学位論文要旨



No 216597
著者(漢字) 本田,隆英
著者(英字)
著者(カナ) ホンダ,タカヒデ
標題(和) 砕波帯を対象とした底質移動特性の解明と拡張二相流モデルの構築
標題(洋)
報告番号 216597
報告番号 乙16597
学位授与日 2006.09.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16597号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 佐藤,愼司
 東京大学 教授 磯部,雅彦
 東京大学 助教授 黄,光偉
 東京大学 講師 田島,芳満
 東京大学 講師 知花,武佳
内容要旨 要旨を表示する

 港内堆砂や構造物設置にともなう海浜変形などの予測において,砕波帯の漂砂量推定は特に重要となる.一方で,砕波による乱れや渦運動の複雑性により,砕波帯の底質移動機構の把握や漂砂量の推定は極めて困難である.本研究は,底質移動が活発に生じる底面付近の底質および流体の時空間的な挙動を詳細に再現できる二相流モデルを砕波を含む岸沖二次元場に拡張し,砕波帯の底質挙動を再現する数値モデルを構築した.砕波前後で流体運動や底質移動の挙動が異なるため,砕波帯を砕波前の砕波帯外と砕波後の砕波帯内に区分し,拡張二相流モデルの適用性に対する検討を行った.二相流モデルの拡張に先立ち,拡張二相流モデルの検証データの取得および砕波帯における底質移動特性の解明を目的とし,底質の基本パラメータに着目した海浜断面変形実験を実施した.

(1)底質比重と粒子形状に着目した海浜断面変形実験

 拡張二相流モデルの検証には,比重などの底質の基本パラメータが異なる広範な条件で実施された移動床実験が有効である.これに加えて,基本パラメータの違いによる砕波帯の底質移動特性を把握するため,比重と粒子形状が異なる底質を用いて海浜断面変形実験を実施した.実験結果に対して,底質の基本パラメータが砕波帯の底質移動機構に及ぼす影響を再整理した.

 底質比重に着目した海浜断面変形実験では,比重の大きな底質で構成された海浜は,底質移動が抑制され,波浪外力に対して安定傾向になることが定量的に再確認された.また,等価粒径を導入したC'値は、比重の異なる底質においても侵食・堆積型海浜の判別指標として用いることが可能であることを示した.

 粒子形状に着目した海浜断面変形実験では,丸珪砂海浜に比べて角珪砂海浜は,沖合への底質の移動が抑制され,底質の砂漣発生の限界位置はより岸側に現れ,汀線は前進傾向にあり,前浜勾配は急になり,発生したバーは岸方向へ移動しやすくなることが分かった.また底質の粒子形状により,海浜変形パターンが大きく変わることはほとんどないものの,堆積型ではバームの形状に,侵食型では岸沖土砂移動量に,また全体を通して砂漣発生の限界位置やバーの移動に違いが現れた.これにともなって,掃流・浮遊砂状態の漂砂量に違いが現れ,角張った砂で構成された海浜は波浪外力に対して安定傾向になることが確認された.

 以上の実験により,二相流モデルの検証に有効な底質移動特性に関するデータを豊富に取得した.

(2)二相流モデルの砕波帯への拡張

 二相流モデルはこれまで底面境界層内の鉛直一次元場に限定して解析されていたため,移流項を省略せず境界層近似を応用するなどしてモデルの適用範囲を砕波帯にまで拡張した.拡張した二相流モデルを用いて数ケースの数値実験を実施し,すべてのケースで妥当な計算結果が得られた.特に,比重に関する移動床実験に基づいた数値実験では,流速波形特性のうち正味漂砂量に与える比重の影響には流速加速度が大きく寄与していることが明らかとなった.また,拡張モデルは層流振動流境界層の理論解とかなり良く一致しており,二次のオーダーである質量輸送量まで再現できることが示された.さらに,底質運動を含めた乱流状態の波動流に対する再現計算では,底質の舞上がり濃度に質量輸送の影響が反映され,波動流の特徴をよく再現できていることが示された.

(3)拡張二相流モデルの砕波帯外への適用

 拡張した二相流モデルを砕波帯に適用するにあたり,まずは砕波帯外を対象に底質移動に関する数値計算を実施した.初めに,底面境界層内で発達し漂砂量に大きく寄与する質量輸送が正味漂砂量に及ぼす影響を検討した.その結果,振動流場のケースに比べて波動場に対する岸向き正味漂砂量は質量輸送の影響を受けて有意に増加することが示された.さらに振動流実験の結果に基づく局所漂砂量モデルにおいても,質量輸送速度を定常流成分として与えることで波動場の正味漂砂量を良好に算出できることが分かった.この手法により現地スケールに対して正味漂砂量を試算・検討した上で,大型水路実験に対する再現計算を行ったところ,質量輸送を加味することでバーの発生過程を良好に再現することができた.

(4)拡張二相流モデルの砕波帯内への適用

 次に,砕波により流体および底質の挙動が複雑となる砕波帯内を対象に,拡張二相流モデルの適用性を検討した.

 まず,拡張二相流モデルにおいて砕波に関する水理現象をより適切にモデル化するため,同モデルから圧力勾配に関する仮定を取り除き,自由表面解析モデルおよび砕波による拡散モデルを追加した.

 計算ケースは砕波形式が崩れ砕波および巻き砕波となる2ケースを設定し,拡張二相流モデルを用いて砕波による底質巻上げ量について検討した.その結果,拡張二相流モデルにより砕波帯内の流体運動を高い精度で再現できることを示した.また,砕波による拡散を考慮した拡張二相流モデルにより,砕波形式による底質巻き上げ分布の違いを再現できることが分かった.ただし,砕波後の底質挙動について本研究で実施した海浜断面変形実験と比較考察したところ,浮遊砂の輸送と密接に関係する戻り流れの再現性に課題が残る結果となった.

審査要旨 要旨を表示する

 港内堆砂や構造物設置にともなう海浜変形などの予測において,砕波帯の漂砂量推定は特に重要となる.一方で,砕波による乱れや渦運動の複雑性により,砕波帯の底質移動機構の把握や漂砂量の推定は極めて困難である.本論文は,底質移動が活発に生じる底面付近の底質および流体の時空間的な挙動を詳細に再現できる二相流モデルを砕波を含む岸沖二次元場に拡張し,砕波帯の底質挙動を再現する数値モデルを構築したものである.砕波前後で流体運動や底質移動の挙動が異なるため,砕波帯を砕波前の砕波帯外と砕波後の砕波帯内に区分し,拡張二相流モデルの適用性に対する検討が行われている.二相流モデルの拡張に先立ち,拡張二相流モデルの検証データの取得および砕波帯における底質移動特性の解明を目的とし,底質の基本パラメータに着目した海浜断面変形実験が実施された.

 拡張二相流モデルの検証には,比重などの底質の基本パラメータが異なる広範な条件で実施された移動床実験が有効である.これに加えて,基本パラメータの違いによる砕波帯の底質移動特性を把握するため,比重と粒子形状が異なる底質を用いて海浜断面変形実験が実施された.底質比重に着目した海浜断面変形実験では,比重の大きな底質で構成された海浜は,底質移動が抑制され,波浪外力に対して安定傾向になることが定量的に再確認された.また,等価粒径を導入したC'値は、比重の異なる底質においても侵食・堆積型海浜の判別指標として用いることが可能であることを示した.粒子形状に着目した海浜断面変形実験では,丸珪砂海浜に比べて角珪砂海浜は,沖合への底質の移動が抑制され,底質の砂漣発生の限界位置はより岸側に現れ,汀線は前進傾向にあり,前浜勾配は急になり,発生したバーは岸方向へ移動しやすくなることが分かった.また底質の粒子形状により,海浜変形パターンが大きく変わることはほとんどないものの,堆積型ではバームの形状に,侵食型では岸沖土砂移動量に,また全体を通して砂漣発生の限界位置やバーの移動に違いが現れた.これにともなって,掃流・浮遊砂状態の漂砂量に違いが現れ,角張った砂で構成された海浜は波浪外力に対して安定傾向になることが確認された.

 二相流モデルはこれまで底面境界層内の鉛直一次元場に限定して解析されていたため,移流項を省略せず境界層近似を応用するなどしてモデルの適用範囲を砕波帯にまで拡張した.拡張した二相流モデルを用いて数ケースの数値実験を実施し,すべてのケースで妥当な計算結果が得られた.特に,比重に関する移動床実験に基づいた数値実験では,流速波形特性のうち正味漂砂量に与える比重の影響には流速加速度が大きく寄与していることなどが明らかとなった.さらに、砕波により流体および底質の挙動が複雑となる砕波帯内を対象に,拡張二相流モデルの適用性を検討した.計算ケースは砕波形式が崩れ砕波および巻き砕波となる2ケースを設定し,拡張二相流モデルを用いて砕波による底質巻上げ量について検討した.その結果,拡張二相流モデルにより砕波帯内の流体運動を高い精度で再現できることを示した.また,砕波による拡散を考慮した拡張二相流モデルにより,砕波形式による底質巻き上げ分布の違いを再現できることが分かった.

 以上,要するに,本研究は計測やモデル化が困難な砕波帯内の底質移動現象について,実験と二相流理論による数値モデルを開発し,予測精度の高いモデルを提案することに成功した.開発したモデルの妥当性は,最新の実験データに対して網羅的に検証されており,現時点では本モデルが世界中で最も高精度なモデルであることが定量的に示されている.本研究で開発したモデルは,縮尺効果の影響を受ける経験定数を含まないため,現地海岸条件にも適用可能なものであり,広い適用範囲を持つもので実用性が高い.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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