学位論文要旨



No 216419
著者(漢字) 近藤,純一
著者(英字)
著者(カナ) コンドウ,ジュンイチ
標題(和) 外装ブラインドのある窓における日射伝播の評価法に関する研究
標題(洋)
報告番号 216419
報告番号 乙16419
学位授与日 2006.01.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16419号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 坂本,雄三
 東京大学 教授 鎌田,元康
 東京大学 教授 加藤,信介
 東京大学 助教授 平手,小太郎
 東京大学 助教授 佐久間,哲哉
内容要旨 要旨を表示する

建築における窓の機能として、自然採光と眺望の確保さらに通風がある。通風のためには窓の開閉機能が必要となるが、自然採光と眺望の確保のためには窓の開閉を必要としない。但し自然採光については、窓から侵入する日射を利用するために、同時に室内空調負荷と室内温熱環境に対して及ぼす影響に留意すべきである。

特に最近の建築物は、窓高さを床から天井まで確保するような、ガラスの建築が増加している。窓からの日射熱取得は冷房負荷の増大と、暖房負荷の減少をもたらすが、各種OA機器などの内部発熱が大きい最近の業務ビルでは、暖房負荷の減少というメリットよりも冷房負荷の増大というデメリットが大きい。従って、日射遮蔽性能が断熱性能以上に重要となる。日射遮蔽手段に関しては、庇やブラインド及びカーテン等が利用されてきたが、特に日射遮蔽効果が大きい外部ルーバー(本論文では以下外装ブラインドと称する)が注目される。日射遮蔽効果を第一の目的とするならば、スラットが完全に屋外に設置される外装ブラインドが、ダブルスキンやエアフローウインドウ以上に効果的と考えられる。実際に計画される大規模事務所ビルに関して、外装ブラインドの検討を行う頻度が大きくなっている。ただしその評価法について公表されている文献は少ない状況にある。

このような背景のもと筆者は、建築物の環境配慮設計に関わる立場において、各種外装ブラインドに関する日射伝播を正確に評価することが重要であると認識し、本論文では以下の目的をもって取り組んだ。

(1)外装ブラインドの計算法を示し、実験により精度の高いことを検証する。

(2)検証された計算法を発展させて、多様な形状の外装ブラインドへの適用を可能とする。

(3)鏡面反射の計算法を示し、スラット面が完全拡散反射でなく反射に指向性を持つ場合の傾向を予測可能とする。

(4)外装ブラインドの計算に用いる気象データの測定時間間隔について検討する。

本論文の主な内容と構成は、以下の通りである。

第1章では、前述した研究の背景と既往の研究について概観した。

第2章では、窓廻りの日射に関する計算において、直達日射に対応する日影計算、天空日射及び地物反射に対応する形態係数の計算について示す。これらは、第3章〜第5章に示す外装ブラインドに特化した計算法と組み合わせて用いる、外装ブラインドの効果を評価するための基本的で汎用的な計算法である。

第3章では、厚みをもつ角度可変の水平外装ブラインドに関してその計算方法を示し、さらに実験値と計算値の比較検討を行って、以下の結果を得た。

(1)外装ブラインドのある窓の透過日射及び反射日射を、本論文に示す計算法により正確に推定できることを、実験値との比較により確認した。

(2)ブラインドの計算に関して、形態係数を本論文に示す点に対する面の形態係数を計算する方法によって厳密に計算し、スラット間の多重反射の計算を十分な回数行えば、満足できる計算精度が得られる。

(3)スラットを長さ方向に無限大と想定可能なモデルであれば、本論文に示す形態係数は簡単な三角関数で表現できるため、計算の分割点数を上げて実用的で精度の高い計算が可能となる。さらに毎時刻必要な直達日射の日影計算もスラット断面上の幾何学的計算によって、判定式が単純で明快に表現できる。

なお形態係数の計算法は数多くあるが、多様な形状のスラットへの対応が容易であると考えて、点に対する面の形態係数の計算を十分な数の点において行う方法を採用した。

第4章では、パイプ形状の水平スラットに関する完全拡散反射面を仮定した計算法、及びスラットが全面に無く部分的に開口がある場合の計算法を示し、モデルビルへ適用した計算結果を検討し、以下の結果を得た。

(1)直達日射の計算について窓面の日影計算により日当たり率を毎時刻計算し、天空日射及び地物反射については予め形態係数を精度良く計算しておき、さらにスラットが全面にある場合に対する実際に設置されているスラットの形態係数の比率を用いて修正を行う方法を用いて、一部開口があるパイプ形状の水平ブラインドへの適用が可能であることを示した。さらに多様な断面形状のスラットや、縦型のブラインドへの対応が可能であることを示した。

(2)本章ではパイプ間隔がパイプ直径の2倍(正面から見て半分がパイプ、半分が空隙)の水平型外装ブラインドの計算を行ったが、南面では夏期を中心にかなりの日射遮蔽効果が期待され、さらに日射遮蔽が難しいとされる西面についても、年間を通じて50%程度の安定した日射遮蔽効果が期待できることを予測した。

第5章では、第3章と同一形状の外装ブラインドについての鏡面反射の計算法を示した。さらにスラット表面が鏡面反射か完全拡散反射か、スラット反射率、スラット角度が、外装ブラインドの日射伝播性能に与える影響に関して、分散分析手法により検討し以下の結果を得た。さらに第4章に示すパイプ形状の水平スラットに関する鏡面反射の計算法を示した。

(1)鏡面反射について、直達日射に対し十分な本数(本論文ではスラット間隔に対して1000本)の光線についてその反射軌跡を追跡する方法を採用した。天空日射、地物反射については、それぞれ半球の1/2の範囲の区画を分割して、直達日射と同様な計算を行い、該当する区画の形態係数によって重み付け平均する方法を示した。

(2)透過日射量とガラス吸収日射量について、絶対値は透過日射量が10倍くらい大きいものの、傾向は非常に類似している。つまりスラット角度が開くほど、さらにスラット反射率が大きくなるほど、透過日射量の値が大きくなる。さらに、完全拡散面か鏡面かについては、スラット角度が開いた状態であれば鏡面の方が大きくなる。逆にスラット角度が閉じた状態であれば、完全拡散面の方が大きい。この傾向は反射率が大きいほど顕著となる。

(3)スラット吸収日射量について、スラットの反射率が大きくなるほど吸収日射量が小さくなるが、完全拡散面か鏡面かの影響、スラット角度の影響は大きくない。

(4)スラット角度が閉じるほど、さらにスラット反射率が大きくなるほど、屋外への反射日射量の値が大きくなる。さらに、完全拡散面か鏡面かについては、(2)で述べた傾向と表裏の関係となるが、スラット角度が開いた状態であれば完全拡散面の方が大きくなる。逆にスラット角度が閉じた状態であれば、鏡面の方が大きい。この傾向は反射率が大きいほど顕著となる。

(5)全体としては、スラット角度とスラット反射率の影響が大きく、完全拡散面か鏡面かはスラット角度と関連しながら影響を与える。

第6章では、1分間隔の標準気象データ(以下TWDと表記する)を利用して、時間間隔を変えた複数の気象データを作成し、それらを用いた第3章及び第5章と同一形状の外装ブラインドの計算結果より、外装ブラインドの検討に適した気象データの時間間隔について4〜10分間隔のデータが好ましいことを示した。6分間隔データ(以下TWD6と表記する)を代表として用いて7月8月について検討し、以下の結果を得た。

(1)TWDを6個づつ平均値したものが、TWD6である。TWD6はTWDの1/6のデータ数で、TWDの変動の80%程度を表現できる。

(2)安定した曇天日、安定した晴天日については、TWDに対してTWD6は日射量データとしても、大部分の時間帯にて支障なく変動を再現している。それらを用いた外装ブラインドが設置された窓の透過日射量の計算結果においては、実用上問題となる誤差は生じない。

(3)不安定な日射変動が大きい日に関して、TWDに対してTWD6は日射量データとして急激な変動を表現できない時間帯は、比較的多く存在する。但しそれらを用いた外装ブラインドが設置された窓の透過日射量の計算結果においては、瞬間的に40%程度の誤差を持つ時間が1日に数回あると予測されるものの、それ以外の時間帯は最大10数%程度の誤差範囲にて変動すると考えられる。

(4)現状では1時間間隔の日射量データ(以下TWDhと表記する)の利用が一般的である。日射量を積算値としてとらえる限りTWDhで問題は無い。外装ブラインドが設置された窓の透過日射量について評価する場合、安定した晴天日ではほとんど問題は無い。安定した曇天日では、大部分の時間帯において問題ないが、時間帯によっては±30%程度の乖離が生ずる。不安定で日射変動が大きい日では、かなりの頻度で乖離が発生し、±40%程度に及ぶこともある。

第7章では、各章で得られた知見をまとめ、総括的な結論を述べる。

本論文で示した、外装ブラインドのある窓における日射伝播の評価法に関する研究は、実際に計画段階において建物のファサードの検討に活用しており、窓廻りの空調負荷や温熱環境解析のレベルアップに寄与する。

なお本論文では短波長放射(日射)の室内への侵入量、スラット及びガラスへの吸収日射の計算を主眼とした。これに続く長波長放射と対流による熱移動は室内側の諸条件に依存する部分が大きく、今後の課題の一つである。さらに外装ブラインドの設計法への展開が必要であり、温熱環境評価に加えてグレアなど光環境の評価を加えることなども、今後の課題となる。

審査要旨 要旨を表示する

建築における窓の機能として、自然採光と眺望の確保さらに通風がある。通風のためには窓の開閉機能が必要となるが、自然採光と眺望の確保のためには窓の開閉を必要としない。但し自然採光については、窓から侵入する日射を利用するために、同時に室内空調負荷と室内温熱環境に対して及ぼす影響にも留意すべきである。特に最近の建築物は、窓高さを床から天井まで確保するような、ガラスの建築が増加している。窓からの日射熱取得は冷房負荷の増大と暖房負荷の減少という両面の効果をもたらすが、内部発熱が大きい最近の業務ビルでは暖房負荷の減少というメリットよりも冷房負荷の増大というデメリットが大きい。従って、日射遮蔽性能が断熱性能以上に重要になる。日射遮蔽手段に関しては、庇やブラインド及びカーテン等が利用されてきたが、特に日射遮蔽効果が大きい外部ルーバーが注目される。日射遮蔽効果を第一の目的とするならば、スラットが完全に屋外に設置される外装ブラインドが、ダブルスキンやエアフローウインドウ以上に効果的と考えられる。しかしながら、外装ブラインドの日射遮蔽効果に関する評価法や計算法については、十分に研究されてきたわけでもないし、既に体系化されているわけでもない。このような背景のもとで、本論文は、建築物の環境配慮設計に関わる立場では各種外装ブラインドに関する日射伝播を正確に評価することが重要であると認識しつつ、以下の研究を行い、成果を取りまとめたものである。

外装ブラインドの計算法を示し、実験により精度の高いことを検証する。

検証された計算法を発展させて、多様な形状の外装ブラインドへの適用を可能とする。

鏡面反射の計算法を示し、スラット面が完全拡散反射でなく反射に指向性を持つ場合の傾向を予測可能とする。

外装ブラインドの計算に用いる日射量データ(気象データ)の測定時間間隔について検討する。

本論文の構成と主な内容を以下に述べる。第1章は、研究の背景と既往の研究について概観したものである。第2章は、窓廻りの日射に関する計算において、直達日射に対応する日影計算、天空日射及び地物反射に対応する形態係数の計算について解説した。これらは、第3章〜第5章に示す外装ブラインドに特化した計算法と組み合わせて用いる、外装ブラインドの効果を評価するための基本的で汎用的な計算法である。第3章では、厚みをもつ角度可変の水平外装ブラインドに関してその計算方法を示し、さらに実験値と計算値の比較検討を行った。その結果、本論文の計算法の精度が評価され、妥当性が確認された。第4章では、パイプ形状の水平スラットに関する完全拡散反射面を仮定した計算法、及びスラットが全面に無く部分的に開口がある場合の計算法を示し、モデルビルへ適用した計算結果を検討した。パイプ形状の水平スラットの外装ブラインドでは、日射遮蔽が難しいとされる西面についても、年間を通じて50%程度の安定した日射遮蔽効果が期待できることが予測された。第5章では、第3章と同一形状の外装ブラインドについての鏡面反射の計算法を示した。スラット表面の反射特性やスラットの反射率・角度が、外装ブラインドの日射伝播性能に与える影響に関して、分散分析手法により検討し、スラットの反射率・角度と日射遮蔽との関係に関する有用な知見を得た。また、第4章に示したパイプ形状の水平スラットに関する鏡面反射の計算法も示した。第6章では、日射量データの時間間隔の影響について、観測データに基づき考察した。その結果、外装ブラインドの検討に適した気象データの時間間隔としては、4〜10分間隔のデータが好ましいことを示した。最後の第7章は、各章のまとめや全体の結論、今後の課題と展望について述べたものである。外装ブラインドに関わる今後の研究課題として、長波放射と対流による熱移動の問題とグレアなどの光環境の評価に関する事項を取り上げている。

本論文で示した外装ブラインドのある窓における日射伝播の評価法に関する研究は、実際に計画段階において建物のファサードの検討に活用しており、窓廻りの空調負荷や温熱環境解析のレベルアップに大いに寄与している。本論文は、非常に精緻な計算法に立脚した着実な基礎研究であるが、その成果は現実の建築設計にも応用されている実用的研究でもあり、工学研究として申し分のないものである。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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