学位論文要旨



No 216431
著者(漢字) 東野,孝明
著者(英字)
著者(カナ) ヒガシノ,タカアキ
標題(和) 木質系廃棄バイオマスの炭化生成物の研究
標題(洋)
報告番号 216431
報告番号 乙16431
学位授与日 2006.02.06
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第16431号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 谷田貝,光克
 東京大学 助教授 佐藤,雅俊
 東京大学 助教授 山川,隆
 東京大学 助教授 信田,聡
 森林総合研究所 室長 大平,辰朗
内容要旨 要旨を表示する

近年、地球温暖化の問題が取りざたされている。地球温暖化の原因は、石油、石炭及び天然ガスなどの化石燃料の使用による大気中への過剰な二酸化炭素の排出である。一方、廃棄物の処理においてもほとんどが焼却処理によるもので、大量の二酸化炭素が大気中に排出されている。二酸化炭素を吸収したバイオマスの炭化は、二酸化炭素の回収・固定化の最も単純な方法であり、回収・固定化の効果を最大限に得る方法が固体炭化物(炭)、液体炭化物(酢液・タール)及びガス成分の有効利用であると考えられる。

本研究ではバイオマス炭化により地球温暖化を軽減することを目的として、建築解体材、集成材、ヤシガラ、バガス、ベイツガ材等、各種バイオマスを自燃式炭化装置である縦型連続炭化装置(以後VCCS)および乾留式炭化装置(以後RCS)を用い炭化し、固体炭化物、酢液、タール等の炭化生成物の基本的な性状を検討し、その有効利用の可能性を明らかにした。一方、木質系廃棄バイオマスの炭化による利活用において最も問題になるCCA処理材の炭化物に関しても、炭化による銅、クロム、砒素の所在を明らかにし、利用の可能性を示唆した。また、木酢液の各構成成分の定量による品質規格の策定の可能性を明らかにした。

本研究に用いた供試試料をTable 1に示した。

固体炭化物(炭)の性状と有効利用の可能性

VCCS及びRCSによる固体炭化物の性状をTable 2、Table 3に示した。VCCSでの固定炭素は76〜82%で、一般的な木炭と同程度であった。ヨウ素吸着性能は集成材廃材が172.9mg/gと最も高かった。

RCSによる試験において固体炭化物の固定炭素はベイツガ材とヤシガラは同程度であったが、バガスは65.7%と低くなった。灰分はバガスが18.7%と非常に高く、サトウキビは土中のミネラル類を吸収しやすいと推測される。

プラスチック廃材は灰分量が高く、固定炭素含有量が低いので他の炭化物に比べて大きな違いがあるが、それ以外は農業資材や土壌改良材等の用途を仮定した場合に、特に問題となる結果でないと考えられる。

液体炭化物の酢液とタールの性状およびその有効利用の可能性

VCCSによる酢液の定量分析結果をTable 4に示した。ヤシガラの酢液成分は木質系と比較して多少の成分バランスの違いが見られるが、各供試試料とも酢酸を主成分とする成分構成は一般的な木酢液成分と変わりがなく、木酢液と同等な有効活用の可能性が示唆される。

次にRCSによる酢液の定量分析結果をTable 5に示した。バガス、ベイツガ材及びヤシガラの酢液は、酢酸の含有量の違いはあるが酢酸が多く、一般的な木酢液と同等の用途が考えられる。またバガスとヤシガラのフェノール類の含有量が多く、特にフェノールの含有量が特徴的に多かった。この特徴を活かした高殺菌力の酢液等としての利活用の可能性が示唆された。

タール成分の定量分析結果をTable 6に示した。同じ木質である建築廃材と天然木の混合物とベイツガ材を比較すると、グアヤコールと4-メチルグアヤコールの含有量が、ベイツガ材のほうが3〜4倍も多く含まれていた。この理由は、窯内で発生した熱分解ガスが窯内に留まることなく誘引されるRCSと違い、VCCSは炉内で発生した熱分解ガスが炉内で循環されるために、重合が起こり6成分以外のタールピッチ分が多くなったと推測される。

一方、RCSによるヤシガラのタール成分はフェノールの含有率が非常に多く特徴的であった。しかしながらフェノール以外のフェノール成分についてはベイツガ材に比べ低くなった。検出成分はベイツガ材とほぼ同じ成分が検出された。また、バガスのフェノール、p-クレゾールの含有率が非常に高いのも特徴的であった。

建築廃材等の炭化物中のCCAとその溶出問題の検討

固体炭化物中の銅、クロム、砒素の含有について、VCCSによる5種類の実験結果では、砒素は一部のサンプルで検出されたが環境基準以下であった。銅は一部のサンプルで環境基準(農用地のうち田に限る)を上回る結果となったが、農用地以外での用途での利用が考えられる。本実験では土壌が全て炭化物であると仮定して環境基準と比較した。しかし実際の炭化物の使用法を考えると、農地の土壌を全て炭化物と入れ替えて使うようなことはないと考えられ、実用上から考えると環境基準と比較して問題ないと思われる。また砒素は銅とクロムと比べ溶出しやすいために、使用前に炭化物の洗浄をおこなうのも一つの方法ではないかと思われる。しかしながら廃棄物由来の固体炭化物を利活用する場合は、常に銅、クロム、砒素の挙動を確認する必要がある。

次に土壌溶出試験に準じて溶出試験をおこなった。銅及びクロムは全てのサンプルで定量限界以下となった。これは、土壌改良剤等の用途を仮定した場合に、炭化物中に含まれる銅及びクロムは環境中に溶出せずに炭化物中に安定的に固定されると思われる。一方、砒素については建築廃材、集成材廃材、及び建築廃材と天然木の混合物のサンプルで溶出が確認され、一部のサンプルで地下水の環境基準をわずかに上回った。本実験では土壌が全て炭化物であると仮定して環境基準と比較したが、実際の炭化物の使用法を考えると、農地の土壌を全て炭化物と入れ替えて使うようなことはないと思われ、実用上から考えると環境基準と比較して特に問題ないと思われる。しかしながら炭化物を繰り返し足していった場合は、砒素の継続的な溶出と土壌への蓄積が懸念される。廃棄物由来の固体炭化物を利用する場合は常に、砒素の挙動を確認することにより有効利用が可能となると示唆される。

酢液中の銅、クロム、砒素の含有量については、建築廃材や集成材は廃棄物で性状が一定していないために、得られた結果にばらつきがあった。砒素は地下水の環境基準を大きく上回るサンプルがあった。木酢液の使用法では原液のままで使用することは一般的にないが、土壌に砒素が蓄積され環境汚染や人体への汚染の危険がある。そこで実用性を検討するには砒素を環境基準以下とすることにより、農業資材や土壌改良材等の有効利用の可能性が示唆される。

液体炭化物(酢液)有効利用のための規格化の検討

本研究で得られた液体炭化物(酢液)有効利用の為の規格化の可能性の検討の為に、市場で見られる蒸留木酢液を検討材料とした。管理された蒸留による製造方法で蒸留木酢液を製造することにより、原料および炭化方法によって発生した木酢液の成分偏差の影響を小さくし、ある一定の偏差をもつ蒸留木酢液を作ることができることを明らかにした。そして、その偏差は正規分布しており、その偏差の範囲も他の工業製品と同様な品質管理が可能な値となっていると考えられる。よって、蒸留木酢液は各構成成分の定量による品質規格の策定が可能であると示唆され、その品質規格により他の工業製品と同等に品質管理が可能であると考えられる。このことによって、蒸留木酢液の品質再現性が確保され、今後の蒸留木酢液の公的品質規格策定の可能性を開くものと期待でき, 本研究で得られた液体炭化物(酢液)も同様に可能性があると示唆される。

まとめ

本研究では地球温暖化問題と廃棄物処理問題の解決策の一助とするために、各種バイオマスの炭化生成物の基本的な性状を研究した。ヤシガラやバガスの炭化生成物は木炭、木酢液及び木タールと同様な利活用の可能性が示唆された。木質系廃棄バイオマスの炭化による利活用において最も問題となるのがCCA処理木材の問題である。今回の結果では銅、クロムは炭化物中に比較的安定して留まるが、砒素は溶出しやすいことが明らかとなった。そこで炭化物の使用に先立ち、炭化物中の砒素の除去には洗浄も一つの方法ではないかと考えられる。

酢液については、CCA処理木材を炭化した場合、砒素は炭化物中に残留しにくく、気化しやすいと言われており本実験の結果からもそのことが確認できた。酢液中の砒素の除去には精留をおこなえば100%近い除去効果も報告されており、これも一つの方法と思われる。建築廃材等を用いる場合は、常に銅、クロム、砒素の挙動を確認していく必要がある。木質系廃棄バイオマスの炭化生成物の有効活用にはCCA等の問題があり、コスト面で天然材を原料にするのと比べ製造コストは増えるが、炭化物の前処理等によって使用可能である。

木酢液の成分規格化の可能性は、各構成成分の定量による品質規格の策定が可能であることが明らかとなった。今後の蒸留木酢液の公的品質規格策定の可能性を開くものと期待でき、液体炭化物(酢液)についても同様に期待できる。

本研究により木質系廃棄バイオマスの炭化生成物の有効活用は可能であり、地球温暖化問題と廃棄物処理問題の解決策の一助となり得ると示唆される。

Table 1. Sample and method of carbonization.

Table 2. Characteristics of char(VCCS).

Table 3. Characteristics of char(RCS).

Table 4. Comparison of constitution ratio of components of pyroligneous acid(VCCS).

Table 5. The constitution ration of components of pyroligneous acid(RCS).

Table 6. The constitution ratio of components of tar oil.

審査要旨 要旨を表示する

バイオマス等廃棄物の処理はそのほとんどが焼却によるもので、二酸化炭素が大気中に排出され、地球温暖化にも関連し大きな問題となっている。バイオマスの炭化は、二酸化炭素の回収・固定化の最も単純な方法であり、回収・固定化の効果を最大限に得る方法が固体炭化物(炭)、液体炭化物(酢液・タール)及びガス成分の有効利用であると考えられる。

本研究ではバイオマス炭化により地球温暖化の軽減を目的として、建築解体材、集成材、ヤシガラ、バガス、ベイツガ材等、各種バイオマスを自燃式炭化装置である縦型連続炭化装置(以後VCCS)および乾留式炭化装置(以後RCS)を用い炭化し、固体炭化物、酢液、タール等の炭化生成物の基本的な性状を検討し、その有効利用の可能性を明らかにした。一方、木質系廃棄バイオマスの炭化による利活用において最も問題になるCCA処理材の炭化物に関しても、炭化による銅、クロム、砒素の所在を明らかにし、利用の可能性を示唆した。また、木酢液の各構成成分の定量による品質規格の策定の可能性を明らかにした。

本論文は5章で構成されている。第1章では各種材料の炭化を行い、固体炭化物(炭)の性状と有効利用の可能性を検討した。その結果、今回用いた材料のVCCSによる炭化では80%前後の固定炭素率を示し、一般的な木炭と同様であること、比較のために使用したプラスチック廃材は灰分量が高く、固定炭素率が低いので他の炭化物と大きな違いがあるが、農業用資材としての用途を仮定した場合、特に問題がないことなどを明らかにした。

第2章では、液体炭化物の酢液とタールの性状およびその有効利用の可能性が検討された。VCCS、RCS双方ともに、各供試試料とも酢酸を主成分とする成分構成は一般的な木酢液成分と変わりがなく、木酢液と同等な有効活用の可能性が示唆された。RCSではバガス、ヤシガラのフェノール類の含有量が高く、この特徴を活かした高殺菌力の酢液等としての利活用の可能性が示唆された。

タール成分の定量分析では、同じ木質である建築廃材と天然木の混合物とベイツガ材を比較すると、グアヤコール、4-メチルグアヤコール含有量が、ベイツガ材のほうが3〜4倍も多かった。この違いは、窯内で発生した熱分解ガスが窯内に留まることなく誘引されるRCSと熱分解ガスが炉内で循環するために重合が起こりタールピッチ分が多くなるVCCS炉の構造に起因することを明らかにした。このことは炭化炉の違いによる生成成分の違いも炭化に際しては考慮する必要があることを示唆している。

一方、RCSによるヤシガラのタール成分はフェノールの含有率が非常に多く、バガスのフェノール、p-クレゾールの含有率が高いのも特徴的であった。これらの結果は特異的な成分を多量に含む酢液に適した用途開発への可能性を示唆するものである。

第3章では、建築廃材等の炭化物中のCCAとその溶出問題の検討を行った。固体炭化物中の銅、クロム、砒素の含有量では、砒素は一部のサンプルで検出されたが環境基準以下であった。次に土壌溶出試験に準じて行われた溶出試験では、銅及びクロムは全てのサンプルで定量限界以下となった。このことから土壌改良剤等の用途では、炭化物中に含まれる銅及びクロムは環境中に溶出せずに炭化物中に安定的に固定されることを明らかにした。一方、砒素については建築廃材、集成材廃材、及び建築廃材と天然木の混合物のサンプルで溶出が確認された。しかし、実際の炭化物の使用に際しては、農地の土壌を全て炭化物と入れ替えて使うようなことはしないので、実用上は環境基準上、特に問題ないことを提示した。

酢液中の銅、クロム、砒素の含有量については、砒素が地下水の環境基準を大きく上回るサンプルがあった。木酢液の使用に際しては原液のままで使用することは一般的にないが、土壌に砒素が蓄積され環境汚染や人体への汚染の危険がある。そこで、蒸留等により砒素を環境基準以下にすることにより、農業資材や土壌改良材等としての有効利用の可能性が示唆された。

第4章では、市販されている600種の木酢液から蒸留木酢液を製造することにより、原料および炭化方法の違いによる木酢液の成分偏差の影響を小さくし、ある一定の偏差をもつ蒸留木酢液を作ることができることを明らかにし、品質管理、規格化の可能性を示した。

第5章まとめの項では、以上の結果から炭化生成物が木質系廃棄バイオマスの利活用に有効であり、廃棄物処理問題の解決策の一助となりうることを示した。

以上本論文では廃棄物処理問題の解決策の一助とするために各種バイオマスの炭化生成物の性状を解析し、その特性を化学的に解明し、利用可能性を明らかにした。また、CCA処理木材の炭化生成物中での銅、クロム、砒素の挙動を明らかにし、炭化物の利用可能性を示した。さらに、木酢液中の各構成成分の定量による品質規格の策定が可能であることを示した。

以上のことから本論文は学術上、応用上貢献するところが大きい。よって審査委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

UTokyo Repositoryリンク