学位論文要旨



No 216598
著者(漢字) 岡田,威海
著者(英字)
著者(カナ) オカダ,タケミ
標題(和) 環境の構造に関する基礎的研究 : 日本民家集落の場合の考察
標題(洋)
報告番号 216598
報告番号 乙16598
学位授与日 2006.09.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16598号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 長澤,泰
 東京大学 教授 鈴木,博之
 東京大学 教授 難波,和彦
 東京大学 教授 岸田,省吾
 東京大学 助教授 西出,和彦
内容要旨 要旨を表示する

本研究は、日本の民家集落を対象として、環境の構造を究明しようとしたものである。民家集落をとりあげたのは、それが自然成長性をもっているために、人工環境としての原初性をもっていると考えられる点にある。ここではその人工環境化の構造を、つくる視点、すなわち構成する視点から捉えようとする。そのために、まず、対象の構成を、形式、すなわち、空間とそれを規定する物体で捉える。そしてその意味の把握へと向かう。環境は、それを体験する人間に対して、様々なはたらきかけをするが、本研究では、それらのはたらきかけの構造を形式とその意味によって明らかにし、人工環境の構成の指針を得ようとする。こうした問題意識に対しては、従来から、物体と空間の相互規定関係を研究する構成研究の系譜がある。本研究もその延長上にあるが、相対立する構成を客観的に評価し、それらを制御しようとするとき、それらの構成を、ひとつの意味論の中で統一的に捉える構造的アプローチが必要となる。

本論に入る前に、序論において、こうした事柄とそれにかかわる既往の研究をあらかじめ概観した。

本論文は大きく第1部と第2部に分かれている。第1部では人工環境化の構造を形式の側面から捉え、第2部では意味の側面から捉える。研究の事例としては、調査を行った6箇所9集落と、文献資料からの7集落の計16集落を主な対象とした。

第1部環境の形式構造

第1章では、形式構造の分析を行う上での主要な概念の規定と、分析枠組みの設定を行った。環境の単位を定義し、基底となる単位の構成形式(基底型)を提示した。すなわち、各環境の単位は、下限の単位を除いて、かならず一段下位の環境の単位をもつため、これら上位と下位の間に、ここでいう境界空間が形成される。この境界空間は、単位の内部を形成すること、また、そこは人間が常に行動し行為する場であるため、単位の形式構成を統合する空間であることをあらかじめ示唆した。単位の形式構成は、具体的には、形式構成のタイプ、すなわち構成型として捉えられる。これは、また、内部の具体化された姿でもある。本研究では、環境の形式構造の分析とは、この構成型を分析することであるとして、構成型を規定する要因として、形状関係・位置関係・取り合い関係・出入口関係・境界の開閉関係の五つを基底型から導いた。また、構成型を、これらの要因に属する形式特徴の対立項の均衡状態として捉え、論を進めた。

第2章から第5章までは、家屋・敷地・ブロック・集落の各環境の単位に、それぞれ一章をさいて、日本の民家集落における環境の単位の形式構造を分析した。すなわち、第1章で設定した概念と分析枠組みを用いて、各単位ごとに事例の構成型を抽出し、構成型の相互関係を捉えた。また、それらの設定概念と分析枠組みの有効性を検証した。

第2章では、事例から家屋単位の構成型を抽出し、それらの構成型相互が、床上の形状関係における方向型と均等型の対立項と、家屋の取り合い関係における、通り型と止まり型の対立項の、二組の形式特徴の対立関係によって構造化できることを示した。また、その中の四つの構成型について、それらの形式構成が対極の対角関係をなすことを示して、それらを、各生業を代表する家屋の構成型とみなした。

第3章では、事例から敷地単位の構成型を抽出し、それらの構成型相互が、敷地の取り合い関係における中庭移行型と外周庭維持型の対立項と、敷地の出入口関係における道入り型と庭入り型の対立項の、二組の形式特徴の対立関係によって構造化できることを示した。また、その中の四つの構成型について、それらの形式構成が対極の対角関係をなすことを示して、それらを、各生業を代表する敷地の構成型とみなした。

第4章では、事例からブロック単位の構成型を抽出し、それらの構成型相互が、ブロック内の敷地の位置関係における孤立型と接道型の対立項と、ブロック境界の開閉関係における、道庭型・路地型・閉鎖型の対立項の、二組の形式特徴の対立関係によって構造化できることを示した。

第5章では、事例から集落単位の構成型を抽出し、それらの構成形相互が、街路網形状の方向型と均等型の対立項と、集落の出入口関係における陸系型と水系型の対立項の、二組の形式特徴の対立関係によって構造化できることを示した。

この間、各章において、境界空間の統合作用が、各段階の環境単位を、境界空間と同位の単位の単なる総和以上の、一段上位の新たな単位にまとめあげていることを指摘した。

第6章では、第1部のまとめとして、日本の民家集落における環境単位の構成型の相互関係を整理した。また、それらにもとづいて、構成型の索出過程を一般化した。この過程は、ここで用いた事例の性質上、原初的で自然成長的な形式構成を示唆するものと考えられる。そして、第1部の結論として、環境の形式構造は、より内側を形成しようとする力が、境界空間を介して、構成型の各規定要因にはたらいて、段階的に内部を形成していく構造をもつことを示した。

第2部 環境の意味構造

第1章では、意味構造の分析を行う上での主要な概念の規定と、分析枠組みの設定を行った。内包的意味として、内部性という概念を設定し、その内部性を支える外延的意味として、階層性・結合性・対面性・表性の四つの意味類型を導いた。これらの意味類型は、単位の基底型に生じる意味を分解して捉えたものである。階層性と結合性は、それぞれ環境単位の包含関係と排除(近接)関係から生じる意味に対応している。また、対面性は、単位と境界空間が対面する関係から生じる意味であり、表性は、単位の出入口と中心に生じる意味と考えられる。本研究では、環境の意味構造の分析とは、この内部性を分析することであるとして、内部性を、各意味類型に属する意味特徴の均衡状態として捉え、論を進めた。

第2章から第5章までは、四つの意味類型に、それぞれ一章をさいて、日本の民家集落の事例にもとづいて、その内部性を抽出し、意味特徴を捉えた。また、それによって第1章で設定した概念と分析枠組みの有効性を検証した。

第2章では、階層性に属する意味特徴として、引き込み性・方向転換性・開閉性・量塊性の各項目を事例にもとづいて抽出した。また、空間に生じる意味と物体(境界)に生じる意味の二つの分類軸により、階層性の意味特徴を構造化して示した。

第3章では、結合性の意味特徴として、媒介結合性・通り抜け結合性・拡張性・中心性・一様性の各項目を事例にもとづいて抽出した。また、空間に生じる意味と物体(境界)に生じる意味の二つの分類軸により、結合性の意味特徴を構造化して示した。

第4章では、対面性の意味特徴として、補助空間性・空地性・接触交換性・開口性の各項目を事例にもとづいて抽出した。また、空間に生じる意味と物体(境界)に生じる意味の二つの分類軸により、対面性の意味特徴を構造化して示した。

第5章では、表性に属する意味特徴として、出入口の表性・中心の表性・表明性・表の形状性の各項目を事例にもとづいて抽出した。また、空間に生じる意味と物体(境界)に生じる意味の二つの分類軸により、表性の意味特徴を構造化して示した。

そして、この間、境界空間としての路地や道庭が親密な結合性をもたらしている点や、土間や庭がその引き込み性や方向転換性によって、内外の階層性を形成している点、あるいは、道が、表通りや裏通りを形成し、表性の強弱を生じている点などをみた。

第6章では、第2部のまとめとして、日本の民家集落の環境単位ごとに、その内部性を整理した。また、それにもとづいて、内部性の索出過程を一般化した。さらに、四つの意味類型が、個別性と集団性の対立項と、対内性と対外性の対立項の、二組の対立関係によって構造化されることを示した。そして、第2部の結論として、環境の意味構造は、より内側を形成しようとする力が、境界空間を介して内部性を支える各意味類型にはたらいて、段階的に内部を形成していく構造をもつことを示した。

最後に、本研究全体の結論として、環境は内部形成の構造をもつこと、そして、人間が行動し行為する場である境界空間の統合力によって、その内部を人間の空間としていかなければならないことを示した。

審査要旨 要旨を表示する

 この論文は日本の民家集落が人工環境ではあるが、原初性と自然成長性をもっている点に着目して、これらの実地調査と実測の結果を題材として、環境の構造を究明することを目的としている。

 本論文は、序論と結論のほか、人工環境化構造を形式の側面から捉えた第1部(6章)と意味の側面から捉えた第2部(6章)とで構成される。

 序論では、研究の目的、位置づけそして既往研究の分析のほか、調査を行った6箇所9集落と文献資料からの7集落の計16集落を主な研究の対象としたことを示している。

 第1部 環境の形式構造

 第1章では、形式構造の分析を行う上での主要な概念規定と分析枠組みの設定を行っている。すなわち環境の単位を定義し、基底となる単位の構成形式(基底型)を提示している。本研究では、環境の形式構造の分析を、この構成型を分析することであるとして、構成型を規定する要因として、形状・位置・取合・出入口・境界の開閉といったの五つの関係を規定型から導いている。また、構成型を、これらの要因に属する形式特徴の対立項の均衡状態として捉え、論を進めている。

 第2章では、家屋単位の構成型を抽出し、それらが床上の形状関係における方向型と均等型と、家屋の取合い関係における通り型と止まり型との二つの対立項が二組の形式特徴の対立関係によって構造化できることを示している。

 第3章では、敷地単位の構成型を抽出し、それらが敷地の取合い関係における中庭移行型と外周庭維持型と、敷地の出入口関係における道入り型と庭入り型との対立項が二組の形式特徴の対立関係によって構造化できることを示している。

 第4章では、ブロック単位の構成型を抽出し、それらがブロック内の敷地の位置関係における孤立型と接道型と、ブロック境界の開閉関係における道庭型・路地型・閉鎖型との対立項が二組の形式特徴の対立関係によって構造化できることを示している。

 第5章では、集落単位の構成型を抽出し、それらが街路網形状の方向型と均等型と、集落の出入口関係における陸系型と水系型との対立項の二組の形式特徴の対立関係によって構造化できることを示している。

 第6章では、第1部のまとめとして、日本の民家集落における環境単位の構成型の相互関係を整理し、構成型の索出過程を一般化している。第1部の結論として、環境の形式構造は、より内側を形成しようとする力が、境界空間を介して、構成型の各規定要因にはたらき、段階的に内部を形成していく構造をもつことを示している。

 第2部 環境の意味構造

 第1章では、意味構造の分析を行う上での主要な概念規定と分析枠組みの設定を行っている。内包的意味として内部性概念を設定し、それを支える外延的意味として、階層性・結合性・対面性・表性の四つの意味類型を導いている。本研究では環境の意味構造の分析とは、この内部性を分析することであるとして、内部性を各意味類型に属する意味特徴の均衡状態として捉えて論を進めている。

 第2章では、階層性に属する意味特徴として、引き込み性・方向転換性・開閉性・量塊性の各項目を抽出している。また空間と物体(境界)に生じる意味の二分類軸により、階層性の意味特徴を構造化して示している。

 第3章では、結合性の意味特徴として、媒介結合性・通り抜け結合性・拡張性・中心性・一様性の各項目を抽出している。また空間と物体(境界)に生じる意味の二分類軸により、結合性の意味特徴を構造化して示している。

 第4章では、対面性の意味特徴として、補助空間性・空地性・接触交換性・開口性の各項目を抽出している。また空間と物体(境界)に生じる意味の二分類軸により、対面性の意味特徴を構造化して示している。

 第5章では、表性に属する意味特徴として、出入口の表性・中心の表性・表明性・表の形状性の各項目を抽出している。また空間と物体(境界)に生じる意味の二つの分類軸により、表性の意味特徴を構造化して示している。

 第6章では、第2部のまとめとして、日本の民家集落の環境単位ごとに、その内部性を整理している。また内部性の索出過程を一般化している。さらに、四つの意味類型が、個別性と集団性と、対内性と対外性との対立項の二組の対立関係によって構造化されることを示している。第2部の結論として、環境の意味構造は、より内側を形成しようとする力が、境界空間を介して内部性を支える各意味類型にはたらいて、段階的に内部を形成していく構造をもつことを示している。

 以上のように、本論文は日本の民家集落の実地調査・実測に基づいた分析により環境構造を究明して基本的な知見を示し、建築計画学の発展に大きな寄与したものである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/42881