学位論文要旨



No 216434
著者(漢字) 岡,勝
著者(英字)
著者(カナ) オカ,マサル
標題(和) 機械化による伐出作業の経済的分析・評価に関する研究
標題(洋)
報告番号 216434
報告番号 乙16434
学位授与日 2006.02.06
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第16434号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小林,洋司
 東京大学 教授 永田,信
 東京大学 教授 酒井,秀夫
 東京大学 助教授 仁多見,俊夫
 東京農業大学 教授 豊川,勝生
内容要旨 要旨を表示する

わが国では,1989年頃から欧米で普及している大型の高性能林業機械の導入が開始された。高性能林業機械の持つ高い作業能力はコスト低減の強力な手段として期待され,風倒木処理などを契機に急速な導入が進められた。しかしながら,わが国の林業経営は零細・小規模なものが多く,事業量の安定的な確保ができないことなどから機械稼動率は50%程度と低迷している。こうした中,林業事業体においては,わが国の林業経営にマッチした小型・軽量で低コストな機械開発への要望へと意識変化がみられた。高性能林業機械によるコスト低減への期待は依然として大きい。高性能林業機械の導入効果を経済面から評価するには,作業条件に応じた機械システムの構築と生産性・コストの評価値が不可欠となる。

高性能林業機械の導入が本格化して15年が経過した現在においても,これらの評価値の一部において解明が遅れている。高性能林業機械は,高い作業効率を有する一方,機械価格が従来型の林業機械の数倍以上もあることから,機械の導入に際しては適正な機械経費の算定が不可欠となるが,算定評価値が未解決のまま現在に至っている。このため,本研究では機械化による伐出作業のコスト分析の重要なパラメータの1つである高性能林業機械の機械損料率を明らかにすること,システムのコストパフォーマンスを定量化するため,機能的な面からシステムを類型化し,システムとしての生産性やコスト分析を通じて改善策を示した。

そこで,14機械23機種の伐出機械を対象に実態調査を行い,主要な作業条件における伐出機械の作業適応範囲を分析した。林業機械は,積載量や集材距離,出材量などの諸条件に対し,機械の大きさなど機械特性を考慮して使用されており,言わば「適地適機械」がなされていることが判明した。また,わが国における代表的な作業システムを34タイプモデル的に設定し,集材機械の適応範囲に関する実態調査結果およびシステムに関する特徴など9つの要因を用いて,数量化3類によりシステムのパターン分類を行った。システムは5つのグループに分類され,それぞれのシステム群の分布状況から,集材性,到達性および機動性を示すグループに対応することが判明した。本研究では,これらの機能面に着目し,伐出作業のコスト分析に必要となるパラメータを明らかにした。

コスト算定の最も重要なパラメータとなる生産性については,時間分析および既往文献をもとに,13機械16機種の伐出機械の理論功程式および功程評価値を明らかにした。功程式を得るためのサイクルタイムの算定は,一般に用いられる要素作業時間の合計から把握する手法を採用したが,本研究により多数の機械の功程評価値を示したことで,多様な機械の組み合わせによるシステム生産性の算定が可能となり,生産性予測のためのデータベースとしての活用が期待される。これらの結果を用いて,システム生産性を各工程の生産性のバランスを功程比φ=P1/P2の観点から分析した。伐出作業において最もシンプルな組み合せである2工程のシステムを例に,功程比とシステム生産性P^の関係を分析した結果,システム生産性は功程比を1とした場合が最も高くなり,功程比の増加とともに1/φの減少関数として近似されることが明らかとなった。2工程のモデルシステムを分析した結果,功程比φと作業重複率Csはほぼ逆関数の関係となることが明らかとなり,功程比1を基準にした場合,功程比が10の場合の生産性は約55%に減少する結果となった。システムの生産性を向上させるには,作業重複率を大きくし,工程間の生産性の格差を小さくすること,即ち功程比を1に近づけることが重要であることがわかった。

また,高性能林業機械の廃棄・更新年数および保守・修理の実態調査から,機械ごとの実績耐用年数,保守・修理費の累加傾向を明らかにするとともに,年間運転日数と年間生産量の関係から耐用時間を推計し,高性能林業機械の機械損料率を解明した。高性能林業機械の保守・修理費の累加傾向にはバラツキがあることから,上・下限の変動幅をおよびその中間となる3本の累加曲線を累乗式により近似した。また,保守・修理費曲線と機械価格から保守・修理費率を求め,変動幅を考慮した保守・修理費率曲線式を明らかにした。実績耐用年数,年間稼働日数および機械の年間運転時間の分析結果から,機械ごとの保守・修理費曲線を累乗関数式として明らかにした。高性能林業機械の廃棄・更新年数の実態調査から,機械の実績耐用年数の分布曲線を明らかにするとともに,年間生産量と年間稼働日数の関係,機械ごとの年間運転時間を明らかにした。これらのパラメータを用いて高性能林業機械の機械損料率を算定した結果,実績耐用年数では0.0239〜0.0297%/hrとなる結果が得られた。この値は,従来型林業機械(トラクタ,集材機)および土工・運搬用の建設機械(ブルドーザ,不整地運搬車)の約70%であることが明らかとなり,これまで未解決の問題であった高性能林業機械の損料率(暫定値)を提示することができた。さらに,高性能林業機械の損料率をグラフから簡易に求めることができる実用的な手法を明らかにするとともに,林業機械の損料率の暫定値を推定する簡便な算定式を明らかにした。

さらに,費用分析の結果,集材性を重視したシステム(例えば,スキッダシステム)では固定費が大きくなり,機動性を重視したシステム(例えば,スイングヤーダシステム)では変動費が大きくなる結果が得られ,集材特性の違いによる費用構造の分類が可能となった。34タイプのモデルシステムの中から,わが国における典型的な11システムを例にとり,集材距離を変数としたコスト算定を行い,分岐点法を用いて集材距離に応じた適正なシステムを明らかにした。標準的な条件を与えた場合,高性能林業機械システムの場合,集材距離が50mまではスイングヤーダシステム,500mまではトラクタ+プロセッサシステムとなる結果が得られた。さらに,費用構造を固定費,変動費に区分した場合のシステムの位置づけを分析した結果,集材性に富むシステムでは固定費が大きく変動費が小さいグループ,機動性に富むシステムでは固定費が小さく変動費が大きいグループに区分されるなど,集材特性による違いが明らかとなった。

これらの結果をもとに,栃木県那珂川流域の実際の現地をモデルに,数値地形情報や既設路網からの到達距離分布など,GISを用いて作業条件を分析し,機械やシステム選択に資するためのコストマップ図を作成した。また,機動性,集材性,到達性の面からシステムの生産性とコスト評価を行い,システム改善のための具体例を示した。例えば,機動性向上のための具体例として架設・撤去が短時間で実施でき,自走可能なスイングヤーダの活用および短距離・短幹集材方式の導入が有効であること,到達性向上の具体例として2段集材システムを導入し,中間土場を設けることにより,短〜中距離型の集材機械でも長距離集材への適応が十分可能であること,集材性向上のための具体例としてスキッダなどによる全幹集材方式の導入および集材機械の複数台・並列配置システムの導入,あるいは木寄せ作業におけるグラップルローダの活用が有効であることが判明した。しかしながら,これらの方策が機械と作業人員の増加をもたらし,必ずしもコスト面での改善には至らない場合がある。また,経済行為のマイナス面としての損傷木については,損傷の危険性の高い区域として主索から5m以内,地標高1m以下が損傷危険度の高い区域であることを明らかにした。また,今後の普及の増加が予想されるスイングヤーダを対象に現地試験を行った結果,ポリ排水管で作った簡易な防護具を敷設することにより,約2倍の防護効果を得ることが判明した。

これまで,集材木の形状の違いなど形態的な面からシステムの部類が行われてきたが,機動性,集材性,到達性の機能面からシステム分類を行うことで,システム改善のための具体的な方策が可能となった。システムを経済的に評価するためには,生産性とコストに関する評価値が不可欠であり,その評価値を一覧として示したことにより,これまで不統一であった生産性の把握やコスト分析が,同じレベルで可能となった。また,高性能林業機械の保守・修理費の累加曲線式を明らかにし,耐用時間を与えることにより,機械損料率を簡易に推計できる手法を明らかにしたことにより,機械経費の適正な評価が可能となった。また,システムの作業特性は費用構造とも関連し,固定費型,変動費型システムなどに分類することが可能となった。

審査要旨 要旨を表示する

わが国では,1989年頃から欧米で普及している大型高性能林業機械の導入が開始されたが,事業量確保の問題などにより機械の稼動率は50%程度と低迷している。高性能林業機械の導入効果を評価するには,条件に応じた機械システムの構築と生産性,コスト評価値が不可欠となる。高性能林業機械の導入が本格化して15年が経過した現在においても,これらの解明が遅れている。特に,機械経費の算定評価値である機械損料率は未確定である。このため,本研究では機械化による伐出作業のコスト分析に不可欠なパラメータの1つとして,高性能林業機械の機械損料率を明らかにすること,システムとしての生産性を向上させる手法を解明し,機能的な面からシステムを経済的に評価することを研究目的とした。以下概要を示す。

第1章では、わが国内外の関連する文献を調査し,伐出作業における現状および問題点を整理するとともに,本研究における研究範囲と位置付けを明確にした。

第2章では,伐出が行われる作業条件について整理し,14機械23機種の伐出機械を対象に実態調査を行い,主な作業条件における伐出機械の作業適応範囲を明らかにした。林業機械は,積載量や集材距離,出材量などの諸条件に対し,機械の大きさなど機械特性を考慮して使用されており,言わば「適地適機械」がなされていることが判明した。わが国における代表的な作業システムを34タイプモデル的に設定し,集材機械に関する要因とシステムに関する9つの要因を用いて,数量化3類によりパターン分類を行った。システムは5つのグループに分類され,それぞれのシステム群の分布状況から,集材性,到達性および機動性を示すグループに対応することが判明した。

第3章では、コスト算定の最も重要なパラメータとなる生産性について,時間分析および既往文献をもとに13機械16機種の伐出機械の理論功程式と功程評価値を明らかにした。サイクルタイムの算定式は一般に用いられる手法を採用したが,多数の機械の功程評価値を示すことで,色々な機械の組み合わせによるシステム生産性の算定が可能となり,功程のデータベースとしての活用が期待される。これらの結果を用いて,システム生産性を各工程の生産性のバランス面から分析した。2工程のモデルシステムにより,功程比と作業重複率はほぼ逆関数の関係となることを示した。功程比が大きくなるに従い,重複率は急激に減少し,功程比1と功程比10を比較した場合,後者の生産性は前者の約55%に減少することがわかった。システムの生産性を向上させるには,作業重複率を大きくし,功程比を1に近づけることが重要であることが判明した。

第4章は、高性能林業機械の廃棄・更新年数および保守・修理の実態調査から,機械ごとの実績耐用年数および保守・修理費の累加傾向を明らかにし,高性能林業機械の機械損料率を解明した。高性能林業機械の保守・修理費の累加傾向を,上下限の変動幅を考慮し累加曲線を3つの累乗式により近似した。保守・修理費曲線と機械価格をもとに,保守・修理費率を求め,実績耐用年数,年間稼働日数および機械の年間運転時間の分析結果から機械ごとの機械損料率を明らかにし,実績耐用年数を用いた場合,0.0239〜0.0297%/hrとなる結果が得られた。また,費用分析の結果,集材性を重視したシステム(スキッダシステムなど)は固定費が大きくなり,機動性を重視したシステム(スイングヤーダシステムなど)は変動費が大きくなる結果が得られ,集材特性の違いによる費用構造の分類が可能となった。典型的な11システムを例にとり,集材距離を変数にしたコスト算定を行い,分岐点法を用いて集材距離に応じたコスト最小システムを明らかにした。

第5章は、これらの結果をもとに,栃木県那珂川流域等の実際の現地をモデルに,GISを用いて作業条件を分析し,機械やシステム選択に資するためのコストマップ図を作成した。機動性,集材性,到達性の面からシステムの生産性,コスト評価を行いシステム改善のための具体例を示した。損傷木の分布から損傷の危険性の高い区域を明らかにするとともに,今後の普及の増加が予想されるスイングヤーダを対象に現地試験を行い,簡易な防護具による損傷の軽減効果を明らかにした。

以上本研究では,機械化による伐出作業のコスト縮減を図るため,伐出機械の生産性に及ぼす諸要因を明らかにするとともに,これらの機械を組み合わせたシステムとしての生産性および伐出コストの分析を通じて,システム評価とシステム改善のための具体的な方策を示すことができた。

以上のように、本研究では学術上のみならず応用上も価値が高い。よって審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位を授与するにふさわしいと判断した。

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