学位論文要旨



No 216573
著者(漢字) 島本,涼一
著者(英字)
著者(カナ) シマモト,リョウイチ
標題(和) MR imagingおよびX線CTによる冠動脈形態の評価 : プロファイル曲線による冠動脈径の計測
標題(洋)
報告番号 216573
報告番号 乙16573
学位授与日 2006.07.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第16573号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高本,眞一
 東京大学 助教授 平田,恭信
 東京大学 助教授 中川,恵一
 東京大学 助教授 滝沢,始
 東京大学 助教授 林,同文
内容要旨 要旨を表示する

冠動脈の形態評価においてはcatheter coronary angiography (catheter CAG)による1方向ないし3方向のprojectionでは病変を記述しきれない可能性があり,冠動脈短軸像のもつ臨床的意義は大きい。Magnetic resonance (MR) imaging, computed tomography (CT)は非侵襲的ないし低侵襲的に冠動脈の短軸像を得ることが可能であり,そのためにMR coronary angiography (MR-CAG), CT coronary angiography (CT-CAG)が注目されている。しかしながら,MR-CAGやCT-CAGより得た冠動脈短軸像上でプロファイル曲線(横軸に距離,縦軸に核磁気共鳴信号強度あるいはHounsfield値をプロットした曲線)を描く場合,鉛直に立ち上がる理想的な矩形を呈さず,血管壁縁と思われる解剖部位はなだらかな勾配を有するスロープを形成する。このことは計測に用いるディスプレイの設定条件(ウィンドウ中心とウィンドウ幅)により血管壁縁の位置がスロープの上で変動することを意味する。そこで本研究では,MR-CAGにおいては(1)いくつかの実験的ウィンドウ設定条件を設け,計測血管径のウィンドウ設定による変動性を評価すること,(2)至適ウィンドウ設定の決定,(3) MRプロファイル曲線上での血管径推定方法,について検討した。また,CT-CAGにおいては,ウィンドウ設定に依存しないCTプロファイル曲線から血管径を推定する適切な指標の決定を目的とした。

 MR-CAGに関しては,7例の冠動脈52カ所において短軸像を得た。この短軸像上で,8通りの計測条件で,冠動脈径を計測した。また,冠動脈中心を通る線分上で核磁気共鳴信号強度のプロファイル曲線を描いた。これらの症例に対してcatheter CAGを施行した。MR-CAGにおける計測と同一部位同一方向において冠動脈径をデンシトメトリシステムを用いて計測し,MR-CAG計測値とのagreementを検討した。さらにcatheter CAGにおける冠動脈径に相当する信号強度をプロファイル曲線上で求めた。

 CT-CAGに関しては,7例の冠動脈29カ所において短軸像を得,冠動脈中心を通る線分上でHounsfield値のプロファイル曲線を描いた。これらの症例に対してIVUSを施行し,同一部位において冠動脈径を計測した。IVUSにおいて計測した冠動脈径がプロファイル曲線上のどのHounsfield値に相当するかを計測した上で,プロファイル曲線上の計測値からIVUSにおける計測値を推定するための実験的な7種類の指標を定め,平均値を求めた。

 まず,MR-CAGにおける計測結果をまとめる。52解剖部位における冠動脈径を,4通りのウィンドウ設定それぞれにつきグレーゾーンを含む場合と含まない場合の,計8通りの条件で計測したところ,8通りの計測により最小2.0±0.5 mmから最大6.0±0.8 mmと有意な差があった (p<0.01)。このことからウィンドウ設定条件により計測値が大きく影響を受けることが示された。従って,計測に際してはウィンドウ設定の規格化が必須であることが示唆された。8通りの条件で計測した径とデンシトメトリにより計測した径とのagreementを求めたところ,ウィンドウ中心を最大信号強度の50%のレベルとし,ウィンドウ幅を最大信号強度の50%または25%とする設定にて,周囲のグレーゾーンを除外して計測したときに,agreementは最良であった (14%)。デンシトメトリにより求めた52カ所の冠動脈径をそれぞれのMRプロファイル曲線に楔入させたレベルを血管内腔の最大信号強度で除し,規格化した値は65.1±9.7%であった。

 次にCT-CAGの結果をまとめる。CTプロファイル曲線を用いて最良の冠動脈径推定方法を確定するため,7つの実験的指標を用い,それぞれの方法から得た推定値とレファレンスとして用いたIVUSの実測値とのagreementを求めた。その結果,脂肪をバックグラウンドとしてプロファイルの最大値の57%のレベルにおいてプロファイル曲線上の2点間水平距離を計測した場合,もしくは水をバックグラウンドとして最大値の41%のレベルにおいて計測した場合に最もよいagreementが得られた (16%)。

 本研究において用いた7つの実験的指標より推定された計測値とIVUSによる実測値とのagreementは,水をバックグラウンドとしてプロファイル曲線最大値の41%のレベルにおける2点間水平距離を計測した場合と,脂肪をバックグラウンドとして最大値の57%のレベルにおける2点間水平距離を計測した場合に最良であった (16%) 。仮に冠動脈径が2.5 mmであるとすると今回の方法による誤差は0.4 mm [= 2.5 mm × 0.16]と計算され,水平断像に空間分解能にほぼ一致する。したがって将来ハードウェアの進歩により空間分解能が向上すればagreementもそれに伴い良好になるものと期待される。

 現状では,CT-CAG,MR-CAGのいずれにおいてもプロファイル曲線の血管壁縁は,理想的な矩形とはならずスロープを形成するため,視覚的に行なわれる血管壁縁の認識はウィンドウ設定条件の如何によりスロープ上で変動する。本研究では,短軸像上での視覚的冠動脈径計測はウィンドウ設定によって変動することを示した。一方プロファイル曲線はウィンドウパラメータに依存しないため,プロファイル曲線を利用して血管径を求める方法は視覚的な計測法に比して優れていると考えられた。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は非侵襲的画像法であるmagnetic resonance (MR) imagingやX線computed tomography (CT)を用いた冠動脈形態診断においてウィンドウ設定が与える影響を明らかにした上で、ウィンドウ設定に影響を受けない信号強度の空間的プロファイル曲線を用いた冠動脈径の計測を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1.MR coronary angiography (MR-CAG)において、52解剖部位における冠動脈径を、4通りのウィンドウ設定それぞれにつきグレーゾーンを含む場合と含まない場合の計8通りの条件で計測したところ、最小2.0±0.5 mmから最大6.0±0.8 mmと有意な差があった (p<0.01)。このことからウィンドウ設定条件により計測値が大きく影響を受けることが示された。従って、計測に際してはウィンドウ設定の規格化が必須であることが示唆された。

2.冠動脈の同一部位をMR-CAGにおいて8通りの条件で計測した径とデンシトメトリにより計測した径とのagreementを求めたところ、ウィンドウ中心を最大信号強度の50%のレベルとし、ウィンドウ幅を最大信号強度の50%または25%とする設定にて、周囲のグレーゾーンを除外して計測したときに、agreementは最良であった (14%)。

3.デンシトメトリにより求めた52カ所の冠動脈径をそれぞれのMRプロファイル曲線に楔入させたレベルを血管内腔の最大信号強度で除し、規格化した値は65.1±9.7%であった。したがって、ウィンドウ設定に依存しないプロファイル曲線による冠動脈径計測法としてデンシトメトリ実測値を最も正確に推定する方法は、最大値の65%における同曲線の2点間水平距離を計測することと考えられた。

4.CT coronary angiography (CT-CAG)における空間的プロファイル曲線を用いた最良の冠動脈径推定方法を確定するため、7つの実験的指標を用い、それぞれの方法から得た推定値とレファレンスとして用いたIVUSの実測値とのagreementを求めた。その結果、脂肪をバックグラウンドとしてプロファイルの最大値の57%のレベルにおいてプロファイル曲線上の2点間水平距離を計測した場合、もしくは水をバックグラウンドとして最大値の41%のレベルにおいて計測した場合に最良のagreementが得られた (16%)。

 以上、本論文は非侵襲的画像法であるMR-CAGやCT-CAGにおいてウィンドウ設定が冠動脈形態診断に与える影響を明らかにした上で、ウィンドウ設定に影響を受けない信号強度の空間的プロファイル曲線を用いた冠動脈径の計測法を提示した。本研究はMR-CAGやCT-CAGの計測値の精度向上の方法として従来検討されてこなかった空間的プロファイルを利用した計測法を提案した研究であり、冠動脈の非侵襲的画像診断に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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