No | 216393 | |
著者(漢字) | 野田,豊範 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ノダ,トヨノリ | |
標題(和) | 高盛土に対する新幹線トンネル防護工の計画と実施 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 216393 | |
報告番号 | 乙16393 | |
学位授与日 | 2005.12.16 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第16393号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 鉄道事業者には、鉄道と交差する道路こ線橋や河川改修の工事、トンネル上部での造成工事等への対応が求められる機会が多々ある。その際、鉄道土木技術者には、これまで積み重ねられてきた知織や技術・経験を踏まえ、「さまざまな点に留意し、鉄道の安全を確保できる仕組みをあらかじめ構築しておく」ことが重要である。 昭和62年12月、東海道新幹線第1高尾山トンネル(全長1755m)直上に、静岡空港の建設が決定され、同トンネルのほぼ全長にわたり、大規模土工が施工されることとなった。同トンネルは昭和36年3月に着手し昭和39年3月に竣工した新幹線複線断面トンネルであり、トンネル周辺の地形は起伏が激しい山間地となっており、トンネルと斜めに交差している沢部では土被りが約15mしかなく、その上に約50mもの盛土を行うため、盛土荷重に対してトンネル機能を維持し新幹線安全走行を確保するための対策が必要となった。また、最大約70mの切土も行われる。 対策工としては、静岡県主催の検討委員会において、高盛土部においてアーチ形状のトンネル防護工をトンネル直上地山に構築する方向性が示され、JR東海がトンネル防護工の設計・施工に取組むこととなった。しかし、このような構造物は前例がなく、トンネル防護工の実現とトンネル全体機能維持のため、次に挙げる主な課題があった。 前例のない構造物の設計と、その主材料の開発 トンネル防護工は軽量盛土をアーチ状に構築し、その内部を軽量材で充填する複合 形状の構造をイメージしていたが、土質材料である軽量盛土では軽量構造材料としての信頼性に不安がある。また、アーチ脚部の着岩岩盤は泥岩、砂岩泥岩互層の地質で変形係数が数百N/mm2と小さく、アーチ部の弾性係数が大きいとアーチに大きな応力度が作用することからアーチ材料の弾性係数に制限が必要なことが判明した。アーチ材料に対する設計上の要求特性として最終的には、設計基準強度10N/m2、単位容積質量1.45t/m3、静弾性係数10,000N/mm2程度の数値が得られた。しかし、このように「強さ」と「軽さ」と「柔らかさ」の3つの特性を持ち、数万m3という極めて規模の大きな構造物の現場施工が可能となる土木材料は現存せず、その開発が必要になった。 トンネル全体の機能と列車走行の安全性・乗心地の維持 新幹線の安全走行、乗り心地を確保するためには、構造物としてのトンネルに異常 な変形や応力を生じさせず、トンネル内空の建築限界を確保し、さらに、トンネル全体の線形を確認し列車走行に有害な軌道狂いを抑制しなければならない。特に、第1高尾山トンネル内は時速270km/h走行区間であるため、列車走行安全性や乗心地に関わる軌道狂いの許容量は厳しいものとなる。 本論文は、数々のFEM解析とトンネル防護工材料開発を相互にフィードバックさせて設計を行い、開発した材料の特性を把握した上でトンネル防護工の施工を実施し、新幹線が高速走行するトンネルの計測監視体制を確立し新幹線の走行安全性を確保・確認してきたことを論じている。 以下に、各章の概要を述べる。 第1章は序論であり、研究の背景と研究内容を示した。 空港建設に伴い新幹線既設トンネル上部において大規模盛土の造成工事が計画された。 このため、トンネル防護工の設置とその設計条件を満足し大量現場施工が可能な新たな軽量アーチ材料の開発が必要となった。 第2章では、既往の事例調査結果を紹介し、本研究における防護工の必要性と適切な対策工形式を検討する。 盛土規模が大きく既設トンネルへの影響度が過去の実練を大きく超えるため、防護工が必要であり、盛土による増加荷重を既設トンネルに負荷させない対策工として、特殊なアーチ形状の防護工が適当と判断された。 第3章では、防護工の必要性と基本検討内容について示す。 静岡県主催「新幹線トンネル対策検討委員会」の検討結果では、既設トンネルに想定される盛土荷重が作用した場合、覆工の応力度が許容値を大幅に上回ることから防護工が必要であり、構造形式はRCアーチより軽量盛土アーチが望ましく、その材料に要求される特性も報告されている。 本研究ではこれらを考察し、防護工の設計,材料開発および防護工の効果検討に用いる基本条件を設定した。この検討では2次元FEMを用いており、基本検討と位置付けられる。対象断面の盛土高さは最大であるが地形は比較的左右対称となるため、アーチ構造物の検討においては理想的である。しかし、全施工区間では左右非対称な地形条件や3次元的な地形条件を考慮する必要がおる。 第4章では、既設トンネルの評価のため、覆工コンクリート強度を調査し、許容応力度を設定し、また、初期土庄や地山物性値などの検討条件を設定する。現トンネルの応力度を直接測定することは困難であるため、数値解析により算定することになり、適切な荷重や解析モデルを選定する必要がある。つぎに、増加荷重による影響を事前に検討し、トンネルの応力度の評価、防護工の設計が安全となるための必要な条件を設定する。 第5章では、3次元的な性状を考慮した防護工の検討を行う。 対象地点は複雑な形状をした地山上にあるため、防護工効果は2次元の基本検討に加え、3次元FEM解析と模型実験により確認した。防護工の実施工に向けて、現地の環境条件や施工条件の影響等を検討した結果、クリープ特性の把握、アーチ材料の防水、防護工に水圧が作用しない構造、並びに防護工と盛土の並行施工が必要との基本的な方針を得た。 第6章では、新材料としての高強度気泡軽量モルタルの開発内容を示す。 気泡ミルク(当初想定していた軽量盛土材)では、所要の性能を発揮できないため、新たに高強度気泡軽量モルタルを提案し、実用化のための検討内容を示す。 具体的には、従来の軽量盛土材料の約10倍の強度を有する気泡ミルクは大型打設試験の結果、最高温度は120℃に達し、温度収縮に起因するひび割れが多数発生し、防護工の実現が危倶されたため、筆者は気泡モルタル化を提案し、高強度気泡軽量モルタルを開発した。 その開発経緯と気泡モルタル化することによる防護工設計への影響について述べている。さらに、気泡モルタルへの要求性能は、強度や単位容積質量だけでなく、弾性係数についても制限を設ける必要がある。 第7章では、高強度気泡軽量モルタルの特性を研究する。 防護工の設計・施工の際には、開発した高強度気泡軽量モルタルが所要の性能を発揮・維持するために、材料の種々の特性を十分に把握する必要があり、フレッシュ性能、物理特性、熱物性、体積変化、並びに耐久性を調査し,その特性を明らかにする。 第8章では、防護工の詳細な検討を実施する。 防護工の基本アーチ断面形状、トンネル軸方向形状、端部構造、防水構造、並びに排水構造を検討する。さらにトンネルの覆工および防護工の耐窯性能を新たに規定し、防護工完成時の耐震性能を照査する。 既設トンネルへの増加荷重は工事の進捗に合わせて変化するため、最終的な防護工のアーチ形状は、これらの状況を逐一反映させて安全性を確罷する。さらに、複雑に3次元的に変化する現地地形に対応して、トンネル軸方向の設計および非対称性を考慮した検討を行う。また、長期的に材料の特性を保持するため防護工の防水や排水構造にも留意する必要がある。また、アーチ材料打設後の温度ひび割れ発生抑制は重要な検討課題である。 第9章では、トンネル防護工の施工に関して検討する。 打設数量50,800m3もの高強度気泡軽量モルタルの施工に当たって、新たに開発した材料であるため設計上の性能を確認し、入念な施工計画を策定する必要があり、プレクーリング及び打設後の温度上昇抑制対策が重要である。また、据削時に防護工アーチの基礎となる岩盤を確課する合理的な手法として、基礎岩盤判定用ノモグラムを新たに開発する。 第10章では、解析によりトンネルの挙動を予測し、計測管理に関して検討する。 トンネル全体の機能維持と安全で安定した新幹線運行の維持のためにトンネル全体の挙動を予測し、その結果を用いて計測管理手法を検討する。防護工および新幹線トンネルの安全・安定運行の確保の観点から合理的な施工管理基準値を設定する。さらに、計測項目、頻度、管理値、体制、および異常時の対処方法と管理限界値を適切に設定した。 第11章では、現地計測により防護工の効果を検証するとともに、予測値との比較検討を行い、数値解析の妥当性を確認した。 第12章では、本研究で得られた知見をまとめるとともに、今後の課題についても示して結論とする。 トンネル防護工は、平成15年7月に竣功し、同区間の盛土施工も最終段階に来ている。 トンネルには変状や問題は認められず、鉄道事業者としてトンネルの安全が確認でき、安心して新幹線の運行ができることに役立っており、本研究の目的は満足いく成果が得られた。 | |
審査要旨 | 既設の鉄道構造物には、鉄道と交差する道路跨線橋や河川改修の工事、トンネル上部での造成工事等への対応が求められる機会が多々ある。東海道新幹線では第1高尾山トンネル(全長1755m)直上に静岡空港が建設されることになり、同トンネルのほぼ全長にわたり、大規模土工が施工されることとなった。その盛土および切土荷重に対してトンネル機能を維持し新幹線安全走行を確保するための防護対策が必要となるが、その方法として第1高尾山トンネルを防護するための地中アーチ防護工の建設と列車の安全な運行を確保するためのモニタリングが必要不可欠となった。本論文は、実際の構造物において数々の解析とトンネル防護工材料開発を相互にフィードバックさせて地中アーチの設計を行い、開発した材料の特性を把握した上でトンネル防護工の施工を実施し、新幹線が高速走行するトンネルの計測監視体制の確立および新幹線の走行安全性の確保・確認したことを論じたものである。 第1章は序論であり、研究の背景と研究内容を示している。 第2章では、既往の事例調査結果を紹介し、本研究における防護工の必要性と適切な対策工形式の検討を行っている。その結果、盛土規模が大きく既設トンネルへの影響度が過去の実練を大きく超えるため、盛土による増加荷重を既設トンネルに負荷させない対策工として、特殊なアーチ形状の防護工が適当と判断した理由等を示している。 第3章では、防護工の必要性と基本検討の内容について示している。防護工の構造形式は地盤条件等を勘案し、RCアーチより軽量盛土アーチが望ましく、その材料に要求される特性を絞り込んでいる。 第4章では、既設トンネルの評価のため、現トンネルの応力度を直接測定することは困難であるため、数値解析により各種条件を算定している。さらに、増加荷重による影響を事前に検討し、トンネルの応力度の評価、防護工の設計が安全となるための必要な条件を設定している。 第5章では、対象地点は複雑な形状をした地山上にあるため、防護工効果は2次元の基本検討に加え、3次元FEM解析と模型実験により確認している。 特に実構造物のクリープ特性の把握、アーチ材料の防水、防護工に水圧が作用しない構造、並びに防護工と盛土の並行施工が必要との基本的な方針をだしている。 第6章では、新材料としての高強度気泡軽量モルタルの開発について記述している。従来の軽量盛土材料の約10倍の強度を有する気泡ミルクは大型打設試験の結果、最高温度は120℃に達し、温度収縮に起因するひび割れが多数発生し、防護工の実現が危倶されたため、従来使用されてこなかった高強度気泡軽量モルタルの開発を行っている。この高強度気泡軽量モルタルへの要求性能は、強度や単位容積質量だけでなく、弾性係数についても制限を設ける必要があることを示している。 第7章では、高強度気泡軽量モルタルの特性について調査した結果をまとめている。特に実際の防護工の設計・施工の際には、新たな材料である高強度気泡軽量モルタルが所要の性能を発揮・維持することが前提となるため、フレッシュ性能、物理特性、熱物性、体積変化、並びに耐久性を調査し,その特性を明らかにしている。 第8章では、防護工の詳細な検討を行っている。既設トンネルへの増加荷重は工事の進捗に合わせて変化するため、最終的な防護工のアーチ形状は、これらの状況を逐一反映させて安全性の変化を調べている。さらに、複雑に3次元的に変化する現地地形に対応して、トンネル軸方向の設計および非対称性を考慮した検討を行っているとともに、長期的に材料の特性を保持するため防護工の防水や排水構造、さらにはアーチ材料打設後の温度ひび割れ発生抑制についても検討を行っている。 第9章では、トンネル防護工の施工に関して検討した結果を示している。打設数量50,800m3もの高強度気泡軽量モルタルの施工に当たって、新たに開発した材料であるため設計上の性能を確認し、入念な施工計画を策定する必要があり、プレクーリング及び打設後の温度上昇抑制対策が重要となる。また、据削時に防護工アーチの基礎となる岩盤を確課する合理的な手法として、基礎岩盤判定用ノモグラムを新たに開発している。 第10章では、解析によりトンネルの挙動を予測し、計測管理に関して検討している。防護工および新幹線トンネルの安全・安定運行の確保の観点から合理的な施工管理基準値を設定し、計測管理を行う上で重要な、計測項目、頻度、管理値、体制、および異常時の対処方法と管理限界値の設定を行っている。 第11章では、現地計測により防護工の効果を検証するとともに、予測値との比較検討を行い、数値解析の妥当性を確認している。 第12章では、本研究で得られた知見をまとめるとともに、今後の課題について記述している。 以上を要約すると,本論文は、既設の構造物に隣接して供用後別な構造物が建設される場合、既設構造物の安全性、供用性を損なうことなく対処するための計画、設計、施工および管理方法に関して開発から実用化までの一連の検討を行ったものであり,本研究で検討・開発された計画手法、構造形式、使用材料、施工方法、計測管理手法は多くの構造物に対しても十分適用可能であることが示された。よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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