発生過程や多細胞生物における恒常性の維持に重要な役割を果たしている細胞死の様式の一つであり、その制御の異常は、癌をはじめとする多くの疾患の原因となる。近年の膨大な研究成果は、アポトーシスのシグナル伝達においてミトコンドリアが中心的な役割を果たしていることを示している。生細胞のミトコンドリアの恒常性は分裂・融合を繰り返すことにより維持されており、その制御分子、および機構は近年解明されつつあり、ミトコンドリアの形態変化を司るこれらの分子がアポトーシスを制御するとの報告もある。すなわち、ミトコンドリアは単なるシグナルの受け渡し場所ではなく、それ自体の分裂・融合などの動的変化がアポトーシスを制御していると考えられる。本研究では、抗癌剤誘導アポトーシスの際に生じるミトコンドリア凝集に着目し、その分子機構、および抗癌剤感受性との相関について検討することによって以下の成果を得た。

抗癌剤誘導アポトーシスの進行に伴い、ミトコンドリアが凝集する。

ヒト線維肉腫HT-1080細胞は他の多くの癌細胞同様、臨床で用いられている抗癌剤であるエトポシドを処理することによりカスパーゼ-3依存的なアポトーシスが誘導される癌細胞である。通常の培養条件下では、HT-1080細胞のミトコンドリアは細胞質全体に広範囲に分布しており、特に核周辺に多く存在する。一方、エトポシド処理した細胞では、ミトコンドリアが凝集して一部に局在していることが観察された。ミトコンドリア凝集はカスパーゼ-3の競合阻害剤であるZEVDで阻害されないことから、カスパーゼ-3非依存的な現象であると考えられる。ミトコンドリア凝集の定量にはレーザースキャンニングサイトメトリー(LSC)の技術を用いた。フローサイトメトリーによる解析の場合、細胞を懸濁させる必要があるため、凝集したミトコンドリアを検出・解析するのは非常に困難である。一方、LSCはフローサイトメトリーと異なり、培養プレートに張り付いた状態の細胞を解析できることから、本法を用いることにより蛍光標識したミトコンドリアの凝集を検出することが可能となった。凝集に伴い、ミトコンドリアが占める領域の面積(Area(A))は減少し、最大蛍光量(MaxPixel(MP))が増大すると考えられる。従って、ミトコンドリアの凝集度の指標としてMP/Aを用いた。実際、MP/Aの値が大きい細胞は、ミトコンドリアが凝集しており、反対に、この値が小さい細胞は、薬剤未処理細胞に典型的なミトコンドリアの細胞内分布を示すことから、本評価法はミトコンドリア凝集を検出するのに適切であると考えられる。エトポシドの刺激によりMP/Aのピークが右に移動したことから、細胞内部でミトコンドリア凝集が誘導された細胞が増加していることが明らかとなった。カスパーゼ-3の活性化は、チトクロムcがミトコンドリアから細胞質に放出されることにより誘導される。薬剤未処理の細胞においては、チトクロムcがミトコンドリア内に局在しており、ミトコンドリア凝集は認められない。一方、エトポシドを処理した細胞ではミトコンドリアが凝集しており、また、チトクロムcは細胞質に放出されている。チトクロムc放出(CR)とミトコンドリア凝集(MA)の関係として、1.独立した事象である、2.CRが先に起きる、3.MAが先に起きる、の3つの可能性が考えられる。エトポシドとZEVDの両薬剤を処理した細胞において、これら2つの現象を観察した結果、チトクロムcを保持したままの状態でミトコンドリアが凝集している細胞は多数見られたが、ミトコンドリアが凝集せずにチトクロムc放出が起きている細胞はほとんど見られなかった。さらに、チトクロムc放出を阻害することが知られているBcl-xLの過剰発現により、チトクロムc放出は抑制されたが、ミトコンドリア凝集は抑制されなかったことからも、アポトーシス進行の過程において、ミトコンドリア凝集は、細胞質へのチトクロムc放出よりも先に起きる現象であると考えられる。

ミトコンドリア凝集とアポトーシス誘導には正の相関がある。

ミトコンドリア凝集と抗癌剤感受性との関係について、ヒト脳腫瘍細胞株と亜ヒ酸(As2O3)を用いて検討した。亜ヒ酸は、急性前骨髄球性白血病(APL)に対して有効な化合物で、ミトコンドリアに作用する新しいタイプの抗癌剤となることが期待されている。亜ヒ酸がヒト脳腫瘍に対して治療効果を有するかどうかを調べる目的で、ヒト脳腫瘍細胞株A172とT98Gに対する効果を検討した。その結果、A172細胞の方がT98G細胞よりも亜ヒ酸に対する感受性が高く、アポトーシスも誘導され易いことが明らかになった。すなわち、脳腫瘍細胞に対する亜ヒ酸の効果発現にはアポトーシス誘導が重要であると考えられる。A172細胞のみにアポトーシスが誘導される条件においては、両細胞株に同様に活性酸素種(ROS)の産生が認められた。しかしながら、アポトーシス実行の原因となるミトコンドリア膜電位(ΔΨm)の低下とBaxの多量体化が認められたのは、亜ヒ酸に対する感受性が高いA172細胞のみであった。すなわち、ROSの産生以降のミトコンドリアの反応が両細胞で異なり、このことがアポトーシス感受性の差の原因になると考えられる。亜ヒ酸を処理したA172細胞においてもミトコンドリア凝集が認められた。亜ヒ酸処理3時間経過後においては、まだミトコンドリアは凝集しないが、6時間後、A172細胞のみにおいて凝集した。A172細胞では3時間後にROSの産生が起きていることから、亜ヒ酸によるアポトーシス誘導の過程として以下のような仮説が考えられる。すなわち、まずROSが細胞内に蓄積され、このROSの刺激に反応したミトコンドリアが凝集する。凝集したミトコンドリアではΔΨmの低下とBaxの多量体化が誘導され、チトクロムcをはじめとするアポトーシス誘導因子の細胞質への放出が起きる。これらの因子は細胞質内に存在するカスパーゼの活性化を引き起こし、アポトーシスを完了させる。A172細胞ではこのようなプロセスでアポトーシスが進行するが、T98G細胞では、ミトコンドリア凝集が起きないのでその後のプロセスが進行せず、アポトーシスが起きにくくなると考えられる。すなわち、ミトコンドリア凝集とアポトーシス誘導には正の相関があり、ミトコンドリアは抗癌剤開発の際の標的として考えられることが明らかとなった。

ミトコンドリア凝集因子Miro-1はアポトーシス誘導を促進し、細胞の抗癌剤感受性を上昇させる。

ミトコンドリア凝集がアポトーシスを正に制御する可能性を検討する目的で、次に、Miro-1について検討を行った。Miro-1はGTPase活性を有する分子で、活性化型を細胞に発現させるだけでミトコンドリア凝集を伴うアポトーシスが誘導されることが報告されている。しかしながらその詳細な制御機構は同定されておらず、抗癌剤感受性を規定する可能性についても検討されていない。そこで、抗癌剤誘導アポトーシスにおけるMiro-1の役割を遺伝子導入実験により検討した。マーカーとしてEGFPを独立して発現させるベクターにMiro-1遺伝子を組み込んだpCMS-EGFP-Miro-1をCOS-7細胞に導入し、亜ヒ酸に対する感受性変化を検討した。亜ヒ酸をAPLの治療に用いる場合、1〜2μM程度であれば毒性がほとんどなく安全であることが知られているが、細胞生存率試験の結果によれば、この程度の亜ヒ酸では通常のCOS-7細胞に対しては全く効果がない。しかし、Miro-1を遺伝子導入したCOS-7細胞は2μM亜ヒ酸処理により顕著な形態変化を起こした。この結果は、Miro-1の発現により亜ヒ酸に対する感受性が上昇したことを示している。Miro-1のC末端にEGFPが結合した融合蛋白質を発現させるベクター(pEGFP-N1-Miro-1)を用いた実験においても、同様に、抗癌剤(エトポシド、亜ヒ酸)に対する感受性の上昇が認められた。次に、これらの形態変化がアポトーシス誘導に基づくものであることを確認するために細胞の核を観察した結果、Miro-1が発現しているCOS-7細胞においては、核の凝縮・断片化が認められ、また、これらの細胞のミトコンドリアは凝集していることが明らかとなった。以上より、Miro-1の導入によりミトコンドリア凝集が促進され、抗癌剤誘導アポトーシスが起き易くなると考えられる。

以上、本研究は抗癌剤誘導アポトーシスの初期段階においてミトコンドリアが凝集すること、およびミトコンドリア凝集とアポトーシス誘導には正の相関があることを明らかにした上で、ミトコンドリア凝集を制御する分子(Miro-1)が細胞の抗癌剤感受性を上昇させることを明らかにしたものであり、将来の癌化学療法に有益な研究であり、博士(薬学)の学位に値するものと判断した。

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