学位論文要旨



No 216457
著者(漢字) 浜田,浩行
著者(英字)
著者(カナ) ハマダ,ヒロユキ
標題(和) 画像品質に基づくBSディジタル放送システム設計に関する研究
標題(洋)
報告番号 216457
報告番号 乙16457
学位授与日 2006.02.27
学位種別 論文博士
学位種類 博士(情報理工学)
学位記番号 第16457号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 広瀬,啓吉
 東京大学 教授 原島,博
 東京大学 教授 石塚,満
 東京大学 教授 相澤,清晴
 東京大学 助教授 森川,博之
 東京大学 助教授 苗村,健
内容要旨 要旨を表示する

ISDB:Integrated Services Digital Broadcasting(統合ディジタル放送)の概念は、ディジタル放送の設計目標として1985年に国際標準機関であるCCIR(現在のITU-T)に研究課題として日本から提案し採択された。制作から送出・受信まで、全ディジタルインフラの構築を行うことにより、ディジタルのメリットを充分に生かした多様で高品質な放送サービスが可能となる。ISDBでは、伝送路やメディアによらず、信号の最大限の共通化により、コンテンツの相互運用の実現、受信機コストの低廉化が図れるが、一方で伝送路特性や必要とされるサービスなどの要求条件から、システムに応じた最適化も重要なポイントとなる。

また、ディジタル放送という大きく複雑なシステムを設計するには、アプリケーション・情報源符号化・多重化・伝送・受信など異なるレイヤの横断的、かつ様々な角度からの検討が必要となる。更に、現状では、放送では通信などに比べると画像品質や画像伝送の信頼性への要求が高い。

本論文はBSディジタル放送を中心として、画像品質に基づき、システムを俯瞰し各種レイヤのバランスを考慮したディジタル放送システムの全体設計に関わる一連の研究をまとめたものであり、6章から構成される。

第1章は「序論」として、本研究の背景となる、各国でのディジタル放送の実施状況や開発状況、また衛星放送の技術基準見直しに関わる制度的な状況などの概説を行い、本研究の目的・経緯について述べる。

第2章「BSディジタル放送の可能性の検討」では、ISDBの概念に基づくBSディジタル放送への要求条件について概説する。更に、衛星伝送路の各種劣化要因を計算機シミュレーションにより誤り率の推定を行った。同様に、干渉妨害波が存在する場合のディジタル波の誤り率劣化を求める新たな手法について述べ、これらシミュレーションの有効性を明らかにする。その上でWARC-BSプランにおける伝送方式検討結果を述べ、伝送の観点から、伝送可能なビットレートと誤り特性に関しての知見を述べる。

第3章「符号化方式と画像品質」では、鮮明なハイビジョン静止画像を用いた新サービスの概要とハイビジョン静止画像のディジタル符号化方式の検討結果を述べる。特にハイビジョンに対する視覚特性を考慮したパラメータ設定により、大幅な画質改善効果があることを述べる。

一方、画像符号化方式についてもMPEGを中心として各国で研究開発が進められていたが、放送品質を維持するための最適な方式、所要符号化レートなど研究開発途上であった。そこで、1992年に各社から応募された画像符号化方式について主観評価実験を行い、高能率符号化技術の状況を探り、画像符号化の観点から多チャンネルディジタルTV衛星放送の技術的可能性と、放送衛星の1中継器で伝送可能なテレビジョンのチャンネル数などの検討を行った。なお、この主観評価実験結果は旧郵政省の「衛星放送技術の長期ビジョンに関する研究会」のもとで行い、検討結果は研究会に中間報告として提出した。

第4章では、第3章で行ったハイビジョンJPEG符号化画像、及び標準TVのADCT符号化動画像の主観評価実験値を活用して、「ディジタル符号化画像の客観的評価尺度」について述べる。ディジタル符号化では人間の視覚特性にマッチした各種符号化パラメータの最適自動設定が重要な課題となる。更に、ディジタル符号化された画像品質の評価や管理を自動的に行えれば、効率的な番組の制作・監視が可能となる。このような目的から、ディジタル符号化された画像を対象とした客観的評価尺度の研究を行った。特に、動画像の客観的評価尺度は、当時ほとんど研究は行われていなかったが、手法を提案し、その有効性を明らかにする。

第5章「BSディジタル放送システムの開発」では、WARCプラン見直しを考慮し、2000年BSディジタル放送開始に向けて実施した、前章までの基礎検討に基づいた、具体的なディジタル放送方式に関わる以下に示す研究・開発について述べる。これらの研究成果は全て2000年BSディジタル放送システムの規格化に反映、あるいは実用化されたものである。

降雨減衰対策を目的とした階層伝送用画像符号化

多重化方式の検討

複数TVやデータなどの高効率伝送を目的とした融通多重・符号化方式の検討

画質改善や新符号化方式を導入可能とするなどの将来の拡張性確保を目的としたダウンロードの検討

第6章では「結論」として、第1章から第5章で述べた研究成果を統括するとともに、将来のディジタル放送の展望を示す。

以上、本論分ではISDBの実現を目指し、ディジタル放送システムの構成要素である、アプリケーション・情報源符号化・多重化・伝送・受信など各種レイヤの横断的な基礎検討を行い、BSディジタル放送の可能性について述べる。

またハイビジョンJPEG符号化画像、及び標準TVのADCT符号化動画像などのディジタル符号化画像の客観的評価尺度手法を提案し、その有効性を示す。

更に、WARC2000衛星放送プランの見直し、MPEG国際標準化などを背景に、それまでの基礎検討を元に、画像品質に基づき、システムを俯瞰し各種レイヤのバランスを考慮した2000年BSディジタル放送の規格化・実用化に貢献したシステム全体設計に関わる一連の研究について述べる。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「画像品質に基づくBSディジタル放送システム設計に関する研究」と題し、BSディジタル放送を題材として、システム全体を俯瞰し、各種レイヤのバランスを考慮したディジタル放送のシステム設計を、画像品質の観点から、行ったものであって、全6章からなる。

第1章は「序論」であって、本研究の背景となる、各国でのディジタル放送の実施状況や開発状況、また衛星放送の技術基準見直しに関わる制度的な状況などの概説を行い、本研究の目的・経緯について述べている。

第2章は「BSディジタル放送の可能性の検討」と題し、統合ディジタル放送(ISDB:Integrated Services Digital Broadcasting)の概念に基づくBSディジタル放送への要求条件について概説した上で、衛星伝送路の各種劣化要因を、計算機シミュレーションにより誤り率として推定している。また、干渉妨害波が存在する場合のディジタル波の誤り率劣化を求める新たな手法を提案すると共に、これらシミュレーションの有効性を明らかにしている。その上でWARC‐BS(World Administrative Radio Conference Broadcasting Satellite)プランにおける伝送方式検討結果を述べ、伝送の観点から、伝送可能なビットレートと誤り特性に関しての知見を示している。

第3章は「符号化方式と画像品質」と題し、ハイビジョン静止画像を用いた新サービスの概要を述べた上で、ハイビジョン静止画像のディジタル符号化方式を、画像品質の観点から検討し、特にハイビジョンに対する視覚特性を考慮したパラメータ設定により、大幅な画質改善効果が可能なことを示している。また、各画像符号化方式に対する詳細な主観評価実験を行い、その結果に基づいて、多チャンネルディジタルTV衛星放送の技術的可能性を議論すると共に、放送衛星の1中継器で伝送可能なテレビジョンのチャンネル数などの検討を行っている。

第4章は「ディジタル符号化画像の客観的評価尺度」と題し、ディジタル符号化では人間の視覚特性にマッチした各種符号化パラメータの最適自動設定が重要な課題となることを指摘した上で、第3章の結果を基に、ディジタル符号化された画像を対象とした客観的評価尺度を構築している。特に、動画像の客観的評価尺度に関する手法を新しく提案し、その有効性を明らかにしている。

第5章は「BSディジタル放送システムの開発」と題し、前章までの検討結果に基づき、世界無線通信主管庁会議(WARC:World Administrative Radio Conference)プラン見直しを考慮して2000年のBSディジタル放送開始に向けて実施した、具体的なディジタル放送方式実現のために行った各実用化研究の成果について述べている。具体的には、降雨減衰対策を目的とした階層伝送用画像符号化の開発、多重化方式の検討、複数TVやデータなどの高効率伝送を目的とした融通多重・符号化方式の検討、画質改善や新符号化方式を導入可能とするなどの将来の拡張性確保を目的としたダウンロードの検討等である。

第6章は「結論」であって、本研究で得られた成果を要約するとともに、将来のディジタル放送の展望を示している。

以上を要するに、本論文は、人間の視覚特性を考慮した符号化方式の開発などを行うと共に、高品質ディジタル放送のためのシステム設計を、システムの各種レイヤのバランスを考慮した画像品質の観点から行ったものである。現在のBSディジタル放送の実現に大きく寄与したものであり、電子情報学に貢献するところが少なくない。

よって本論文は博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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