No | 216685 | |
著者(漢字) | 岡部,晃博 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オカベ,アキヒロ | |
標題(和) | メソ構造シリカ材料制御合成のための新規手法 | |
標題(洋) | Novel Methods for Controlled Fabrication of Mesostructured Silicate Materials | |
報告番号 | 216685 | |
報告番号 | 乙16685 | |
学位授与日 | 2007.01.18 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第16685号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 化学生命工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | [緒言] メソポーラスシリカは、ゼオライト同様均一で規則的に配列した細孔を有し、かつ細孔径がゼオライトでは到達できていない2nm以上の領域の材料である。メソポーラスシリカの形成機構は、結晶性のゼオライトとは異なり、界面活性剤が水溶液中で形成する集合体であるミセルを鋳型として、その周りにゾルゲル法でシリカを成長させ、最終的に鋳型のミセルを除去することで細孔を発現している。(Fig.1)そのため、シリカ骨格は基本的にアモルファスで比較的柔軟性を保っており、さらに縮合が完全でないことから、未反応シラノール基が豊富に存在する。この構造から、細孔径制御や官能基化等による修飾が非常に容易であり、広範にわたる応用展開を可能としている。これらの特徴から、メソポーラスシリカは、ゼオライトでは不可能だった、巨大分子、超分子集合体、ポリマーといった数nmレベルの材料を対象とする触媒反応、吸着・分離、さらにはホスト材料としての展開が期待され、注目を集めている。しかしながら、これらの用途が実用に近づくためには、細孔内担持量・密度の向上、メソ構造の安定性向上等、改善すべき点が多く残されている。これらの問題点の効率的な改善を可能とする、これまでに例の無い合成手法について、以下に示す4つの章:(1)ディスク状分子をテンプレートとしたメソポーラスシリカ複合体薄膜の調製、(2)縮合部位を有する開裂可能なテンプレートを用いたメソポーラスシリカ複合体合成、(3)テトラフルオロホウ酸塩を用いたメソポーラスシリカの合成、(4)エタノール蒸気による熟成過程を経るメソポーラスシリカ薄膜の調製、に分類し博士論文としてまとめた。 [実験と結果] (1)ディスク状分子をテンプレートとしたメソポーラスシリカ複合体薄膜の調製 (1)および(2)章では、メソポーラスシリカ合成に用いるテンプレート自身に機能を持たせることで、メソポーラスシリカ複合体を合成する新規手法を開発している。 ディスク状分子はπ電子相互作用により堆積し、カラム状の集合体を形成する。このカラムは、カラム方向に1次元的な電荷移動のパスを与えることで知られている。またディスク状分子は、このカラム状堆積体が集合することでディスコティック液晶状態を容易に形成することが知られている。この性質を利用し、代表的なディスク状分子であるトリフェニレン、ヘキサベンゾコロネン誘導体(Fig.2)をメソポーラスシリカのテンプレートとすることにより、シリカとの複合体の作製に成功した。構造はX線回折(XRD)パターンおよび透過型電子顕微鏡(TEM)像により確認された。(Fig.3)またこれらのディスク状分子はドナー性であるので、アクセプター分子を添加することにより電荷移動錯体を形成することが知られている。この電荷移動錯体を用いることによっても、同様のメソポーラスシリカ複合体を作製することにも同時に成功した。 (2)縮合部位を有する開裂可能なテンプレートを用いたメソポーラスシリカ複合体合成 テンプレートとしてFig.4に示すような、アルコキシシリル基がシリカ骨格と結合し、エステル部位の加水分解でカルボン酸末端と細孔を同時にもたらすことができる界面活性剤を設計し、メソポーラスシリカのテンプレートとすることに成功した。さらに得られた複合体をHCl/THF溶液で処理することによって、機能性部位がシリカ細孔壁と結合・固定化し、同時に細孔を持つメソポーラスシリカ複合体を作製することに成功した。(Fig.5) (3)テトラフルオロホウ酸塩を用いたメソポーラスシリカの合成 ゾルゲル反応促進効果を新たに見出したテトラフルオロホウ酸塩を用い、カチオン性界面活性剤を含んだメソポーラスシリカ合成の反応水溶液に添加することで、高耐熱・高耐水性メソポーラスシリカを効果的に合成する手法を開発した。テトラフルオロホウ酸イオンは水との親和性が低く、ミセル水溶液中ではミセル表面近傍に存在する。この性質からミセル表面で局所的にゾルゲル反応が促進し、未反応シラノール基が極端に少ないメソポーラスシリカの作製に成功した。このメソポーラスシリカは熱・水熱条件下での構造安定性が大きく向上していることも確認された。(Fig.6) (4)エタノール蒸気による熟成過程を経るメソポーラスシリカ薄膜の調製 電子・光デバイスへの応用が期待されるメソポーラスシリカ薄膜の調製において、塗布直後にエタノール蒸気中における熟成工程を加えたプロセスを開発した。このプロセスにより、得られる薄膜のメソ構造の規則性が飛躍的に向上した。さらには、時間の経過によってメソ構造形成が困難となった塗布液を使用した場合においても、このプロセスを用いることで、メソ構造を再び形成させることに成功した。(Fig.7)このことにより前駆体として使用する塗布液の寿命を、反応が常に進行している状態のまま2倍以上に延ばすことも可能となった。 Fig.1 メソポーラスシリカの形成機構 Fig.2 ディスク状分子テンプレート Fig.3 XRDパターン(a)およびTEM像(b) Fig.4 縮合部位、開裂部位を有するテンプレート Fig.5 XRDパターン(a)および加水分解後TEM像(b) Fig.6 NaBF4添加無し(a)および有り(b)で調製したメソポーラスシリカのXRDと熱・水熱処理による構造変化 Fig.7 予備縮合(A)20時間および(B)125時間の塗布液から調製したエタノール蒸気処理有り(a)および無し(b)の場合でのメソポーラスシリカ薄膜のXRDパターン | |
審査要旨 | メソポーラスシリカは、ゼオライト同様均一で規則的に配列した細孔を有し、かつゼオライトでは到達できていない細孔径2nm以上の細孔を有する材料である。メソポーラスシリカの骨格はアモルファスであり、さらに縮合も不完全であることから、比較的柔軟で反応性のシラノール基が豊富に存在する。これらの特徴的な構造から、細孔径制御や官能基化等による修飾も容易であり、巨大分子、超分子集合体、ポリマーといったゼオライトでは困難だった数nmスケールの材料を対象とする触媒反応、吸着・分離、さらにはホスト材料等の広範に渡る展開が期待されている。しかしながら、これらの用途が実用に近づくためには、細孔内への機能性物質担持量・担持密度の向上、メソ構造の安定性向上等、改善すべき点が多く残されている。本論文では、メソポーラスシリカの実用化を可能にするような、構造制御および機能化を効率的にもたらす新規合成手法の確立を目的とした研究について述べている。 序論では、メソポーラスシリカの構造および機能に関する制御合成手法について概観している。これまでに行われてきた手法を基礎として、細孔のテンプレートとして用いる分子に、機能性付与の役割も持たせる分子設計を新規合成手法の一つとして提案している。加えて、もう一つの新規合成手法へのアプローチとして、メソポーラスシリカの特徴的な形成過程を利用することによる効果的な構造制御にも着目している。 第1章では、ディスク状分子をテンプレートとしたメソポーラスシリカ複合体薄膜の調製について述べている。ディスク状分子はπ電子相互作用により堆積し、カラム状の集合体を形成する。このカラムは、カラム方向に1次元的な電荷移動のパスを与えることで知られている。またディスク状分子は、このカラム状堆積体が集合することでディスコティック液晶状態を容易に形成することが知られている。この性質を利用し、代表的なディスク状分子であるトリフェニレンやヘキサベンゾコロネン誘導体をテンプレートとしたメソポーラスシリカ複合体薄膜の調製に成功している。これはシリカ透明薄膜の細孔内にカラム状堆積体として固定化した最初の例であると述べている。この構造はX線回折パターンおよび透過型電子顕微鏡像により確認されている。また、これらドナー性のディスク状分子にアクセプター分子を添加することにより電荷移動錯体を形成し、同様にメソポーラスシリカ複合体薄膜を合成することにも同時に成功している。 第2章では、縮合性部位であるアルコキシシリル基、加水分解により開裂可能なエステル部位の両方を有するテンプレートを用いたメソポーラスシリカ複合体合成について述べている。このような構造のテンプレート分子を設計し、メソポーラスシリカ合成に用いることで、テンプレート分子がアルコキシシリル基の縮合によりシリカ骨格と結合する。さらに得られた複合体をHCl/THF溶液で処理することによって、エステル部位を加水分解し、メソ構造を保持したまま、カルボン酸末端に囲まれた細孔を同時にもたらすことに成功している。この手法は、機能性分子をテンプレートとして調製したメソポーラスシリカ複合体に、機能を保持したまま物質拡散のための細孔を確保できる点で非常に意義深い。 第3章では、テトラフルオロホウ酸塩を用いたメソポーラスシリカの制御合成について述べている。メソポーラスシリカ生成過程に寄与するテトラフルオロホウ酸塩の効果の一つとして、シリカのゾルゲル合成に対する反応促進効果があり、高活性で知られるフッ酸イオンと同等レベルであることを新たに見出している。これに加えて、テトラフルオロホウ酸イオンの水との親和性の低さから、界面活性剤水溶液中においてはミセル表面近傍に局在化することが予想される。テンプレート分子としての界面活性剤を含むメソポーラスシリカ合成反応水溶液中において、この局在化が実際に起こっていることは(19)F NMRにより明らかにしている。これらの特徴を利用し、テンプレートとなるミセル表面で局所的にゾルゲル反応を促進することで、未反応シラノール基が極端に少ないメソポーラスシリカの合成に成功している。この生成物は熱・水熱条件下においても構造を保持しており、メソポーラスシリカの構造安定性を容易に向上させる手法として広く活用されることが期待される技術である。 第4章では、エタノール蒸気による熟成過程を経るメソポーラスシリカ薄膜の調製について述べている。電子・光デバイスへの応用が期待されるメソポーラスシリカ薄膜の調製において、塗布直後の構造は完全ではなく、その後の乾燥工程が構造形成に大きな影響を及ぼすことが知られている。この乾燥工程にエタノール蒸気下での熟成過程を加えることにより、得られる薄膜のメソ構造の規則性が飛躍的に向上することを見出している。このエタノール蒸気による熟成工程の効果は、薄膜調製用の塗布液が時間経過によりメソ構造形成が困難な状態になった場合においてさえも、メソ構造形成を可能にすることも明らかにしている。これによって、塗布液の寿命を、反応が進行している状態のまま2倍以上に延ばすことができ、この点からも有用性の高い手法であると述べている。 結論では、本論文の総括と展望を述べている。 以上、本論文では、テンプレート分子の設計およびメソポーラスシリカ形成反応の制御による、機能性物質との理想的な複合化および完成度の高いメソ構造の形成が提案されている。それと同時に、これまでに無い斬新なアプローチにより、これらのメソポーラスシリカ制御合成を実現可能にする手法を見出したことについても述べられている。これらの成果は、今後の有機および無機材料工学、特に有機無機ナノ複合材料の発展に寄与するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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