学位論文要旨



No 216607
著者(漢字) 長野,進
著者(英字)
著者(カナ) ナガノ,ススム
標題(和) 大容量タービン発電機の固定子巻線端部支持構造に関する研究
標題(洋)
報告番号 216607
報告番号 乙16607
学位授与日 2006.09.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16607号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 仁田,旦三
 東京大学 教授 日高,邦彦
 東京大学 教授 横山,明彦
 東京大学 教授 大崎,博之
 東京大学 助教授 古関,隆章
 東京大学 助教授 馬場,旬平
内容要旨 要旨を表示する

 本研究の目的は,タービン発電機の大容量化にともなう技術課題のうち,固定子巻線端部支持構造の機械的な動的ストレスすなわち電磁力および熱応力に対する強度について,解析・モデル実験および実機調査によって評価・検証し,今後の方向を示すことである。

 巻線端部支持構造の評価として振動解析計算を三次元有限要素法によって行うため,これに伴う電磁力解析計算は三次元有限要素法を適用するのが一般的である。しかし,三次元有限要素法による電磁力計算は解析領域に空間が含まれるためメッシュ数が多くなり,データ作成に労力を要し設計計算として実用的でない面がある。新しく提案した電磁力解析方法(要素間電磁力重畳法)による計算結果は,実機計測結果と良く一致した。また,三次元有限要素法による解析計算と比較してメッシュ作成が容易で精度も十分であり,実用上有効である。

 リアクタンスの周波数特性について有限要素法で解析計算した結果は,実機の周波数応答法試験により十分実用的であることが確認できた。タービン発電機のような円筒形機では,突発短絡時の最大電磁力は直軸成分と横軸成分が等しいとして電磁力を求めて良い。なお,有限要素法によるオペレーショナルインピーダンスを解析計算する手法は,不平衡過渡現象を扱う場合の電流計算精度の向上に寄与できると考える。

 定常運転時の電磁力は,レベルは小さいが繰り返し回数が多い。このため,電流の2倍周波数の加振力に対して,端部巻線の導体および絶縁が高サイクル疲労に耐えなくてはならない。特に巻線先端部は支持体を固定している鉄心から最も距離が遠く,かつコイル毎に個々にオーバハングしているので,機械的な固有振動数が問題となる。すなわち,加振周波数と共振すると振幅値が大きくなり,導体もしくはコイル絶縁にかかる応力が大きくなるため,高サイクル疲労による劣化・損傷が検討課題となる。特に大容量機では固定子コイルに水冷却方式を採用しているので,通水パイプの損傷は水素ガス漏れおよび水漏れに発展するので注意を払う必要がある。

 そこで,375,000kW実機大モデルを製作して,通電試験を行い巻線端部の挙動を調査した。その結果,以下の特徴が明らかになった。

 ・コイル中央部においては,固有振動数が高く振動値は小さいので問題ない

 ・コイルノーズ部においては固有振動数が低く振動値が大きいので,場合によっては離調対策が必要である

 ・ハンマリング試験は巻線端部の固有振動数を簡易的に知るのに有効である

 375,000kW機の30年運転経験を経たコイルの漏洩試験(分解前)・外観調査および残存破壊電圧を調査した結果から,発電機の運転に必要とされる絶縁耐力を満足することが確認できた。コイル自身に損傷も見られないことから,コイルは電磁振動による高サイクル疲労に耐えたと評価できる。

 有限要素法を用いて反接続側に加えて新たに接続側についても固有振動数解析計算を提案し,実機測定データと良く一致した。また,従来の計測では得られなかった巻線端部全体の円環振動モードが確認されたが,加振力と同じモードの固有振動数は十分離調され,加振周波数付近の固有振動モードは応答感度が低いので,振動値も小さくなることから支障とはならない。

 さらに,固有振動数解析計算方法と電磁力解析計算方法とを組合せて振動応答解析計算を提案し,実機の測定結果と良く一致し本解析手法の正しさを確認することができた。

 工場試験結果から実負荷時のコイル端部振動を推定する方法について新たに提案し,実測データと比較して実用上十分な精度があることが確認できた。

  最大容量機である1,000,000kWタービン発電機について,ノーズ部の離調対策および剛性増加対策を適用し,固有振動数解析計算を行った結果,実機の固有振動数測定結果と良く一致するとともに期待したとおりの離調がなされておりかつ振幅も低減されていることが確認できた。

 以上により,設計段階で解析による固有振動数が推定でき,必要に応じて離調対策が施せるようになった。本方法を標準設計法として適用している。

 短絡時の電磁力は,強大ではあるが時間が限定される。このため,電流が最大値となる短絡瞬時の電磁力に対して端部巻線が強度的に耐えなくてはならない。同期機の規格では端子における突発短絡に耐えなくてはならないと規定されているが,実機で試験するには現実的に難しい。また,過渡現象の振動解析計算は定常時と比較して繰り返し計算となり,膨大な時間と記憶容量を必要とするため,現状では実用的ではない。

 そこで,375,000kW実機大モデルステータを使用して,三相突発短絡試験および線間突発短絡試験を行った。

 突発短絡試験後,毎回コイル端部を詳細に目視点検したが異常は認められず,すべての試験終了後,耐電圧試験を実施し合格した。

 測定データをまとめて強度評価を行った結果,以下のことが明らかになった。

 ・三相短絡時の方が線間短絡時よりも応力値が大きい

 ・各構成部品の安全率で見ると,コイル絶縁が材料強度に対して一番厳しい値を示しているものの約8倍の安全率がある

 すなわち,375,000kWタービン発電機の短絡強度が十分であることを確認できた。

 最大容量機である1,000,000kW機の短絡強度について評価した結果,電磁力解析計算結果で得られた両者の電磁力比1.67にハンマリング試験で得られた両者の支持構造剛性比の逆数0.09を掛けた値0.14が,1,000,000kW機の375,000kW機に対する応力比であり,1,000,000kW機は375,000kW機以上の安全率が確保されていることが確認できた。

 以上により,設計段階で,375,000kW実機大モデル固定子の突発短絡試験を含むデータベースを用いて,解析で応力が推定でき,強度が評価できるようになった。本方法を標準設計法として適用している。

 起動停止による熱応力は,コイル全体が熱膨張・収縮する時に発生する。レベルも繰り返し回数も定常時と短絡時の電磁力の中間となるが,コイルが低サイクル疲労に耐えなくてはならない。現在のエポキシ絶縁は耐熱性・機械特性が向上しヒートサイクル試験によって評価されているが,定量的に評価されていない。特に,鉄心端出口部近傍で最大応力が発生するので,絶縁劣化・損傷が検討課題となる。

 コイルにかかる熱応力について有限要素法を用いて新たに解析計算を行い,最大応力発生部は,鉄心端部から出て円錐面へ移行する内R側であり,実機大スロットモデルで検証した結果は良く一致し,解析計算方法の正しさが確認できた。また,コイル端部支持にスライド構造を採用することによりコイルにかかる熱応力を低減できることが明らかとなった。

 運転経過した375,000kW実機コイルを絶縁破壊試験後に絶縁破壊部近傍の絶縁層を観察した結果,マイカとレジンの間に一部剥離およびボイドが観察されるが,絶縁層に亀裂は見られない。他部位の断面ではこのような剥離やボイドは見られないことから,この部分の絶縁層に最大応力が加わったことを示しており,熱応力解析計算の正しさを裏付けている。また,コイルの残存破壊電圧を調査した結果,発電機の運転に必要とされる絶縁耐力を満足することが確認できたことから,コイルは熱応力による低サイクル疲労に対しても耐えたと評価できる。

 熱膨張・収縮および電磁力による履歴を受けたコイルの残存破壊電圧について,マイナー則を適用して推定する方法を新しく提案した。本方法により,コイル絶縁層に電磁力や熱応力が加わった場合に絶縁劣化の程度を定量的に評価することができ,あらかじめ運用形態が分かればコイルの余寿命を予測することができる。

 1,000,000kW機について,スライド構造を採用したことを考慮して熱応力を解析計算した結果,熱応力値は375,000kW機の1/3に低減できより高い信頼性があることが確認できた。

 以上により,設計段階で解析により熱応力が推定できるようになり,強度が評価できるようになった。本方法を標準設計法として適用している。なお,スライド構造は大容量機に標準的に適用している。

 一方,発電所を構成する機器全般の信頼性が向上してきたことから定期点検の間隔の延長化が検討されている。以上の背景から振動監視装置を開発した。具体的には,回転機の高電圧巻線端部に取り付けられた加速度センサの信号により,振動増大が早期検出され警報が発信される振動監視装置が,巻線端部の誘起電圧や漏れ磁束について影響を評価して開発した。

 大容量タービン発電機にこの振動監視装置を取り付けることにより,運用性を改善し事故停止を低減して信頼性を向上させることに役立つ。すなわち,定常運転時の巻線端部振動値の傾向を監視することができ(例えば一つの目安として,定格運転時における振動振幅値の2倍を警報値と定めることによって定量的に管理することができ),劣化を評価・予測して次期定期点検時における点検項目を準備し,場合によっては期間内に要領よく修理することが可能となった。

 以上をまとめると,

 タービン発電機の大容量化に対する固定子巻線端部支持構造の動的ストレス(電磁力・熱応力)に対する評価は,導体間電磁力を計算し計算結果を類似実績機と相対比較するとともに,運転経験を重ねながらフィードバックする造り込み技術で設計していた。

 本研究の結果,

 大容量タービン発電機の固定子巻線端部支持構造に関して,コイルの受ける力,具体的には定常時および短絡時の電磁力ならびに起動停止時の熱応力に対して,設計段階で解析によって特性が推定・評価でき,必要に応じて対策を講じることができるようになった。すなわち,標準設計法を確立して運用している。

 振動監視装置を新たに開発し適用することによって,劣化を評価・予測して予防保全対策の計画が事前に立案できる。また系統事故等が発生した場合も,点検要否の指標を与えることができる。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「大容量タービン発電機の固定子巻線端部支持構造に関する研究」と題し,大容量化に伴って厳しくなる固定子巻線支持構造に関して,巻線にかかる定常並びに過渡電磁力の計算を示す共に実機による試験と評価を行い,また,熱応力に関しても解析と試験を行って解析法の評価し,さらに固定端部の振動監視装置を提案し,信頼性の高い機器設計法の確立を目指したものであり,7章から構成される.

 第1章は序論で,本研究の背景と従来の研究における課題とそこから抽出された本研究の目的を述べている.

 第2章は「固定子巻線端部に働く電磁力解析」と題し,定常運転時の電磁力に対して三次元有限要素法より簡単な要素間電磁力重畳法を提案し,十分高い精度を持つことを示すと共に過渡時における電磁力計算の精度にも言及し,実機により検証したことを述べている.

 第3章は「定常運転時における振動評価」と題し,定常における電磁力による固定子巻線端部振動を実機での測定と解析結果と比較から,精度の高い振動応答解析計算を提案している.

 第4章は「短絡時における強度評価」と題し,実機大モデルによる実験結果と電磁力解析計算結果並びにハンマリング試験結果から得られた知見から,設計時に短絡時の強度評価することができることを示している.

 第5章は「熱応力に対する強度評価」と題し,有限要素法による解析結果と実機大スロットモデルによる検証結果から解析結果の正確さを確認し,さらに,運転経過をした実機による検証から,計算結果の妥当性と支持構造を提案すると共に設計時にコイル寿命が推定できることを示している.

 第6章は「振動監視装置の開発」と題し,この装置を取り付けることにより,コイル劣化の予測が定量的に行うことができ,効率的な点検が行えることを示している.

 第7章は,「結論」であり,本論文の成果を総括し,ここでの成果を発電機開発に適用し,信頼度の確保と構造の合理化に寄与していることを述べている.

 以上これを要するに本論文は,大容量タービン発電機の固定子巻線端部の支持構造に関して,実機における試験結果と提案した解析法による結果から,解析法の妥当性を検証し,この解析法により設計時に巻線端部の電磁力や熱応力が評価できると共に寿命も推定できることを示し,さらに運転中の巻線劣化が診断できる振動監視装置を提案し,実機に適用することによりその有用性を確認するなど,電気工学,特に電気機器工学に貢献するところが少なくない.

 よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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