学位論文要旨



No 216525
著者(漢字) 蓮池,彰
著者(英字)
著者(カナ) ハスイケ,アキラ
標題(和) フォイル軸受の浮上すきまと発生圧力に関する研究
標題(洋)
報告番号 216525
報告番号 乙16525
学位授与日 2006.04.20
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16525号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中尾,政之
 東京大学 教授 久田,俊明
 東京大学 助教授 濱口,哲也
 東京大学 助教授 高木,周
 大学評価・学位授与機構 教授 田中,正人
内容要旨 要旨を表示する

 第1章 フォイル軸受とは

 フォイル軸受とは、ジャーナル軸受と同様にすべり軸受の一種で、金属もしくはそれと同等な材料でできている静止円筒面上を、金属もしくは高分子材料で作られた帯状のフォイルが走行するシステムである。このフォイルが走行するにしたがい、動圧で円筒面とフォイルとのすき間に空気の潤滑膜が形成され、フォイルが円筒面の上に浮き上がる。

 このフォイル軸受が注目されたのは、コンピュータの外部記録装置として使用されている磁気テープ記録装置において、情報を読み書きするヘッドとテープとの間が、両者の相対速度を大きくするとフォイル軸受を形成するからである。記録装置の場合、ヘッドとテープとの間のすきまが小さいほど記録密度を向上させることができ、浮上すきまが最小になる位置にヘッドの読み書き用の磁気回路を装着すれば装置の高密度記録が達成できる。

 フォイル軸受で求めなければならない点は、フォイルがヘッド上を微小空気膜を介して走行するため、最小浮上すきまとそれが生じる位置を求めなくてはならないが、従来の研究では正確に示されていない。

 そこで本研究では、フォイル軸受の発生圧力と浮上すきまとを解明するために、適切な境界条件におけるレイノルズ方程式の解と、フォイルの変形量を正確に表せる変形方程式とを用いて理論解析し、フォイル軸受の発生圧力分布と浮上すきま分布を求め、さらに実験によってそれを裏付ける。つまり空気膜を介して固定ヘッドと可撓体であるフォイルとが構成する、円筒フォイル軸受の3次元弾性流体潤滑問題として定式化して理論解析を行い、さらに実験解析を実施して理論式の妥当性を確認する。自由端部の変形には軸対称変形理論を適用し、モーメント荷重をフォイル自由端部に仮想的に負荷して変形量を求める。

 第2章 浮上すきまと発生圧力を求める数値計算方法

 フォイル軸受では、流体圧力によりフォイルが変形し、フォイル張力と流体圧力が釣り合うときに、浮上すきまと発生圧力が決定される。すなわち、浮上すきまはあらかじめ与えられるのでなく、フォイルの変形と流体圧力とを未知数としてレイノルズ方程式とフォイルの変形方程式を連立して解くことで得られる。

 レイノルズ方程式は、フォイルが空気膜を介して固定円筒面上を浮上走行する場合、フォイルの走行速度をu=15m/s、室温とするとマッハ数は0.044となり、空気の圧縮性を無視した非圧縮性流体としても誤差は0.35%となるので非圧縮性レイノルズ方程式で表す。

 フォイルの変形方程式は、円筒状になったフォイルが内圧で変形する問題として、円筒殻の変形として考える。フォイルの変形方程式をDonnelの浅い殻近似より、張力Tが加わり円弧状に変形した後、内圧によって生ずる曲面の変形方程式を求める。フォイル自由端部では、発生圧力が零になるが張力は幅方向に一定であるので、圧力と張力の釣り合いがくずれ、張力による荷重のみが作用する。すると、変形は円筒軸方向変位となり変形方程式は簡素化できる。自由端部の変形量はM0|(x=0)=Tt/2〓なるモーメント荷重を巻角内の自由端部に仮想的に負荷すれば等価な解が得られる。

 ところで変形方程式においてフォイル厚さがt=3cm程度であれば、Et/(1-v2)係数とEt3/12(1-v2)係数は同じオーダになるが、フォイル厚さが極端に薄い場合は(例えばt=10(-4)cmの場合)はtとt3では9桁の違いが生ずると有限要素法を用いて連立1次方程式を解くのは困難となる。これを防ぐ方法として倍精度の計算方法があるが本質的な解決方法ではないが、膜理論のvと、伸び無し理論のwを用いると、精度計算が99.8%の精度で求められると同時に、要素間の勾配が連続的となる。

 第3章 浮上すきまと発生圧力を測る実験方法

 実験に使用したフォイルは、市販の幅1インチ(25.4mm)の計算機記録装置に使用されているマイラ(ポリエステル)ベースの磁気テープで、裏面にアルミニウムを0.1μm程度蒸着して用いた。裏面に金属を蒸着させることで、直径100mmのフォイル軸に設置されている静電容量電極とテープ裏面間との静電容量を用いて容易に浮上すきま測定がでる。

 第4章 浮上すきまと発生圧力の実験・計算結果およびその検討

 走行方向のすきまと圧力分布は、理論結果と実験結果では10%以内で良く一致している。幅方向のすきまと圧力分布は、走行方向と同様に10%以内で一致しており、特に自由端部のすきまのそり上がり現象を良くあらわしている。

 最小浮上すきまが生じる位置は、巻角β=6.0において、フォイルの剛性係数を変化させると、低い場合は3.55で巻角出口点より外側に、剛性係数が100で2.45と巻角出口点の内側に移動する。フォイル剛性が大きくなると最小すきま発生位置が巻角中心に向かって移動するので、読み書き用の磁気回路位置の設定には注意が必要となる。

 無次元剛性係数を0.01〜100まで変化させた場合の幅中央の最小浮上すきまH(min)と中央浮上すきまH0は、無次元剛性係数を増加すると最小浮上すきま、中央浮上すきま共に暫時低下する傾向となる。完全可撓体の場合に相当する剛性係数においては、最小浮上すきま係数は0.427、中央浮上すきま係数は0.645となった。0.645はA.Eshelの級数展開法による理論結果と0.3%で一致している。

 円筒殻の変形方程式と非圧縮性レイノルズ方程式を用いて剛性を考慮した本解析方法は、2次元解析結果と同等な精度を有しており、曲げ剛性を考慮したフォイル軸受の3次元数値計算法の妥当性および有効性を確認した。

 第5章 結論

 (1) フォイル軸受に関する3次元弾性流体潤滑問題の数値解法として、非圧縮性レイノルズ方程式と浅い殻の近似に基づくフォイル変形方程式を連立させれば、実験値に比較し±10%の誤差内で求められた。

 (2) フォイル軸受のフォイル走行方向で、発生圧力が0となる軸受出入り口向座標は、巻角出入り口より12以上の無次元座標が必要である。

 (3) フォイル幅方向の自由端部の境界条件は、円筒殻の変形方程式において仮想的にモーメントを作用させることにより満足させた。自由端部近傍がそり上がる変形量は、フォイル厚さと初期張力に比例し、フォイルの剛性が大きくなるに従って小さくなる。

 (4) フォイルの剛性を大きくすると、無次元最小浮上すきまの浮上すきま係数は、完全可撓体の場合0.427、無次元剛性係数100の場合0.21となり、その最小浮上すきまは徐々にしか減少しない。

審査要旨 要旨を表示する

 第1章 フォイル軸受とは

 フォイル軸受とは、ジャーナル軸受と同様にすべり軸受の一種で、金属もしくはそれと同等な材料でできている静止円筒面上を、金属もしくは高分子材料で作られた帯状のフォイルが走行するシステムである。このフォイルが走行するにしたがい、動圧で円筒面とフォイルとのすき間に空気の潤滑膜が形成され、フォイルが円筒面の上に浮き上がる。

 このフォイル軸受が注目されたのは、コンピュータの外部記録装置として使用されている磁気テープ記録装置において、情報を読み書きするヘッドとテープとの間が、両者の相対速度を大きくするとフォイル軸受を形成するからである。記録装置の場合、ヘッドとテープとの間のすきまが小さいほど記録密度を向上させることができ、浮上すきまが最小になる位置にヘッドの読み書き用の磁気回路を装着すれば装置の高密度記録が達成できる。

 フォイル軸受で求めなければならない点は、フォイルがヘッド上を微小空気膜を介して走行するため、最小浮上すきまとそれが生じる位置を求めなくてはならないが、従来の研究では正確に示されていない。

 そこで本研究では、フォイル軸受の発生圧力と浮上すきまとを解明するために、適切な境界条件におけるレイノルズ方程式の解と、フォイルの変形量を正確に表せる変形方程式とを用いて理論解析し、フォイル軸受の発生圧力分布と浮上すきま分布を求め、さらに実験によってそれを裏付ける。つまり空気膜を介して固定ヘッドと可撓体であるフォイルとが構成する、円筒フォイル軸受の3次元弾性流体潤滑問題として定式化して理論解析を行い、さらに実験解析を実施して理論式の妥当性を確認する。自由端部の変形には軸対称変形理論を適用し、モーメント荷重をフォイル自由端部に仮想的に負荷して変形量を求める。

 第2章 浮上すきまと発生圧力を求める数値計算方法

 フォイル軸受では、流体圧力によりフォイルが変形し、フォイル張力と流体圧力が釣り合うときに、浮上すきまと発生圧力が決定される。すなわち、浮上すきまはあらかじめ与えられるのでなく、フォイルの変形と流体圧力とを未知数としてレイノルズ方程式とフォイルの変形方程式を連立して解くことで得られる。

 レイノルズ方程式は、フォイルが空気膜を介して固定円筒面上を浮上走行する場合、フォイルの走行速度をu=15m/s、室温とするとマッハ数は0.044となり、空気の圧縮性を無視した非圧縮性流体としても誤差は0.35%となるので非圧縮性レイノルズ方程式で表す。

 フォイルの変形方程式は、円筒状になったフォイルが内圧で変形する問題として、円筒殻の変形として考える。フォイルの変形方程式をDonnelの浅い殻近似より、張力Tが加わり円弧状に変形した後、内圧によって生ずる曲面の変形方程式を求める。フォイル自由端部では、発生圧力が零になるが張力は幅方向に一定であるので、圧力と張力の釣り合いがくずれ、張力による荷重のみが作用する。すると、変形は円筒軸方向変位となり変形方程式は簡素化できる。自由端部の変形量はM0|(x=0)=Tt/2〓なるモーメント荷重を巻角内の自由端部に仮想的に負荷すれば等価な解が得られる。

 ところで変形方程式においてフォイル厚さがt=3cm 程度であれば、Et/(1-v2)係数とEt3/12(1-v2)係数は同じオーダになるが、フォイル厚さが極端に薄い場合は(例えばt=10(-4)cm の場合)はtとt3では9桁の違いが生ずると有限要素法を用いて連立1次方程式を解くのは困難となる。これを防ぐ方法として倍精度の計算方法があるが本質的な解決方法ではないが、膜理論のvと、伸び無し理論のw を用いると、精度計算が99.8%の精度で求められると同時に、要素間の勾配が連続的となる。

 第3章 浮上すきまと発生圧力を測る実験方法

 実験に使用したフォイルは、市販の幅1インチ(25.4mm)の計算機記録装置に使用されているマイラ(ポリエステル)ベースの磁気テ-プで、裏面にアルミニウムを0.1μm 程度蒸着して用いた。裏面に金属を蒸着させることで、直径100mmのフォイル軸に設置されている静電容量電極とテープ裏面間との静電容量を用いて容易に浮上すきま測定がでる。

 第4章 浮上すきまと発生圧力の実験・計算結果およびその検討

 走行方向のすきまと圧力分布は、理論結果と実験結果では10%以内で良く一致している。幅方向のすきまと圧力分布は、走行方向と同様に10%以内で一致しており、特に自由端部のすきまのそり上がり現象を良くあらわしている。

 最小浮上すきまが生じる位置は、巻角β=6.0において、フォイルの剛性係数を変化させると、低い場合は3.55で巻角出口点より外側に、剛性係数が100で2.45と巻角出口点の内側に移動する。フォイル剛性が大きくなると最小すきま発生位置が巻角中心に向かって移動するので、読み書き用の磁気回路位置の設定には注意が必要となる。

 無次元剛性係数を0.01〜100まで変化させた場合の幅中央の最小浮上すきまHminと中央浮上すきまH0は、無次元剛性係数を増加すると最小浮上すきま、中央浮上すきま共に暫時低下する傾向となる。完全可撓体の場合に相当する剛性係数においては、最小浮上すきま係数は0.427、中央浮上すきま係数は0.645となった。0.645はA.Eshelの級数展開法による理論結果と0.3%で一致している。

 円筒殻の変形方程式と非圧縮性レイノルズ方程式を用いて剛性を考慮した本解析方法は、2次元解析結果と同等な精度を有しており、曲げ剛性を考慮したフォイル軸受の3次元数値計算法の妥当性および有効性を確認した。

 第5章 結論

 (1)フォイル軸受に関する3次元弾性流体潤滑問題の数値解法として、非圧縮性レイノルズ方程式と浅い殻の近似に基づくフォイル変形方程式を連立させれば、実験値に比較し±10%の誤差内で求められた。

 (2)フォイル軸受のフォイル走行方向で、発生圧力が0となる軸受出入り口向座標は、巻角出入り口より12以上の無次元座標が必要である。

 (3)フォイル幅方向の自由端部の境界条件は、円筒殻の変形方程式において仮想的にモーメントを作用させることにより満足させた。自由端部近傍がそり上がる変形量は、フォイル厚さと初期張力に比例し、フォイルの剛性が大きくなるに従って小さくなる。

 (4)フォイルの剛性を大きくすると、無次元最小浮上すきまの浮上すきま係数は、完全可撓体の場合0.427、無次元剛性係数100の場合0.21となり、その最小浮上すきまは徐々にしか減少しない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格とみとめられる。

UTokyo Repositoryリンク