学位論文要旨



No 216435
著者(漢字) 陣川,雅樹
著者(英字)
著者(カナ) ジンカワ,マサキ
標題(和) 複合規格モノレールによる集材システムに関する研究
標題(洋)
報告番号 216435
報告番号 乙16435
学位授与日 2006.02.06
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第16435号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小林,洋司
 東京大学 教授 鈴木,雅一
 東京大学 教授 酒井,秀夫
 東京大学 助教授 仁多見,俊夫
 東京大学 助教授 芋生,憲司
内容要旨 要旨を表示する

急峻な森林地帯の多い我が国では,林業生産活動の低迷が,路網整備の遅れた奥地林などで,間伐遅れ林分の増大や森林機能の低下などを招き,社会問題となっている。森林を適正に維持管理して行くためには,急峻な森林地帯にあっても,人が容易にアクセスできること,そして森林作業を安全に行えることが必要不可欠である。

そこで,本論文では,急峻な森林地帯における間伐作業の効率化,機械化を図るために,規格の異なるモノレール路線を用いた「複合規格モノレールシステム」による集材作業システムの開発を目的とした。斜面を直登し,木材搬送と人員輸送を主目的とした幹線システムと,等高線方向に進展し,木材を木寄せ・集材する支線システムとから構成されるシステムであり,幹線・支線レールの配置間隔,幹線システムを構成する車両・レールの開発と荷重・応力解析による安全性の検証,支線システムを構成する車両・装置・レールの開発と荷重・応力解析による安全性の検証,両システムによる作業功程の解明,現場への適用条件の解明について検討を行った。

第1章では,林業用モノレールの現状分析と既往の研究・開発から林業用モノレールの問題点を指摘し,研究の必要性を示した。

急傾斜地における人員輸送手段として,森林組合を中心に林業用モノレールが普及している。これらは,造林作業や間伐作業の通勤手段として用いられているが,総じて稼働時間は短い。一方,モノレールのレールは物を運搬するための「道」として考えられるようになり,林道規程の中で林道の一部として定義づけされた。これにともない,レール路線を枝分かれさせた分岐方式や路網との組み合わせ・代替とするレール・路網複合方式が模索されているが,木材搬出にいたる森林作業にまで適用できる段階にはいたっていない。そこで本研究では,急傾斜地における間伐作業の機械化,効率化を目的に,規格の異なるモノレール路線を用いた「複合規格モノレールシステム」による新しい集材作業システムの開発を目的とした。

第2章では,幹線システムと支線システムの組み合わせによる「複合規格モノレールシステム」を提案し,それぞれの開発目標と作業の流れを示した。

まず,林業用モノレールのレール仕様を3つの規格に区分し,最適路線間隔算定式によって最適路線間隔と合計費用を求め,モノレールによる集材作業の可能性を検証した。その結果,合計費用の上限を現在の木材価格とした場合,最適路線間隔は200m以上となり,現行のモノレールの機械性能では集材作業は困難であることが明らかとなった。そこで,モノレールに求められる規格と現実的な集材方法を検討し,林道から斜面を直登方向にレールを敷設する「幹線システム」と,等高線方向に簡易なレールを敷設する「支線システム」を組み合わせた「複合規格モノレールシステム」を提案した。幹線システムは道に代わる恒久的施設とし,支線システムは等高線方向に進展する新たな集材装置として考え,移設を繰り返すことによって面域に対応し,両システムを組み合わせることによって森林内に散在する木材を土場まで集材・搬出する。両システムの分岐点にはグラップルクレーンを置いて木材の受け渡しを行うこととし,システムの開発目標を決定した。

第3章では,幹線システムの車両構成,仕様を決定するとともに,作業時および走行時の安全性,レール敷設功程を実証した。

まず,幹線システムに用いる車両として,グラップルクレーン搭載形モノレールと幹線台車を開発した。グラップルクレーン搭載形モノレールは,傾斜30度の傾斜地での作業を想定し,4本の脚式アウトリガとクレーンチルト機構,最大長さ8mのクレーンを装備し,材の積み換え作業を行う。幹線台車には人員・木材輸送を目的として開発したモノレール(積載重量1,000kgf)を用いることとした。次に,車両およびレールの安全性を検証するため,グラップルクレーンによる木材積込作業時のアウトリガ4点とボギー2点の6点支持荷重計算式を検討し,模型試験と実機荷重測定試験による実測値によって計算式の信頼性を検証するとともに,アウトリガの接地位置と初期設定荷重をパラメータとして荷重解析を行い,クレーン作業時の安全範囲を考察し,アウトリガを車体左右方向に張り出した方が車両の安全を確保できることを明らかにした。また,レールに加わる応力・荷重を算出する応力解析プログラムを作成し,走行試験による実測値からプログラムの信頼性を検証するとともに,地上構造物の応力解析を行い,各部材のレール荷重係数を決定した。また,本プログラムと6点支持荷重計算式を用い,車両走行時とクレーン作業時の幹線レールの安全性を検討した結果,構造の一部に強度が不足している箇所が指摘され,新たに架台方式の幹線レールを開発し,作業時の安全性を確保した。さらに,幹線レールの敷設功程を解析し,敷設功程は36.9m/dayであり,敷設功程に影響する要因は傾斜角度ではなく,地盤中のレキや岩の有無であることを明らかにした。

第4章では,支線システムに用いる車両・装置・レールを開発し,安全性・作業性について評価を行った。

まず,現場において分解・組み立てを行うことを基本として,木寄せ集材した材を無人輸送する支線台車(積載重量500kgf),アルミ部材使用により軽量化を図った支線レール,木寄せ集材を行い,台車への積み込みを行う集材積込装置を開発した。次に,第3章で用いた応力解析プログラムを支線レールに適用し,台車走行によるレールの応力・荷重と最適支柱間隔を解析した。その結果,車両通過による各部材の応力は許容応力の範囲内であり,安全性が確保されていることを実証した。また,最適支柱間隔は1,500mmであり,設計値が適正であることを実証した。さらに,支線レールの敷設・撤去を行い,要素作業分析から移設に関する理論功程式を得た。路線長197.5mの場合の敷設功程は51.2m/dayとなり,開発目標を大きく上回る功程値が得られた。また,支線台車と集材積込装置の設置・撤去時間を明らかした。

第5章では,複合規格モノレールシステムの集材作業性能を明らかにするために,各システムの集材作業試験を行い,システム全体の生産性を考察するとともに,林内作業車とのシミュレーション比較により,本システムの有用性を示した。

まず,支線システムによる集材作業の功程分析を行い,支線レール敷設から集材・搬送,レール撤去までの理論功程式を求めた。その結果,支線システム1路線上における生産性は0.96m3/hr(5.74m3/day)と試算された。また,幹線システムによる積込・搬送作業の功程分析を行い,グラップルクレーンによる積み込み,幹線台車による土場への搬送作業の理論功程式を求め,幹線システム全体の作業時間を搬送距離の関数で表すことが可能となった。次に,両システムの待ち時間を検討し,幹線レールの路線長が724.7m以上では生産性が低下し,システム全体の生産性を決定する因子は支線システムの生産性であり,支線システムの生産性向上の必要性が示唆された。そこで,支線システムの生産性向上の方策を検討し,ウインチ用の発電機を別に設けることにより生産性は1.19 m3/hr(7.11m3/day)となり,約24%の効率向上が期待でき,支線レールの路線長234.1mまでは,集材作業に待ち時間が発生しないことを明らかにした。さらに,傾斜30度の伐区モデルを設定し,林内作業車による集材作業とのシミュレーション比較を行い,作業時間,生産性について考察した。その結果,地形傾斜18.2度以上でモノレールシステムの方が有利であり,単位面積あたりの材積が90m3/ha以上であれば,地形傾斜が20度以下の林地であっても導入効果のあることを明らかにした。また,路線開設費用については,傾斜24度以上において本システムが有用である。

第6章では,複合規格モノレールシステムの実用性を検証した。

平均傾斜26〜32度のモデル試験地に本システムを導入し,集材作業を行った場合の路線の線形・配置および生産性を検討した。その結果,集材作業の生産性は5.97〜7.05m3/dayと試算され,実用性の高いことを明らかにした。また,本システムの適用条件を考察し,1)幹線レールは伐区中央に路線を配置すること,2)支線レールは斜面褶曲度の小さい伐区ほど生産性が高くなること,3)単位面積あたりの平均材積が大きいほど生産性が向上すること,4)1つの路線上に集材作業の対象面域がまとまっていること,を明らかにし,急傾斜地における複合規格モノレールシステムによる効率的な集材作業を実証した。

以上が本論文で究明した主要事項の概要である。本論文では,異なる規格のレール路線を用いた「複合規格モノレールシステム」を開発し,急傾斜地における集材作業の安全性,有用性,適用範囲を明らかにした。道としての機能を持った幹線システムが斜面直登方向に進展し,集材機能を持った支線システムが等高線方向に集材を行う,複合規格モノレールシステムという新しい集材システムを確立した。本システムの開発により,これまで集材作業が困難であった急傾斜森林地帯において,機械化作業による集材作業が可能となった。また,安全性解明のため作成した6点支持荷重計算式,応力解析プログラムは,本車両のみならず,既存のモノレールや今後開発される新しい機種にも適用可能である。さらに,移設を目的とした支線レールは,モノレールの新しいレール規格となり,木寄せ作業に代わり得る有効な手法として期待できると考える。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,急峻な森林地帯における間伐作業の効率化,機械化を図るために,規格の異なるモノレール路線を用いた「複合規格モノレールシステム」による集材作業システムの開発を目的とした。斜面を直登し,木材搬送と人員輸送を主目的とした幹線システムと,等高線方向に進展し,木材を木寄せ・集材する支線システムとから構成されるシステムであり,幹線・支線レールの配置間隔,幹線・支線システムを構成する車両・レールの開発と荷重・応力解析による安全性の検証,両システムによる作業功程の解明,現場への適用条件の解明について検討を行ったものである。

第1章では,林業用モノレールの現状分析と既往の研究・開発から林業用モノレールの問題点を指摘し,研究の必要性を示した。

第2章では,幹線システムと支線システムの組み合わせによる「複合規格モノレールシステム」を提案し,それぞれの開発目標と作業の流れを示した。

まず,林業用モノレールのレール仕様を3つの規格に区分し,最適路線間隔算定式によって最適路線間隔と合計費用を求め,モノレールによる集材作業の可能性を検証し、モノレールに求められる規格と現実的な集材方法を検討し,林道から斜面を直登方向にレールを敷設する「幹線システム」と,等高線方向に簡易なレールを敷設する「支線システム」を組み合わせた「複合規格モノレールシステム」を提案し、両システムの分岐点にはグラップルクレーンを置いて木材の受け渡しを行うこととし,システムの開発目標を決定した。

第3章では,幹線システムの車両構成,仕様を決定するとともに,作業時および走行時の安全性,レール敷設功程を実証した。まず,幹線システムに用いる車両として,グラップルクレーン搭載形モノレールと幹線台車を開発した。グラップルクレーン搭載形モノレールは,傾斜30度の傾斜地での作業を想定し,4本の脚式アウトリガとクレーンチルト機構,最大長さ8mのクレーンを装備し,材の積み換え作業を行う。幹線台車には人員・木材輸送を目的として開発したモノレール(積載重量1,000kgf)を用いることとした。次に,車両およびレールの安全性を検証するため,グラップルクレーンによる木材積込作業時のアウトリガ4点とボギー2点の6点支持荷重計算式を検討し,模型試験と実機荷重測定試験による実測値によって計算式の信頼性を検証するとともに,アウトリガの接地位置と初期設定荷重をパラメータとして荷重解析を行い,クレーン作業時の安全範囲を考察し,アウトリガを車体左右方向に張り出した方が車両の安全を確保できることを明らかにした。

第4章では,支線システムに用いる車両・装置・レールを開発し,安全性・作業性について評価を行った。現場において分解・組み立てを行うことを基本として,木寄せ集材した材を無人輸送する支線台車(積載重量500kgf),アルミ部材使用により軽量化を図った支線レール,木寄せ集材を行い,台車への積み込みを行う集材積込装置を開発した。

第5章では,複合規格モノレールシステムの集材作業性能を明らかにするために,各システムの集材作業試験を行い,システム全体の生産性を考察するとともに,林内作業車とのシミュレーション比較により,本システムの有用性を示した。また,両システムの待ち時間を検討し,幹線レールの路線長が724.7m以上では生産性が低下し,システム全体の生産性を決定する因子は支線システムの生産性であり,支線システムの生産性向上の必要性が示唆された。また,路線開設費用については,傾斜24度以上において本システムが有用であることを示した。

第6章では,複合規格モノレールシステムの実用性を検証した。その結果,集材作業の生産性は5.97〜7.05m3/dayと試算され,実用性の高いことを明らかにした。

以上が本論文で究明した主要事項の概要である。本論文では,異なる規格のレール路線を用いた「複合規格モノレールシステム」を開発し,急傾斜地における集材作業の安全性,有用性,適用範囲を明らかにした。道としての機能を持った幹線システムが斜面直登方向に進展し,集材機能を持った支線システムが等高線方向に集材を行う,複合規格モノレールシステムという新しい集材システムを確立した。本システムの開発により,これまで集材作業が困難であった急傾斜森林地帯において,機械化作業による集材作業が可能となった。

以上のように、本研究では学術上のみならず応用上も価値が高い。よって審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位を授与するにふさわしいと判断した。

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