No | 216394 | |
著者(漢字) | 岩本,直 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イワモト,ナオシ | |
標題(和) | 地方圏において推進された地域産業構造改革の内容と効果 : 産炭地域振興対策の場合 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 216394 | |
報告番号 | 乙16394 | |
学位授与日 | 2005.12.16 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第16394号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 都市工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1.産炭地域振興政策の位置づけ 産炭政策の位置づけを産炭政策と関連がある産業政策及び国土政策の視点から考察した。この結果、産炭政策は産業政策に含まれる産業調整援助政策と強く関連する唯一の特定地域振興政策であると考えられる。 2.産炭地域振興政策の政策推移 産炭政策は石炭鉱業政策及び国土政策との関連により政策内容の変更が発生している。産炭政策のアウトラインは産炭地域振興臨時措置法に基づく産炭地域振興基本計画(以降、基本計画)により定められる。基本計画はほぼ10年毎に4次にわたり定められた。各次基本計画に定められた政策内容の推移は以下の通りである。 第1次基本計画は産炭政策の発足時のアウトラインでもあり、石炭鉱業政策及び国土政策を踏まえて石炭需要の振興、製造業の産炭地域への移転促進等が定められている。第2次基本計画では工業再配置政策と関連する産炭地域への中核的企業の移転誘致、第3次基本計画では国土政策の定住構想と関連する産炭地域経済生活圏(以降、経済圏)の新設、石炭鉱業政策による影響の希薄化地域の発生による産炭地域の解除基準の明示、さらに第4次基本計画では各経済圏の地域指定解除時期の明示等の産炭政策の終了を強く意識した政策内容への変更が行われている。 3.産炭地域振興政策の政策主旨 産炭政策の基本政策は産炭地域振興臨時措置法に基づく基本計画で定められている。基本計画の内容は炭鉱離職者に対する再雇用先の拡大を目的とした製造業を中心とする産業振興計画であった。産炭政策の施策は基本的に製造業の新規立地促進に係る施策に限定したもので構成された。さらに予算措置額では製造業の新規立地促進を目的とする産炭地域振興事業団の予算が政府予算を大きく上回って措置された。 以上の産炭政策の政策、施策、予算の内容から、産炭政策の主旨は石炭鉱業に代わる製造業による雇用拡大の推進であることがわかった。 4.産炭地域振興政策の政策効果の考察指標 本研究で把握した産炭政策の主旨、政府が2001年(平成13年)に導入した政策評価システムの内容に基づき、本研究では産炭政策の政策効果の考察に用いる指標として3つの指標を新たに設定し、これらの3つの指標を用いて産炭政策の政策効果を各経済圏を対象に考察した。第1指標は産炭政策の主旨である石炭鉱業から製造業への雇用転換の状況をみる。第2指標は各経済圏の全就業人口に対する製造業就業人口の伸びの状況をみる。第3指標は第1指標を用いて各経済圏の全就業人口に対する石炭鉱業から製造業への雇用転換状況をみる。なお、考察対象期間は全経済圏の産炭政策の政策効果を考察するため、産炭政策の開始前年である1960年(昭和35年)及び全産炭地域が存在した最後の国勢調査年である1985年(昭和60年)とした。 5.産炭地域振興政策の政策効果 本研究で定義した産炭政策の政策効果の指標を用いて考察した結果、第1指標の政策達成率が1となった経済圏は20経済圏中、いわき、茨城、山口、佐賀、有明の5経済圏であり、全経済圏の25%であった。政策達成率は概して北海道の経済圏が小さいことがわかった。 政策達成率が1であった5経済圏の内、製造業就業人口増加比率が最も大きかったのはいわき経済圏であり、次いで有明、茨城、佐賀、山口の順になった。また、構造転換率が最も大きいのはいわき経済圏であり、次に佐賀、北松経済圏の順序となっている。以上から、産炭政策の政策効果が最も大きく所在したのはいわき経済圏であると考えられる。 また、全国の動向と比較した場合、全国の政策達成率、製造業就業人口増加比率、構造転嫁率を上回った経済圏はいわき、有明、佐賀、茨城の4経済圏だった。 6.いわき産炭地域経済生活圏における政策効果 本研究の考察の結果、いわき経済圏における産炭政策の政策効果の発生要因は以下の2点であると考えられる。 まず、第1点目にいわき経済圏が首都圏に比較的近接していること、さらに貿易港である小名浜港がいわき市内に存在しているという地理的特性が製造業の就業人口の増加に寄与したことである。さらに第2点目として産炭政策の開始後に官と民の両側から、製造業就業人口の増加に寄与する動きが発生したことである。すなわち官側ではいわき経済圏の一部が産炭政策の開始後、新産業都市建設促進法及び発電用施設周辺地域整備法の地域指定を受け、産炭政策と相乗的にいわき経済圏内で産業基盤整備が推進されたことと、民側ではいわき経済圏の中核的石炭企業であった常磐炭鉱(株)が石炭鉱業以外の新分野への事業進出を行い、製造業においても多数の雇用を創出したことである。 8.今後への課題 本研究では地方圏における地域産業構造改革の内容と効果をテーマに産炭地域振興政策をケーススタディとして考察した。本研究で得た新たな知見である産炭政策の全容と全経済圏の政策効果については今後の地域産業構造改革の政策立案において参考に資する事項が所在するものと思われる。また、いわき経済圏を対象にした考察では、産炭政策とは直接関係がない分野の動きも産炭政策の政策効果の発生に寄与していることがわかり、興味深い結果を得ることができた。 本研究の今後への課題としては、本研究では全産炭地域の政策効果を考察するために全産炭地域が所在した期間のみを考察したが、産炭政策の政策効果の考察をさらに深めるうえでは、2001年(平成13年)の産炭政策の失効時まで残存した一部経済圏を対象に政策効果の考察を行うことも必要と思われる。 | |
審査要旨 | 本研究の考察対象となる産炭地域振興政策(以降、産炭政策)は1961年(昭和36年)から2001年(平成13年)までの40年間において日本政府が国内の産炭地域を対象に石炭鉱業の構造不況を要因とする産業構造改革の一環として実施した地域振興政策である。本研究は産炭政策の全容と政策効果について考察することにより、産炭政策の全容と政策効果に係る新たな知見と今後の日本の地域振興政策立案における新たな参考事項を得ることを目的としている。特定の産業地域の変容を研究対象として追跡した論文としての貴重であるとともに、地域開発政策評価論の観点からも有益な示唆を与える優れた論文である。 本論文の構成は研究の枠組みを示した序論である第1章の他、5章から成り、第6章で結論として本研究で得られた新たな知見等を総括している。第2章では産炭政策の位置づけを学術的な政策体系上から示し、さらに産炭政策の概要を同時期の国内工業立地政策及び海外の産炭地域振興政策との比較考察も実施した。 第3章では産炭政策の政策内容について時系列的に考察した。この結果、産炭政策は重点政策分野が「石炭鉱業に代わる製造業の雇用拡大」、「人口減少の防止」、「住民生活向上」であり、さらに情勢に応じて変化が生じている政策事項が存在することを明らかにした。特に政策開始初期における「石炭消費型産業の振興による石炭鉱業の振興」及び政策末期における「全産炭地域の地域指定解除時期の明示」は当該時期のみに見られる特徴的政策事項であることを示した。 第4章では産炭政策の政策効果を考察した。考察手法を構築するにあたり昨今の学術的及び政府の政策評価システムの考え方と産炭政策の残存データの状況を踏まえ、産炭政策の重点政策分野を主対象として、時系列的視点からの「政策効果」、「政策効果発生の因果関係」、「政策の有効性」の視点から考察した。「政策効果」については全20地域の産炭地域別の政策効果を考察するため、各重点政策分野を産炭政策額の予算額により重み付けを行い、各産炭地域の政策効果の発生動向において序列化を行っている。その結果、いわき産炭地域経済生活圏が最も政策効果があり、中空知産炭地域経済生活圏が最も政策効果が小さいことを示した。次に「政策効果発生の因果関係」については産炭政策の開始時に石炭鉱業の規模が大きく所在した経済圏ほど産炭政策の効果が小さくなる傾向があること、産炭政策の政策効果と当該産炭地域の工業出荷額の増加とは関係がないこと、さらに重点政策分野の一つである「石炭鉱業に代わる製造業の雇用拡大」が進展している産炭地域は他の重点政策分野である「住民生活向上」においても政策効果が発生している等の傾向があることを示した。「産炭政策の有効性」については、産炭地域と全国及び地方圏を相対的に比較考察した結果、政策目的の達成については製造業の拡大に係る面では低位であることが否めないものの、産炭地域の住民生活向上については全国以上の改善を示しており、政策効果が小さいと思われる経済圏でも当該経済圏の疲弊防止に対して一定の寄与があったと述べている。さらに産炭政策の政策内容は結果的に重点政策分野間で相乗効果が所在する構成となっていることを示した。従って、産炭政策は政策目的に対する一定の達成が認められ、有効な政策であったとしている。 第5章では政策効果が最も所在した産炭地域であるいわき産炭地域経済生活圏を対象に政策効果の発生要因を考察している。この結果、第1点目にいわき経済圏の石炭鉱業は低炭質であったことにより他経済圏よりも早く石炭鉱業から他産業への就業人口の転換を可能にする状況が発生したこと、第2点目に高度成長期において製造業が多く立地した南東北、北関東のエリアに同地域が所在したこと、第3点目に民間企業である常磐炭砿(株)の地域経済の疲弊を憂慮したことによる企業行動、産炭政策による産業団地整備、融資の施策の実施が政策効果の発生への一定の寄与が存在したことを示した。また、産炭地域の指定解除の要因となった財政力指数の向上は電源立地による税収増加が主要因であると実証した。 本研究で得た産炭政策の全容と政策効果は新たな知見として、今後の地方圏における地域振興政策の立案において極めて有効であると思われる。また、本研究の考察により得られた新たな知見のうち特筆すべきものとして以下の3点があげられる。第1点目は産業立地政策の嚆矢として位置づけられる産炭政策の政策内容をはじめて学術的に整理、考察したことである。第2点目は考察手法が混沌としているこの分野の考察手法において一つの有効な考察手法を示したことである。本研究の考察手法は予算措置を伴う他の地域振興政策の政策評価にも適用が可能であり、政策効果発生に係る因果関係や地域別の政策効果の発生状況等が考察できる。第3点目として地域の中核的企業の企業行動が政策効果の発生に一定の寄与をしていることを明らかにしたことである。本研究で明らかにした常磐炭砿(株)のような地域の中核的企業による企業行動は、現在の厳しい地方圏の財政状況において新たな地域産業構造改革推進の政策立案に資する貴重な視点を提供しているといえる。今後は常磐炭砿(株)のような企業行動を起させるインセンティブを持った政策の立案が地方圏の地域産業構造改革の推進において重要になると思われるのである。 このように特定政策の全体を評価するという貴重な視座を得てまとめられた本論文は、政策と地域の変容の関係の歴史的な把握と政策評価の両面にわたり上述のような多くの成果を上げた。 よって本論分は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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