学位論文要旨



No 216532
著者(漢字) 江村,聡
著者(英字)
著者(カナ) エムラ,サトシ
標題(和) 軽量耐熱Ti-Al-Nb系金属間化合物の金属組織制御および粒子複合化による高性能化
標題(洋)
報告番号 216532
報告番号 乙16532
学位授与日 2006.04.20
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16532号
研究科 工学系研究科
専攻 マテリアル工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 香川,豊
 東京大学 教授 菅野,幹宏
 東京大学 教授 鈴木,俊夫
 東京大学 教授 小関,敏彦
 東京大学 助教授 榎,学
内容要旨 要旨を表示する

 本論文は新たな軽量耐熱材料として期待されるTi-Al-Nb系金属間化合物について,金属組織の制御およびセラミック粒子の分散による機械的性質の向上の指針を示すことを目的としたものであり,6章から構成される.本論文の研究を通して明らかとなったことを要約すると以下のようになる.

 第1章では,航空機エンジンなどの熱機関への適用が期待されているチタン系耐熱材料(耐熱チタン合金,γ-TiAl金属間化合物)の研究開発の現状および問題点を述べた.次に,新たな軽量耐熱材料として近年注目を受け始めているTi-Al-Nb系金属間化合物について,その特徴や軽量耐熱材料としての有望性について概説するとともに,製造プロセスや特性向上の手法について提示し,本論文の目的を明確にした.

 第2章では,素粉末混合法を用いてα2+β二相組織からなるTi3Al-Nb金属間化合物の製造を試みるとともに,その機械的性質の向上について,熱処理による金属組織の最適化ならびにTiB粒子分散強化の両面から検討を加えた.その結果,熱処理による金属組織の微細化がマトリックス材および複合材の室温高サイクル疲労特性の大幅な向上をもたらす一方で,高温特性,特にクリープ特性の低下も同時に招くこと,TiB粒子の分散によって,Ti3Al-Nbの室温および高温での引張特性および室温高サイクル疲労特性は大きく向上するが,高温域では引張強さの急激な低下が見られるようになり,さらにクリープ特性に関しては,TiB粒子による強度の上昇が粒子分散に伴う基質の組織の等軸化によって打ち消されてしまうことがわかった.結論として,より高温特性を重視する観点からはTi3Al-Nbを上回る高温特性を有する材料の使用も視野に入れる必要があることを示した.

 第3章では,Ti3Al-Nbより機械的性質,特に高温特性に優れていると考えられているO相(斜方晶)を主体としたTi2AlNb金属間化合物について,素粉末混合法を用いての製造を試みるとともに,その機械的性質の向上を目的として,TiB粒子分散強化について検討した.製造したTi2AlNbの室温および高温での引張特性および室温高サイクル疲労特性は,期待通りTi3Al-Nbを上回るものであった.それに対してTi2AlNb/TiB複合材料においては,高酸素含有量に起因する塊状α2相の析出が特に低温側での引張特性の劇的な低下をもたらし,TiB粒子分散の効果が全く得られなかった.TiBを均一に分散させるためには,酸素を多量に含有する微細な原料粉末を用い,高い温度で焼結することが必要であり,素材中の酸素含有量は不可避的に増加してしまう.このためTi2AlNb/TiB複合材料の酸素含有量を低減し,本来期待されるTiB粒子分散の効果を発現させるためには,素粉末混合法に代わる新たな製造プロセスの検討が必要である,ということが示された.

 第4章では,素粉末混合法に代わる製造プロセスである合金粉末法を用いてTi2AlNb金属間化合物の製造を試みるとともに,その機械的性質の向上を目的として,基質の金属組織制御,結晶粒径の微細化,TiB粒子分散強化について検討を加えた.製造したTi2AlNbの室温および高温での機械的性質は,加工熱処理による金属組織制御によって大きく向上し,特にα2相の分散によってB2結晶粒径を微細化することでTi2AlNbの室温延性が大幅に改善されること,Ti2AlNb/TiB複合材料においても,素粉末混合法によって製造した場合と比較して,製造工程中の酸素のピックアップがほとんどないことから,素材中の酸素含有量が0.08mass%以下と極めて低いこと,急冷凝固粉末を原料として使用することで分散するTiB粒子がより微細になることなどの理由によって著しい特性の向上が得られることが示された.以上の点から,合金粉末法によるTi2AlNb金属間化合物およびTiB粒子強化複合材料の製造は,Ti-Al-Nb系金属間化合物材料の特性向上の手法として非常に有望であると結論づけられた.

 第5章では,これまでの各章において得られた知見を基に,Ti-Al-Nb系金属間化合物材料の特性向上の手法と向上の程度について整理して示した.金属組織の微細化と結晶粒径の微細化を組み合わせることで,高温強度と材料信頼性のバランスにおいて,既存のチタン系耐熱材料(near α型チタン合金,γ-TiAl)を大きく上回る特性が期待できること,クリープ特性等の高温強度の向上の観点からは,微細なTiB粒子の分散が非常に有効であることが,既存のチタン系耐熱材料やニッケル基超合金との比較,およびモデル式を用いた計算によって示された.

 第6章では、得られた結果を総括した.

 以上のように,本論文は,Ti-Al-Nb系金属間化合物およびTiB粒子強化複合材料について,機械的性質に及ぼす金属組織制御・粒子複合化の影響を詳細に検討し,高温特性と材料信頼性が両立するような,新たな軽量耐熱材料の実用化に向けた組織制御の指針を示したものである.

審査要旨 要旨を表示する

 航空機用エンジンなどの熱機関においては、更なる高効率化のために耐熱特性に優れた軽量構造材料が求められている。本論文は新たな軽量耐熱材料として将来性が期待されているTi-Al-Nb系金属間化合物について、金属微細組織の制御およびセラミック粒子の分散による機械的特性向上の指針を実験的に明らかにしたものであり、全6章より構成されている。

 第1章は序論であり、航空機エンジンなどへの適用が期待されているチタン系耐熱材料の研究開発の現状および問題点を整理し、新しい軽量耐熱材料開発の必要性および要求される機械的特性を明らかにした。候補材料として有望なTi-Al-Nb系金属間化合物の特徴や軽量耐熱材料としての将来性について概説するとともに、製造プロセスや特性向上の手法について既存の研究開発を整理し、問題点を明確にし、本論文の目的を示している。

 第2章では、素粉末混合法を用いてα2+β相組織からなるTi3Al-Nb金属間化合物の製造を試みるとともに、熱処理による金属組織の最適化ならびにTiBセラミック粒子分散強化の両面から力学特性の向上について検討を加えた。その結果、熱処理による金属組織の微細化により、Ti3Al-Nbの室温高サイクル疲労強度を応力繰り返し数104回〜107回の範囲で100MPa程度向上させることが可能であるが、クリープ特性の低下も同時に招くことを実験的に示した。また、TiB粒子の分散によって、Ti3Al-Nbの引張強さは、500℃以下の温度域で100MPa以上向上し、室温高サイクル疲労強度も応力繰り返し数107回で100MPa以上向上することを明らかにした。しかし、650℃以上の高温域では引張強さが急激に低下し、TiB粒子の分散に伴うTi3Al-Nbの微細化によってクリープ特性が逆に劣化してしまうことを明らかにしている。

 第3章では、Ti3Al-Nbよりも高温特性に優れていると考えられるO相(斜方晶)を主体としたTi2AlNb金属間化合物の素粉末混合法による製造を試みるとともに、Ti2AlNb金属間化合物中へのTiB粒子分散の効果を調べた。素粉末混合法によって製造したTi2AlNbの室温および高温での引張特性および室温高サイクル疲労特性は、Ti3Al-Nbと比較して、引張比強度で50Pa・m3g(-1)以上、107回疲労強度で100MPa以上上回ることを明らかにした。一方、TiB粒子分散Ti2AlNb基複合材料では、高酸素含有量(0.8mass%以上)に起因する塊状α2相の析出が600℃以下での引張強さおよび延性の大幅な低下をもたらし、TiB粒子分散の効果が認められないことを示した。これらの結果から、材料中の酸素含有量を低減し、TiB粒子分散の効果を発現させるために、新たな製造プロセスの検討が必要であると結論している。

 第4章では、第3章の結果をもとに、低酸素含有量の材料を得るために、合金粉末法を用いてTi2AlNb金属間化合物の製造を行った。さらに、機械的性質の向上を目的として、Ti2AlNbの金属組織制御、結晶粒径の微細化およびTiB粒子分散強化について検討した。製造したTi2AlNbの室温および高温での機械的性質は、加工熱処理による金属組織制御を行うことによって変化することを実験的に示した。特に、高温単相領域から毎秒0.03〜0.5Kの速度で徐冷するという熱処理を施すことで、室温引張比強度150Pa・m3g(-1)以上、室温延性が約5%、800℃での引張比強度100Pa・m3g(-1)以上と、クリープ特性も合わせた機械的性質のバランスに優れた材料を作り出すことに成功している。さらに、加工熱処理によって均一に分散させたα2相が結晶粒の成長を抑えることによる、結晶粒径の微細化によって、Ti2AlNbの室温延性が最大15%以上と大幅に改善されることを明らかにしている。

 Ti2AlNb/TiB複合材料においても、素粉末混合法によって製造した場合と比較して、合金粉末法を用いて製造した複合材料中の酸素含有量が0.08mass%以下と極めて低いこと、急冷凝固粉末を原料として使用することで、分散するTiB粒子の大きさが500nm以下と非常に微細になること、合金粉末法を用いることによってTi2AlNb/TiB複合材料の室温での引張比強度が150Pa・m3g(-1)以上向上し、全く得られなかった室温延性についても2%以上の延性が得られることを明らかにした。さらに、650℃でのクリープ特性についても、溶解法で製造した粗大なTiB粒子を含む複合材料と比較して、合金粉末法による微細なTiB粒子を含む複合材料が5倍近く高いクリープ変形抵抗を有することを示した。これらの結果より、合金粉末法によるTi2AlNb金属間化合物およびTiB粒子強化複合材料の製造は,Ti-Al-Nb系金属間化合物材料の特性向上の手法として有望であることを示している。

 第5章では、本論文を通して得られた知見をもとに、Ti-Al-Nb系金属間化合物系材料の機械的特性向上の手法および向上の程度について材料組織学的視点から整理している。金属組織の微細化と結晶粒径の微細化を組み合わせることにより、既存のチタン系耐熱材料(チタン合金およびγ-TiAl)を大きく上回る特性が期待できること、クリープ特性等の高温強度の向上の観点からは微細なTiB粒子の分散が非常に有効であること、という指針をまとめている。

 第6章は結論であり、本論文で得られた結果を総括している。

 以上のように,本論文は,Ti-Al-Nb系金属間化合物およびTiB粒子強化複合材料について、機械的性質に及ぼす金属微細組織制御および粒子複合化の影響を詳細に検討し、高温特性と材料信頼性を両立できる新たな軽量耐熱材料の実用化に向けた組織制御の指針を示したものであり、金属材料工学に寄与するところが大である。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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