学位論文要旨



No 216505
著者(漢字) 三原,啓明
著者(英字)
著者(カナ) ミハラ,ヒロアキ
標題(和) 定量的核磁気共鳴画像法におけるRF磁場不均一性の補償に関する研究
標題(洋) RF inhomogeneity correction method for quantitative magnetic resonance imaging
報告番号 216505
報告番号 乙16505
学位授与日 2006.03.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16505号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 上野,照剛
 東京大学 教授 高野,忠
 東京大学 教授 小田,哲治
 東京大学 教授 柴田,直
 東京大学 教授 廣瀬,啓吉
 東京大学 教授 堀,洋一
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、複数の異なる撮像パラメータで取得された核磁気共鳴画像からRF磁場不均一性を補償し、特定の物理量についての定量的情報を抽出し画像化する手法に関するものであり、6章からなり、英文で書かれている。

第一章は序文で、本研究の動機と目的について述べた。具体的には、現在の核磁気共鳴画像が、デジタルデータとして保存されているにもかかわらず、信号の強度を表現している画素値が、RF磁場強度、受信コイル感度、スピン緩和時間、測定パラメターなど、様々な項目の関数になっており定量的に比較できないという問題があることを指摘し、この問題を解決するべく、特定の物理量に関する情報を複数の核磁気共鳴画像を用いて抽出し、互いに比較できるようにすることを本研究の目的とした。

第二章は、核磁気共鳴画像から特定の物理量を抽出する際に問題となる様々な不均一性の原因及び、不均一性を取り除くことを目的に行われてきた手法について述べた。具体的には、RFコイルと測定対象の位置、受信コイル感度に見られる相互関係、RF磁場不均一の主要な要因である送信B1磁場不均一、誘導電流、誘電共振現象によるRF磁場不均一、及びスライス選択の不完全性の影響について述べた。また、画像不均一を取り除く目的で行われている、ファントム画像を参照画像として利用した補正方法や、取得した画像に対し統計処理を行うことで不均一性を取り除く方法等の特徴と問題点について述べた。

第三章では、フリップ角θ及び、その二倍のフリップ角2θで撮像した2枚の核磁気共鳴画像から送信RF磁場強度及び受信コイル感度の空間分布不均一性を画像化し、撮像されたオリジナル画像とこれらの空間分布情報を用いてRF磁場不均一性を取り除いた補正画像を計算する方法を提案した。直径3.5cm球形水ファントムを測定対象とし、円形サーフェイスコイルを用いてグラディエントエコー法で撮像された2枚の画像に対して提案方法を行い、RF磁場強度の空間分布、受信コイルの受信感度の空間分布、及びこれらの不均一性を取り除いた補正画像を計算することが可能であることを示した。

第四章は、高磁場核磁気共鳴画像法において顕在化する水の誘電共振現象により生じるRF磁場不均一性を画像化する方法及び、不均一性を補正した画像を得る方法を提案した。7テスラの核磁気共鳴装置を用いて直径3.5cmの球形水ファントムを測定対象とし、スピンエコー法を用いてフリップ角45度、及び90度となる画像を撮像した。送受信コイルは、より均一なRF磁場を作り出すボリュームコイルを用い、対象実験として撮像された灯油ファントム画像から、低い比誘電率の灯油の撮像においては、均一なRF磁場が実現されていたことを確かめた。一方、水ファントムの画像においては、球の中心部において信号が強く、周辺部に行くに従い信号が低くなっている現象を観測した。2枚の水ファントム画像からこれら誘電共振の影響を定量的なフリップアングル値のマップとして画像化した。また、誘電共振現象により生じた画像不均一を取り除いた補正画像も計算により得られることを示した。

第五章では、3枚の異なる撮像パラメータで撮像された核磁気共鳴画像を用いて、B1磁場不均一及び撮像スライス選択の不完全性を補正し定量的T1緩和時間の空間分布を画像化する方法を提案した。1.5テスラの核磁気共鳴装置を用い、人の頭部全体をマルチスライス・スポイルドグラディエントエコー法で16枚の画像として撮像した。各々の撮像スライスに対して異なるTR、フリップアングルの組み合わせで3枚の画像を取得し、これら3枚の画像からT1緩和時間の定量情報を抽出し画像化した。得られたT1緩和時間画像のヒストグラムから二つのピークが見て取れ、それぞれの値は、672.9±15.5 (ms)、及び921.1±24.7 (ms)で、人間の脳の白質、灰白質のT1緩和時間に対応していることを明らかにした。

第六章は、第三章から第五章にわたる本研究の結論を述べた。これら提案方法を用いることで、送信RFパルスにより誘導されるRF磁場強度の空間分布及び受信コイルの感度空間分布の不均一性を取り除いた補正画像が得られることを示した。また、高磁場核磁気共鳴画像における水の誘電共振現象により生じるRF磁場分布の不均一性を定量的な核磁気スピンフリップ角として画像化し、これを補正した画像も計算により得られることを示した。定量的T1緩和時間分布の画像化においては、B1磁場不均一及び撮像スライス選択の不完全性の補正を行い、定量的T1緩和時間の分布図として脳の白質、灰白質を識別できることを示した。本提案方法は、T1緩和時間の定量情報を画像化する方法で、異なる装置や撮像パラメータで得られた核磁気共鳴画像に対しても適用が可能であり、定量化された画像は、共通の尺度の上で互いに比較をすることが可能となる。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、複数の異なる撮像パラメータで取得された核磁気共鳴画像から高周波RF磁場不均一性を補償し、特定の物理量についての定量的情報を抽出し画像化する手法に関するものであり、6章からなり、英文で書かれている。

第1章は序文で、本研究の背景と目的について述べている。具体的には、現在の核磁気共鳴画像がデジタルデータとして保存されているにもかかわらず、信号の強度を表現している画素値が、RF磁場強度、受信コイル感度、プロトン密度、スピン緩和時間、測定パラメータなど様々な項目の関数になっており定量的に比較できないという問題があることを指摘し、この問題を解決するべく、特定の物理量に関する情報を複数の核磁気共鳴画像を用いて抽出し、互いに比較できるようにすることを本研究の目的とすることを述べている。

第2章は、核磁気共鳴画像法の基礎理論、装置の超高磁場化による利点と問題点、核磁気共鳴画像から特定の物理量を抽出する際に問題となる様々な不均一性の原因及び、不均一性を取り除くことを目的に行われてきた手法について述べている。具体的には、RFコイルと測定対象の位置、受信コイル感度に見られる相互関係、RF磁場不均一の主要な要因である送信B1磁場不均一、誘導電流、誘電共振現象によるRF磁場不均一、及びスライス選択の不完全性の影響について述べている。また、画像不均一を取り除く目的で行われている、ファントム画像を参照画像として利用した補正方法や、取得した画像に対し統計処理を行うことで不均一性を取り除く方法等の特徴と問題点について述べている。

第3章では、核磁気スピンのフリップ角がθ及び、その二倍の2θとなる条件で撮像した2枚の核磁気共鳴画像から送信RF磁場強度及び受信コイル感度の空間分布不均一性を画像化し、撮像されたオリジナル画像とこれらの空間分布情報を用いてRF磁場不均一性を取り除いた補正画像を計算する方法を提案した。直径3.5cm球形水ファントムを測定対象とし、円形サーフェイスコイルを用いてグラディエントエコー法で撮像された2枚の画像に対して提案方法を行い、RF磁場強度の空間分布、受信コイルの受信感度の空間分布、及びこれらの不均一性を取り除いた補正画像を計算することが可能であることを示した。

第4章では、高磁場核磁気共鳴画像法において顕在化する水の誘電共振現象により生じるRF磁場不均一性を画像化する方法及び、不均一性を補正した画像を得る方法を提案した。7テスラの核磁気共鳴装置を用いて直径3.5cmの球形水ファントムを測定対象とし、スピンエコー法を用いてフリップ角45度、及び90度となる条件で画像を撮像した。送受信コイルは、より均一なRF磁場を作り出すボリュームコイルを用い、対象実験として撮像された灯油ファントム画像から、低い比誘電率の灯油の撮像においては、均一なRF磁場が実現されていたことを確かめた。一方、水ファントムの画像においては、球の中心部において信号が強く、周辺部に行くに従い約30%信号強度が低くなっている現象を観測した。2枚の水ファントム画像からこれら誘電共振の影響を定量的なフリップアングル値のマップとして画像化した。また、誘電共振現象により生じた画像不均一を取り除いた補正画像も計算により得られることを示した。

第5章では、3枚の異なる撮像パラメータで撮像された核磁気共鳴画像を用いて、B1磁場不均一及び撮像スライス選択の不完全性を補正し定量的T1緩和時間の空間分布を画像化する方法を提案した。1.5テスラの核磁気共鳴装置を用い、人の頭部全体をマルチスライス・スポイルドグラディエントエコー法で16枚の画像として撮像した。各々の撮像スライスに対して異なるTR(撮像繰り返し時間間隔)、フリップアングルの組み合わせで3枚の画像を取得し、これら3枚の画像からT1緩和時間の定量値情報を抽出し画像化した。得られたT1緩和時間画像の画素値ヒストグラムから二つのピークが見て取れ、それぞれの値は、672.9±15.5 (ms)、及び921.1±24.7 (ms)で、人間の脳の白質、灰白質のT1緩和時間に対応していることを明らかにした。

第6章は、第3章から第5章にわたる本研究の結論を述べた。

以上を要するに、本論文は核磁気共鳴画像から高周波RF磁場不均一性を補償し、特定の物理量についての定量的情報を抽出し画像化することを目的とし、送信RF磁場や受信コイルの感度、装置の利得などの影響を取り除き、測定対象由来の物理定数のみからなる関数を画像化する方法を提案し、円形サーフェイスコイルによる画像、超高磁場MRI画像、及び定量的T1緩和時間画像においてその有効性を示したもので、電子工学、特に、医用生体工学の分野において貢献するところが少なくない。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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