No | 216637 | |
著者(漢字) | 前田,和哉 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | マエダ,カズヤ | |
標題(和) | 肝指向性薬物のヒトの体内動態支配因子としてのトランスポーターの寄与および遺伝子多型による機能変動の解析 | |
標題(洋) | Investigation of the contribution of transporters to the pharmacokinetics of drugs targeted to liver and the effect of their genetic polymorphisms in humans | |
報告番号 | 216637 | |
報告番号 | 乙16637 | |
学位授与日 | 2006.11.09 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(薬学) | |
学位記番号 | 第16637号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | [序論] 肝臓は、薬物の解毒にとって主要な役割を果たす器官であり、近年、異物解毒に関与する代謝酵素・トランスポーターが次々と同定されてきた。ヒト肝臓においても、取り込み・排泄トランスポーターが多数同定され、個々の分子の基質特異性は、代謝酵素同様、非常に広範であることが知られている。中でも、organic anion transporting polypeptide (OATP) 1B1, OATP1B3は、共に遺伝子的に類似しており、肝臓にほぼ選択的に発現することが知られている。さらに、基質特異性が極めて広範な主に有機アニオン性化合物を認識し、その特異性にはかなりオーバーラップが見られる。また、非常に多岐にわたる薬物も認識することから、これらの薬物動態における重要性が高まっている。肝臓における異物解毒プロセスは、血管側から肝細胞への取り込み、細胞内から血管側へのbackflux、細胞内での代謝、細胞内から胆汁中への排泄の素過程からなり、固有クリアランスは、それらのハイブリッドパラメータで記述される。特に肝取り込み過程のクリアランス(CLi(nf))は、いかなる場合においても、その能力の変動が、直接固有クリアランス全体の変動に影響を与えることから、重要であると考えられる。トランスポーターが機能変動を起こしうる要因としては、トランスポーターを介した薬物間相互作用、遺伝子多型による発現・機能変動、さらには病態や薬物による発現変動などが挙げられ、これらの変動は、対象とするトランスポーターの臓器クリアランスに占める相対的な寄与や、特定の消失経路がクリアランス全体に占める寄与に従って、薬物の体内動態・臓器分布に影響を与えるものと考えられる。 そこで、本研究では、肝指向性薬物の肝取り込みにおけるトランスポーターの寄与を明確にすることを目的として、前半では肝疾患治療薬ウルソデオキシコール酸を例にとってヒト凍結肝細胞を用いた肝取り込み機構の解析を行うと共に、後半では、肝取り込みトランスポーターOATP1B1の遺伝子多型に焦点を当て、pravastatin, valsartan, temocaprilの体内動態に与える影響を明確にする臨床研究を行った。 1. ヒト凍結肝細胞を用いた肝疾患治療薬ウルソデオキシコール酸の肝取り込み機構の解析 ウルソデオキシコール酸(UDCA)は、種々の肝疾患時における肝機能の改善に効果を示すことから繁用されている薬物である。ヒトにおいては、UDCA投与後、肝臓内で、主にグリシン抱合、一部がタウリン抱合を受けて胆汁中へ排泄されることが知られており、また小腸から再吸収され腸肝循環を受けることで、投与後長時間肝胆系に滞留し、効率的に効果を発揮していると考えられる。本薬剤は、肝疾患治療薬であるにも関わらず、腸肝循環過程に関与するトランスポーターについてはあまり研究がなされていないことから、本研究では、肝取り込み過程に焦点を絞り、UDCAならびにその抱合体であるglyco-UDCA (GUDC), tauro-UDCA (TUDC)の肝取り込みトランスポーターを同定すべく、各種トランスポーター遺伝子発現系ならびにヒト凍結肝細胞を用いた検討を行った。 まず、Na+非依存的な肝取り込みトランスポーターであるOATP1B1, OATP1B3発現細胞を用いてUDCA, GUDC, TUDCの輸送活性を評価した。その結果、UDCAは、OATP1B1, OATP1B3いずれの基質にもならないことが示唆されたが、一方で、TUDC, GUDCについては、両方の基質となることが示された。両方の発現系における相対的な取り込みの絶対値から、過去報告された方法をもとに推定される寄与は、OATP1B1, OATP1B3について、ほぼ同等であることが見積もられた。次に、Na+依存的に胆汁酸の肝取り込みに関与するNa+-taurocholate cotransporting polypeptide (NTCP)の取り込みを検討した。その結果、UDCAは、絶対値は小さいが、対照細胞と比較して有意に高い取り込みが見られた。一方、TUDC, GUDCは、共に良好に認識されることが示された。またGUDCは2相性の飽和を示した。次に、独立した3ロット由来のヒト凍結肝細胞を用いて、肝細胞へのNa+依存的、非依存的な取り込みの寄与を明確にすべく、incubation medium中のNa+の共存下、非共存下におけるUDCAならびにその抱合体の取り込みを観察した。その結果、いずれの化合物についても、Na+依存的な輸送と非依存的な輸送の両方が観察された。UDCA, TUDCについては、Na+依存性が約半分程度であったが、GUDCについては、Na+非依存性の輸送が約8割を占めることが示された。さらに、Na+存在下・非存在下における取り込みの飽和性を検討したところ、Na+存在下におけるTUDC, GUDCの取り込みのKm値は、NTCPにおける輸送のKm値と比較して大きな値を示しており、現時点で、Na+依存的な輸送がNTCPによるものかは断定できない。一方、Na+非依存的な輸送のKm値は、OATP発現系における値に比較的近いことから、OATP1B1, OATP1B3によるものであることが推察された。さらに、UDCAについても、Na+非依存的な飽和性のある取り込みが観察されていることから、OATP以外の飽和性のある輸送経路の関与が示唆される結果となった。以上をまとめると、UDCA及びその代謝物は、Na+依存性・非依存性両方の経路により肝細胞に取り込まれ、特に、ヒトにおいてUDCA投与後、主要な分子種となるGUDCについてNa+非依存的な取り込みが大部分を占めることは、ヒトにおけるUDCAの体内動態を決める要因として、OATP1B1, OATP1B3が重要な役割を果たしていることが示唆していると考えられ興味深い。 2. pravastatin, valsartan, temocaprilの薬物動態に与えるOATP1B1の遺伝子多型の影響に関する臨床研究 OATP1B1には、数多くの健常人に見られる変異が報告されているが、特にA388G (Asn130Asp)およびT521C (Val174Ala)は、中でも特に頻度が高く、さらに頻度に民族差が見られることから、薬物動態の民族差を生み出す原因の一つとしても注目を集めている。臨床におけるこれら変異の意義は、当研究室の検討をはじめとした複数の臨床試験により、pravastatin経口投与後の血中濃度推移を観察した結果、Val174Ala変異の保有者について、有意な血中濃度の上昇が見られ、この変異が腎外クリアランスの低下を引き起こすことが示唆されてきた。その後、他の薬物についてもVal174Ala変異によるクリアランスの低下を示唆する臨床報告が複数出てきている。しかしながら、野生型の*1aと*1b変異を明確に層別化して、*1b変異が薬物動態に与える影響については検討されていない。また、個々人における、他の薬効群のトランスポーター基質となる複数の薬物間の体内動態の相関を見た例は報告されていない。そこで、本研究では、OATP1B1*1bアレルがpravastatin, valsartan, temocaprilそれぞれの薬物動態に与える影響を臨床研究で明らかにするとともに、各個人における3薬剤の血中濃度推移を比較することで、体内動態の個人差の原因の類似性を検討することを目的とした。被験者は、OATP1B1の遺伝子多型により層別化された健常日本人男性23名にご参加いただき、休薬期間1週間をおいて、ランダムな順序で3薬剤を投与し、血中濃度と尿中排泄量を経時的に測定した。研究で用いた薬物は有機アニオンで、いずれも未変化体の胆汁排泄が主な消失経路であり、in vitro実験の結果OATP1B1基質であることが分かっているものを用いた。なおtemocaprilは、投与後、カルボキシエステラーゼによりtemocaprilatという活性代謝物に変換される。まず、pravastatinについては、*1a/*la vs *1b/*1b, *1a/*15 vs *1b/*15の比較で、いずれも*1b保有群について有意に血中濃度が低い推移をとっており、血漿中AUCも、*1b保有群で有意な低下が観察された。一方、腎クリアランスは各群間で優位な変動は見られなかった。一方、*15による血中濃度上昇は明確に見られなかった。pravastatinは、胃内の低pH環境下で、吸収を受ける前に非酵素的に異性化してRMS-416という代謝物に変換されることが知られている。そこで、RMS-416がOATP1B1の基質となることをOATP1B1/MRP2共発現系を用いた経細胞輸送の観察により示した。そこで、次にpravastatinとRMS-416両分子種を足して動態解析を行ったところ、*1bによる血中濃度の低下が観察された一方、*15による血中濃度の上昇傾向も観察され、過去の結果を支持するものとなった。次に、valsartanについて観察したところ、同様に*1b保有群について、統計的に有意ではないが、血中濃度・血漿中AUCの低下傾向が観察された。さらに、これまでtemocaprilatは、OATP1B1の基質となることが確認されていたが、プロドラッグであるtemocaprilもOATP1B1の基質となる可能性を考え、OATP1B1/MRP2共発現系で経細胞輸送を観察したところ、temocaprilもOATP1B1の基質であることが確認された。temocaprilの血中濃度は、*1b群で低下傾向にあることが示唆された一方、temocaprilatの血中濃度については、各群でほとんど差が見られなかった。次に、各個人の薬物ごとの血漿中AUCと、pravastatinのAUCとの間の相関を観察したところ、valsartan, temocaprilとpravastatinのAUCの間には、有意な正の相関が認められた一方、temocaprilatとは相関がみられなかった。以上の結果より、OATP1B1*1bアレルは、*1a(野生型)と比較して、今回検討した薬物の肝クリアランスを上昇させる傾向にあることが示唆された。さらに、pravastatinとvalsartan・temocaprilの個々人のAUCに相関が認められたことから、これらは互いに消失機構を共有していることが示唆され、OATP1B1が体内動態の決定に重要な役割を果たしていることが示唆された。 [結論] 以上、肝指向性薬物に対して、in vitro実験系でヒト肝細胞とトランスポーター発現系を併用した薬物輸送におけるトランスポーターの関与に関する検討およびトランスポーターの遺伝子変異による機能変動が臨床薬物動態に与える影響に関する検討を行い、肝指向性薬物の薬物動態において、肝取り込みトランスポーターの役割が重要であることを事例を介して示すことができた。今後、ヒトin vivoで直接トランスポーター機能がphenotyping可能なprobe drugの開発や、薬効に関しても定量的な予測モデルを構築し、薬物動態モデルと連結させることで、薬効の予測を可能にするような方法論の確立が望まれる。 | |
審査要旨 | [序論] 肝臓は、薬物の解毒にとって主要な役割を果たす器官であり、近年、異物解毒に関与する代謝酵素・トランスポーターが次々と同定されてきた。ヒト肝臓においても、取り込み・排泄トランスポーターが多数同定され、個々の分子の基質特異性は、代謝酵素同様、非常に広範であることが知られている。中でも、organic anion transporting polypeptide (OATP) 1B1, OATP1B3は、共に遺伝子的に類似しており、肝臓にほぼ選択的に発現することが知られている。さらに、基質特異性が極めて広範な主に有機アニオン性化合物を認識し、その特異性にはかなりオーバーラップが見られる。また、非常に多岐にわたる薬物も認識することから、これらの薬物動態における重要性が高まっている。肝臓における異物解毒プロセスは、血管側から肝細胞への取り込み、細胞内から血管側へのbackflux、細胞内での代謝、細胞内から胆汁中への排泄の素過程からなり、固有クリアランスは、それらのハイブリッドパラメータで記述される。特に肝取り込み過程のクリアランス(CLi(nf))は、いかなる場合においても、その能力の変動が、直接固有クリアランス全体の変動に影響を与えることから、重要であると考えられる。トランスポーターが機能変動を起こしうる要因としては、トランスポーターを介した薬物間相互作用、遺伝子多型による発現・機能変動、さらには病態や薬物による発現変動などが挙げられ、これらの変動は、対象とするトランスポーターの臓器クリアランスに占める相対的な寄与や、特定の消失経路がクリアランス全体に占める寄与に従って、薬物の体内動態・臓器分布に影響を与えるものと考えられる。 そこで、本研究では、肝指向性薬物の肝取り込みにおけるトランスポーターの寄与を明確にすることを目的として、前半では肝疾患治療薬ウルソデオキシコール酸を例にとってヒト凍結肝細胞を用いた肝取り込み機構の解析を行うと共に、後半では、肝取り込みトランスポーターOATP1B1の遺伝子多型に焦点を当て、pravastatin, valsartan, temocaprilの体内動態に与える影響を明確にする臨床研究を行った。 1. ヒト凍結肝細胞を用いた肝疾患治療薬ウルソデオキシコール酸の肝取り込み機構の解析 ウルソデオキシコール酸(UDCA)は、種々の肝疾患時における肝機能の改善に効果を示すことから繁用されている薬物である。ヒトにおいては、UDCA投与後、肝臓内で、主にグリシン抱合、一部がタウリン抱合を受けて胆汁中へ排泄されることが知られており、また小腸から再吸収され腸肝循環を受けることで、投与後長時間肝胆系に滞留し、効率的に効果を発揮していると考えられる。本薬剤は、肝疾患治療薬であるにも関わらず、腸肝循環過程に関与するトランスポーターについてはあまり研究がなされていないことから、本研究では、肝取り込み過程に焦点を絞り、UDCAならびにその抱合体であるglyco-UDCA (GUDC), tauro-UDCA (TUDC)の肝取り込みトランスポーターを同定すべく、各種トランスポーター遺伝子発現系ならびにヒト凍結肝細胞を用いた検討を行った。 まず、Na+非依存的な肝取り込みトランスポーターであるOATP1B1, OATP1B3発現細胞を用いてUDCA, GUDC, TUDCの輸送活性を評価した。その結果、UDCAは、OATP1B1, OATP1B3いずれの基質にもならないことが示唆されたが、一方で、TUDC, GUDCについては、両方の基質となることが示された。両方の発現系における相対的な取り込みの絶対値から、過去報告された方法をもとに推定される寄与は、OATP1B1, OATP1B3について、ほぼ同等であることが見積もられた。次に、Na+依存的に胆汁酸の肝取り込みに関与するNa+-taurocholate cotransporting Polypeptide (NTCP)の取り込みを検討した。その結果、UDCAは、絶対値は小さいが、対照細胞と比較して有意に高い取り込みが見られた。一方、TUDC, GUDCは、共に良好に認識されることが示された。またGUDCは2相性の飽和を示した。次に、独立した3ロット由来のヒト凍結肝細胞を用いて、肝細胞へのNa+依存的、非依存的な取り込みの寄与を明確にすべく、incubation medium中のNa+の共存下、非共存下におけるUDCAならびにその抱合体の取り込みを観察した。その結果、いずれの化合物についても、Na+依存的な輸送と非依存的な輸送の両方が観察された。UDCA, TUDCについては、Na+依存性が約半分程度であったが.GUDCについては、Na+非依存性の輸送が約8割を占めることが示された。さらに、Na+存在下・非存在下における取り込みの飽和性を検討したところ、Na+存在下におけるTUDC, GUDCの取り込みのKm値は、NTCPにおける輸送のKm値と比較して大きな値を示しており、現時点で、Na+依存的な輸送がNTCPによるものかは断定できない。一方、Na+非依存的な輸送のKm値は、OATP発現系における値に比較的近いことから、OATP1B1, OATP1B3によるものであることが推察された。さらに、UDCAについても、Na+非依存的な飽和性のある取り込みが観察されていることから、OATP以外の飽和性のある輸送経路の関与が示唆される結果となった。以上をまとめると、UDCA及びその代謝物は、Na+依存性・非依存性両方の経路により肝細胞に取り込まれ、特に、ヒトにおいてUDCA投与後、主要な分子種となるGUDCについてNa+非依存的な取り込みが大部分を占めることは、ヒトにおけるUDCAの体内動態を決める要因として、OATP1B1, OATP1B3が重要な役割を果たしていることが示唆していると考えられ興味深い。 2. pravastatin, valsartan, temocaprilの薬物動態に与えるOATP1B1の遺伝子多型の影響に関する臨床研究 OATP1B1には、数多くの健常人に見られる変異が報告されているが、特にA388G (Asn130Asp)およびT521C (Val174Ala)は、中でも特に頻度が高く、さらに頻度に民族差が見られることから、薬物動態の民族差を生み出す原因の一つとしても注目を集めている。臨床におけるこれら変異の意義は、当研究室の検討をはじめとした複数の臨床試験により、pravastatin経口投与後の血中濃度推移を観察した結果、Val174Ala変異の保有者について、有意な血中濃度の上昇が見られ、この変異が腎外クリアランスの低下を引き起こすことが示唆されてきた。その後、他の薬物についてもVal174Ala変異によるクリアランスの低下を示唆する臨床報告が複数出てきている。しかしながら、野生型の*1aと*1b変異を明確に層別化して、*1b変異が薬物動態に与える影響については検討されていない。また、個々人における、他の薬効群のトランスポーター基質となる複数の薬物間の体内動態の相関を見た例は報告されていない。そこで、本研究では、OATP1B1*1bアレルがpravastatin, valsartan, temocaprilそれぞれの薬物動態に与える影響を臨床研究で明らかにするとともに、各個人における3薬剤の血中濃度推移を比較することで、体内動態の個人差の原因の類似性を検討することを目的とした。被験者は、OATP1B1の遺伝子多型により層別化された健常日本人男性23名にご参加いただき、休薬期間1週間をおいて、ランダムな順序で3薬剤を投与し、血中濃度と尿中排泄量を経時的に測定した。研究で用いた薬物は有機アニオンで、いずれも未変化体の胆汁排泄が主な消失経路であり、in vitro実験の結果OATP1B1基質であることが分かっているものを用いた。なおtemocaprilは、投与後、カルボキシエステラーゼによりtemocaprilatという活性代謝物に変換される。まず、pravastatinについては、*1a/*1a vs *1b/*1b, *1a/*15 vs *1b/*15の比較で、いずれも*1b保有群について有意に血中濃度が低い推移をとっており、血漿中AUCも、*1b保有群で有意な低下が観察された。一方、腎クリアランスは各群間で優位な変動は見られなかった。一方、*15による血中濃度上昇は明確に見られなかった。pravastatinは、胃内の低pH環境下で、吸収を受ける前に非酵素的に異性化してRMS-416という代謝物に変換されることが知られている。そこで、RMS-416がOATP1B1の基質となることをOATP1B1/MRP2共発現系を用いた経細胞輸送の観察により示した。そこで、次にpravastatinとRMS-416両分子種を足して動態解析を行ったところ、*1bによる血中濃度の低下が観察された一方、*15による血中濃度の上昇傾向も観察され、過去の結果を支持するものとなった。次に、valsartanについて観察したところ、同様に*1b保有群について、統計的に有意ではないが、血中濃度・血漿中AUCの低下傾向が観察された。さらに、これまでtemocaprilatは、OATP1B1の基質となることが確認されていたが、プロドラッグであるtemocaprilもOATP1B1の基質となる可能性を考え、OATP1B1/MRP2共発現系で経細胞輸送を観察したところ、temocaprilもOATP1B1の基質であることが確認された。temocaprilの血中濃度は、*1b群で低下傾向にあることが示唆された一方、temocaprilatの血中濃度については、各群でほとんど差が見られなかった。次に、各個人の薬物ごとの血漿中AUCと、pravastatinのAUCとの間の相関を観察したところ、valsartan, temocaprilとpravastatinのAUCの間には、有意な正の相関が認められた一方、temocaprilatとは相関がみられなかった。以上の結果より、OATP1B1*1bアレルは、*1a(野生型)と比較して、今回検討した薬物の肝クリアランスを上昇させる傾向にあることが示唆された。さらに、pravastatinとvalsartan・temocaprilの個々人のAUCに相関が認められたことから、これらは互いに消失機構を共有していることが示唆され、OATP1B1が体内動態の決定に重要な役割を果たしていることが示唆された。 [結論] 以上、肝指向性薬物に対して、in vitro実験系でヒト肝細胞とトランスポーター発現系を併用した薬物輸送におけるトランスポーターの関与に関する検討およびトランスポーターの遺伝子変異による機能変動が臨床薬物動態に与える影響に関する検討を行い、肝指向性薬物の薬物動態において、肝取り込みトランスポーターの役割が重要であることを事例を介して示すことができた。今後、ヒトin vivoで直接トランスポーター機能がphenotyping可能なprobe drugの開発や、薬効に関しても定量的な予測モデルを構築し、薬物動態モデルと連結させることで、薬効の予測を可能にするような方法論の確立が望まれる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/40234 |