学位論文要旨



No 216392
著者(漢字) 木全,宏之
著者(英字)
著者(カナ) キマタ,ヒロユキ
標題(和) ダム堤体ならびに基礎岩盤の耐震安全性評価に関する研究
標題(洋)
報告番号 216392
報告番号 乙16392
学位授与日 2005.12.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16392号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 堀井,秀之
 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 前川,宏一
内容要旨 要旨を表示する

我が国のダムの現行耐震設計法は震度法を基本としている。震度法は弾性設計法であり、想定以上の大規模地震動を受けた場合、終局限界状態すなわち破壊に対してダムがどの程度の耐震安全性を有しているか評価できず、耐震設計法として十分とは言えない。これより、本研究は、ダムの合理的な耐震設計法確立のための基礎資料の提供を目的として種々の解析的検討を行い、大規模地震時のダムの挙動を解明し、耐震安全性評価を行ったものである。

本研究では、特に重力式コンクリートダム堤体ならびにアーチ式コンクリートダム基礎岩盤を対象として解析的検討を行った。重力式コンクリートダムは無筋コンクリート構造物であり、過去の地震被害事例に基づき、大規模地震時には堤体にクラックが発生し、進展することが予想されることから、動的クラック進展解析(スミアードクラックモデルによるFEM動的非線形解析)を基本にして解析的検討を行った。一方、アーチ式コンクリートダム基礎岩盤については、大規模地震時の破壊現象を精緻に予測、追跡し、破壊挙動を進行性破壊挙動として直接的に取り扱うため、岩盤の不連続面を考慮したFEMによる動的非線形解析を基本に解析的検討を行った。そして、大規模地震時の重力式コンクリートダム堤体ならびにアーチ式コンクリートダム基礎岩盤の挙動を明らかにし、耐震安全性評価を行った。

本論文において「第I部 動的クラック進展解析による重力式コンクリートダム堤体の耐震安全性評価」の研究成果は、以下のとおりである。

(1) 重力式コンクリートダムを模擬した無筋コンクリート構造物の既往の模型振動実験結果を用い、動的クラック進展解析で適用する減衰モデルについて検討し、解析手法の妥当性を検証した。

その結果、従来のレーリー減衰や初期剛性比例型減衰に対し、クラック進展に伴って時々刻々変化する接線剛性比例型減衰を採用することで、模型振動実験結果を極めて精度良く再現することができた。クラック直交面に作用する不要な減衰力を解放することが可能となり、クラックは分散せず無筋コンクリート構造物特有のクラック局所化現象を適切に表現できることを実証した。

(2) フィレットを有する堤高が150mといった我が国最大級の重力式コンクリートダムをモデルダムとして想定し、接線剛性比例型減衰を適用した動的クラック進展解析を実施して、クラック発生、進展挙動を検討した(図1参照)。

その結果、クラックは上流側の堤体底面とフィレット上部の勾配変化部から発生し、進展していくことがわかった。堤体底面のクラックは上流側より下流側に底面に沿って進展する。一方、上流側フィレット上部からのクラックは下流側に堤体内部で進展し、除々に鉛直下方に向かって進展することがわかった。堤体の滑動や転倒に関する安定性向上のために設けたフィレットがクラック誘発の役目をしており、堤体にフィレットを設置する場合にはクラック発生、進展の観点から十分な配慮が必要である。

(3) ダムの最も重要な機能である貯水機能確保、維持の観点から、大規模地震時の重力式コンクリートダム堤体のクラック貫通破壊に対する耐震安全性評価指標として、安全余裕度を表すリガメント残存率を提案した。モデルダムを対象に、入力地震動の加速度レベルを変化させた動的クラック進展解析を実施し、リガメント残存率と最大入力加速度の関係から、堤体のクラック貫通破壊に対する耐震安全性を評価した(図2参照)。

その結果、リガメント残存率が50%程度(最大入力加速度4.5m/s2程度)を下回ると最大入力加速度の増加とともに急激にクラック貫通破壊へ近づくことがわかった。このことから、本モデルダムの場合、耐震安全性を確保するためには、一つの目安としてリガメント残存率を50%程度以上とすることが望ましいと考えられる。また、本研究で想定したマグニチュードM=8.0の入力地震動(最大加速度5.735m/s2)はダムサイト直下で起こり得る最大級の大規模地震動と考えられるが、当該地震動に対してもリガメント残存率は30%程度とクラック貫通破壊には至らなかった。

(4) 本研究で示したリガメント残存率と最大入力加速度の関係に基づく重力式コンクリートダム堤体の耐震安全性評価手法について、実務設計へ適用し、展開を図る場合に参考となる二つの例示を行った。一つは、ダムの計画地点選定への適用であり、もう一つは、既設ダムの耐震診断への適用である。

「第II部 岩盤の不連続性を考慮した動的非線形解析によるアーチ式コンクリートダム基礎岩盤の耐震安全性評価」の研究成果は、以下のとおりである。

(1) アーチ式コンクリートダム基礎岩盤の耐震安全性評価手法として、数値解析上の問題から三次元解析でなく、近似的に二次元解析による評価手順について示した。また、不連続面の開口量やすべり量に関する4つの破壊指標について提案し、入力地震動の加速度レベルを変化させた解析から基礎岩盤が終局破壊に至る限界加速度を求め、基礎岩盤の地震時進行性破壊挙動を検討し耐震安全性を評価する方法を示した。

(2) 我が国の平均的なアーチ式コンクリートダムをモデルダムとして想定し、先に検討した手法に基づき、モデルダム基礎岩盤の地震時進行性破壊挙動について検討した。国内の主要なアーチ式コンクリートダムの基礎岩盤について調べ、花崗岩や堆積岩の実績が多いことから、直交する2組の不連続面を想定し、不連続面の方向の異なるモデル1(θ1=-45°、θ2=+45°、θ1、θ2はダム軸方向から反時計回りに正)、モデル2(θ1=-26.6°、θ2=+63.4°)およびモデル3(θ1=0°、θ2=+90°)を想定した。また、アーチ式コンクリートダム基礎岩盤を念頭に、不連続面の強度としてタイプ1(粘着力c=0.16MPa、内部摩擦角φ=42°)とタイプ2(粘着力c=0.54MPa、内部摩擦角φ=45°)を設定し、均一な強度分布を想定して二次元FEMによる動的非線形解析を実施した。

その結果、想定した入力地震動(最大加速度5.735m/s2)に対し、限界加速度は入力地震動の最大加速度以上の7.46m/s2〜10.32m/s2となって、当該基礎岩盤は終局破壊に至ることがわかった。

また、当該基礎岩盤の破壊は、着岩部直近の不連続面が大きく開口し、せん断抵抗を喪失して生じており、不連続面の開口とすべりによる引張ならびにせん断の連成破壊であることがわかった(図3参照)。アーチ式コンクリートダム基礎岩盤の現行耐震設計では、せん断破壊に対してのみ耐震安全性照査が行われているが、大規模地震時には着岩部近傍で局所的に大きな引張応力が発生し、不連続面には開口が生じて基礎岩盤が破壊に至る可能性があることに留意する必要がある。

さらに、不連続面の方向の違いによる限界加速度の変化の度合いはタイプ1では20%前後、タイプ2では11%程度であり、大局的に見れば、基礎岩盤の終局破壊に対する不連続面の方向依存性は顕著でないことがわかった(図4参照)。また、モデル1とモデル2では、不連続面の粘着力が大きくなると限界加速度は増大するのに対し、上下流方向とダム軸方向の不連続面を有するモデル3では、粘着力の違いにより限界加速度は変化せず、基礎岩盤の終局破壊に及ぼす粘着力の影響は現れないことがわかった(図5参照)。

(3) 実岩盤状態を勘案し、モデル1〜3でそれぞれ2つのタイプの強度を有する不連続面が混在する不均一なモデル1-25〜75、モデル2-25〜75、モデル3-25〜75、について、同様の二次元FEM動的非線形解析を実施した。その結果、不均一なモデルの限界加速度は各タイプの均一なモデルそれぞれの限界加速度の中間値であった(図4参照)。また、変形モードについても同様であった。

(4) 本研究で想定したマグニチュードM=8.0の入力地震動は、ダムサイト直下で起こり得る最大級の大規模地震動と考えられるが、当該地震動に対してもモデルダム基礎岩盤は破壊に至らず、入力地震動の最大加速度5.735m/s2に対する限界加速度7.46〜10.32m/s2の比率すなわち安全率は1.30〜1.80となり、モデルダム基礎岩盤の耐震安全性が確認された。

また、ダムの立地地点の地震環境を考慮し、地震動の再現期間の観点からモデル基礎岩盤の耐震安全性を評価した例示を行った。この例示では、加速度の比率より大きな比率の安全率が得られ、モデルダム基礎岩盤はさらに十分な耐震安全性を有していると評価された。

図1 クラック開口ひずみ分布

図2 リガメント残存率と最大入力加速度の関係

図3 基礎岩盤の破壊直前の変形モードの一例(モデル2、タイプ1)

図4 限界加速度と不連続面の方向の関係

注)図中の数字は、限界加速度αcrの値であり、( )の値は本研究で想定した入力地震動の最大加速度αmax0=5.735m/s2に対する倍率を示す。

図5 限界加速度と粘着力の関係

注)図中の数字は、限界加速度αcrの値であり、( )の値は本研究で想定した入力地震動の最大加速度αmax0=5.735m/s2に対する倍率を示す。

審査要旨 要旨を表示する

我が国のダムの設計は、河川管理施設等構造令に基づいて行われ、現行耐震設計法は震度法を基本としている。これまで震度法で設計された我が国のダムで大きな地震被害を受けた事例がないことから、震度法は合理的な耐震設計法であると理解されている。しかし、震度法は弾性設計法であり、想定以上の大規模地震動を受けた場合、終局限界状態すなわち破壊に対してダムがどの程度の耐震安全性を有しているか評価できず、耐震設計法として十分とは言えない。1995年兵庫県南部地震を契機とし、種々の土木構造物に対する大規模地震時の耐震安全性評価の重要性が指摘され、各種耐震設計基準類が改訂されている。ダムに関しても大規模地震時の挙動を解明した上で、耐震安全性の定量的な評価を行うことは急務かつ重要な研究課題となっており、このことが本研究の背景である。

本研究は、特に重力式コンクリートダム堤体ならびにアーチ式コンクリートダム基礎岩盤を対象として、種々の解析的検討を行い、大規模地震時の挙動を解明し、耐震安全性評価を行ったものである。そして、ダムの合理的な耐震設計法確立のための基礎資料の提供を図ったものである。

研究成果を取りまとめた本論文は、重力式コンクリートダム堤体ならびにアーチ式コンクリートダム基礎岩盤の大規模地震時の耐震安全性評価について、それぞれ第I部および第II部に大別され、全7章で構成されている。第2章から第4章が第I部で、第5章、第6章が第II部である。

まず第1章では、上記の研究の背景と目的についてまとめている。また、既往の研究を概観し、以下に示すような研究課題を列挙して、本研究の位置付けを明確にしている。

重力式コンクリートダム堤体については、大規模地震動を受けた場合、無筋コンクリート構造物であることから、堤体にはクラックが発生、進展し、耐震安全性評価の対象となる終局限界状態は主にクラック貫通破壊である。堤体のクラック発生、進展を扱った既往の数値解析的研究では、主にスミアードクラックモデルを基本とした二次元FEMによる動的非線形解析(動的クラック進展解析と称する)が適用されているが、無筋コンクリート構造物にも拘わらず、クラックは局所化せず分散の問題が生じている。これには減衰特性が大きな影響要因であることが指摘されており、クラックの局所化現象を適切に表現するための様々な減衰モデルについて検討が行われているものの、減衰モデルを含めた解析手法の適用性検証は十分でない。また、重力式コンクリートダム堤体の耐震安全性を議論した既往の研究は、ほとんど見当たらないのが現状である。

一方、アーチ式コンクリートダム基礎岩盤については、大規模地震時のダム基礎岩盤のすべり破壊現象を精緻に予測、追跡するためには、岩盤の不連続性を考慮した進行性破壊挙動をしかも動的に評価する必要がある。しかし、ダム基礎岩盤の大規模地震時の破壊挙動を進行性破壊挙動として直接的に取り扱った研究や加えてその耐震安全性を評価した研究はほとんど見当たらないのが現状である。

このような既往の研究課題に対し、第I部の第2章では、重力式コンクリートダム堤体のクラック発生、進展時の適切な減衰モデルについて検討している。

動的クラック進展解析で適用される従来のレーリー減衰について分析し、クラック分散の原因を考察している。そして、クラックが分散せず局所化する現象を表現するため、レーリー減衰を修正して接線剛性比例型減衰の想定を行うとともに、その適用性を簡易な要素モデルによる動的クラック進展解析から検証している。

さらに、ダムを模擬した無筋コンクリート構造物の既往模型振動実験結果と接線剛性比例型減衰を適用した動的クラック進展解析結果との比較を行い、減衰モデルを含めて解析手法の妥当性を検証している。その結果、従来のレーリー減衰や初期剛性比例型減衰に対し、クラック進展に伴って時々刻々変化する接線剛性比例型減衰を採用することで、模型振動実験結果を極めて精度良く再現できることが示されている。クラック直交面に作用する不要な減衰力を解放することが可能となり、クラックは分散せず無筋コンクリート構造物特有のクラック局所化現象を適切に表現できることが実証されている。

第3章では、第2章で検討した接線剛性比例型減衰の適用による動的クラック進展解析を実施し、実規模モデルダム堤体のクラック発生、進展挙動を明らかにしている。実規模モデルダムとして堤高が150mの国内最大級の重力式コンクリートダムを想定し、また、大規模地震動として、大崎スペクトルをターゲットスペクトルに作成した模擬地震動(入力地震動)を想定している。

動的クラック進展解析の結果、クラックは上流側の堤体底面とフィレット上部の勾配変化部から発生し、進展する。堤体底面のクラックは上流側より下流側に底面に沿って進展する。一方、上流側フィレット上部からのクラックは下流側に堤体内部で進展し、除々に鉛直下方に向かって進展することが明らかになった。堤体の滑動や転倒に関する安定性向上のために設けたフィレットがクラック誘発の役目をしており、堤体にフィレットを設置する場合にはクラック発生、進展の観点から十分な配慮が必要であることを指摘している。

第4章では、実規模モデルダム堤体の耐震安全性を評価している。まず、ダム堤体のクラック貫通破壊に対する健全度を表わす一つの指標として、新たにリガメント残存率を耐震安全性評価指標として提案している。そして、入力地震動の加速度レベルを変化させた動的クラック進展解析を実施し、リガメント残存率と最大入力加速度の関係からモデルダムの定量的な耐震安全性評価を行っている。

その結果、リガメント残存率が50%程度(最大入力加速度4.5m/s2程度)を下回ると最大入力加速度の増加とともに急激にクラック貫通破壊へ近づくことが明らかにされた。このことから、本モデルダムの場合、耐震安全性を確保するための一つの目安として、リガメント残存率を50%程度以上とすることが望ましいと評価している。また、想定したマグニチュードM8.0の入力地震動(最大加速度5.735m/s2)はダムサイト直下で起こり得る最大級の大規模地震動と考えられるが、当該地震動に対してもリガメント残存率は30%程度とクラック貫通破壊には至らないことを示している。

さらに、リガメント残存率と最大入力加速度の関係に基づく耐震安全性評価方法について、この方法を重力式コンクリートダム堤体の実務設計へ適用し、展開する場合に参考となる有用な例示を行っている。一つは、ダムの計画地点選定への適用である。もう一つは、既設ダムの耐震診断への適用である。

第II部の第5章では、アーチ式コンクリートダム基礎岩盤の耐震安全性評価手法について論じている。まず、数値解析上の問題から三次元解析でなく、近似的に二次元でのFEM動的非線形解析による評価手順について示している。また、二次元FEM動的非線形解析において、基礎岩盤の不連面のモデル化に適用するインターフェイス要素の定式化と変形特性や構成則を示している。さらに、不連続面の開口量やすべり量に関する4つの破壊指標について提案し、入力地震動の加速度レベルを変化させた解析から基礎岩盤が終局破壊に至る限界加速度を求め、基礎岩盤の地震時進行性破壊挙動を検討し耐震安全性を評価する方法について示している。

第6章では、第5章で検討した耐震安全性評価手法に基づき、実規模モデルダム基礎岩盤の地震時進行性破壊挙動について検討し、耐震安全性評価を行っている。実規模モデルダムとしては、国内の平均的なアーチ式コンクリートダムを想定している。また、国内の主要なアーチ式コンクリートダムの基礎岩盤について調べ、花崗岩や堆積岩の実績が多いことから、直交する2組の不連続面を想定し、不連続面の方向の異なる3つのモデルを想定している。さらに、アーチ式コンクリートダム基礎岩盤を念頭に、不連続面の強度として2つのタイプを設定し、均一な強度分布を想定して二次元FEMによる動的非線形解析を実施している。

その結果、想定した入力地震動(最大加速度5.735m/s2)に対し、限界加速度は入力地震動の最大加速度以上の7.46m/s2〜10.32m/s2となって、当該基礎岩盤は終局破壊に至ることが明らかとなった。また、当該基礎岩盤の破壊は、着岩部直近の不連続面が大きく開口し、せん断抵抗を喪失して生じており、不連続面の開口とすべりによる引張ならびにせん断の連成破壊であることが明らかとなった。アーチ式コンクリートダム基礎岩盤の現行耐震設計では、せん断破壊に対してのみ耐震安全性照査が行われているが、大規模地震時には着岩部近傍で局所的に大きな引張応力が発生し、不連続面には開口が生じて基礎岩盤が破壊に至る可能性があることを指摘している。さらに、不連続面の方向の違いによる限界加速度の変化の度合いは11%あるいは20%程度であり、大局的に見れば、基礎岩盤の終局破壊に対する不連続面の方向依存性は顕著でないことが明らかとなった。また、他の2つのモデルでは、不連続面の粘着力が大きくなると限界加速度は増大するのに対し、上下流方向とダム軸方向の不連続面を有するモデルでは、粘着力の違いにより限界加速度は変化せず、基礎岩盤の終局破壊に及ぼす粘着力の影響は現れないことが明らかとなった。

実岩盤状態を勘案し、上記3つのモデルでそれぞれ2つのタイプの強度を有する不連続面が混在する不均一なモデルについも同様の二次元FEM動的非線形解析を実施している。その結果、不均一なモデルの限界加速度は各タイプの均一なモデルそれぞれの限界加速度の中間値であり、変形モードについても同様であることが明らかとなった。

想定したマグニチュードM8.0の入力地震動は、ダムサイト直下で起こり得る最大級の大規模地震動と考えられるが、当該地震動に対してもモデルダム基礎岩盤は破壊に至らず、入力地震動の最大加速度5.735m/s2に対する限界加速度7.46〜10.32m/s2の比率すなわち安全率は1.30〜1.80となり、モデルダム基礎岩盤の耐震安全性を評価している。また、ダムの立地地点の地震環境を考慮し、地震動の再現期間の観点からモデル基礎岩盤の耐震安全性を評価した例示を行っている。この例示では、加速度の比率より大きな比率の安全率が得られ、モデルダム基礎岩盤はさらに十分な耐震安全性を有していると評価している。

第7章は結論で、本研究を通して得られた知見をまとめ、今後の研究課題について示している。

以上、要するに本研究は、重力式コンクリートダム堤体ならびにアーチ式コンクリートダム基礎岩盤を対象として、従来の解析手法に比して極めて精緻な解析手法を適用し、大規模地震時の挙動を明らかにするとともに、新たな提案指標の適用による耐震安全性評価を行っている。これまで大規模地震時のダムの耐震安全性評価について議論した研究はほとんどなく、本研究は今後のダムの合理的な耐震設計法確立のために有益な知見を提供している。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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