学位論文要旨



No 216614
著者(漢字) 馬渡,和真
著者(英字)
著者(カナ) マワタリ,カズマ
標題(和) 高機能熱レンズ顕微鏡の開発とマイクロ化学への応用に関する研究
標題(洋) Study on Functional Thermal Lens Microscopy and Application to Microchemistry
報告番号 216614
報告番号 乙16614
学位授与日 2006.09.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16614号
研究科 工学系研究科
専攻 応用化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 北森,武彦
 東京大学 教授 平尾,公彦
 東京大学 教授 尾嶋,正治
 東京大学 教授 水野,哲孝
 東京大学 教授 川合,眞紀
 東京大学 助教授 金,幸夫
内容要旨 要旨を表示する

【論文の概要】

 本論文は、マイクロ空間における高機能な分析法(熱レンズ顕微鏡)の開発とマイクロ化学への応用に関する研究結果をまとめたものである。近年、半導体の微細加工技術を利用して、数センチ角の基板(マイクロチップ)上にマイクロ流路を形成してさまざまな化学プロセスを集積化し、従来の分析・診断・合成を飛躍的に小型化・微量化・短時間化・並列化するマイクロ化学の研究が、基礎・応用両面から盛んに行われている。また、単一細胞のin situ測定やナノテクノロジーの研究など微小空間における分析法に対する要求が高まってきている。この微小空間の研究においては、マイクロ空間でin situ測定可能な高感度かつ汎用的な分析法が必要不可欠である。しかし、これまでこのような高機能な分析法はなかった。そこで本研究では、非蛍光性分子を高感度に測定できる超高機能熱レンズ顕微鏡を開発して高機能化し、マイクロ化学へと応用することを目的として、以下のような章の構成とした。

 第1章 マイクロ化学の発展過程、分析手法に対する要求、研究の目的

 第2章 超高感度熱レンズ顕微鏡の開発とマイクロ化学への応用

 第3章 小型自動熱レンズ顕微鏡の開発と医療診断への応用

 第4章 濃度定量から単一分子カウンティングへの展開

 第5章 キラル識別・定量への展開

 第6章 まとめと展望

以下、各章について簡単に説明する。

 第1章では、近年のマイクロ化学の発展過程と分析手法に対する要求をまとめ、感度や適用範囲などの観点から従来の分析法の問題点を明らかにした。次に、これらの要求を満たす分析手法として有望である熱レンズ法についてこれまでの発展過程をまとめた。さらに、熱レンズ法を微小空間測定へ適用するための課題として、1)超高感度熱レンズ顕微鏡の開発、2)熱レンズ顕微鏡の小型実用化、3)濃度定量から単一分子カウンティングへの展開、4)キラル識別・定量の実現の4つを課題として、研究に対する意義を明確にし、本研究の目的を明らかにした。

 第2章では、マイクロ空間での高感度測定を可能とする「超高感度熱レンズ顕微鏡」を開発した。光学顕微鏡をベースとして、紫外領域から近赤外の励起光およびプローブ光を同軸にマイクロ空間に集光するための熱レンズ光学系を構築した。次に、高感度熱レンズ検出における重要なファクターである励起光とプローブ光の焦点差を調整する方法を構築して最適化し、単一分子レベルでの濃度定量を実現した。本章で提案した超高感度熱レンズ顕微鏡によりマイクロ空間中の非蛍光性分子の高感度定量が可能となり、マイクロ化学を環境・医療・バイオ・食品分野などの幅広い分野への展開することが可能になった。

 第3章では、マイクロチップを搭載した小型迅速医療診断機器への実用化を目的として、熱レンズ顕微鏡を手の平サイズに小型化して持ち運び可能であり自動測定可能な「実用的な熱レンズ顕微鏡」を開発した。従来、大型の光源と顕微鏡から構成され、測定もマニュアル操作であった大型熱レンズ顕微鏡を、小型光源によりポータブルサイズに小型化して、さらに自動位置あわせ機構を開発して自動測定可能とした。本章で提案した小型自動熱レンズ顕微鏡により、マイクロチップと組み合わせることで、さまざまな血液診断項目が測定できる実用的な装置が実現した。

 第4章では、熱レンズ顕微鏡をさらに高感度化して、マイクロ・ナノ空間での単一分子・ナノ粒子分析を実現するために、従来の濃度定量機能から新たにカウンティング機能を実現した。ナノ粒子を単一分子のモデル試料として用い、測定系の時間分解能を従来の秒スケールからミリ秒スケールへと高めることにより、従来の定常的な信号からパルス的な信号が得られることを発見した。このパルス的な信号が単一ナノ粒子由来の信号であることを証明した。また、信号を最適化して、はじめて5nmのナノ粒子カウンティングに成功した。最後に、単一分子カウンティングへの展望について感度の点から明らかにした。本章で提案したカウンティング機能により、マイクロ・ナノ空間で単一分子分析を実現する基盤を築いた。

 第5章では、マイクロ空間におけるキラル分析・キラル合成という新しい分野のための分析手法を提供することを目的として、熱レンズ顕微鏡でキラル識別・定量を実現した。従来の熱レンズ顕微鏡は濃度定量機能に限定されておりキラル化合物を識別することは不可能であったが、円二色性分光法を熱レンズ顕微鏡で実現する円二色性熱レンズ顕微鏡を開発したことで、マイクロ空間におけるキラル識別・定量が可能となった。モデル試料を用いてマイクロ空間でキラル識別原理を実証して、濃度と光学純度に関する性能を評価して有用であることを示した。本章で提案した円二色性熱レンズ顕微鏡により、今後発展が期待されるマイクロチップ合成分野における重要な分析手法が実現した。

 第6章では、これまでの研究をまとめた。また今後の展望として、家庭や医療現場で使える携帯型分析装置への展開や非発光性分子の単一分子化学への展開について紹介した。

 以上要約したように、本研究ではマイクロ空間における高機能熱レンズ顕微鏡の開発について研究した。実用・基礎両面における本研究の成果は、微小空間を用いた化学・バイオ実験が新しい学問・産業分野として確立するために大きく貢献するものと期待される。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、マイクロ空間における高機能な分析法(熱レンズ顕微鏡)の開発とマイクロ化学への応用に関する研究結果をまとめたものである。近年、半導体の微細加工技術を利用して、数センチ角の基板(マイクロチップ)上にマイクロ流路を形成してさまざまな化学プロセスを集積化し、従来の分析・診断・合成を飛躍的に小型化・微量化・短時間化・並列化するマイクロ化学の研究が、基礎・応用両面から盛んに行われている。また、単一細胞のin situ測定やナノテクノロジーの研究など微小空間における分析法に対する要求が高まってきている。この微小空間の研究においては、マイクロ空間でin situ測定可能な高感度かつ汎用的な分析法が必要不可欠である。しかし、これまでこのような高機能な分析法はなかった。そこで本研究では、非蛍光性分子を高感度に測定できる超高機能熱レンズ顕微鏡を開発して高機能化し、マイクロ化学へと応用することを目的として、以下のような章の構成とした。

 第1章 マイクロ化学の発展過程、分析手法に対する要求、研究の目的

 第2章 超高感度熱レンズ顕微鏡の開発とマイクロ化学への応用

 第3章 小型自動熱レンズ顕微鏡の開発と医療診断への応用

 第4章 濃度定量から単一分子カウンティングへの展開

 第5章 キラル識別・定量への展開

 第6章 まとめと展望

以下、各章について簡単に説明する。

 第1章では、近年のマイクロ化学の発展過程と分析手法に対する要求をまとめ、感度や適用範囲などの観点から従来の分析法の問題点を明らかにした。次に、これらの要求を満たす分析手法として有望である熱レンズ法についてこれまでの発展過程をまとめた。さらに、熱レンズ法を微小空間測定へ適用するための課題として、1)超高感度熱レンズ顕微鏡の開発、2)熱レンズ顕微鏡の小型実用化、3)濃度定量から単一分子カウンティングへの展開、4)キラル識別・定量の実現の4つを課題として、研究に対する意義を明確にし、本研究の目的を明らかにした。

 第2章では、マイクロ空間での高感度測定を可能とする「超高感度熱レンズ顕微鏡」を開発した。光学顕微鏡をベースとして、紫外領域から近赤外の励起光およびプローブ光を同軸にマイクロ空間に集光するための熱レンズ光学系を構築した。次に、高感度熱レンズ検出における重要なファクターである励起光とプローブ光の焦点差を調整する方法を構築して最適化し、単一分子レベルでの濃度定量を実現した。本章で提案した超高感度熱レンズ顕微鏡によりマイクロ空間中の非蛍光性分子の高感度定量が可能となり、マイクロ化学を環境・医療・バイオ・食品分野などの幅広い分野への展開することが可能になった。

 第3章では、マイクロチップを搭載した小型迅速医療診断機器への実用化を目的として、熱レンズ顕微鏡を手の平サイズに小型化して持ち運び可能であり自動測定可能な「実用的な熱レンズ顕微鏡」を開発した。従来、大型の光源と顕微鏡から構成され、測定もマニュアル操作であった大型熱レンズ顕微鏡を、小型光源によりポータブルサイズに小型化して、さらに自動位置あわせ機構を開発して自動測定可能とした。本章で提案した小型自動熱レンズ顕微鏡により、マイクロチップと組み合わせることで、さまざまな血液診断項目が測定できる実用的な装置が実現した。

 第4章では、熱レンズ顕微鏡をさらに高感度化して、マイクロ・ナノ空間での単一分子・ナノ粒子分析を実現するために、従来の濃度定量機能から新たにカウンティング機能を実現した。ナノ粒子を単一分子のモデル試料として用い、測定系の時間分解能を従来の秒スケールからミリ秒スケールへと高めることにより、従来の定常的な信号からパルス的な信号が得られることを発見した。このパルス的な信号が単一ナノ粒子由来の信号であることを証明した。また、信号を最適化して、はじめて5nmのナノ粒子カウンティングに成功した。最後に、単一分子カウンティングへの展望について感度の点から明らかにした。本章で提案したカウンティング機能により、マイクロ・ナノ空間で単一分子分析を実現する基盤を築いた。

 第5章では、マイクロ空間におけるキラル分析・キラル合成という新しい分野のための分析手法を提供することを目的として、熱レンズ顕微鏡でキラル識別・定量を実現した。従来の熱レンズ顕微鏡は濃度定量機能に限定されておりキラル化合物を識別することは不可能であったが、円二色性分光法を熱レンズ顕微鏡で実現する円二色性熱レンズ顕微鏡を開発したことで、マイクロ空間におけるキラル識別・定量が可能となった。モデル試料を用いてマイクロ空間でキラル識別原理を実証して、濃度と光学純度に関する性能を評価して有用であることを示した。本章で提案した円二色性熱レンズ顕微鏡により、今後発展が期待されるマイクロチップ合成分野における重要な分析手法が実現した。

 第6章では、これまでの研究をまとめた。また今後の展望として、家庭や医療現場で使える携帯型分析装置への展開や非発光性分子の単一分子化学への展開について紹介した。

 以上要約したように、本研究ではマイクロ空間における高機能熱レンズ顕微鏡の開発について研究した。実用・基礎両面における本研究の成果は、微小空間を用いた化学・バイオ実験が新しい学問・産業分野として確立するために大きく貢献するものと期待される。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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