学位論文要旨



No 216399
著者(漢字) 吉岡,直紀
著者(英字)
著者(カナ) ヨシオカ,ナオキ
標題(和) ベジエ曲面再構成法の開発と脊椎脊髄疾患診断への応用の研究
標題(洋)
報告番号 216399
報告番号 乙16399
学位授与日 2005.12.21
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第16399号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 上野,照剛
 東京大学 教授 橋都,浩平
 東京大学 助教授 青木,茂樹
 東京大学 助教授 高取,吉雄
 東京大学 助教授 大久保,敏之
内容要旨 要旨を表示する

第1章 研究の背景と目的

Computed tomography (CT)やmagnetic resonance imaging (MRI)などの画像診断装置の技術的な進歩に伴い、今日では、人体の画像情報を単なる"輪切り"画像の連続としてではなく、高い空間分解能をもったボリュームデータとして得られるようになった。一度の検査で発生する大量のデータを用い、より正確な画像診断にせまる手段として、multiplanar reconstruction (MPR)のような任意の平面で切った2次元画像表示や、ボリュームレンダリング法に代表される3次元表示などが、画像処理ワークステーションの能力向上とあいまって多用されている。しかし、ボリュームレンダリング法は、濃度差のあるものを立体的に表示する一方、得られた内部の断面像としての情報を一部隠してしまうという矛盾を抱えた表示方法であり、診断的価値としては補助的な位置にある。一方、MPRの画像は、解剖学的構造あるいは病変に対して、平行もしくは垂直な断面での観察を容易にし、3次元表示よりも放射線診断における価値が一般的に高いとされている。しかし、厳密な意味では人体内に直線的構造や平面的な構造は存在せず、MPR像は諸構造に対する近似的な平行像・垂直像にとどまる。そのMPRの欠点をおぎなう方法として、curved planer reconstruction(CPR)とよばれる手法が存在する、これは、曲線を平行移動してできた曲面(=ロフト曲面)でもって画像を再構成する手法であり、血管や主膵管、脊柱管などの構造を一つの曲面におさめて表示し、その有用性も報告されている。ただし、ロフト曲面のような単純な曲面では、屈曲する構造を1枚の画像に収めることは可能でも、その構造にねじれが存在する場合には、十分な評価法ではない。

側弯症とは、脊柱が回旋変形を伴いつつ、側方あるいは後方に轡曲する構築性の脊柱変形である。変形した脊柱や椎体の評価には単純X線写真がまず施行され、術前の脊椎の評価として、3次元CTが施行される場合もあるが、側弯症は3次元的彎曲のみならず回旋変形を伴っている点で、先にあげたMPRやCPRをもってしても、全体像の把握が困難なことが多い。また、腕神経叢引き抜き損傷の画像診断においては、脊髄腔造影後CT、MRIなどが施行され、ボリュームデータに対してのMRPやCPRが多用されるが、再構成画像の数も多量である。

今回、著者は、ボリュームデータを用いた新しい画像再構成法のひとつとして、パラメトリック曲面を用いた手法を自ら開発し、ベジェ曲面再構成法Bezier surface reconstruction (BSR)と名づけた。同手法を、側弯症や引き抜き損傷症例のボリュームデータに応用し、臨床的有用性を検討したので報告する。

第2章 研究方法

新しい再構成法の概念およびソフトウェアの概要

ベジェ曲面とは、2個の媒介変数によって表現される曲面で、特に3次式で表現される3次ベジェ曲面は、四方の4点、およびそれぞれの点におけるX方向、Y方向のベクトルを指定することにより描画される。指定するパラメータが少ない割に自由度の高い曲面が描画できる点で、モニター上でマウスを用いて描くのに適した曲面であり、単純な凸面、凹面以外に捻れた曲面も描画できる。今回開発したべジェ曲面再構成法は、そのべジェ曲面を複数連ねて細長い構造に対応できるようにしたものである。各べジェ曲面の接合部では、滑らかな接合となるようにパラメータを設定している。

再構成のために用いたソフトウェアは、筆者がプログラム記述言語Visual C++ Ver6.0(Microsoft社製)にて記述した。アルゴリズムの概要としては、

1.スキャン範囲の脊柱管の中心を通ると思われる節点を任意の個数定める。

2.設定した各節点をなめらかに通過する曲線を、自然3次スプライン関数にて求める。

3.上記曲線の各節点において、曲線の接線ベクトルに鉛直に交わる平面をその節点の軸状断面と定める。各軸状断面上にて、3次ベジェ曲線を(1本ないし2本)決定する。

4.ベジェ曲線の制御点を自然3次スプライン曲線にて連結し、スプライン曲線をもとにベジェ曲面を作成する。

5.ボリュームデータに上記曲面で割をいれた形態として表示。

ファントムによる検証

a)網目状に孔のあいた、ポリウレタンからなる板状素材をU字状にしたファントム、また捻れを与えたファントムを作成、CTで撮像してボリュームデータを得た。それぞれの形態に対応したべジェ再構成が適用できるか検証した。

b)ポリビニール製のチューブを側弯症の脊柱管のように立体的に屈曲させてCTで撮像、ボリュームデータを得て、チューブの壁に沿った再構成ができるか検証した。

臨床的検討

対象

側弯症矯正手術の術前もしくは術後の精査として、脊椎のCTが施行された側弯症の患者22例、および、腕神経叢引き抜き損傷の診断にて.頚椎レベルの脊髄腔造影後CTを施行した患者24例を対象とした。

実際の撮像および検討方法

CTの撮像は多列検出器型CTを用いて行い、撮像パラメータは、側弯症の場合、検出器幅2.5mm x4列、ピッチ6、スライス間隔1.25mmとした。Field of View(FOV)は14cmから29cmである。引き抜き損傷の場合、検出器幅1mmx16列、ピッチ11、スライス間隔0.5mmとした。FOVは12cmである。

CT画像の検討項目として、画像の作成時間を測定し、軸状断像以外に診断に用いた再構成画像の数を従来のMPR,CPR法と比較した。また、主観的な有用性の評価を、側弯症例は椎弓根の左右差と側弯の程度の関係について着目しながら.一方、引き抜き損傷例は神経根の描出に着目しながら、原画像である軸状断像、MPR、CPRと比較して、1.優れている 2.同等 3.劣っている、という基準に従って評価した。

第3章 結果

ファントムの再構成

ファントムにおいて、いずれも良好なべジェ再構成画像が得られた。

臨床的検討(側弯症)

BSR画像の作成時間は1症例につき平均4.8分(範囲3-6分)であった。いずれの症例においてもスキャン範囲内のすべての椎弓根の断面を一枚の曲面におさめることができた。診断に用いた画像枚数は、全レベルで平均9枚。一方従来のMPR、CPR法では、軸状断像以外に診断に用いた画像枚数は、平均49枚である。主観的評価として、「優れている」が15例、「同等」が7例、「劣っている」の評価のものはなかった。臨床的検討(腕神経叢引き抜き損傷)

BSR画像の作成時間は1症例につき平均6.3分(範囲4-8分)であった。いずれの症例においても、スキャン範囲内のほぼすべての神経根の前根を3枚以内に、後根も3枚以内の曲面におさめることができた。診断に用いた画像枚数は、全レベルで平均12枚。一方従来のMPR、CPR法では、画像作成時間は、軸状断像以外に診断に用いた画像枚数は、平均61枚である。主観的評価として、「優れている」が16例、「同等」が7例、「劣っている」が1例であった。

第4章 考察

側弯症の矯正固定術の術前計画において、より安全なスクリュー位置の決定等のために、CTのボリュームデータが用いられる場合がある。ただし、従来の表示法のMPRやCPRでは、個別の椎体の評価はできても彎曲の中でどの位置を占める椎体・椎弓がどういう変形を示すかが把握しづらく、ボリュームデータを用いた術前計画には時間を要していた。

今回の研究によって、椎弓根の精査に関しては、BSR法を用いることにより、MPR法やCPR法より少ない枚数で診断が可能であることが示唆された。診断に要する画像がより少なくまとめられることは、単に時間の短縮化のみならず、全体像の把握という点において有利であると考える。

腕神経叢引き抜き損傷の診断において施行される、脊髄腔造影後CTで神経根は相対的低吸収域として描出されるが、その走行は、脊髄から神経孔にいたるまで屈曲しており、さらに頚髄の上位レベルと胸髄の上位レベルでも、脊髄に対する相対的走行部位が微妙に異なって、1枚の再構成画像におさめることは、従来法では困難であった。

今回の研究により、BSR法を用いることにより、前根、後根をそれぞれ、対側を含めて1枚の再構成画像として呈示できることが示された。観察枚数を縮約できるのみならず、対称性を有する解剖学的構造の画像診断では、対側との比較ができるという点でさらに有用であると考える。

第5章 まとめ

ボリュームデータの従来の表示法であるMPRやCPRの欠点のいくつかを克服し、側弯や捻れのある脊柱や、屈曲して走行する神経根にも対応できるBSR法を考案し、自らソフトウェアを開発した。側弯症の脊柱全体や複数のレベルの神経根を1枚の画像でとらえることに成功し、より確実な診断にむすびつく端緒をあたえた。この手法は、脊椎脊髄領域のみならず、脈管、消化管などさまざまな構造に応用できる可能性をもつ。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、人体のボリュームデータについての再構成法に関する研究で、ベジェ曲面を応用して、従来のMPR,CPRの欠点を克服した、より複雑な形状の曲面の再構成に対応できる新しい画像再構成法(ベジェ曲面再構成法)を開発し、側弯症の診断、および、腕神経叢引き抜き損傷の診断における有用性を検討したものであり、以下の結果を得ている。

べジェ曲面とは、2個の媒介変数によって表現されるパラメトリック曲面で、特に3次式で表現される3次べジェ曲面は、四方の4点以外に12点を指定することでその形状が定まる。指定するパラメータが少ない割に自由度の高い曲面が描画できる点で優れており、単純な凸面、凹面以外に捻れた曲面も描画できる。人体のボリュームデータにおいて、このべジェ曲面を複数連ねた形状を設定し、細長い構造に対応できるようにした新しい画像再構成法を開発し、べジェ曲面再構成法Bezier surface reconstruction(BSR)と名づけた。

ポリウレタンからなる板状素材をU字状に彎曲させたファントム、および同一素材で捻れを与えたファントムを作成し、CTで撮像してボリュームデータを得た。それぞれの形態に対応したべジェ再構成が適用できるか検証し、良好な再構成画像を得た。また、ポリビニール製のチューブを側弯症の脊柱管のごとく立体的に屈曲させてCTで撮像し、ボリュームデータを得た。チューブの壁に沿った再構成ができるか検証し、良好な再構成画像を得た。

上記の結果をふまえ、側弯症患者22例においてCTのボリュームデータでBSR画像を作成した。いずれの症例においてもスキャン範囲内のすべての椎弓根の断面を一枚の曲面におさめることができた。一症例あたり画像の作成時間は平均4.8分であった。診断に用いたBSR画像枚数は平均9枚で、従来のMPR、CPR法では、軸状断像以外に診断に用いた画像枚数は、平均49枚であった。主観的評価として、「優れている」が15例、「同等」が7例、「劣っている」の評価のものはなかった。

腕神経叢引き抜き損傷の患者24例においても、頚椎レベルの脊髄腔造影後CTのボリュームデータでBSR画像を作成した。いずれの症例においても、スキャン範囲内のほぼすべての神経根の前根を3枚以内に、後根も3枚以内の曲面におさめることができた。画像作成時間は、1症例につき平均6.3分(範囲4-8分)であった。診断に用いたBSR画像枚数は平均12枚であるのに対し、従来のMPR、CPR法では、平均61枚であった。主観的評価として、「優れている」が16例、「同等」が7例、「劣っている」が1例であった。

以上、本論文は、ボリュームデータの従来の再構成法であるMPRやCPRの欠点のいくつかを克服し、捻れのある脊柱や、屈曲して走行する神経根にも対応できるBSR法を開発して、側弯症や腕神経叢のボリュームCTにおける臨床的有用性を明らかにした。本研究により開発されたBSR法は、脊椎脊髄領域のみならず、脈管、消化管などさまざまな構造に応用できる可能性をもち、ボリュームデータを用いる画像診断全体に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられた

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