学位論文要旨



No 216436
著者(漢字) 近藤,稔
著者(英字)
著者(カナ) コンドウ,ミノル
標題(和) 集材架線(H型)の設計に関する研究
標題(洋)
報告番号 216436
報告番号 乙16436
学位授与日 2006.02.06
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第16436号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小林,洋司
 東京大学 教授 鈴木,雅一
 東京大学 教授 酒井,秀夫
 東京大学 助教授 仁多見,俊夫
 東京農業大学 教授 豊川,勝生
内容要旨 要旨を表示する

本研究は,集材架線として面的集材が可能なH型架線を取り上げ,これまで設計計算が確立していなかった不定形な形状をしたH型架線について,力学的検討を可能とする算定法を提示した。その算定法を用いて2本の架線が平行でなく,また標高も等高でない,いびつな形状をしたH型架線について静力学的検討を行い,安全な運転操作方法と設計計算の手順を提示した。また,動力学的な検討として質量−ばね系モデルの導入を試みた。さらに,安全な運転操作に必要な荷重点垂下量と地形上との関係に着目して,安全にH型架線が使用できる場所を抽出するアルゴリズムを提示して,H型架線の適用場所の地形的特長の検討を行った。

第2章では,H型架線の静力学的問題として,不定形な形状をしたH型架線の支点索張力の算定式を誘導した。算定式の概要は,2本の架線を結合している荷上索に関する力とモーメントの釣り合いから,それぞれの架線に作用する荷上索張力の大きさと方向を算出し,傾斜荷重をうける架空索の索張力とたわみの算定式を組み合わせるものである。このときの架空索のたわみ量を2本の架線を結合する荷上索を含む鉛直面方向に修正することにより,いびつな形状をするH型架線の計算の問題を解決した。本算定式を用いて,まず,平行・等高な場合のH型架線の静力学的検討を行い,H型架線の基本的な力学的性質をあきらかにした。続いて,いびつな形状をしたH型架線につて,平行・等高な場合と比較検討した。その結果,H型架線の形状がいびつであることによる影響は,架線と架線との間隔が広がることおよび架線間に高低差があることにより発生する張力増加を招き,架線がハの字に開いた側の支点に近づくほどその影響は大きい。しかし,その張力増加は,荷重点がスパン中央にあるときの張力増加の方が大きく,いびつな形状のH型架線でも極端に形状がいびつでない限り,スパン中央付近で最大張力が発生すると考えてよいことがわかった。このことより,スパン中央で安全率が確保されれば,荷重点の任意の位置における支点張力も安全率を下回ることはないと考えられ,従来の設計方法が踏襲できることが示唆された。また,高知県の現場で採用されている便宜的なH型架線の設計方法は,今回の検討した範囲では安全上問題ないことがわかった。集材のために空フックを降下させるに必要なフック重量を理論的に検討した結果,降下に必要なフック重量は縦架線直下さらに支点付近に近づくほど大きくなることがわかった。

第3章では,振動モデルとしてバネ−質量系モデルを導入して,集材架線とH型架線の動力学的検討を試みた。H型架線の場合,吊荷荷重を完全に吊上げた状態で行うので,架線に発生する動的荷重は大きくない代わりに,共振という独自の問題が発生する要因を持っている。実験結果との比較からバネ常数の決定方法に問題があるのでこの点についてさらに検討する必要があることがわかった。また,実験結果から,同じ架線でも単独で振動する場合と,H型架線にした場合の振動ではまるで様子が異なることがわかり,動力学的解析の必要性が認識された。

第4章では,H型架線の作業を安全に行うために,運転操作と力学的傾向との関係について検討した。H型架線は,2本の荷上索(またはホイストライン)が結合されているため,荷上索操作の仕方によってその作業安全性はいかようにも変化する。それゆえ,運転操作と力学的傾向の関係を明らかにすることは非常に重要である。検討の結果,(1)吊荷荷重の架線方向(縦方向)の移動は,荷上索の緊張による主索張力の増加を防ぐため,どちらかの搬器に吊り下げた状態で行うこと,(2)積載荷重を吊り上げるときは,ある程度の高さまで吊上げても張力の変化は緩やかで,その後急激に増加するから,上げすぎないように注意が必要なこと,このためには,吊荷の上昇が止まったら直ちに吊り上げを停止する必要があること,(3)吊荷の架線と架線の間の方向(横方向)の移動は,はじめから高く吊り上げた状態で横移動を行うのではなく,横移動を行って,どちらかの搬器に近づけてから再度,吊上げたほうがより安全であることが示唆された。さらに,H型架線を設計する具体的な設計手順を示した。H型架線の設計は,従来の架線の設計手順と大差ないものであり,上記の運転操作が守られれば,安全率を下回ることはないと判断される。

第5章では,荷重点垂下量が大きく,地形的に制約されるH型架線の適用地形を抽出するアルゴリズムを検討した。そのアルゴリズムは第4章で検討した運転操作を具現化したものである。すなわち,荷吊り点から吊荷を地上の立木と接触しない程度の高さまで吊上げた後,どちらかの架線直下までの移動を行う。つぎに,搬器に吊り下げて架線方向(縦方向)の移動を行い,架線と架線の間の任意の地点まで再び横方向の移動を行うというものである。このような吊荷荷重の移動を行った際に,任意の地点で吊荷が地上に接触しないために荷重点垂下量と標高値との関係を評価して架線の支柱位置の可否を決定するアルゴリズムを提示した。さらに,歪な形状のH型架線を除外するアルゴリズムを組合せて,地形条件が異なる4地区に適用して探査を行った。その結果,H型架線は深い谷部に集中して谷を越える形で位置する傾向がみられること,起伏量が250mを超える地域ではおよそ面積の80%がH型架線で集材可能であることが示された。今回検討したH型架線で集材可能な区域の抽出アルゴリズムの適用結果から,地形が急峻な地域ではH型架線が適用できる範囲が広いことが確認された。また,H型架線の規模は細長い形状のものが多いことから,狭い間隔で架線を順次張り替えてH型架線を構成していく必要があることも示唆された。H型架線は架設撤去に多くの労力が必要であるから,H型架線を導入する場合,事前に本プログラムを使ってH型架線が適用できる区域を抽出することが重要であるといえる。

第6章では,本研究の総括を行い,結論を導いた。

これらの検討により,構造力学的に安全なH型架線の設計が可能になるとともに,H型架線を安全に使用できる場所の選定も可能となり,H型架線の利用が進めば,環境負荷の少ない木材生産技術の発展に貢献できるものと考えている。

以上のように,本研究は,H型架線を安全に使用するために必要な力学的な事項について一連の検討を行い,H型架線の力学に関する問題を解決したと結論づけることができる。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は,集材架線として面的集材が可能なH型架線を取り上げ,これまで設計計算が確立していなかった不定形な形状をしたH型架線について,力学的検討を可能とする算定法を提示した。その算定法を用いていびつな形状をしたH型架線について静力学的検討を行い,安全な運転操作方法と設計計算の手順を提示した。さらに,安全な運転操作に必要な荷重点垂下量と地形上との関係に着目して,安全にH型架線が使用できる場所を抽出するアルゴリズムを提示して,H型架線の適用場所の地形的特長の検討を行った。以下概要を述べる。

第1章は概要で、 第2章では,H型架線の静力学的問題について,不定形な形状をしたH型架線の支点索張力の算定式を誘導した。その算定式を用いて,まず,平行・等高な場合のH型架線について検討を行い,H型架線の基本的な力学的性質をあきらかにした。続いて,いびつな形状をしたH型架線について,平行・等高な場合と比較検討した。その結果,H型架線の形状がいびつであることによる影響は,架線と架線との間隔が広がることよりも架線と架線との高低角の方が大きく影響すると推察された。また,高知県の現場で採用されている便宜的なH型架線の設計方法は,今回の検討した範囲では安全上問題ないことが分った。 集材のために空フックを降下させるに必要なフック重量を理論的に検討した結果,降下に必要なフック重量は縦架線直下さらに支点付近に近づくほど大きくなることが分った。

第3章では,振動モデルとしてバネ−質量系モデルを導入して,集材架線とH型架線の動力学的検討を試みた。H型架線の場合,吊荷荷重を完全に吊上げた状態で行うので,架線に発生する動的荷重は大きくない代わりに,共振という独自の問題が発生する要因を持っている。実験結果との比較からバネ常数の決定方法に問題があるのでこの点についてさらに検討する必要があることが分った。また,実験結果から,同じ架線でも単独で振動する場合と,H型架線にした場合の振動ではまるで様子が異なることがわかり,動力学的解析の必要性が認識された。

第4章では,H型架線の作業を安全に行うために,運転操作と力学的傾向との関係について検討した。その結果,(1)吊荷荷重の架線方向(縦方向)の移動は,どちらかの搬器に吊り下げた状態で行うこと,(2)積載荷重を吊り上げるときは,ある程度の高さまで吊上げても張力の変化は緩やかなため,上げすぎないようにするため別途何らかの手立てが必要なこと,(3)吊荷の架線と架線の間の方向(横方向)の移動は,一度に高く吊り上げた状態で横移動を行うのではなく,横移動を行ってから吊上げたほうがより安全であることが示唆された。さらに,H型架線を設計する具体的な設計手順を示した。H型架線の設計は,従来の架線の設計手順と大差ないものであり,上記運転操作が守られれば,安全率を下回ることはないと判断される。

第5章では,荷重点垂下量が大きく,地形的に制約されるH型架線の適用地形を抽出するアルゴリズムを検討した。そのアルゴリズムは第4章で検討した運転操作を具現化したものである。吊荷荷重の移動を行った際に,任意の地点で吊荷が地上に接触しないために荷重点垂下量と標高値との関係を評価して架線の支柱位置の可否を決定するアルゴリズムを提示した。さらに,歪な形状のH型架線を除外するアルゴリズムを組合せて,地形条件が異なる4地区に適用して探査を行った。その結果,H型架線は深い谷部に集中して谷を越える形で位置する傾向がみられること,今回検討したH型架線で集材可能な区域の抽出アルゴリズムの適用結果から,地形が急峻な地域ではH型架線が適用できる範囲が広いことが確認された。また,H型架線の規模は細長い形状のものが多いことから,狭い間隔で架線を順次張り替えてH型架線を構成していく必要があることも示唆された。H型架線は架設撤去に多くの労力が必要であるから,H型架線を導入する場合,事前に本プログラムを使ってH型架線が適用できる区域を抽出することが重要であるといえる。

第6章では,本研究の総括を行い,結論を導いた。

以上,本研究は,H型架線を安全に使用するために必要な力学的な事項について一連の検討を行い,構造力学的に安全なH型架線の設計が可能になるとともに,H型架線を安全に使用できる場所の選定も可能となり,H型架線の力学に関する問題を解決したと言え、環境負荷の少ない木材生産技術の発展に貢献できるものと考えている。

以上のように、本研究では学術上のみならず応用上も価値が高い。よって審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位を授与するにふさわしいと判断した。

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