学位論文要旨



No 216693
著者(漢字) 齋藤,充生
著者(英字) Saito, Mitsuo
著者(カナ) サイトウ,ミツオ
標題(和) 薬物動態における相互作用とその添付文書による情報提供に関する研究 : スタチン、カルシウム拮抗剤及びグレープフルーツジュース
標題(洋)
報告番号 216693
報告番号 乙16693
学位授与日 2007.02.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 第16693号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 松木,則夫
 東京大学 教授 津谷,喜一郎
 東京大学 教授 澤田,康文
 東京大学 助教授 楠原,洋之
 東京大学 講師 樋坂,章博
内容要旨 要旨を表示する

 医療用医薬品の添付文書は、医療従事者にとり適正使用実施のための重要な情報源である。添付文書の記載内容は、承認審査の際に、個々の医薬品毎に審査を受けるが、承認後の記載については個々の承認取得者に任されている。

 我が国の添付文書の記載要領は、ソリブジン事件を踏まえ、簡潔で理解しやすいことを目的に、平成9年に改定された。医薬品相互作用は医薬品による有害事象の主な原因の一つであり、また、市販後に判明した相互作用に起因する有害事象により、市場撤退した事例も多い。近年、医薬品相互作用に関与する薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)や薬物トランスポータに関する研究が進められつつあり、これらの情報が適切に提供されることが、医薬品の適正使用に資すると考えられる。本研究においては、添付文書情報の中で特に相互作用に注目し、献報告されている科学的情報が、添付文書にいかに反映されているか解析し、よりよい添付文書についての提言を行うこととした

1. 添付文書における代謝関連情報の記載状況

 添付文書記載の現状を把握するため、日本医薬品集DB(じほう社)を用いて、現在使用されている配合剤を除く全ての医療用医薬品成分(2,022成分)を対象に、添付文書におけるCYPの記載率を調査解析した。CYP関連情報が記載されている医薬品は239種(11.8%)であり、そのうち194種(9.6%)の添付文書にはCYP分子種の記載が見られた。2000-2003年の3年分の添付文書情報の解析から、CYPに関連した情報は年次ごとに増加していることが判明し、承認年度ごとの解析では、新たに承認された医薬品ほど、記載率が上昇し、最近では約半数でCYPに関する記載が認められた。また、新薬承認情報集の解析から、関承認取得年が古い医薬品ほど添付文書中にCYP関連情報が記載されている割合は少なく、新しく承認されたものほど、CYP関連情報の記載が充実していることが明らかになった。これらの結果から、新たに承認された医薬品では、CYPに関する検討が十分に行われている反面、全体では、承認時期が古い医薬品を中心に、CYPに関する記載が不十分なことが明らかになった。

2. 現行の添付文書に対する医療従事者の意識調査

 添付文書の現状を把握するために、日本病院薬剤師会の協力を得て、添付文書情報の利用方法、必要とされる情報のあり方等について全国320施設(266施設より回答)を対象に、アンケート調査を実施した。その結果、添付文書の記載順序、相互作用の表形式記載については、現行形式を支持するとの意見が大多数であった。一方、相互作用欄において、個別医薬品名や重要度、薬物動態データ(AUC,Cmax)の変化率及び投与条件について、記載を追加すべきとの意見が多いことが判明した。

3. スタチンの相互作用情報と添付文書との比較解析

 スタチンは高脂血症の治療薬として、広く使用されているが、時として横紋筋融解症などの重篤な有害事象を引き起こす。横紋筋融解症はスタチン単独でも起こるが、併用時に多く起こることが報告され、他剤との併用による血中濃度増加がその一因と考えられる。

 スタチン系薬剤には、代謝の面から主にCYP3A4により代謝をうけるもの(シンバスタチン及びアトルバスタチン)、主にCYP2C9により代謝されるもの(フルバスタチン)、薬物代謝を受けにくいもの(プラバスタチン及びピタバスタチン)がある。本研究では、スタチンの相互作用に関する情報が適正に添付文書に反映されているか否かの検証のため、我が国で承認されている5種のスタチンが関与する薬物動態相互作用について、Medline(1966-2004)検索を行い、全ての臨床薬物動態相互作用の文献を収集・解析した。また、日・米の最新の添付文書を入手し、それらの記載内容を抽出・整理するとともに、文献情報の反映状況を解析した。

 スタチンと他剤との薬物動態相互作用の臨床における薬物動態学的相互作用に関する研究報告は70件あり、AUCの変化率は最大で約30倍と極めて影響の大きい場合があった。CYPによる代謝は各スタチンにより異なるが、薬物トランスポータOATPを介した肝への取り込みは、各スタチンで共通している。

 添付文書については、日・米とも、概ね、AUCに2倍以上の変化がある場合に、添付文書で注意喚起がなされていたが、添付文書での記載内容と、文献上の相互作用の強さが必ずしも一致していないこと、日本の添付文書には定量的な阻害の強さに関する情報が記載されていない場合があること等が認められた。このため、日本の添付文書からは、相互作用の危険度について、十分な情報が得られない可能性があると考えられる。

4. カルシウム拮抗剤の相互作用情報と添付文書との比較解析

 降圧剤、狭心症治療薬等として用いられるカルシウム拮抗剤は、主にCYP3A4により代謝を受け、また、薬物トランスポータのP糖タンパクの基質となる。カルシウム拮抗剤の相互作用に起因する有害事象としては、主に紅潮、立ちくらみや起立性低血圧等の過度の降圧によるものが知られており、相互作用による血中濃度増加は、その引き金となる。本研究では、日・米・英のいずれかの国で承認されている20種のカルシウム拮抗剤について、主要なCYP3A4阻害薬(イトラコナゾール、エリスロマイシン、シメチジン)、グレープフルーツジュース(GFJ)、ジゴキシンとの相互作用についてMedline検索(1966-2004)を行い、全ての臨床薬物動態相互作用の文献を収集・解析した。また、日・米・英の最新添付文書を入手し、記載内容を抽出・整理するとともに、文献情報の反映状況を解析した。

 日本の添付文書では、これらの薬剤等は添付文書では単に併用禁忌とするのみで、文献上の定量的データ(薬物動態学的な変化に関する数値的なデータ)は、ほとんど記載されていないことが判明した。対照的に、米国においては、記載が多かった。英国は日本と同様に不十分であった。日本の添付文書においては、影響がない旨の記載がなく、類薬で併用注意とされている場合の併用の可否について、十分な情報が得られない可能性があると考えられる。

5. 柑橘類の摂取による臨床薬物動態相互作用に関する調査研究

 本研究では、多くの医薬品との相互作用が報告されているグレープフルーツジュース等の柑橘類摂取による医薬品の体内動態への影響並びにその機構に関する最新の知見を収集・解析するとともに、添付文書情報との比較を行った。これまでに58薬剤についての臨床薬物動態報告があり、そのうち38薬剤のAUC、Cmaxの増加が認められた。これは小腸CYP3A4の不可逆的抑制によると考えられたが、P-糖タンパクの抑制もいくらか関与していると推定されている。一方、2剤ではAUC、Cmaxの著しい減少が認められ、小腸の有機アニオントランスポータ(OATP)の抑制による吸収阻害であると考えられた。添付文書情報については、AUCに変化の見られた36種の医薬品のうち、添付文書にGFJに関する記載があったのは、10種類に過ぎず、変化の程度など詳細はほとんど記載されていなかった。また、16種の医薬品は、添付文書の記載根拠の文献が見いだされなかった。添付文書に柑橘ジュースの影響の程度や持続時間、メカニズムを組み入れた、より適切な相互作用情報の記載が必要と考えられる。

6. よりわかりやすい添付文書への改善提言

 これまでの解析から、日本の添付文書には、定量的な数値が記載されていない、同種同効薬で広く知られる相互作用がない場合にもない旨の情報が記載されていないこと、作用機序などに承認後の情報が反映されていない、「〜の報告」「〜のおそれ」などの抽象的な表現が多いなどの問題点が明らかになった。実際に、現在のシンバスタチン及びアトルバスタチンの添付文書での相互作用情報の記載では、AUCの変化率で2倍以下であっても、具体的な数値が書かれている事例がある一方、10倍以上のAUC増加が認められているにもかかわらず、「代謝抑制のおそれ」との記載のみの場合もあるなど、記載内容から、影響の程度を推定することは不可能な状況である。

 また、日本で使用されている医療用医薬品の添付文書全体の調査や、医療従事者へのアンケート調査からも、すでに承認された医薬品には、新しい情報が十分に反映されていない可能性が示唆されている。

 解析結果に基づき、相互作用情報に関する記載のあり方について提言を行うために、スタチン系薬剤の添付文書における薬物動態相互作用の記載を抽出し、文献情報に基づいて記載内容を検討した。作成した改訂案では作用機序、定量的数値、追加薬剤等について、表中への加筆修正を行ったが、ボリュームは殆ど増えず、表形式で簡潔に情報提供するという現在の添付文書の基本的な考え方を損なうことなく記載することが可能であった(表1)。

 適正な薬物治療の選択および薬物相互作用の防止のためには、医薬品の相互作用に関する重要な定量的データをより適切に添付文書に記載する必要があると考えられる。

7. 結論

 本研究では、日本の医療用医薬品の全成分を対象に、CYPに関する添付文書の記載状況を調査し、最近承認された医薬品では検討がなされ、添付文書にも反映されているものの、すでに承認されている医薬品には最新の情報が反映されにくいことを明らかにした。

 また、前回の添付文書様式の改訂の際に導入された「相互作用の程度」が適切に添付文書に反映されているか否かの検証のため、繁用されているスタチン系薬剤及びカルシウム拮抗剤を対象に、薬物動態学的相互作用に関する文献情報と国内外の添付文書の記載内容を比較したところ、AUC,Cmaxの変化率に関する定量的情報が記載されておらず、根拠も不明確なこと、類薬でよく知られた相互作用が認められない場合にも、影響がない旨の記載がないこと等が判明した。また、グレープフルーツジュースの影響についても、文献情報と記載に齟齬があることが判明した。

 相互作用の回避と適切な治療薬の選択のためには、添付文書において、関与するCYP分子種について記載し、作用メカニズムを適正に反映し、相互作用欄においても、漫然と注意喚起するのではなく、目安となる数値を示す必要があると考えられるが、表1のとおり、これらの必要な情報を添付文書に取り入れても、見やすさを損なうことはないことを確認した。

 このような、日本の添付文書における問題の一因として、承認取得後に得られた情報があまり反映されていない可能性があげられる。市販後も最新の情報を収集し、適切に情報提供することは承認取得者の責務であるが、常に現時点の水準で必要な情報が提供されるよう、添付文書記載要領の改訂、既存添付文書内容の確認等、行政側からも働きかけを行う必要がある。

表1 添付文書改善例

[併用注意](併用に注意すること)

審査要旨 要旨を表示する

 医療用医薬品の添付文書は、医療従事者にとり適正使用実施のための重要な情報源である。添付文書の記載内容は、承認審査の際に、個々の医薬品毎に審査を受けるが、承認後の記載については個々の承認取得者に任されている。

 我が国の添付文書の記載要領は、ソリブジン事件を踏まえ、簡潔で理解しやすいことを目的に、平成9年に改定された。医薬品相互作用は医薬品による有害事象の主な原因の一つであり、また、市販後に判明した相互作用に起因する有害事象により、市場撤退した事例も多い。近年、医薬品相互作用に関与する薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)や薬物トランスポータに関する研究が進められつつあり、これらの情報が適切に提供されることが、医薬品の適正使用に資すると考えられる。本研究においては、添付文書情報の中で特に相互作用に注目し、文献報告されている科学的情報が、添付文書にいかに反映されているかを解析し、よりよい添付文書についての提言を行うことを目的とした

1. 添付文書における代謝関連情報の記載状況

 添付文書記載の現状を把握するため、現在使用されている配合剤を除く全ての医療用医薬品成分(2,022成分)を対象に、添付文書におけるCYPの記載率を調査解析した。CYP関連情報が記載されている医薬品は239種(11.8%)であり、そのうち194種(9.6%)の添付文書にはCYP分子種の記載が見られた。2000・2003年の3年分の添付文書情報の解析から、CYPに関連した情報は年次ごとに増加していることが判明し、承認年度ごとの解析では、新たに承認された医薬品ほど、記載率が上昇し、最近では約半数でCYPに関する記載が認められた。また、新薬承認情報集の解析から、関承認取得年が古い医薬品ほど添付文書中にCYP関連情報が記載されている割合は少なく、新しく承認されたものほど、CYP関連情報の記載が充実していることが明らかになった。これらの結果から、新たに承認された医薬品では、CYPに関する検討が十分に行われている反面、全体では、承認時期が古い医薬品を中心に、CYPに関する記載が不十分なことが明らかになった。

2. 現行の添付文書に対する医療従事者の意識調査

 添付文書の現状を把握するために、日本病院薬剤師会の協力を得て、添付文書情報の利用方法、必要とされる情報のあり方等について全国320施設(266施設より回答)を対象に、アンケート調査を実施した。その結果、添付文書の記載順序、相互作用の表形式記載については、現行形式を支持するとの意見が大多数であった。一方、相互作用欄において、個別医薬品名や重要度、薬物動態データ(AUC,Cmax)の変化率及び投与条件について、記載を追加すべきとの意見が多いことが判明した。

3. スタチンの相互作用情報と添付文書との比較解析

 スタチンは高脂血症の治療薬として、広く使用されているが、時として横紋筋融解症などの重篤な有害事象を引き起こす。横紋筋融解症はスタチン単独でも起こるが、併用時に多く起こることが報告され、他剤との併用による血中濃度増加がその一因と考えられる。

 スタチン系薬剤には、代謝の面から主にCYP3A4により代謝をうけるもの(シンバスタチン及びアトルバスタチン)、主にCYP2C9により代謝されるもの(フルバスタチン)、薬物代謝を受けにくいもの(プラバスタチン及びピタバスタチン)がある。本研究では、スタチンの相互作用に関する情報が適正に添付文書に反映されているか否かの検証のため、我が国で承認されている5種のスタチンが関与する薬物動態相互作用について、Medline(1966・2004)検索を行い、全ての臨床薬物動態相互作用の文献を収集・解析した。また、日・米の最新の添付文書を入手し、それらの記載内容を抽出・整理するとともに、文献清報の反映状況を解析した。

 スタチンと他剤との薬物動態相互作用の臨床における薬物動態学的相互作用に関する研究報告は70件あり、AUCの変化率は最大で約30倍と極めて影響の大きい場合があった。CYPによる代謝は各スタチンにより異なるが、薬物トランスポータOATPを介した肝への取り込みは、各スタチンで共通している。

 添付文書については、日・米とも、概ね、AUCに2倍以上の変化がある場合に、添付文書で注意喚起がなされていたが、添付文書での記載内容と、文献上の相互作用の強さが必ずしも一致していないこと、日本の添付文書には定量的な阻害の強さに関する情報が記載されていない場合があること等が認められた。このため、日本の添付文書からは、相互作用の危険度について、十分な情報が得られない可能性があると考えられる。

4. カルシウム拮抗剤の相互作用情報と添付文書との比較解析

 降圧剤、狭心症治療薬等として用いられるカルシウム拮抗剤は、主にCYP3A4により代謝を受け、また、薬物トランスポータのP糖タンパクの基質となる。カルシウム拮抗剤の相互作用に起因する有害事象としては、主に紅潮、立ちくらみや起立性低血圧等の過度の降圧によるものが知られており、相互作用による血中濃度増加は、その引き金となる。本研究では、日・米・英のいずれかの国で承認されている20種のカルシウム拮抗剤について、主要なCYP3A4阻害薬(イトラコナゾール、エリスロマイシン、シメチジン)、グレープフルーツジュース(G:FJ)、ジゴキシンとの相互作用についてMedline検索(1966・2004)を行い、全ての臨床薬物動態相互作用の文献を収集・解析した。また、日・米・英の最新添付文書を入手し、記載内容を抽出・整理するとともに、文献情報の反映状況を解析した。

 日本の添付文書では、これらの薬剤等は添付文書では単に併用禁忌とするのみで、文献上の定量的データ(薬物動態学的な変化に関する数値的なデータ)は、ほとんど記載されていないことが判明した。対照的に、米国においては、記載が多かった。英国は日本と同様に不十分であった。日本の添付文書においては、影響がない旨の記載がなく、類薬で併用注意とされている場合の併用の可否について、十分な情報が得られない可能性があると考えられる。

5.柑橘類の摂取による臨床薬物動態相互作用に関する調査研究

 本研究では、多くの医薬品との相互作用が報告されているグレープフルーツジュース等の柑橘類摂取による医薬品の体内動態への影響並びにその機構に関する最新の知見を収集・解析するとともに、添付文書情報との比較を行った。これまでに58薬剤についての臨床薬物動態報告があり、そのうち38薬剤のAUC、Cmaxの増加が認められた。これは小腸C1〜P3A4の不可逆的抑制によると考えられたが、P糖タンパクの抑制もいくらか関与していると推定されている。一方、2剤,ではAUC、Cmaxの著しい減少が認められ、小腸の有機アニオントランスポータ(OATP)の抑制による吸収阻害であると考えられた。添付文書情報については、AUCに変化の見られた36種の医薬品のうち、添付文書にGFJに関する記載があったのは、10種類に過ぎず、変化の程度など詳細はほとんど記載されていなかった。また、16種の医薬品は、添付文書の記載根拠の文献が見いだされなかった。添付文書に柑橘ジュースの影響の程度や持続時間、メカニズムを組み入れた、より適切な相互作用情報の記載が必要と考えられる。

6. よりわかりやすい添付文書への改善提言

 これまでの解析から、日本の添付文書には、定量的な数値が記載されていない、同種同効薬で広く知られる相互作用がない場合にもない旨の情報が記載されていないこと、作用機序などに承認後の情報が反映されていない、「〜の報告」「〜のおそれ」などの抽象的な表現が多いなどの問題点が明らかになった。実際に、現在のシンバスタチン及びアトルバスタチンの添付文書での相互作用情報の記載では、AUCの変化率で2倍以下であっても、具体的な数値が書かれている事例がある一方、10倍以上のAUC増加が認められているにもかかわらず、「代謝抑制のおそれ」との記載のみの場合もあるなど、記載内容から、影響の程度を推定することは不可能な状況である。また、日本で使用されている医療用医薬品の添付文書全体の調査や、医療従事者へのアンケート調査からも、すでに承認された医薬品には、新しい情報が十分に反映されていない可能性が示唆されている。

 解析結果に基づき、相互作用情報に関する記載のあり方について提言を行うために、スタチン系薬剤の添付文書における薬物動態相互作用の記載を抽出し、文献情報に基づいて記載内容を検討した。作成した改訂案では作用機序、定量的数値、追加薬剤等について、表中への加筆修正を行ったが、ボリュームは殆ど増えず、表形式で簡潔に情報提供するという現在の添付文書の基本的な考え方を損なうことなく記載することが可能であった(表)。

 適正な薬物治療の選択および薬物相五作用の防止のためには、医薬品の相互作用に関する重要な定量的データをより適切に添付文書に記載する必要があると考えられる。

 以上、本研究では日本の医療用医薬品の全成分を対象とした添付文書におけるCYPの網羅的解析、医療従事者に対する全国的なアンケートによる意識調査、スタチンやカルシウム拮抗剤の相互作用に対する添付文書の記載状況の調査および諸外国との比較、さらには柑橘類摂取が及ぼす薬物動態への影響の文献調査と添付文書解析を行い、我が国の医薬品の添付文書には承認後の最新情報がほとんど反映されていないこと、諸外国と比べると定量的な情報の記載がないこと、逆に類薬でよく知られた相互作用が認められない場合にもその旨の記載がないこと等を明らかにした。そして、これらの情報を反映した添付文書の改善を提言した。添付文書を通した正確で充実した情報提供は医療従事者が強く要望しており、本研究は学術的な価値のみならず社会的なニーズにも合致した研究であり、博士(薬学)の授与に値するものであると判断された。

表 添付文書改善例

[併用注意](併用に注意すること)

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/38177