学位論文要旨



No 216391
著者(漢字) 岡村,秀樹
著者(英字)
著者(カナ) オカムラ,ヒデキ
標題(和) 渋滞発生確率を用いた高速道路単路部の交通容量に関する研究
標題(洋)
報告番号 216391
報告番号 乙16391
学位授与日 2005.12.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16391号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桑原,雅夫
 東京大学 教授 清水,英範
 東京大学 助教授 清水,哲夫
 東洋大学 教授 尾崎,晴男
 首都大学東京 准教授 大口,敬
内容要旨 要旨を表示する

1.研究の内容

平成7年度から平成11年度の間、日本道路公団では、「高速道路の交通容量に関する調査検討委員会」(以下委員会)を設置し、全国の高速道路のシステムデータ(5分間集計値)を用い、交通容量の分析や影響要因など、高速道路の単路部の交通容量に関する研究(以下既存研究)が行なわれた。この研究の中で、渋滞発生確率という概念が導入され、それによる渋滞発生確率曲線の提案、渋滞発生確率0.05相当交通量を可能交通量とするという提案がなされた。

渋滞発生確率とは、渋滞発生時ごとに観測される交通量速度変動図から、渋滞発生時交通量(速度が40km/h以下に低下する直前の15分間フローレート)を求め、交通量階層ごとに渋滞発生割合([階層別交通量での渋滞発生回数]/[階層別交通量の年間出現回数])を求めるものである。この概念は、車両感知器の5分間集計値であるシステムデータを使用する前提であるが、15分間交通量が同一レベルでも渋滞が発生する場合と発生しない場合があり、また、高交通量が出現しても必ずしも渋滞は発生しないなど、渋滞発生特性を適切に表わす手段として有効と考えられる。実際の交通運用面では、渋滞発生のしやすさを交通量の関数で表した渋滞発生確率曲線は、ボトルネックの渋滞発生状況を数量化する手法として、また、渋滞発生確率による交通量は、交通管理目標値として交通管理への適用が期待できる。計画・設計面では、確率的に算出された交通容量という概念を導入することにより、合理的な計画・設計が可能になると考えられる。

そこで、本研究は、計画・設計面や交通運用面への渋滞発生確率の導入にあたり、渋滞発生確率の概念を明確化し、実用化への提案を行うものである。

渋滞発生確率概念の明確化とは、同一15分間交通量でも渋滞が発生する場合や発生しない場合がある理由、渋滞発生時交通量がばらつく理由、また、高交通量が出現しても渋滞発生確率は数十%程度以下である理由を明らかにすることである。

また、渋滞発生確率の実用化とは、交通運用面では、渋滞発生時交通量と渋滞発生確率曲線による交通管理や交通需要管理である。そのためには渋滞発生確率や渋滞発生確率曲線の特性を把握する必要がある。また、計画・設計面では、渋滞発生確率を利用した交通容量算出や設計法が考えられる。

そこで本研究では、以下の内容について論じる。

(1) 渋滞発生確率概念の明確化のため、その影響要因を明らかにし、同一15分間交通量でも渋滞が発生する場合や発生しない場合がある理由、渋滞発生時交通量がばらつく理由などを明らかにする。

(2) 渋滞発生確率曲線の形状分析から、渋滞発生確率と道路構造要因との関係を把握する。そして、この分析を通じ渋滞発生確率曲線の有用性を検証する。

(3) 計画・設計面や交通運用面への渋滞発生確率概念の導入について考察する。それは、渋滞発生確率により求められた交通量に基づく可能交通容量算出法の提案である。

2.研究の目的と背景

高速道路の交通集中渋滞(以下渋滞)対策として、料金所でのETCの設置、ICの改良、ランプや付加車線改良が計画的に進められている。また、単路部での渋滞対策として、付加車線設置などの対策がとられている。これらの渋滞のうち、料金所渋滞、IC、SA渋滞は、ETCの普及やIC、付加車線改良により大幅に減少すると考えられるが、その結果、交通負荷が本線におよび、サグ・トンネル渋滞が懸念される。また、サグの付加車線についても利用率が低いなど、必ずしも最良の改善策とはなっていない。このようなことから、本線単路部の容量問題が今以上に課題となると推測される。

他方、渋滞、渋滞対策やそれを取り巻く環境に多くの課題が生じている。それらは

(1) 地方部の渋滞や休日交通による渋滞への対応

(2) 高速道路の料金多様化や情報提供の高度化による交通需要管理の可能性

(3) 建設・管理コスト削減への対応

である。

これらの理由から、今後は各種技術を使った、今まで以上に、より経済合理性のある渋滞対策や改築が求められる。

そのためには、渋滞発生確率概念の導入が効果的であると考えられる。しかし、既存研究では、渋滞発生確率の算出法が示されただけであり、車両一台ごとの交通現象から生じると考えられる渋滞発生現象と渋滞発生確率との関係については触れられていない。また、渋滞発生確率曲線は、交通運用や渋滞発生特性の把握に有用と考えられるが、ボトルネックごとに算出が行われているのみであり、その特性分析は行われていない。さらに、渋滞発生確率の計画、設計への適用については、全く言及されていない。

そこで、既存研究で提案された渋滞発生確率という概念の導入により、より合理的な渋滞対策、新たな交通管理や交通需要管理、計画・設計が可能になり、上記の新たな課題の解決につながると考え、本研究では、渋滞発生確率概念の明確化や実用化の提案を行うものである。

序.3.本研究の構成

第1章

「高速道路の交通容量に関する調査検討(平成7年度〜平成10年度 日本道路公団)」の関係する項目のレビューを行う。それらは、渋滞発生時交通量の算出法と要因分析、渋滞発生確率曲線や渋滞発生確率による可能交通容量の算出法、大交通量を通過させている区間の交通量分析である。

第2章

第3、4章で、渋滞発生確率や渋滞発生確率曲線の影響要因を分析するが、それに先立ち、第2章では渋滞発生確率の影響要因についての考察を行い、影響要因分析手法の検討を行う。影響要因分析手法の検討とは、車両感知器のシステムデータ(5分間集計値)やパルスデータによる、渋滞を発生させる交通の検知可能性についてである。

第3章

第2章の結果に基づき、渋滞発生時交通量の集計時間である15分間内の交通量分布、視環境(昼夜など)などの交通要因が渋滞発生確率に及ぼす影響を分析する。15分間内の交通量分布については、パルスデータから渋滞を発生させる交通を抽出し、その交通が15分間に出現する確率から渋滞発生確率を算出する。

第4章

渋滞発生確率曲線の形状と車線数、サグ・トンネル、縦断線形などの道路構造要因との関係を分析する。そして、渋滞発生特性を知る手法としての渋滞発生確率曲線の有用性を検証する。

第5章

渋滞発生確率の計画・設計面への適用として、実測された渋滞発生確率0.05による可能交通容量と基本交通容量から、計画・設計段階の可能交通容量の算出法や計画水準を提案する。

第6章

前章までのまとめと今後の課題について示す。

4.研究結果

(1)渋滞発生確率と渋滞発生現象との関係

(1) 渋滞を発生させる交通とその検知

パルスデータにより速度低下やその原因となる交通が検知できる。また、パルスデータを集計した1分間データにより、渋滞を発生させる交通を検知できることを実証した。しかし、5分間集計であるシステムデータでは必ずしも検知することはできない。この理由は、渋滞を発生させる交通の継続時間に比較し集計時間が長いことによる。

(2) 渋滞を発生させる交通の出現による渋滞発生確率の算出

パルスデータから、渋滞を発生させる交通として高密度な連続1分間交通量を抽出した。そして、それ以上の交通量が15分間に出現する確率を算出した結果、渋滞発生頻度から求めた渋滞発生確率に凡そ一致することを実証した。

(3) 渋滞を発生させる交通の出現と渋滞発生との関係

同一15分間交通量でも、高密度な連続1分間交通量が出現した時には渋滞が発生し、出現しないときには渋滞が発生しない。これは、同一15分間交通量でも渋滞発生する場合、発生しない場合があること、また同一ボトルネックでありながら渋滞発生時交通量が分布することの理由である。

(4) 渋滞発生確率と交通要因

渋滞発生確率は15分間内の交通量分布、平休日や昼夜の視環境に影響を受ける。

(5) 渋滞発生確率曲線の分析とその影響要因

渋滞発生時交通量分布巾は、3車線より2車線が、トンネルよりサグが広い。その理由は、密度の違いやサグの視認性の違いによる。

渋滞発生確率曲線の形状は、ボトルネックの車線数、サグ・トンネル、縦断線形、平休日に影響されることが認められ、その理由を考察した。特に、トンネルではトンネル内縦断勾配の影響が大きいことが判明した。

これらの分析を通して、渋滞発生確率曲線がボトルネックの渋滞発生特性を示す指標として有用であることを明らかにした。

(2)計画・設計段階の可能交通容量

渋滞発生確率に基づく可能交通容量や計画水準による、交通容量算出法を提案した。可能交通容量は、車線数ごとに、基本交通容量から大型車混入率とボトルネック係数により算出する。またHCMの容量値との比較を行った結果凡そ一致した。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は,都市間高速道路のボトルネック交通容量を確率的に定量化するとともに、その結果を道路設計に応用する手続きについて整理を行ったものである。従来、交通容量は車線数、側方余裕、車線幅、大型車混入率などの関数として、確定的に評価されてきた。ところが、都市間高速道路のボトルネックとして知られるサグ、トンネル入り口における観測結果によれば、同じ質・量の交通需要が来たとしても、時として渋滞が発生したりしなかったりすることが報告されている。本論文では、このような現象を確率的な現象としてとらえ、整理を行ったものである。

まず第1に、このような確率的な現象がどうして起こるのかについて、東北自動車道で観測された車両感知器の生パルスデータを用いた解析を行い、数分程度の短時間のボトルネックへの車両到着分布が、渋滞のきっかけとなる減速波の発生に大きく関係していることを実証した。通常、車両感知器データは、5分、15分程度に集計されており、その間の集計交通量が同じであっても、より短い時間の到着分布によって渋滞のきっかけが作られるのである。

第2に、このような短い時間における到着分布の違いが、どの程度の集計時間によって読み取ることができるのかについて実証的解析を行い、1分間集計データであれば、渋滞のきっかけとなる到着分布を読み取ることができることを示した。さらに、1分間の到着交通量が、40,40,30,30,30[台/分]と5分間にわたって連続して到来する場合に、渋滞が発生することを実証した。また、各需要交通量レベル別に観測できる1分間交通量の確率分布を用いて、このように連続して高い1分間交通量が生起する確率(正しくは15分間内にこのような高い交通量が連続して生起する確率)を求め、その生起確率によって現実の渋滞発生確率を説明できることを統計的に示した。

第3に、渋滞発生確率と道路構造要因との関係、視環境との関係について、全国19のボトルネックにおいてデータ解析を行い、渋滞発生確率はボトルネック車線数、縦断線形、曜日によって変化することを実証した。

第4に、渋滞発生確率を用いて、この確率が0.05となる容量を可能交通容量とすることが妥当であることを提案するとともに、この可能交通容量に基づいて計画水準を考慮した設計交通容量の算定についても、整理を行っている。

以上の通り,本研究では,都市間高速道路ボトルネックの交通容量を、渋滞発生確率という確率概念を導入して再整理したものであり、学術的に十分な新規性が認められる。また、実務における道路設計についても、この結果を可能交通容量、設計交通容量の算定に結びつけており、今後の効率的なボトルネック幾何構造設計に対して、実務的にも大きな有用性が認められる。

よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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