学位論文要旨



No 216696
著者(漢字) 小塚,荘一郎
著者(英字)
著者(カナ) コヅカ,ソウイチロウ
標題(和) フランチャイズ契約論
標題(洋)
報告番号 216696
報告番号 乙16696
学位授与日 2007.02.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(法学)
学位記番号 第16696号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山下,友信
 東京大学 教授 落合,誠一
 東京大学 教授 大串,和雄
 東京大学 教授 高見澤,磨
 東京大学 教授 森田,修
内容要旨 要旨を表示する

1.フランチャイズ契約は、フランチャイズ・システムと呼ばれる取引形態を実現するための契約である。フランチャイズ・システムとは何かについての理解は、時代により、また国によって必ずしも統一されてはいないが、そのコアとなる部分が、フランチャイザーがフランチャイジーに対して、商標等の標識、経営ノウハウおよび店舗経営に対する指導・援助を「パッケージ」として提供するという共同事業の形態(いわゆるビジネス・フォーマット型フランチャイズ)であることは争いがない。

2.フランチャイズ契約を厳密に定義しようとするならば、このフランチャイズ・システムに対して、類似の形態との区別に十分な注意を払いつつ法的な表現を与える必要がある。ここで問題となる類似の形態としては、商標フランチャイズ(商標ライセンスを伴う商品流通取引)のほか、マルチ販売組織、ボランタリー・チェーン、パッケージ・ライセンス、代理商等が考えられよう。その結果、フランチャイズ契約は、(1)契約の一方当事者(フランチャイザー)が他方当事者(フランチャイジー)に対してフランチャイズ・パッケージの利用を認め、かつその使用を義務づけること及び(2)フランチャイジーがこれに対して対価を支払うことを内容とする契約であって、(3)商品・サービスの取引を目的とすること、(4)フランチャイジーが自己の名義及び計算において取引を行うこと、(5)「フランチャイズ・パッケージ」の内容として、共通の標識及び統一的外観の使用、フランチャイザーからフランチャイジーに対するノウハウの付与、並びにフランチャイザーによるフランチャイジーの経営の継続的な支援が規定されていること、といった特性を伴うものと定義することができる。

 現実のフランチャイズ契約には、両当事者の権利義務が詳細に規定される。フランチャイズ・システムはフランチャイザーとフランチャイジーによる共同事業形態の一種であり、いずれの当事者も、他方の適切な行動を前提として初めて、そこから十分な利益を得ることができるためである。ところが、いずれの側からも相手方の行動を完全に観察することはできないから、相手方から裏切られる危険が常に存在する(いわゆるエイジェンシー問題)。収益の分配や費用の負担、品質維持を目的としたマニュアルの遵守や特定の食材の使用に関するさまざまな契約条項は、その危険に対処するためのものである。そして、契約期間や解約権限に関する約定には、それらの契約上の権利義務が確実に実現されることを担保するという機能がある。

 これらの契約内容は、フランチャイズ・システムの利用形態が多様であるにもかかわらず、フランチャイズ契約にほぼ共通して見られる。すなわち、フランチャイズ契約には一定の標準を観念することができるのであり、民商法に規定された典型契約と同様の意味において「典型」と位置づけられるべきものであると考えられる。

3.フランチャイズ契約を対象とした立法は、1970年代の米国にはじまり、現在では相当数の国に存在する。その分類については、米国の各州で立法が次々と成立した初期の段階で、フランチャイザーに対してフランチャイズ契約の締結前に情報を開示することを義務づける「開示義務型立法」と、フランチャイズ契約の内容を直接に規律する規定を含む「関係規制型立法」とに二分する考え方が成立し、現在に至るまで広く支持されている。

 しかし、この類型化は、現在では十分なものとはいえない。すなわち一方では、開示義務型の中にも、(1)証券規制をモデルとして、フランチャイジーの勧誘に先立って当局に開示書類を届け出ることを義務づける「事前届出型」と、(2)フランチャイジーとなろうとする者に対して開示書面を交付する義務をフランチャイザーに課すとともに、競争当局等による執行または相手方(フランチャイジー)からの民事訴訟を通じてその履行を担保する「事後規制型」との区別があり、他方、契約関係にかかわる立法例の中にも、(3)一定の契約条項の効力を直接的に制約ないし否定する狭義の「関係規制型」のほかに、(4)フランチャイズ契約の全般にわたって任意規定を含む一群の規定を置く「典型契約型」ともいうべきものが出現している。これに加えて、(5)調停等の裁判外紛争解決手続や事業者登録制度等の特殊な制度を定める例もあるので、現在では、フランチャイズ立法には合計5種類の類型があると言うべきではないかと思われる。

 ところで、フランチャイズ契約に関する立法政策をめぐっては、第一に、そもそも何らかの立法が必要であるか否かについて争われる場合が多い。およそ一切の規制が不要だとはいえないとしても、業界団体による自主規制が立法に代替し得るのではないか、あるいは自主規制と立法を組み合わせた中間的な規制を採用すべきではないか、といった問題もある。第二に、仮に上記5類型のうちいずれかの立法が必要だという結論に達した場合には、その内容が問題となる。たとえば、適用の対象をいかに定めるか(すべての類型)、開示事項として何を定めるか((1)・(2))、開示義務違反の効果は何か((1)・(2))、契約の解除・中途解約・期間満了を等しく扱うか否か((3)の一種)、といったさまざまな論点について、いくつかの選択肢が検討の俎上に上るであろう。これら二つの問題を検討する際の基準は、きわめて一般的な形で述べるならば、その法制度を通じて社会に実現しようとする目的(ベネフィット)と立法によってその国のフランチャイズ・システムが負うことになる負担(コスト)とを比較して、最適な制度設計をせよということになろう。

 ところが、このベネフィットとコストの評価を具体的に行なおうとしても、必ずしも一義的に算定できるわけではない上に、現実の立法過程には多分に政治的な力学が働くため、結果として作られる立法がコスト・ベネフィット分析の結論とはかけ離れたものとなるケースも稀ではない。後続の立法は先行する立法例を取り入れたり模倣したりするが、それは各国固有の事情の中で表面的に行なわれるだけであって、一貫した理念の受容ではない場合が多い。その結果、フランチャイズ契約に関する各国の立法には現在でもさまざまなヴァラエティが存在しており、それらは収斂するというよりもますます拡散しつつある。

4.フランチャイズ契約をめぐる解釈論については、契約自由の原則が出発点をなすと考えられる。「典型契約型」の立法を有する一部の国を除けば、フランチャイズ契約は、法律上には根拠を持たない、契約実務にもとづく「典型」であるからである。

 そのように言うことができるためには、一方では、契約自由が妥当するための前提条件が満たされていなければならない。すなわち、第一に、「フランチャイズ」という名称が用いられていても実態は雇傭関係に等しい場合のように、典型的なフランチャイズ契約ではないような取引には、実質にふさわしい性質決定が求められる。第二に、契約自由を貫徹すれば取引当事者はリスクを自ら引き受けなければならないが、そのためには、契約を締結するか否かの判断に必要な情報が事前に、正しく提供されていなければならない。第三に、契約自由は競争的な市場において取引が行われなければ十全には機能しないから、競争法が、適切な市場の画定(最終消費者を需要者とする「商品・役務の市場」とフランチャイジーを需要者とする「事業機会の市場」の区別)の上に適用されなければならないし、私法的にも、契約終了後の競業禁止に、自由な競争を妨げない範囲を超える効力が認められるべきではない。なお、わが国ではフランチャイズ契約に関する裁判例の大半が勧誘時に提供された業績予測の相当性をめぐるものであるが、それは事業上のリスク判断そのものであって、第二の問題とはむしろ異なった性質の論点であるという点には注意が必要であろう。

 他方で、比較法的に見ても、契約自由を文字通りに貫徹する考え方もまたとられてはいない。解約の成否を判断する前提としての契約解釈や、契約期間満了時の更新の可否についての各国の解釈を見れば、その点は明らかである。おそらくは、フランチャイズ契約がしばしば詳細かつ複雑な構造を持ち、しかも長期間にわたって環境の変化に対応する柔軟性を要求されるといった事情から、いずれの国でも裁判所は完全には契約自由を認めず、契約の解釈や信義則、類似の問題に対する立法等に依拠して緩やかな介入の余地を留保するのであろう。また、フランチャイジーが営業に際して第三者に損害を与えたような場合に、一定の範囲でフランチャイザーに責任を負担させるという考え方は各国にあるが、それは、第三者がかかわるために契約自由では問題が解決せず、フランチャイズ・システムに対する社会としての評価が問われるためである。

 このように「典型」としてのフランチャイズ契約は、一方では契約自由の前提、他方では契約自由の限界との間で、絶えず緊張関係にある。したがってそれをめぐる解釈論は、契約中の各条項の機能を適切に認識した上で、しばしば一定の政策判断を伴いながら展開されていくほかはないであろう。

5.以上のとおり、フランチャイズ契約に関する立法政策および解釈論のいずれについても、ほとんどの問題は最終的には政策判断に委ねられるのであり、理論的に導き得る結論は、多くはない。しかし、だからといって一切を政治過程にゆだねるのではなく、それぞれの論点について、いかなる要素が関連しており、考慮を必要とするかを分析し、整理しておく必要があろう。本論文は、フランチャイズ契約に関する立法および解釈上の主要な論点を取り上げて、そうした検討を行なったものである。

審査要旨 要旨を表示する

 小塚荘一郎氏提出の博士論文『フランチャイズ契約論』(上智大学法学叢書28、2006年、有斐閣)は、フランチャイズ契約に関する法律学のみならず経済学の知見も含めた総合的な全体像を明らかにすることにより、今後のわが国のフランチャイズ契約についての立法政策および解釈論の基本的なあり方を提示する論文である。

 わが国のフランチャイズ契約は、1963年に米国のフランチャイズ・システムの研究に基づいてダスキンと不二家により導入されたものであり、その歴史が比較的新しいことに加えて、民法、商法、独禁法、知財法等の実定法にはそれに関する規定がなく、もっぱら実務先行で発展してきた分野である。しかもフランチャイズ契約は、基本的に実務が発展させた契約と企業との中間に位置する共同事業形態であるという両性的な存在であることに加えて、民法、商法、独禁法、知財法等の私法のみならず公法も関係するという複合的な法律問題であることから、その研究には、多方面にわたる法律学・経済学等の理論のみならず実務的な知見の蓄積が必要であり、したがって、学問的な研究対象としては、実定法上の特定規定に関する解釈論研究の場合とは異なる特有の難しさがある。

 そのためこの分野に関する研究は、実務のその時々の必要に応えるために法律実務家(主として弁護士)が個別論点に関する実務ないし判例の現状を整理し、処方箋を与えるといったタイプの論稿が主流であり、他方、法律研究者による学問的研究は、相当に少なく、またその内容も、判例の分析あるいは外国法の紹介といった部分的・断片的な研究にとどまっている状況にある。それゆえわが国におけるフランチャイズ契約に関する研究水準をさらに飛躍させるためには、実務上の個別論点や判例の分析研究ではなく、フランチャイズ契約そのものについての学問的な全体像を明確な形で提示するという本格的な総合的研究が久しく待望されていたといえるのである。

 本論文は、本学の助手論文において法解釈論の観点からこの問題を取り上げて以来、今日に至るまで一貫して民法、商法、独禁法、知財法等の諸問題に取り組んできた著者が、いわばこれまでの研究の集大成として、フランチャイズ契約に関する諸論点の全体像を学問的に総合的に分析・提示するという、久しく待望されてはいるが、きわめて困難な課題に正面から応えようとする画期的な論稿である。

 ところで本論文の内容であるが、まずその序章においては、フランチャイズ契約に関する歴史的な起源・展開が、米国、日本、欧州、その他の諸国の順にそれぞれ跡付けられ、またフランチャイズ契約の概念が、どのように理解されてきたかが示された後、フランチャイズ契約の経済的・社会的な機能および効用が、組織の経済学の知見、各国経済に占めるフランチャイズ・システムの比重等の各種統計などが活用されつつ理論的・実証的に分析・解明されるとともに、それらを踏まえたうえでの本論文の課題が、フランチャイズ契約の学問的な全体像の提示にあることが述べられる。

 第1章では、フランチャイズ契約の特性が解明される。そのためには、第1に、本論文の検討対象であるフランチャイズ契約そのものが何かが明らかにされねばならないが、その解明のために、商標フランチャイズ、マルチ販売組織、ボランタリー・チェーン、パッケージ・ライセンス、被用者・代理商等のフランチャイズ類似の契約等との比較検討がなされる。その結果、フランチャイズ契約の理念型とは、フランチャイザーがフランチャイジーに対して商標等の標識、経営ノウハウおよび店舗経営に対する指導・援助を「パッケージ」として提供するという共同事業の形態(いわゆるビジネス・フォーマット型フランチャイズ)であることが示される。第2に、第1の検討で明らかにされたフランチャイズ契約の理念型の法的性質が検討される。そこでは、ライセンス契約であるとする見解、流通契約であるとする見解、独自の契約類型であるとする見解が、それぞれ検討され、結論としては、いずれかの類型であるとする法的性質の決定には立法論的にも、解釈論的にもそれほど有力な指針とならないとする。そうだとすると、法的性質決定に代えてフランチャイズ契約に特徴的な契約条項(標準的に存在する条項であり、その意味で「典型的」な)ごとの分析が必要であり、またこれら契約条項の社会的・経済的な機能が明らかにされることが適当であるとして、フランチャイズ・パッケージとその対価との交換契約関係債務に関する条項、フランチャイザー・フランチャイジー間の取引に関する条項、フランチャイジーの金銭支払義務に関する条項、付随的な債務に関する条項、契約関係の終了に関する条項、裁判管轄等の権利の実現に関する条項等が分析され、またそれぞれの条項がいかなる機能を果たしているかが検討される。

 第2章では、フランチャイズ契約に関する各国の立法状況が実証的に検討される。すなわち、本章は、フランチャイズ契約に関する立法論のあり方を解明するための作業と位置づけられる。そのために、フランチャイズ契約に関する立法を有する国々、すなわち、米国、フランス、新興市場国(マレーシア、ロシア等)などの立法がそれぞれ検討される。その結果、開示を義務付けるタイプ(事前届出型と事後規制型がある)、フランチャイジーの保護を目的として強行的な規制を加えるタイプ(関係規制型)、多くの任意規定を用意する典型契約タイプ(典型契約型)、その他の5類型があることが指摘され、それぞれの類型に関する詳細な分析・検討の後、それらの長所・短所が明らかにされる。他方、業界団体等の自主規制をもって立法規制の代替をはかる国々があるとして、英国、オーストラリア、フランス(開示規制のほかに自主規制も行う)、スウェーデン等が検討される。以上の検討の結果、フランチャイズ契約に関する立法政策は、立法が必要か否か、必要とした場合に立法をするか、それとも自主規制で代替するか、あるいは両者を併用するか等の各種の選択が有り得るのであるが、理論的にはそれぞれの選択によるコスト・ベネフィットの検討が重要であるとする。しかし各国の現実は必ずしも理論通りではなく、本章の検討が示す各国の立法等の多様性は、結局のところそれぞれの国の経路依存性(path dependency)によるものが大きいとする。

 第3章では、フランチャイズ契約をめぐる解釈問題が、各国の判例・学説を参照しながら詳細に検討される。第1に、契約の成立とその過程における解釈問題が取り上げられる。すなわち、労働法の適用問題(実質が事業者間の契約というより使用・被用の関係に等しいとされる場合に生じる。欧州で特に議論がある)および契約締結過程における情報の提供に関する解釈問題(開示義務法、わが国の判例法、一般的な情報提供義務、収益にかかわる情報提供義務、情報提供義務違反の効果)が、それぞれ分析・検討される。第2に、契約の解釈と規制(約款規制、濫用規制等)の問題が検討される。すなわち、約定解約権行使の問題、契約期間の満了と更新の問題、フランチャイザーの義務の問題、営業秘密の保護と競業禁止の問題等がそれぞれ分析・検討される。第3に、フランチャイザーの第三者責任の問題が取り上げられ、米国の状況、損害の類型とフランチャイザーの責任(商品・サービスの不完全な提供、製造物責任、顧客の安全等、労働災害)、責任の根拠と範囲に関する解釈上の論点の検討がなされる。第4に、競争法の適用に関する解釈問題が検討される。すなわち、フランチャイズ契約に対する競争法の適用に関する歴史が、米国およびEC・EUについて判例・学説をたどる形で示された後、フランチャイズ契約における商品と需要者の問題(フランチャイズ契約におけるフランチャイジーを需要者とする「事業機会の市場」とフランチャイズ契約を通じて最終消費者に販売される商品・サービスについての「商品・役務の市場」に関する競争法の適用の解釈問題)、市場確定の基準時の問題(フランチャイジーにとっては、フランチャイズ契約を締結する前と後では取引の自由度が大きく異なることから、フランチャイザーの市場の支配力をどの時点を基準とするかが問題となる)、各種の契約条項の問題(価格制限、テリトリー制、納入業者等の制限、契約終了後の競業禁止)等に関する解釈問題がそれぞれ分析・検討される。

 終章は、これまでの検討の結果を踏まえてのフランチャイズ契約に対する法解釈と立法のあり方についての本論文の結論であるが、その大要は、次の通りである。すなわち、フランチャイズ契約に対する法解釈と立法政策の出発点は、フランチャイズ契約の全体的な構造を正しく認識することである。そしてそのためには、一定の立場から各種論点に関する特定の見解を積極的に唱導するやり方は適当ではない。むしろそういうやり方は、意識的に避けるべきであるとする。したがって、取られるべきアプローチは、フランチャイズ契約の全体像を構成する様々な論点に関する具体的な制度設計を考えるにあたって考慮されるべき諸要素を客観的・実証的に摘出し、整理し、提示する作業がなされるべきであるとする。本論文は、まさにそうした観点からの検討を意識的に一貫して行うことにより、フランチャイズ契約の全体的な構造をより客観的・実証的に明らかにしたものであるとする。

 以上が本論文の要旨であるが、本論文の長所は、第1に、本論文によって、わが国においてフランチャイズ契約に関する学問的な全体像の把握が初めて可能になったということにある。したがって、これからのわが国のフランチャイズ契約に関する学問的研究は、本論文を土台として進展するようになるといっても過言ではなく、本論文の登場により、これまでの個別的・断片的・紹介的でしかも著しく実務に傾斜していた研究状況を脱して、学問的に新たな地平が開かれたものと評価できる。それゆえ本論文は、学界に裨益するところがきわめて大であるといわねばならない。

 第2に、本論文は、フランチャイズ契約の全体像を構成する私法・公法および契約条項等に関係する多様な論点について、各国の立法、判例、学説はもとより組織経済学・実務の知見等の膨大な文献・情報を自在に参照・活用しつつ、可能な限り客観的・実証的な形でその制度設計にあたっての考慮すべき諸要素を明確かつ全体的に提示するというこれまでにない困難な試みにあえて積極的に挑戦し、しかも十分な成功をおさめていることをあげることができる。本論文が提示する様々な論点についての各種の考慮要素は、いずれも重要かつ説得的であり、今後のわが国のフランチャイズ契約に関する立法論あるいは解釈論を展開する場合の必読の論文としての地位は不動のものとなるであろう。

 第3に、本論文には、従来にない独創的なアプローチが少なくないが、特に次の視点は重要である。すなわち、フランチャイズ契約は取引実務上標準的に存在する典型的な条項の集合体と位置づけるべきであり、この意味で「典型的な」フランチャイズ契約は、その規律においては契約自由とその限界の間に揺れ動く緊張関係のなかで妥当なバランスがはかられるべきあるとする点である。そこから契約条項が現実に果たしている機能を重視する姿勢が帰結する。このアプローチは従来にないものであり、フランチャイズ契約に関する立法論・解釈論にとって学問的にきわめて有益な視座を提示したものとして高く評価できる。

 もっとも本論文にもさらに望みたいところがないではない。それは、フランチャイズ契約の全体像を構成する私法・公法および契約条項等に関係する多様な論点の提示のみならず、それらの論点についての著者自身の見解も、さらに踏み込んで展開して欲しかったことである。確かに本論文の著者としては、それは、方法論的に意図して、意識的に抑制した面もあるが、他方で、散発的に強い規範的な主張もなされており、それはかならずしも本論文でなされたフランチャイズ契約の機能分析の結果と緊密な結びつきによって支えられていない。立法論・解釈論に関する筆者の自説がその機能分析とどのような関係に立つのかを提示することは、本論文が提示する諸論点の考慮要素を利用して立法論・解釈論を行おうとする者にとっても、それらを批判的であれ活用する上で有意義であったのではないかと思われるからである。もっともこの点は、立法論も解釈論も、理論の問題ではない政策判断に最終的には委ねられるとする本論文の基本的な考え方によるものと思われ、その意味では望蜀の嘆といえなくもない。

 このように本論文にも、望むべき点がないでもないのであるが、それは、本論文の価値を大きく損なうものではない。本論文は、フランチャイズ契約の全体像を客観的かつ実証的に初めて提示した画期的な業績であり、フランチャイズ契約に関する従前の学問の水準を大きく前進させ、学界の発展に多大な貢献をするものである。よって、博士(法学)の学位を授与するにふさわしいものと認められる。

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