学位論文要旨



No 216603
著者(漢字) 宮本,岳史
著者(英字)
著者(カナ) ミヤモト,タケフミ
標題(和) 地震時の鉄道車両の挙動に関する研究
標題(洋)
報告番号 216603
報告番号 乙16603
学位授与日 2006.09.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16603号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 須田,義大
 東京大学 教授 金子,成彦
 東京大学 教授 鎌田,実
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 助教授 鈴木,高宏
内容要旨 要旨を表示する

 1995年1月17日早朝、最大震度7(マグニチュード7.2)の兵庫県南部地震が発生し、大きな被害が発生した。このとき数多くの鉄道車両が脱線し、その中には鉄道構造物や軌道に大きな被害が見られないにも関わらず脱線に至っている事例があったことから、鉄道構造物が破壊されない規模の地震において、鉄道車両が地震動が原因で脱線することが示された。

 地震時の鉄道車両の挙動について、大変位振動する軌道上を走行する車両挙動を解析するシミュレーションプログラムを開発し、シミュレーション解析の妥当性を実物の新幹線台車を用いた振動台実験により検証し、正弦波加振に対する走行安全限界を求め、この走行安全限界における加振周波数毎の車両の挙動を明らかにした。また、ランダムな地震動に対する走行安全限界を求める手法を提案した。これらの研究成果は鉄道システムの地震に対する安全性向上に寄与するものである。

 本研究の主な目的は2つある。

 (1) 大変位振動する軌道上にある車両の挙動を調査すること

 (2) 鉄道構造物の設計に車両の走行安全性を反映させること

 この目的に対し得られた結果は以下のようにまとめられる。

 第2章では、地震時に大変位振動する軌道上にある鉄道車両の運動を解析するためのシミュレーションプログラムに用いる地上固定座標系を導入した運動方程式の記述の他、剛体間支持要素のモデル化・車輪/レール間作用力の取り扱い・振動入力方法について述べた。これにより地震時の鉄道車両の大変位に対応したシミュレーション解析が可能となった。従来の平面モデル解析に比べて、3次元モデルを用いたことで剛体のヨー、ピッチ運動を考慮した解析になり、大変位を考慮した剛体間支持要素定義により微小角での仮定を取り去り、車輪/レール間作用力について走行中のクリープ力理論を、停止時の新たな摩擦力モデルを導入したことで地震時の高度な車両挙動解析が可能となった。

 第3章では、一般化した大変位振動波形として正弦波をもとに、振動する軌道上を走行する鉄道車両が脱線する際の挙動を明らかにした。また、正弦波振動に対する走行安全限界線図を示すとともに走行安全限界上での車両の挙動を周波数領域毎に分類して提示した。ここに示した走行安全限界線図では、安全限界指標として車輪/レール相対左右変位を用いたことにより、従来よりも脱線の直近まで評価することが出来る。一車両の4本輪軸直下で同相加振した場合でも安全限界付近では4本の輪軸の挙動には差が生じることが分かった。また、正弦波振動に対する走行安全限界への車両諸元の影響を調査するとともに、車両の安全性向上策を検討する際に走行安全限界線図を用いることが出来ることを提案した。

 第4章では、シミュレーションの妥当性を検証するために実台車加振実験を実施した。この実験では、大型振動台上に長さ5mの軌道を敷設して、実物の新幹線用ボルスタレス台車と空車半車体相当質量の荷重枠(車体)を乗せて、加振周波数0.5Hzから2.0Hzの間で、車輪がレールから飛び上がるほどの大きな振幅の正弦波振動で加振した。この実台車加振実験の概要と結果を述べるとともに、実験結果とシミュレーション結果の比較検討を行い、シミュレーション解析の妥当性を確認した。

 第5章では、ランダムな振動である実際に観測された地震波を入力したときの車両の挙動について述べた。入力される地震波の卓越振動数が車両の運動に大きく影響し、その卓越振動に対する車両の挙動は、正弦波振動の際に見られた加振周波数毎の車両挙動と同様のものであることを明らかにした。何らかの構造物上を走行することの多い新幹線車両の場合には、地震動波形に構造物の等価固有周期の影響が強く表れる。この特性を利用して、鉄道構造物の設計評価に利用することの出来る地震波に対する走行安全限界を提案した。

 第6章に本研究で得られた成果をまとめた。

 以上

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「地震時の鉄道車両の挙動に関する研究」と題し、六章より構成されている。

 1995年1月17日早朝、最大震度7(マグニチュード7.2)の兵庫県南部地震が発生し、大きな被害が発生した。このとき数多くの鉄道車両が脱線し、その中には鉄道構造物や軌道に大きな被害が見られないにも関わらず脱線に至っている事例があったことから、鉄道構造物が破壊されない規模の地震において、鉄道車両が地震動を原因として脱線することが示された。そこで、本論文の主な目的は、大変位振動する軌道上にある車両の挙動を調査すること、および、鉄道構造物の設計に車両の走行安全性を反映させることであり、この目的に対し以下のようにまとめられている。

 第1章は、研究の背景と目的および方法について述べ、地震時の鉄道車両の挙動に関する研究の重要性と研究の意義について述べている。

 第2章は、地震時に大変位振動する軌道上にある鉄道車両の運動を解析するためのシミュレーションプログラムに用いる地上固定座標系を導入した運動方程式を記述し、剛体間支持要素のモデル化・車輪/レール間作用力の取り扱い・振動入力方法について述べている。これにより地震時の鉄道車両の大変位に対応したシミュレーション解析が可能となった。従来の平面モデル解析に比べて、3次元モデルを用いたことで剛体のヨー、ピッチ運動を考慮した解析になり、大変位を考慮した剛体間支持要素定義により微小角での仮定を取り去り、車輪/レール間作用力について走行中のクリープ力理論を、停止時の新たな摩擦力モデルを導入したことで、地震時の高度な車両挙動解析が可能となったことを示している。

 第3章は、一般化した大変位振動波形として正弦波を基に、振動する軌道上を走行する鉄道車両が脱線する際の挙動を明らかにしている。また、正弦波振動に対する走行安全限界線図を示すとともに走行安全限界上での車両の挙動を周波数領域毎に分類して提示している。ここで示された走行安全限界線図では、安全限界指標として車輪/レール相対左右変位を用いたことにより、脱線の直近まで評価することが出来ることを示している。一車両の4本輪軸直下で同相加振した場合でも安全限界付近では4本の輪軸の挙動には差が生じることを示し、正弦波振動に対する走行安全限界への車両諸元の影響を調査するとともに、車両の安全性向上策を検討する際に走行安全限界線図を用いることが出来ることを提案している。

 第4章では、シミュレーションの妥当性を検証するために実台車加振実験を実施した結果を示している。この実験では、大型振動台上に長さ5mの軌道を敷設して、実物の新幹線用ボルスタレス台車と空車半車体相当質量の荷重枠(車体)を乗せて、加振周波数0.5Hzから2.0Hzの間で、車輪がレールから飛び上がるほどの大きな振幅の正弦波振動で加振している。この実台車加振実験の概要と結果を述べるとともに、実験結果とシミュレーション結果の比較検討を行い、シミュレーション解析の妥当性を確認している。

 第5章では、ランダムな振動である実際に観測された地震波を入力したときの車両の挙動について述べている。入力される地震波の卓越振動数が車両の運動に大きく影響し、その卓越振動に対する車両の挙動は、正弦波振動の際に見られた加振周波数毎の車両挙動と同様のものであることを明らかにしている。さらに、構造物上を走行することの多い新幹線車両の場合には、地震動波形に構造物の等価固有周期の影響が強く表れるため、この特性を利用して、鉄道構造物の設計評価に利用することの出来る地震波に対する走行安全限界を提案している。

 第6章は結論であり、本研究によって得られた成果をまとめている。

 以上、本論文は、地震時の鉄道車両の挙動について、大変位振動する軌道上を走行する車両挙動を解析するシミュレーションプログラムを開発し、シミュレーション解析の妥当性を実物の新幹線台車を用いた振動台実験により検証し、正弦波加振に対する走行安全限界を求め、この走行安全限界における加振周波数毎の車両の挙動を明らかにしている。また、ランダムな地震動に対する走行安全限界を求める手法を提案しており、実際の評価手法として採用されている。よって、これらの研究成果は鉄道システムの地震に対する安全性向上に大きく貢献しており、機械工学の発展に寄与することが大きい。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認める。

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