学位論文要旨



No 216450
著者(漢字) 森,雅俊
著者(英字)
著者(カナ) モリ,マサトシ
標題(和) ビジネスモデル設計法と情報システム構築に関する研究
標題(洋)
報告番号 216450
報告番号 乙16450
学位授与日 2006.02.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16450号
研究科 工学系研究科
専攻 環境海洋工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 島,克守
 東京大学 教授 六川,修一
 東京大学 助教授 武田,史子
 東京大学 特任助教授 玄場,公規
 東京大学 客員助教授 坂田,一郎
内容要旨 要旨を表示する

21世紀に入り、情報技術を中心とした科学技術の発達と地球規模のグローバルな企業活動は、ますますその変化のスピードが高まり、多様性を増加させている。社会経済の環境変化が激し時代には、企業の進むべき方向を舵取りする高い視点による判断とそれを実施できるビジネス形態の変更が求められる。ビジネス形態を検討するには、全体を俯瞰できる概念モデルが必要になる。IT技術が発達した現在、従来のように管理組織毎に独立した情報システム化を行っていては、多大な知的労力と時間を必要とする。またそれぞれのシステム間の整合性も保てなくなってきたことが問題となっている。以上の理由から、事業の仕組みを一つのシステムに統合し、企業における各種の管理方法を企業全体のモデルをベースに調整することで環境変化の対応を図ることの必要性が高まっており、そのことがビジネスモデルに注目が集まっている背景と考える。また、ビジネスの環境や形態を考え、判断する場合にビジネスを俯瞰する方法として、ビジネスモデルを使用して、検討することが有効である。

本論文では、ビジネスモデルの設計、ビジネスモデルの表記法の考案、およびビジネスモデルからのシームレスな情報システム構築を研究の範囲としており、前節で本研究範囲に関連する従来研究を整理して、従来研究で解決できない課題を明確にした。また、この従来研究の課題は、筆者の実務経験から抽出した3つの研究課題と共通する。

課題1:経営改革や業務改革を実現できる優れたビジネスモデル設計方法がない。

課題2:ビジネスモデルから情報モデルの間に大きな隔たりがあり、シームレスな情報システム開発に繋がっていない。

課題3:企業情報システムの効率的な構築方法が必要である。近年、ERPを中心とした全社対象の情報システム構築が行われているが、効率的にシステムを構築する方法が必要である。

本論文は、この研究課題を解決する提案ができ、検証できれば意義のある研究と考える。本研究の意義について、3つの課題を解決するための研究テーマに沿って以下に記述する。

社会の変化に企業が対応していくには、業務改革が必要である。改革に留まらず新規ビジネスが起業することもある。また、社会環境や経済環境など企業を取り巻く外部環境が大きく変化し、ITをはじめとした科学技術の進歩が早い今日では、自社のビジネス形態を俯瞰して考え直す必要が大きい。こうしたことからビジネスモデル構築や再構築の必要性が高まってきた。しかし、ビジネスモデルを設計する方法が確立されていないことから、本研究の第1のテーマとして「ビジネスモデル設計方法の提案」を試みた。

情報技術が高度に発達した現代社会においてはビジネスモデルと情報システムを切り離して論じることができない。ビジネスモデルから情報システムを構築するのに2つの間を情報の断絶のないシームレスな記述ができれば効率的な情報システム構築が可能である。こうしたビジネスモデル表記法の研究も、十分進んでいないので、本研究の第2テーマとして「ビジネスモデル表記法の提案」を行う。「ビジネスモデル表記法」により明らかになったシステム要件を使用して、効率的な情報システム構築する方法が必要であり、本研究の第3のテーマとして「企業情報システムの効率的構築法」の研究を行う。

本論文は、論文の構成は、下記の5章からの構成となっている。

第1章ビジネスモデルの定義

第1章では、従来研究を分析し、本研究でのビジネスモデルの定義を述べる。

第2章ビジネスモデル設計方法の研究

第2章は、課題1について考察する。ビジネスモデルを新しく考案する場合や経営改革や業務改革を行う場合に、優れたビジネスモデル設計方法がないことから、ビジネスモデル設計法を研究する。ビジネスモデルを明確にすることの必要性について述べ、経営方針を考慮した戦略策定からそれを実現するビジネスモデルへの展開方法として、バランス・スコアカード(BSC)を応用した方法を実企業へ導入し、実例を通じてその有効性について述べる。さらに、BSCの不足部分を補って、経営方針からビジネスモデルを設計するための方法論を提案する。

第3章ビジネスモデル表記法の研究

第3章は、課題2について考察する。ビジネスモデルから情報モデル間に大きな隔たりがあり、シームレスな情報システム開発に繋がっていない。この点を改善するためには、経営者・ユーザ側と情報技術者の両者が共通理解し易く、かつ十分な情報を盛り込める表記法が必要である。この表記法は、いわば意思疎通や共通理解のための言語であると同時に、必要な項目に漏れのないビジネスモデル表記と情報モデル表記法が必要である。本研究では、「ビジネスモデルを可視的に描き、表現するための記述法として必要十分な条件は何か」を研究するために、従来の手法を比較検討すると共に、UMLを導入した有効なモデル表記について研究を行う。

第4章企業情報システムの効率的構築法の研究

第4章は、課題3について考察する。企業の基幹情報システムを再構築する場合に、大きく2つの選択肢がある。1つは、ユーザ仕様を手作りで要件定義からシステム開発を行う方法と、2つ目は、業務パッケージソフトを利用してその企業に適用していく方法である。近年、ERPの普及が進んでおり、本論文では、ERP導入を前提とした情報システム構築方法論を作成した。さらに、効率的な導入を図るために、オブジェクト指向による業務要件とERP機能との適合性分析を目的とした新しい方法の提案を行う。

第5章本論文の結論

最後に本論文の研究成果をまとめ、結論を述べる。

本論文を通して3つの提案とそれを構成する11の詳細提案を行い、それぞれ評価検証により、有効性を確認した。尚、本論文では、有効性の確認方法として、同一品質における作業工数の削減による定量的効果の測定と方法論の確立による品質向上による定性的効果を確認した。

本論文の結論を要約すると下記のようにまとめられる。

企業が競争力を維持していくためには、顧客ニーズや社会変化に対応して業務改善だけではなく、ビジネスモデルから見直すことが必要である。こうした企業のビジネスモデル再構築の方法として、提案したビジネスモデル設計法が有効である。また、ビジネスモデル設計から実行手段である情報システム構築までを短期間に効率的に完成する方法として、ビジネスモデルを可視化するUMLによるビジネスモデル表記法と情報システム構築のオブジェクト指向モデリングによるERP導入法が有効である。

提案したビジネスモデル表記方法と情報システム構築方法により、ビジネスモデルから情報システム開発へのシームレスな連携が可能になり、ビジネスモデルの見直しとビジネスを支援する情報システムの再構築を短サイクルで効率的に実現できることを示している。

審査要旨 要旨を表示する

21世紀に入り、情報技術を中心とした科学技術の発達と地球規模のグローバルな企業活動は、ますますその変化のスピードが高まり、多様性を増加させている。社会経済の環境変化が激し時代には、企業の進むべき方向を舵取りする高い視点による判断とそれを実施できるビジネス形態の変更が求められる。ビジネス形態を検討するには、全体を俯瞰できる概念モデルが必要になる。IT技術が発達した現在、従来のように管理組織毎に独立した情報システム化を行っていては、多大な知的労力と時間を必要とする。またそれぞれのシステム間の整合性も保てなくなってきたことが問題となっている。以上の理由から、事業の仕組みを一つのシステムに統合し、企業における各種の管理方法を企業全体のモデルをベースに調整することで環境変化の対応を図ることの必要性が高まっており、そのことがビジネスモデルに注目が集まっている背景と考える。また、ビジネスの環境や形態を考え、判断する場合にビジネスを俯瞰する方法として、ビジネスモデルを使用して、検討することが有効である。

本論文では、ビジネスモデルの設計、ビジネスモデルの表記法の考案、およびビジネスモデルからのシームレスな情報システム構築を研究の範囲としており、前節で本研究範囲に関連する従来研究を整理して、従来研究で解決できない課題を明確にした。また、この従来研究の課題は、筆者の実務経験から抽出した3つの研究課題と共通する。

課題1:経営改革や業務改革を実現できる優れたビジネスモデル設計方法がない。

課題2:ビジネスモデルから情報モデルの間に大きな隔たりがあり、シームレスな情報システム開発に繋がっていない。

課題3:企業情報システムの効率的な構築方法が必要である。近年、ERPを中心とした全社対象の情報システム構築が行われているが、効率的にシステムを構築する方法が必要である。

本論文は、この研究課題を解決する提案ができ、検証できれば意義のある研究と考える。本研究の意義について、3つの課題を解決するための研究テーマに沿って以下に記述する。

社会の変化に企業が対応していくには、業務改革が必要である。改革に留まらず新規ビジネスが起業することもある。また、社会環境や経済環境など企業を取り巻く外部環境が大きく変化し、ITをはじめとした科学技術の進歩が早い今日では、自社のビジネス形態を俯瞰して考え直す必要が大きい。こうしたことからビジネスモデル構築や再構築の必要性が高まってきた。しかし、ビジネスモデルを設計する方法が確立されていないことから、本研究の第1のテーマとして「ビジネスモデル設計方法の提案」を試みた。

情報技術が高度に発達した現代社会においてはビジネスモデルと情報システムを切り離して論じることができない。ビジネスモデルから情報システムを構築するのに2つの間を情報の断絶のないシームレスな記述ができれば効率的な情報システム構築が可能である。こうしたビジネスモデル表記法の研究も、十分進んでいないので、本研究の第2テーマとして「ビジネスモデル表記法の提案」を行う。「ビジネスモデル表記法」により明らかになったシステム要件を使用して、効率的な情報システム構築する方法が必要であり、本研究の第3のテーマとして「企業情報システムの効率的構築法」の研究を行う。

本論文は、論文の構成は、下記の5章からの構成となっている。

第1章ビジネスモデルの定義

第1章では、従来研究を分析し、本研究でのビジネスモデルの定義を述べる。

第2章ビジネスモデル設計方法の研究

第2章は、課題1について考察する。ビジネスモデルを新しく考案する場合や経営改革や業務改革を行う場合に、優れたビジネスモデル設計方法がないことから、ビジネスモデル設計法を研究する。ビジネスモデルを明確にすることの必要性について述べ、経営方針を考慮した戦略策定からそれを実現するビジネスモデルへの展開方法として、バランス・スコアカード(BSC)を応用した方法を実企業へ導入し、実例を通じてその有効性について述べる。さらに、BSCの不足部分を補って、経営方針からビジネスモデルを設計するための方法論を提案する。

第3章ビジネスモデル表記法の研究

第3章は、課題2について考察する。ビジネスモデルから情報モデル間に大きな隔たりがあり、シームレスな情報システム開発に繋がっていない。この点を改善するためには、経営者・ユーザ側と情報技術者の両者が共通理解し易く、かつ十分な情報を盛り込める表記法が必要である。この表記法は、いわば意思疎通や共通理解のための言語であると同時に、必要な項目に漏れのないビジネスモデル表記と情報モデル表記法が必要である。本研究では、「ビジネスモデルを可視的に描き、表現するための記述法として必要十分な条件は何か」を研究するために、従来の手法を比較検討すると共に、UMLを導入した有効なモデル表記について研究を行う。

第4章企業情報システムの効率的構築法の研究

第4章は、課題3について考察する。企業の基幹情報システムを再構築する場合に、大きく2つの選択肢がある。1つは、ユーザ仕様を手作りで要件定義からシステム開発を行う方法と、2つ目は、業務パッケージソフトを利用してその企業に適用していく方法である。近年、ERPの普及が進んでおり、本論文では、ERP導入を前提とした情報システム構築方法論を作成した。さらに、効率的な導入を図るために、オブジェクト指向による業務要件とERP機能との適合性分析を目的とした新しい方法の提案を行う。

第5章本論文の結論

最後に本論文の研究成果をまとめ、結論を述べる。

本論文を通して3つの提案とそれを構成する11の詳細提案を行い、それぞれ評価検証により、有効性を確認した。尚、本論文では、有効性の確認方法として、同一品質における作業工数の削減による定量的効果の測定と方法論の確立による品質向上による定性的効果を確認した。

本論文の結論を要約すると下記のようにまとめられる。

企業が競争力を維持していくためには、顧客ニーズや社会変化に対応して業務改善だけではなく、ビジネスモデルから見直すことが必要である。こうした企業のビジネスモデル再構築の方法として、提案したビジネスモデル設計法が有効である。また、ビジネスモデル設計から実行手段である情報システム構築までを短期間に効率的に完成する方法として、ビジネスモデルを可視化するUMLによるビジネスモデル表記法と情報システム構築のオブジェクト指向モデリングによるERP導入法が有効である。

提案したビジネスモデル表記方法と情報システム構築方法により、ビジネスモデルから情報システム開発へのシームレスな連携が可能になり、ビジネスモデルの見直しとビジネスを支援する情報システムの再構築を短サイクルで効率的に実現できる。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/42875