学位論文要旨



No 216615
著者(漢字) 松田,聡
著者(英字)
著者(カナ) マツダ,サトル
標題(和) 超微粒子の流動層に関する研究
標題(洋)
報告番号 216615
報告番号 乙16615
学位授与日 2006.09.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16615号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 堤,敦司
 東京大学 教授 越,光男
 東京大学 教授 山口,由岐夫
 東京大学 教授 土橋,律
 東京大学 教授 松本,洋一郎
内容要旨 要旨を表示する

序論

 ナノメートルオーダーの大きさ・形を持つ物質は特異な性質を示すことがあり、近年こうした現象を工学的に役立たせるための科学技術、ナノテクノロジーに期待が高まってきている。ナノテクノロジーは、原子・分子精度の物質の構造制御、分散・コーティング剤としての利用、触媒および高比表面積材料、ナノデバイス・ナノコンポジット等の幅広い分野にまたがる技術であり、21世紀のキーテクノロジーの一つであると考えられている。サブミクロンの微粒子が凝集体を形成しながら流動化することは、80年代にChaouki et alやMorooka et alによって報告されており、最近では付着性粒子の流動化は流動層研究の一つの大きなトピックになっている。本研究では、ナノ粒子を含む超微粒子の流動層に関する研究、および、超微粒子の持つポテンシャルをより高く利用する技術として、高重力場の超微粒子流動層の提案を行い実験的検討および理論的検証を行った。

1. 超微粒子流動層

 一次粒子径が7nm、20nm、および200nmの二酸化チタン超微粒子を用意し二次元流動層で流動化させ、以下を明らかにした。それぞれの超微粒子は凝集体を形成して流動化する。Figure 1に一次粒子径が20nmのチタニア超微粒子を流動化させた様子を示す。流動化すると層膨張が急激に起こるが、Fig.1に示すように、通常の流動層で見られるような半球形の気泡は見られない。比較的大きな凝集体が層底部に、小さな凝集体は上部に存在するという偏析現象が起きている。200nmの粒子の場合は操作条件によっては安定した流動化を保てなくなることがあり、それは凝集体が自身の形状を保持できなくなる、すなわち凝集体の形成力といったものに関係するものと思われる。20ミクロンのカーボン粒子を用いて粒子混合を調べ、かなり短い時間で良好に混合することを明らかにした。本実験系は明確な気泡が観察されないことから流動化中のガス空塔速度を凝集体粒子群の終末速度とみなすことができる。7nmおよび20nmの粒子の場合の流動化中の層空隙率は、流動化停止後のベッドコラプス特性から見積もることができる層空隙率と沈降速度の関係から説明できる。しかし200nmの粒子の場合は、流動化中のガス空塔速度に比べて、ベッドコラプス曲線から得られる沈降速度は低い。このことは流動化中に凝集・破砕といった動的現象が頻繁に起きているからと考えられる。7nmや20nmの粒子の場合も凝集・破砕といった現象は起こっているが、時間スケールが200nmの場合に比べてかなり大きいと考えられる。

 凝集体表面の粗さは一次粒子径によって異なり、7nmや20nmの場合は凝集体表面は滑らかになるのに対し、200nmの場合は表面が粗い印象を受ける。凝集体径を実測してみると、より小さな一次粒子径になると凝集体径は大きくなる傾向が見られる。今回行った実験操作条件範囲では、ガス速度によって凝集体径は変化しない。超微粒子の凝集体は空隙率が非常に大きいので、ガスが凝集体内部にまで入り込んでいることが考えられる。実測した凝集体径と最小流動化速度から求めた凝集体径の差から流動化ガスが入り込む厚みの凝集体半径に対する比率を推算すると、一次粒子径が7nmや20nmの場合は6%程度相当であり、200nmの場合は13%程度相当であると考えられる。

 二酸化チタン超微粒子は、紫外光を照射すると周囲の物質を酸化あるいは還元するという光触媒としての性質を有している。そのため、近年その特性をいかして水中の有機物や大気中の窒素酸化物(NOx)等の環境汚染物質の除去を行う研究が盛んに行われている。NOx処理の場合は、酸素共存下の気相においてNOをNO2さらに硝酸へと酸化していく。生成した硝酸は光触媒の表面に付着し、触媒活性を低下させると考えられている。超微粒子光触媒は凝集体を形成して流動化し、外部より紫外光を照射する事により気相中のNOxを酸化処理し硝酸の形で回収できる。光触媒の一次粒子径が小さいほど、単位重さあたりの触媒で処理できるNOxの量は増加し、その値は比表面積にほぼ比例することを見いだした。実験結果をもとに反応モデルを構築し試算した結果、処理量の増大および処理時間の長期化のためには、一次粒子径を小さくする、反応に関与する凝集体表面の厚みを厚くする、および凝集体径を小さくする、といったことを検討すればよいことを明らかにした。

2. 高重力場における超微粒子流動層

 超微粒子流動層において、超微粒子の持つポテンシャルを引き出す一つの方策として凝集体径を小さくすることが挙げられる。凝集体径を小さくし高分散させる方法の一つとして、重力加速度に着目し、高重力場で流動化を行うことを検討した。

2.1. 高重力場の影響

 層圧力損失、最小流動化速度、粒子終末速度、Geldartマップ、気泡径、および気泡上昇速度といった流動特性について、高重力場の影響を理論式あるいは実験式を元に検討するとともに実験的に検証した。圧力損失、最小流動化速度、および粒子終末速度は高重力場では大きくなり、Geldartマップの各境界線は高重力場では全体に左側にシフトしていくので、通常重力場で難流動性とされるC粒子(超微粒子)は高重力場では流動化しやすいA粒子やB粒子になっていくことが推察できる。気泡径についてはいくつかの相関式があるが、いずれの相関式もガス速度あるいは過剰ガス速度を一定にすれば高重力場では気泡径が小さくなることを示唆している。気泡上昇速度は高重力場では速くなると考えられる。高重力場を実現できる遠心流動層を用いて、流動特性への高重力場(G)の影響を実験的に検証した。気泡径は従来の気泡径相関式で重力加速度をG倍することでほぼ推定することが可能である。気泡上昇速度も同様に重力加速度をG倍することで推算できる。また、奥行き1cmの二次元流動層で実験を行ったが、その壁面効果は高重力場になれば相対的に弱められ、三次元流動層のように気泡上昇速度の係数Kbは0.71に近くなっていくことを明らかにした。

2.2. 高重力場の超微粒子流動層

 高重力場を実現できる遠心流動層を用いて超微粒子の流動化を行った。高重力場においても超微粒子は流動化すると急激な層膨張を起こすことを示した。高速度ビデオや、無線ビデオを用いて観察すると高重力場においても明確な形状をもった気泡は観察されないが、粒子混合は良好に行われることを明らかにした。また、高重力場にするほど粒子の飛び出しが抑制されることを示した。凝集体径は高重力場では小さくなっていくことが実験的に示した。これは遠心流動層内で凝集体の粉砕が通常重力場より激しく行われていると考えた。

 超微粒子流動層の従来提案されている凝集体径推算モデルの意味を考え、凝集体の外部に働く力を考慮したフォースバランスモデルでは個々の凝集体として流動化できる限界最小径を推算していると考えた。この限界最小径は高重力場になれば小さくなっていく傾向をもっている。したがって、高重力場ではより小さな粒子を流動化できる。一方、流動層を一種の粉砕機とみたて、流動層内凝集体は層内で粉砕されるというモデルを考案した。このモデルでは高重力場ではより粉砕エネルギーが高くなるので凝集体径が小さくなる。Fig.2に考案したモデルの概念図を示す。流動層内の凝集体径は層内の粉砕に使い得るエネルギーEaと単位重さあたりの凝集体を粉砕するのに要するエネルギーEdがつり合って決まると考えるので、図中のEdとEaが交差する点で求められる。このモデルでは、凝集体を破砕するのに要するエネルギーは、凝集体の密度や凝集体を構成している粒子の大きさといった凝集体の構造・物性が関係し、一方、層内で凝集体の粉砕に使い得るエネルギーは、流動層を一種の粉砕器と考え、操作因子や装置形状で決まり、凝集体径には依存しないと考えている。Case 1の場合を基準に考えると、Case 2はより細かな粒子を使う場合やスプレーコーティングのようにより強い結合力を用いて凝集体を形成する場合である。この場合、単位重さあたりの凝集体を粉砕するのに要するエネルギーは同一凝集体径で比較すると増えることになり、図中のEdの線は上方に移動する。層内の粉砕に使い得るエネルギーEaは凝集体径に依存しないと考えているので、EdとEaの交点で求まる層内の凝集体径da2はda1より大きくなる。Case 3は一次粒子径が大きい場合といったCase 1の場合に比べてより弱い結合力で構成された凝集体の場合であり、単位重さあたりの凝集体を粉砕するのに要するエネルギーは同一凝集体径で比較すると減ることになり、ではEdの線は下方に移動する。したがって、EdとEaの交点で求まる層内の凝集体径da3はda1より小さくなる。もし、そのda3が限界最小径dacrより小さくなる系であれば、その凝集体は層内において引き離すことができず個々の粒子として流動化できない。その際は引きつけ合ったままの大きな凝集体として振る舞ったり、あるいは流動化しないものと思われる。前述のように、同じ二酸化チタン粒子であっても、7nmと20nmの粒子はしっかりした凝集体を形成し流動化できるのに対し、200nmの場合は表面の粗い凝集体を形成し、数分の流動化試験後には安定したチャネルが形成して流動化できなくなったりする。このモデルでは一次粒子径の違いによって形成する凝集体が異なることや、その後の流動化の安定性の判定をうまく説明できる。Fig.3に考案したモデルにおける高重力場の効果の影響を示す。超微粒子流動層における高重力場の効果は、まず、凝集体外部に働く力を考慮したフォースバランスモデルからその系で個々の粒子として流動化できる限界最小径を計算でき、その値は高重力場ではGの値が大きくなるにつれ小さくなっていく傾向を示す。つまり、高重力場では、より細かな凝集体も流動化できるようになる。この例では97μm(G=1)から15μm(G=100)に減ずる。単位重さあたりの凝集体を破砕するのに要するエネルギーは高重力場では凝集体密度が増加する傾向が見られるため、Edはわずかに増加する。一方、粉砕に使い得るエネルギーEaは高重力場では増加することが考えられる。層内の凝集体径daはEdとEaの交点で求められるので、Eaの増加した分凝集体径は小さくなる。凝集体径daが限界最小径dacrより大きければ個々の粒子として流動化できる。

結論

 凝集体を形成して流動化する超微粒子流動層について流動特性および反応特性を調べ、より超微粒子の持つポテンシャルをより高く利用する技術として、高重力場での流動化の提案を行い、高重力場条件下で超微粒子凝集体が小さくなり、より高分散できることを実験的に示し、その現象をモデルを用いて説明した。

Fig.1 Fluidization quality of ultrafine particles in 2D fluidized bed

Fig.2 Schematic diagram of model for fluidization of agglomerates

Fig.3 Effect of G on ultrafine particle fluidization

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「超微粒子の流動層に関する研究」と題し、粒子径が数ナノメートルから数十ナノメートルのナノ粒子やサブミクロンの超微粒子について、超微粒子そのものを流動層の流動媒体に用いた場合の流動特性や反応器としての応用、さらに高重力場を利用した新たな超微粒子流動化技術の開発を扱っている。本論文の構成は7章から成っている。

 第1章は序論であり、超微粒子流動層の研究の経緯と背景が述べられている。また、高重力場を利用することによって、超微粒子の凝集を抑制しつつ流動化できるというアイデアを提案している。

 第2章では、超微粒子流動層の流動特性を扱っている。まず超微粒子の流動層について今までに提案されている凝集体径推算法をまとめている。二次元流動層を用いてナノ粒子を流動化させ、層膨張や凝集体の観察、凝集体径およびその層軸方向分布の測定を行った。その結果、一次粒子径が小さいほど凝集体径は大きく、表面が滑らかで固い構造の凝集体が形成され、大きな層膨張が起こることを見いだした。これは、超微粒子の凝集体の空隙率が非常に大きいので、流動化ガスが凝集体内部にまで入り込んでいるためと考え、実測した凝集体径と最小流動化速度から求めた凝集体径の差から流動化ガスが入り込む厚みの凝集体半径に対する比率を推算し、層膨張の違い等を説明した。

 第3章では、超微粒子が持つ高い反応性に着目し、超微粒子流動層を用いた光触媒による脱硝試験と二酸化チタンの還元・酸化反応を実験し、その応用可能性を調べている。超微粒子光触媒は凝集体を形成して流動化し、紫外光を照射する事により気相中のNOxを酸化処理し硝酸の形で回収できることを示した。光触媒の粒径が小さいほど、単位重さあたりの触媒で処理できるNOxの量は増加し、その値は比表面積にほぼ比例することを見いだした。プロセスは、光触媒反応によりNOxを酸化させ硝酸にする過程と、生成した硝酸の吸着の二段階からなると考えられ、生成した硝酸の吸着が律速であるとした。

 第4章では、超微粒子光触媒流動層を用いた脱硝反応モデルを構築している。これに基づき、処理量の増大および処理時間の長期化のためには、一次粒子径を小さくする、反応に関与する凝集体表面の厚みを厚くする、および凝集体径を小さくすることが有効であることを導いている。

 第5章では、高重力場での流動層の流動挙動を取り扱っている。高重力場における流動層の流動特性として、層圧力損失、最小流動化速度、粒子終末速度、Geldartマップ、気泡径、および気泡上昇速度について、それぞれに及ぼす重力加速度の影響を理論的あるいは実験的に検討している。

 第6章では、高重力場における超微粒子流動層の流動特性について検討している。まず、従来の超微粒子の凝集体径推算モデルを比較検討し、フォースバランスモデルが個々の凝集体として流動化できる限界最小径を推算していることを示し、高重力場ではこの限界最小径が小さくなること、すなわち、より小さな凝集体も流動化できるようになることを示した。さらに、流動層内で凝集体が粉砕されると考え、流動層内の凝集体径は層内の粉砕に使い得るエネルギーと単位重さあたりの凝集体を粉砕するのに要するエネルギーとがつり合って決まるとするモデルを提案している。単位重さあたりの凝集体を破砕するのに要するエネルギーは、高重力場では凝集体密度が増加する傾向が見られるため、わずかに増加する。一方、粉砕に使い得るエネルギーは高重力場では増加する。層内の凝集体径はこの両者のエネルギーのつり合いで決まるため、高重力場では凝集体径は小さくなることが説明できるとした。

 また、実際に遠心流動層を用いて超微粒子の流動特性を調べ、超微粒子流動層において高重力場にすることによって、凝集体径は高重力場では小さくなっていくことが実験的に確かめられた。また、微粒子の飛び出しを抑えるとともに、気泡径を小さくし均一流動状態を維持できることを明らかにした。

 第7章は、総括の章であり、超微粒子の流動層に関して行った基礎的研究を総括するとともに、今後の課題と展望が示されている。

 以上に示すように、本論文は、超微粒子の流動層に関して基礎的研究を行い、超微粒子の流動化技術として高重力場の利用を提案したものである。ここで得られた知見は、ナノ粒子バルクハンドリング、ナノ粒子の反応工学的応用などに資するものであり、流動工学および化学システム工学に大きな貢献をするものである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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