学位論文要旨



No 216446
著者(漢字) 平田,俊次
著者(英字)
著者(カナ) ヒラタ,トシツグ
標題(和) 3階建木質接着パネル構法住宅の耐震安全性と設計方法に関する研究
標題(洋)
報告番号 216446
報告番号 乙16446
学位授与日 2006.02.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16446号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 坂本,功
 東京大学 教授 久保,哲夫
 東京大学 助教授 松村,秀一
 東京大学 助教授 腰原,幹雄
 東京大学 教授 安藤,直人
内容要旨 要旨を表示する

現在、わが国において木質構造の住宅は、木造軸組構法(在来木造)、枠組壁構法(ツーバイフォー構法)、木質プレハブ構法(木質接着パネル構法)の3構法に大きく分類される。本研究で取り上げるのはその内の木質接着パネル構法による構造であり、壁、床、屋根などの構成要素に木質接着複合パネルを用いるものである。木質接着パネル構法は住宅の構造においてひとつの分野を形成しており、特に都市部においては3階建の需要が高い。また、近年の地震でも都市部における巨大地震が大きな住宅被害をもたらしており、その都市部にはこの20年足らずの間に3階建の木質構造住宅が増加している。そこで、わが国の住宅の地震被害を軽減するという社会的な要求を背景に、本研究では3階建木質接着パネル構法住宅の耐震安全性を過去18年間のプラン分析、設計方法の分析、地震被害の分析、実大振動実験等により確認し、今後の都市部における住宅の耐震安全性に関する提言をまとめることを目的としている。

第1章では、以上の社会的背景を下に、研究の目的、論文の構成、既往の研究について述べた。既往の研究では、平成7年兵庫県南部地震以降の木質構造住宅の実大振動実験に関するものが多くあるが、木造軸組構法住宅や枠組壁構法住宅の性状に関する報告の内、ほとんどが2階建住宅を対象としており、3階建住宅の知見は少ない。また、平成7年兵庫県南部地震の被害調査に関する文献も多いが、本論文では木質接着パネル構法3階建住宅の設計方法を耐震安全性という観点から論じるよう試みた。

第2章では、昭和63年(1988年)〜平成17年(2005年)の18年間に建設した木質接着パネル構法住宅のプランをとりあげ、都市部における3階建住宅プランの特性の検証をおこなった。住宅としての居住者の要望を満たすため、3階建住宅が持つ特徴を把握することにより3階建住宅で配慮すべき耐震安全性にかかわる内容を明確にした。実際に建設された3階建及び2階建のプランを、建設年代が集中しないように考慮し約100プラン抽出し、建物の規模、建物の壁量について調査をおこなった。その結果、建設時期が同じ2階建住宅と3階建住宅のプランを比較すると、規模については建築面積が3階建、2階建ともほぼ同じであった。さらに、1階の実壁量(耐力壁量に非耐力壁量を加えた長さ)についても、3階建、2階建ともあまり変わらなかった。また、必要壁量に対する耐力壁量の割合が概ね1.5倍を超えていたいことが明確になった。

第3章では、木質接着パネル構法住宅の設計方法について検討を行った。まず初めに、木質接着パネル構法の構造概要を明確にし、3階建住宅と2階建住宅を比較しつつ構造仕様について次の3点を確認した。

(1)屋根・壁・床の構成材料である木質接着パネルには相違がない。

(2)接合仕様として3階建住宅では2階建住宅に用いていない構造用接着剤が用いられている。

(3)3階建住宅においては、建物の外周コーナー部に、結合材、その脚部に結合材金物が設置されている。

次に2階建と3階建の耐震設計規定について比較検討を行い、3階建に特有な規定を確認した。

(1)平面形状の長辺と短辺の比率が3対1以下の規定がある。

(2)3階建住宅については、転倒に対する規定がある。

(3)水平せん断力に対して配置する耐力壁の量が違う。

(4)アンカーボルトの配置規定が違う。

最後に、これらの3階建住宅に特有な構造仕様、耐震設計規定について耐震安全性の観点で根拠を明確にした。

2階建と3階建の水平せん断力の比較では、2階建に対する3階建の水平せん断力は約1.3倍から1.6倍となっていた。また、引き抜き力については現況の設計範囲において、アンカーボルト及び結合材金物で抵抗できる範囲であることが確認された。

第4章では、3階建木質接着パネル構法住宅が実際に遭遇した平成7年兵庫県南部地震における被害調査の結果から、建物の耐震安全性の検証をおこなった。木質接着パネル構法住宅は階数、年代によらず構造体の大きな被害はなかった。3階建住宅においては延べ面積、建築面積、建物短辺長さ、長辺短辺比と地震力に対する耐力壁充足率との間に相違はなかった。損傷が軽微であったことの理由としては、水平力に対する必要壁量が風荷重によって決まっており、耐力壁の地震力に対する充足率が200%を超える値となっていることが考えられる。

第5章では、1997年11月に実施した「3階建木質接着パネル構法住宅の実大振動実験」について検証をおこなった。試験体建物の規模は、1階及び2階の床面積50.9m2、3階床面積46.4m2で延面積148.2m2で、建物高さ11mの3階建であり、外壁、屋根の外部を仕上げ、一部の部屋は内装仕上げも行い、家具を配置した。耐力壁量と耐力壁脚部接合部を変化させ4フェーズ(4回の構造状態の変化)を行い、加振波については、平成7年兵庫県南部地震時の神戸海洋波とした。フェーズ1ではおおむね弾性的な履歴を示し、後のフェーズになるほど試験体の剛性が低下して履歴による減衰も大きい。中通りの耐力壁をすべてカットしたフェーズ4では1階の層間変形角が1/70radで降伏し、比較的大きなループを描く履歴となった。線形時刻歴応答解析との比較では解析結果が実大振動実験を再現しているとはいいがたいく、参考程度にすべき結果となった。なお、地震波加振での固有振動数は解析値と近い値になり、常時微動測定と比べて1.0Hzほど小さな値となった。また、簡易的に、外周直交耐力壁線のボルトの引き抜き耐力に開口幅を掛け合わせたものを抵抗モーメントとして建物の転倒モーメントと比較する構造確認手法が、有効であることを確認した。

第6章では、第4章の平成7年兵庫県南部地震被害調査及び第5章の3階建実大振動実験結果について耐震安全性と耐震設計方法という観点で総合的に検証をおこなった。平成7年兵庫県南部地震の調査からは耐力壁量が必要壁量の2倍以上配置されており、結果的に設計方法による耐震安全性の確保ができていたと考えられるが、多雪地域における積雪荷重の影響については今後の課題となる。さらに、仕上げ材の被害などについては現状の設計方法のみでは有効とは言えず、仕上げ材損傷予測のためのデータとそれを防止するための仕組みが必要となる。実大振動実験の結果からは、神戸海洋波加振では、通常の設計方法の範囲で想定する大地震の1.5倍から2倍近い大きさの水平せん断力が作用すると考えられる。また、鉛直荷重の効果を見込んだ抵抗モーメントの計算方法では抵抗モーメントを大きく評価しすぎる場合があることを確認した。

第7章では、6章までの全体をまとめた結論を示し、今後の課題も示した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「3階建木質接着パネル構法住宅の耐震安全性と設計方法に関する研究」と題し、木質構造の住宅の一分野を占める木質接着パネル構法の3階建住宅に着目し、その耐震安全性と設計方法について検討したものであり、7章からなっている。

1章「序論」では、日本の住宅における木質接着パネル構法住宅の位置付け、都市部における3階建住宅の構成比と推移、及び過去30年の地震被害をまとめている。これらより、木質接着パネル構法3階建住宅の設計方法を耐震安全性という観点から論じることの意義を述べている。

2章「3階建木質接着パネル構法住宅のプラン」では、それぞれについて100棟抽出した3階建と2階建のプランの分析を行っている。その結果、建物規模については1階平面形上における短辺長さと長辺長さの比は概ね1:1〜1:3の間に収束されることや、必要壁量に対する実壁量の比が概ね1.5を超えていることなどを示している。

3章「3階建木質接着パネル構法住宅の設計方法」では、構造仕様と設計方法について2階建との比較を行っている。その結果、3階建の必要壁量が2階建のそれと比較して1.3倍から1.6倍になることや、引き抜き力については現状の設計範囲(建物最小間口3.64m)においてアンカーボルト及び結合材金物で抵抗できる範囲にあることを示している。

4章「平成7年兵庫県南部地震における3階建住宅の損傷状況」では、地震後の被害調査結果について述べている。損傷状況の分析では、木質接着パネル構法住宅は階数、年代別によらず内外装材、屋根材などの被害が主で構造体の大きな被害がなかったことを明らかにしている。耐震設計上の分析では、調査建物の地震力に対する耐力壁の充足率は200%以上となっており、3階建住宅においては必要壁量が風荷重によって決まっていることを示している。

5章「木質パネル構造3階建住宅の実大振動実験」では、実大の3階建建物の振動台による加振実験を行った結果について報告している。固有振動数は神戸海洋波加振時の伝達関数により求めたものが常時微動測定によるものと比べ1.0Hzほど小さな値となることを明らかにしている。解析結果との比較においては、加速度分布は神戸海洋波加振時のものが解析値の2割ほど小さい値で、変形も実験結果が解析結果より小さくなる傾向があり、この木質構造では、線形時刻歴応答解析を行う際、耐力壁単体実験による結果をそのまま用いるべきではないことを示している。また、脚部の引抜力の検討では、ボルトの引抜耐力に開口幅をかけた抵抗モーメントと転倒モーメントの比較による簡易な構造確認手法が有効であることを示している。

6章「設計方法と耐震安全性」では、地震被害調査結果及び振動実験結果のそれぞれについて設計方法の関連から耐震安全性を検討している。地震被害調査結果からは多雪区域においても風荷重から決まる必要壁量によって高い耐震安全性が確保されていることを示し、実大振動実験からは神戸海洋波加振による地震力が設計方法で想定する大地震の1.5倍から2倍近い力を建物に及ぼしていると考えられること、鉛直荷重の効果を見込んだ抵抗モーメントの計算方法では抵抗モーメントを大きく評価しすぎる場合があることを示している。

7章「結論」では、6章までのまとめを行い、さらに木質構造の耐震安全性に対する今後の課題として耐力壁脚部の緊結金物の複合応力時検討が必要なこと、建物に被害を与えない設計や居住環境の向上を目指すような設計方法が必要であることを示している。

以上のように本論文は、3階建木質接着パネル構法住宅の耐震性と設計方法について、実際のプラン、設計方法における理論的耐震安全性、実際の地震被害、及び実大振動実験結果の分析という多面的な検討を行って貴重な知見を得たものであり、建築学上の発展に寄与するところがきわめて大きい。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として、合格と認められる。

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