学位論文要旨



No 216652
著者(漢字) 鎌田,慶吾
著者(英字)
著者(カナ) カマタ,ケイゴ
標題(和) ポリオキソメタレート触媒による過酸化水素を酸化剤とした選択的酸素移行反応に関する研究
標題(洋) Study on Selective Oxygen Transfer Reactions with Hydrogen Peroxide by Polyoxometalate Catalysts
報告番号 216652
報告番号 乙16652
学位授与日 2006.11.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16652号
研究科 工学系研究科
専攻 応用化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 水野,哲孝
 東京大学 教授 堂免,一成
 東京大学 教授 藤田,誠
 東京大学 助教授 河野,正規
 神奈川大学 教授 引地,史郎
内容要旨 要旨を表示する

【論文の概要】

 本研究では、過酸化水素を酸化剤とした選択酸化反応において、従来にはない高い選択率・過酸化水素有効利用率を示す新規なポリオキソメタレート触媒を開発し、オレフィン・スルフィド・アリル型アルコールなど様々な有機基質の選択的酸素添加反応へと応用した。第1章では、過酸化水素や分子状酸素などのクリーンな酸化剤を用いたグリーン酸化触媒を中心に有機合成化学・有機工業化学プロセスにおける選択酸化反応の重要性について述べた後、ポリオキソメタレートを用いた均一系・不均一系選択酸化触媒の設計指針を示し、本研究の目的について述べた。第2章では、チタンの酸化剤活性化能に注目し、単核及び複核の活性点構造をポリオキソメタレート内に構築しその反応性を検討した。Ti-(OH)2-Tiサイトを持ち二量体構造を有する、新規チタン二置換シリコタングステートのみが過酸化水素を用いたオレフィンやスルフィドの酸化反応に活性であり、チタン多核サイトが過酸化水素を活性化する有用な活性点であることを示した。第3章では、チタン二置換シリコタングステートよりも高活性であり、温和な条件下で反応性の低いプロピレンを含むC3-C12の広範なオレフィン類のエポキシ化反応を効率良く促進する新規二原子欠損型シリコタングステートを開発し、従来触媒にはない99%以上という高いエポキシド選択率・過酸化水素有効利用率を実現した。ポリオキソメタレート骨格内に求電子的な酸化活性種が生成することを示し、非共役ジエン類のエポキシ化反応において単核錯体や量論試剤では発現しない特異的選択性を実現した。また、高活性ヒドロペルオキソ種の生成を提案し、効率的酸素添加におけるO-O結合分極化の必要性を示した。第4章では、有機溶媒を全く使用しない、水溶性二核タングステンペルオキソ錯体触媒による水溶媒中でのアリル型アルコールの高効率エポキシ化反応系を開発した。基質に対して等量の過酸化水素のみを酸化剤とし、官能基・位置・ジアステレオ選択的及び立体特異的なアリル型アルコールのエポキシ化反応を実現した。最後に、本研究を総括した。本研究で得られた知見は、有機工業プロセス触媒としての工業的応用が期待される共に、無機化学・触媒化学・錯体化学などの基礎研究分野においても重要であり、立体・形状選択性などの高次な選択性を発現する新規均一系・不均一系触媒の開発・設計に役立つものと期待される。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「Study on Selective Oxygen Transfer Reactions with Hydrogen Peroxide by Polyoxometalate Catalysts(ポリオキソメタレート触媒による過酸化水素を酸化剤とした選択的酸素移行反応に関する研究)」と題し、全4章と総括から構成されており、過酸化水素を酸化剤とした選択酸化反応において、従来にはない高い選択率・過酸化水素有効利用率を示す新規なポリオキソメタレート触媒を開発し、オレフィン・スルフィド・アリル型アルコールなど様々な有機基質の選択的酸素添加反応へと応用した結果を報告している。

 第1章では、種々の有機基質の酸化的官能基変換反応が有機合成化学・有機工業化学プロセスにおいて最も重要な反応プロセスの一つであることを示した。さらに、過酸化水素や分子状酸素などのクリーンな酸化剤を用いたグリーン酸化触媒を中心に選択酸化反応の重要性を示した後、ポリオキソメタレートを用いた均一系・不均一系選択酸化触媒の設計指針を示し、堅固な構造とソフト性を併せ持つポリオキソメタレート触媒が、多核であるが故にバルクや単核では進行しない触媒反応を温和な条件下で促進する可能性を示し、本研究の目的を明確にした。

 第2章では、チタンの酸化剤活性化能に注目し、単核及び複核の活性点構造をポリオキソメタレート内に構築しその反応性を検討した。ヒドロキソ架橋チタン二核サイト(Ti-(OH)2-Ti)を持ち二量体構造を有する、新規チタン二置換シリコタングステートのみが過酸化水素を用いたオレフィンやスルフィドの酸化反応に活性であり、チタン多核サイトが過酸化水素を活性化する有用な活性点であることを示した。触媒のTi-(OH)2-Tiサイトが過酸化水素と反応することにより生成したヒドロペルオキソ種Ti-(OH)(OOH)-Tiを経由し、エポキシ化反応が進行する機構を提案した。

 第3章では、第2章で述べたチタン二置換シリコタングステートよりも高活性であり、温和な条件下で反応性の低いプロピレンを含むC3-C12の広範なオレフィン類のエポキシ化反応を効率良く促進する新規二原子欠損型シリコタングステートを開発し、従来触媒にはない99%以上という高いエポキシド選択率・過酸化水素有効利用率を実現した。ポリオキソメタレート骨格内に求電子的な酸化活性種が生成することを示し、非共役ジエン類のエポキシ化反応において単核錯体や量論試剤では発現しない特異的位置選択性を実現した。また、分光学や速度論による反応機構の検討から高活性ヒドロペルオキソ種の生成を示唆し、効率的酸素添加におけるO-O結合分極化の必要性を示した。

 第4章では、有機溶媒を全く使用しない、水溶性二核タングステンペルオキソ錯体触媒による水溶媒中でのアリル型アルコールの高効率エポキシ化反応系を開発した。基質に対して等量の過酸化水素のみを酸化剤とし、アリル型アルコールの高選択的エポキシ化反応を実現した。本反応系における官能基・位置・ジアステレオ選択性と速度論の結果から、タングステンアルコラート種を経由して反応が進行することを提案した。

 最後に、本研究を総括した。活性点近傍のプロトンが過酸化水素を活性化する際に、高活性なヒドロペルオキソ種の生成を促し、ペルオキソ種のO-O結合を分極化することで効率的に酸素移行反応を促進していることを示した。本研究で得られた知見は、有機工業プロセス触媒としての工業的応用が期待される共に、無機化学・触媒化学・錯体化学などの基礎研究分野においても重要であり、立体・形状選択性などの高次な選択性を発現する新規均一系・不均一系触媒の開発・設計に役立つものと期待される。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/51225