学位論文要旨



No 216568
著者(漢字) 佐藤,満
著者(英字)
著者(カナ) サトウ,ミツル
標題(和) 半導体パッケージの界面強度評価法に関する研究
標題(洋)
報告番号 216568
報告番号 乙16568
学位授与日 2006.07.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16568号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 渡邊,勝彦
 東京大学 教授 加藤,孝久
 東京大学 教授 酒井,信介
 東京大学 教授 吉川,暢宏
 東京大学 助教授 泉,聡志
内容要旨 要旨を表示する

 電子機器の機能素子として代表的な半導体パッケージでは,使用条件の過酷化および高性能・高信頼化の要求の高まりから,界面はく離の強度評価の必要性が強く要求されている.このため,応力値による評価や,角部の応力特異性に着目した特異場の強さによる評価など,評価手法にも様々なアプローチが試みられてきた.その中でも,界面き裂の応力拡大係数を用いた評価については,半導体製造時に必然的に生じる微小なき裂を仮定すれば,界面破壊じん性との対応としても強度パラメータとして直感的に把握でき,設計に非常に使いやすいという利点がある.

 しかしながら,熱応力下での界面き裂の評価には,界面き裂特有の振動特異性の問題や,界面の接触の問題など理論上困難な要件があり,適用の背景となる理論的裏付けに関しても充分な調査がなされていない.また,半導体パッケージの設計において,一貫した強度評価パラメータを用いて評価を実用に適用したものは従来には無く,ここに本研究の目的および課題を設定した.

 本研究は,上記の背景・意義に着目し,従来ほとんど未開拓であった接触を考慮した界面き裂の応力拡大係数による評価を試み,半導体パッケージの界面強度評価に適用する場合に障害となる要因を個々に解決することによって,界面の応力拡大係数を一貫して用いて最終的に実用に耐える半導体パッケージ強度評価システムを構築したものである.

 本論文は「半導体パッケージの界面強度評価に関する研究」と題し,9章からなる.

 第1章「序論」では,上記のごとく研究の背景・意義を述べるとともに,半導体パッケージの強度評価に関する種々の手法を展望し,応力拡大係数を用いる利点と,半導体パッケージの強度評価に用いるための問題点および解決課題を列挙するとともに,研究の目的と論文の構成を示した.

 第2章「境界要素法の熱応力基礎式の導出と精度向上の検討」では,異種材料が接合された半導体パッケージの熱応力解析法に対して,その骨子となる完全境界積分型の定常熱伝導・熱応力境界要素法の基礎理論と定式化を行った.また,境界要素法の特異積分に起因する問題について,境界上の応力の計算方法,および2次元対数特異積分の変数変換を用いた精度向上方法を示した.

 第3章「半導体パッケージの定常熱応力の境界要素法解析」では,境界要素法による半導体パッケージの熱による変形と応力について解析を行い,半導体パッケージの変形に及ぼす構造因子の影響,およびパッケージ内のシリコンチップ角部の界面せん断応力に及ぼす構造因子の影響について検討した.まず,単純な熱伝導と熱応力問題において,境界積分の精度と多領域問題の妥当性を確認し,次に具体的な半導体パッケージの有限要素法モデルと比較して,本研究で開発したプログラムの精度と妥当性を検証した.これを受けて,半導体パッケージのシリコンチップの長さや上下位置が,変形や応力に及ぼす影響のパラメータスタディを,均一温度負荷および発熱条件下において実施し,パッケージの反りと界面の応力との相互関係について明らかにした.

 第4章「境界要素法による界面き裂応力拡大係数の解析」では,第2章で開発した境界要素法を,熱的および力学的な界面接触問題が解析可能なように拡張するとともに,解析アルゴリズムについて示した.また,半導体パッケージ内部に生じたはく離において,変位外挿法を用いた界面の応力拡大係数Kiの算出法について述べた.さらに,半導体パッケージのダイパッド下に生じたはく離の長さが,界面の応力拡大係数Kiに及ぼす影響のパラメータスタディを,均一温度負荷および発熱条件下において実施し,はく離長さに対する応力拡大係数Kiの傾向を把握した.またこの過程において,半導体パッケージ内部に生じた界面き裂では、き裂面の大部分が接触する場合があることを明らかにし,界面接触解析の必要性を指摘した.

 第5章「界面き裂の応力拡大係数に及ぼす材料物性の影響」では,熱応力下の応力拡大係数を求める場合に,界面接触が生ずるパッケージの構成材の材料物性の範囲について論じた.半導体パッケージに用いられる封止樹脂やダイパッドの物性はある限定された範囲を有しており,界面強度の評価を行う場合にはすべての物性を考慮する必要は無く.その限定された物性範囲の挙動を把握すれば充分である.この物性変化の範囲内で封止樹脂やダイパッドの物性が変化した場合に,界面の接触が生じる条件を明らかにした.また,界面の接触が応力拡大係数を求める場合の変位外挿法の外挿直線性に及ぼす影響についても検討を加えた.

 第6章「界面き裂の破壊じん性評価法の検討」では,界面応力拡大係数Kiに対応する界面の破壊じん性として定義すべき破壊クライテリオンを決定することを目的とし,界面強度評価法の実験的検討を行った.本研究では,エポキシ・42Alloy接着試験片による3点曲げ試験を実施し,破壊時の限界荷重から界面破壊じん性Kicを求める手法を示した.また,2種類のモード比による試験および界面き裂の長さを変化させた試験により,工業用に簡略化した基準としてKicが負荷方法や界面き裂の長さに依存しない界面強度として適用できる可能性を示した.

 第7章「半導体パッケージ界面ディンプルのはく離抑制効果」では,第4章で開発した界面接触解析法の適用例を示した.ここでは半導体パッケージの界面はく離抑制構造の一例として,ダイパッド下面にディンプルを有するパッケージの応力拡大係数低減効果について論じた.残留熱応力下でのディンプルのはく離抑制効果,および水蒸気圧付加条件下でのはく離抑制効果について述べるとともに,その応力拡大係数低減メカニズムについても言及した.また,ディンプルの深さ,ディンプルの間隔がはく離進展抑制効果に及ぼす影響についても検討を加えた.

 第8章「半導体パッケージの強度評価システムの開発」では,上記開発成果を盛り込み,設計に適用できるシステムとして開発した半導体パッケージの強度評価システムの概要について述べた.半導体パッケージ開発における,設計初期段階での構造強度面の信頼性評価が十分に行えることを目的として開発した.設計者が理解しやすいように製造プロセスごとに評価可能な構成とし,有限要素法や境界要素法に精通しない設計者でも使えるシステムを構築した.これにより開発期間の大幅な短縮が実現できた.

 第9章「結論」は研究で得られた成果を結論としてまとめるとともに,今後の課題と研究の方向づけについて述べた.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「半導体パッケージの界面強度評価法に関する研究」と題し、本文9章からなる。

 半導体パッケージは、電子機器の機能素子として代表的なものであるが、その使用条件の過酷化、高性能・高信頼化への要求の高まりから、界面はく離の強度評価の必要性が強く求められている。このため、応力や角部の応力特異性の強さ、また界面き裂の応力拡大係数等をパラメータに様々な強度評価の試みがなされてきているが、いずれも一長一短があり、一貫したパラメータを用いて強度評価を行い、実際の設計に用いるということは無かった。本研究はこのような背景に着目し、従来ほとんど未開拓であった、接触も考慮した界面き裂の応力拡大係数による界面はく離強度の一貫した評価を目指し、これを半導体パッケージの界面強度評価に適用する場合に障害となる要因を個々に解決して、実用に耐えうる半導体パッケージ強度評価システムを構築したものである。

 第1章は「序論」であり、本研究の背景、目的・意義、および本論文の構成について述べている。

 第2章「境界要素法の熱応力基礎式の導出と精度向上の検討」では、異種接合材料の定常熱伝導下熱応力を境界要素法により解析するための基礎理論を述べるとともに必要な定式化を行っている。また、境界要素法解析における特異積分に起因する問題について、境界上の応力の計算方法、および、対数特異積分項評価における変数変換を用いた精度向上法を示している。

 第3章「半導体パッケージの定常熱応力の境界要素法解析」は、前章の成果を取り入れた境界要素法プログラムを開発し、半導体パッケージの熱による変形と応力についての解析を行い、構造因子がパッケージ変形やシリコンチップ角部の界面せん断応力に及ぼす影響を検討したものである。始めに基本問題に対する有限要素法による解析結果との比較を通じて、開発プログラムの精度・妥当性を検証した後、一連の解析を行い、熱応力に伴うパッケージの反りと界面の応力の相互関係に及ぼすシリコンチップの長さや上下位置が及ぼす影響等を明らかにしている。

 第4章「境界要素法による界面き裂応力拡大係数の解析」では、まず第3章で開発した境界要素法プログラムを、き裂上下面の熱的および力学的接触問題を解析できるように拡張すると共に、半導体パッケージ内部に生じたはく離によるき裂の応力拡大係数Kiの変位外挿法による算出について述べている。また、続いて行ったパラメータスタディを通じて、半導体パッケージのダイパッド下に生じたはく離の長さが界面の応力拡大係数Kiに及ぼす影響についての傾向を把握すると共に、半導体パッケージ内部に生じた界面き裂では、き裂面の大部分が接触する場合があることを明らかにし、き裂面接触解析の必要性を指摘している。

 第5章は「界面き裂の応力拡大係数に及ぼす材料物性の影響」であり、半導体パッケージの構成材に対し、熱応力下において界面き裂においてき裂面接触が生じる材料物性の範囲について論じている。すなわち、半導体パッケージに用いられる封止樹脂やダイパッドの物性はある限定された範囲内にあり、その範囲内で接触が起こるかどうか知れれば十分であることを指摘すると共に接触が生じる条件を明らかにしている。

 第6章「界面き裂の破壊じん性評価法の検討」では、界面応力拡大係数Kiで表現した界面き裂の破壊じん性KiCを求めるための破壊実験を行っている。具体的には、エポキシ/42Alloy接着試験片による2種類のモード比の下での3点曲げ試験を実施し、実際に用いられる材料の組み合わせの範囲で、KiCが負荷方法やき裂の長さに依存しない界面強度として用いることができる可能性を示している。

 第7章「半導体パッケージ界面ディンプルのはく離抑制効果」は、半導体パッケージの界面はく離抑制構造の例として、ダイパッド下面にディンプルを有する場合を取り上げ、その応力拡大係数低減効果について論じたものである。熱応力下および蒸気圧付与の下でのディンプルに沿った界面き裂の応力拡大係数解析を実施し、ディンプルの存在による応力拡大係数低減のメカニズム、ディンプル間隔がはく離進展抑制効果に及ぼす影響等について検討している。

 第8章「半導体パッケージの強度評価システムの開発」は、前章までの成果を盛り込み、実際の設計に適用することを目的に開発した半導体パッケージ強度評価システムについて述べたものである。設計初期段階での構造強度面の信頼性評価が十分行えるよう留意して開発されたものであり、これにより、開発期間の大幅短縮が実現できたことを述べている。

 第9章は「結論」であり、本論文の成果がまとめられている。

 以上要するに本論文は、半導体パッケージの界面はく離問題につき、界面応力拡大係数に注目し、その解析法の開発から、それを適用して、実際の半導体パッケージに見られるはく離強度評価上の諸問題を解決する方法を提示すると共に、実用に耐えるパッケージ強度評価システムの開発まで行ったものであり、より厳しい条件下でのより一層の高性能化が求められている半導体パッケージの強度信頼性向上に寄与するところが大きいものと考えられる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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