No | 216700 | |
著者(漢字) | 中上,英俊 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナカガミ,ヒデトシ | |
標題(和) | わが国における住宅用エネルギー消費に関する研究 | |
標題(洋) | Research on residential energy consumption in Japan | |
報告番号 | 216700 | |
報告番号 | 乙16700 | |
学位授与日 | 2007.02.15 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第16700号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 建築学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | わが国における住宅用エネルギー消費は、一時的な(石油危機等)減少はあったものの、戦後一貫して増加基調で推移してきた。これは、とりもなおさず住宅における居住水準の向上と軌を一にしてきたからに他ならない。しかし、日本のみならず国際的にも、近年最大の課題となっている地球温暖化防止には、エネルギー消費の削減は避けて通れない問題になりつつある。もちろん温暖化ガスを発生しないエネルギーによる代替の可能性も無しとしないが、当面はその可能性は圧倒的に低いと考えるべきだろう。この様な状況下にあって、住宅におけるエネルギー消費削減も大きな政策課題となりつつある。わが国の住宅におけるエネルギー消費の増大傾向は、欧米先進諸国と比較すると極めて特異な現象でもある。一方アジア等の開発途上国にあっては、住宅におけるエネルギー消費はわが国以上の速度で上昇しつつある。この様な状況を見る時、果たして、わが国の住宅におけるエネルギー需要は今後とも増加基調で推移するのか?または、増加を停止し、むしろ減少傾向での推移が可能なのか? 本論文では、この様な背景をふまえ、わが国の住宅におけるエネルギー消費の推移を経年的に調査し分析すると共に、エネルギー消費をもたらす要因や、将来のエネルギー需要の推計、さらには省エネルギーへの可能性について検討を加える。 本論文は以下の6章により構成される。 第1章では本研究の背景、研究の目的及び論文の構成について述べた。また、既往の住宅エネルギーに関する調査・研究について概観し、地球温暖化対策並びに住宅における省エネルギーの観点からその基礎的データベースとなる住宅におけるエネルギー消費構造の分析に関する研究の必要性を指摘した。 一方わが国の住宅におけるエネルギー消費は一貫して増加基調を続けてきた。それは、住宅における様々な居住水準の向上と軌を一にしてきたかからに他ならないものと考察されることを指摘した。 第2章では、オスロ(ノルウェー)と福岡(日本)の住宅を対象として、エネルギー消費が居住者の置かれた環境、文化や歴史と言った背景により異なることを、それぞれの地域でのヒアリング調査を中心に試みた。前者については1991年に共同研究者であるHarold Wilhite氏が18サンプルについて、後者については筆者らがWilhite氏と共同で福岡にて16サンプルを対象にヒアリング調査を行った。標本数が少なく、より多くのサンプルの元での分析が望まれるが、本調査でも基本的な方向は検証できたものと考える。 両国の住宅におけるエネルギー消費では、オスロでは照明と暖房のエネルギー消費が、福岡では入浴にかかわるエネルギー消費がそれぞれ文化的な性格の差として顕著に表れている。たとえば照明では、前者では白熱電灯が主流で、家の中の至る所で照明を付けており、照明は「心地よさ」を示す重要な要素になっているのに対し、後者では蛍光灯が主流であり必ずしも明るさが心地よさの重要な要素ではない。オスロでは白熱灯の色が好まれ、蛍光灯を嫌う傾向があるが、現在では蛍光灯でも白熱灯と同様の色が得られるものがあるにもかかわらず、相変わらず白熱灯が主流であるのは、消費者が正確な情報を得ていないことにも依ると考えられる。同様の傾向が、福岡でもいくつかのサンプルで聞かれた。その他では、食器を洗う時に、オスロでは水をためて洗うのに対し、福岡では水道を流しっぱなしにして洗う。洗濯では、オスロでは非常に熱い温水(しばしば80度Cを超える例あり)で洗うのに対し福岡では水が主流である。ただし風呂の残り湯を使うことによる省エネ効果については、欧米では汚れた湯をつかという理解が先にあり、むしろ日本人は「不潔」であると言った誤解を招くこともある。 結論としては、住宅における省エネルギーを進展させるには、正確で身近な省エネ情報を提供することや、省エネルギー診断を実施することの重要性が指摘される。 住宅における用途別エネルギー消費の中で、給湯、暖房等の消費は伸びが鈍化する中にあって冷房用と共に現在なお増加傾向にあるのが、家電製品・照明等の電力消費である。第3章では、その中でもエネルギーの浪費とも言える「待機時消費電力」に着目し、36住戸において実測調査を実施した。その結果、これらの住宅は平均56機種の家電製品を保有しており、そのうちの82%、46機種において待機時消費電力が計測された。待機時消費電力は世帯あたり年間電力消費量の12%に相当する530kWh/年であった。これを全国全住宅での消費量に換算すると、24.0TWh/年となりおおむね大型原子力発電所3基分の年間発電量に匹敵することになることを指摘した。 なおこの調査を経て、待機時消費電力の問題は広く国民的な関心を呼ぶことになり、政府による規制を待たず、製造事業者が自主的に待機時消費電力削減を公約し、現在市販されている家電製品のそれは劇的に低減していることを付記する。 さらに、近年開発され普及が拡大しつつあるCO2ヒートポンプ給湯器の、現場での使用実態に基づく効率を測定し評価を加えた。 第4章では、住宅におけるエネルギー消費の約30%を占める冷暖房用に着目し、現状の冷暖房水準及び将来の需要の推計を試みた。 わが国の暖房水準は欧米先進諸国に比べて、未だ低水準にある。すなわち欧米では冬季は全館連続暖房が一般的であるのに対し、わが国は未だに部分間歇暖房が主流である。本章では、マクロ経済モデルと冷暖房需要予測モデルを組み合わせることによって将来の冷暖房用需要の推計を行った。マクロ経済モデルでは、エネルギー価格、住宅ストック、冷暖房機器の各サブモデルを、冷暖房用エネルギー需要予測モデルでは住宅種別、断熱化、設定温度、冷暖房充足レベルの仮定等を与え、将来の冷暖房水準,充足水準を推計した。 その結果暖房では、充足水準を全館連続暖房ではなく、居住者が部屋に在室している場合は十分な暖房がなされ、不在の場合は暖房を行わないと言う条件の下で、2010年にはおおむね暖房需要は充足水準に近づくことが推計された。これは、暖房用エネルギー需要が建物の保温構造化の進展により減少すること、さらに暖房用としてエアコンの普及が加速し、その効率が向上することが相まって暖房の充足水準への接近は加速することを示唆している。一方、冷房では、保温構造化による冷房用エネルギー需要の低減が望めず、暖房に比べると充足水準は低いレベルに止まることが推計された。 第5章では、住宅関連の省エネルギーに関する動向と、住宅におけるエネルギーの需要予測を行った。 まず、省エネルギーについてはわが国が世界に誇る省エネルギー基準である、家電製品等のいわゆる「トップランナー方式」と呼ばれる基準が策定された経緯を整理し、その効果がどのように市場に定着するかを考察した。ヨーロッパ等では同様の基準やラベリング制度が実施されているが、製品の市場における普及分布がいわゆる正規分布型で展開するのに対し、トップランナー方式では全ての商品が定められた高い基準に集中的に移行し、極めて効果的な省エネルギー製品の普及に寄与することを指摘した。その後、ほぼこの予想通りに市場に展開されている。 わが国の住宅におけるエネルギー消費は戦後一貫して増加を続けてきた。1965年から1999年に至る34年間で、住宅1世帯あたりのエネルギー消費は約2.2倍に増加した。エネルギー種別では電気の消費量が他のエネルギーに比べて最も高い伸びを示す。また、用途別では、冷房用が際だって高い伸びを示し約23倍となっている。これは1965年時点ではほとんど冷房機は普及していなかったことに起因している。給湯は2.5倍に、家電製品等(厨房用も含む)も2.5倍となっている。一方、暖房用は1.5倍にとどまっている。これは暖房において機器効率の改善(燃料転換も含む。たとえば、北海道では'65年時点ではまだ大量の石炭が用いられていたが、これが灯油に転換することにより、大きく消費量を低減させている。)、住宅の保温構造化の進展が寄与していることが推察された。マクロ経済モデルを用いた将来推計では、もしGDPが年率1.5%で成長すると仮定すると2010年には0.3%のエネルギー需要の増加が見込まれ、GDPがこれより低い水準で推移するとエネルギー需要はほぼ現状(1999年)レベルに止まることが推計された。確かに1995年から2004年にかけては経済成長がほぼ横ばいの状況で推移したが、住宅におけるエネルギー需要もほぼ横ばいの水準で推移している。 しかし、将来のライフスタイルや居住水準の一層の向上が望まれるとすると、住宅のエネルギー消費は再び増加に転ずる可能性も否定できないことが推察された。 第6章では以上の分析と考察をふまえて、地球温暖化防止に向けて、即効性のある省エネルギーの実現は簡単ではないことを指摘し、われわれが実行可能な省エネルギー行動を一つ一つは小さくとも持続的に実行していくことこそが重要であることを提言し結論とした。 | |
審査要旨 | "Research on residential energy consumption in Japan"と題する本論文は、わが国の住宅用のエネルギー消費に関する推移、分析、将来、さらには省エネルギーへの可能性について検討し、論じたものである。日本の住宅用のエネルギー消費は、一時的な(石油危機等)減少はあったものの、戦後一貫して増加基調で推移してきた。これは、とりもなおさず住宅における居住水準の向上と軌を一にしてきたからに他ならない。しかし、近年、最大の課題となっている地球温暖化防止においては、エネルギー消費の削減は避けて通れない社会的かつ政策的課題である。本論文は、この様な背景をふまえて、わが国の住宅におけるエネルギー消費の推移を経年的に調査し分析すると共に、エネルギー消費をもたらす要因や、将来のエネルギー需要の推計、さらには省エネルギーへの可能性について検討を加えたものである。本論文は以下の6章により構成される。 第1章では、本研究の背景、研究の目的及び論文の構成について述べている。また、既往の住宅エネルギーに関する調査・研究について概観し、地球温暖化対策並びに住宅の省エネルギーの観点から、住宅のエネルギー消費構造の分析に関する研究の必要性を指摘している。 第2章では、オスロ(ノルウェー)と福岡(日本)の住宅を対象として、エネルギー消費が居住者の置かれた環境や文化、歴史と言った背景によって異なることを、それぞれの地域でのヒアリング調査に基づいて論証している。オスロでは照明と暖房のエネルギー消費が、福岡では入浴にかかわるエネルギー消費がそれぞれ文化的な性格の差として顕著に表れていることを明らかにした。結論として、住宅における省エネルギーを進展させるには、正確で身近な省エネ情報を提供することや、省エネルギー診断を実施することが重要であると指摘している。 第3章では、家電製品の「待機時消費電力」に着目し、36住戸における実測調査について述べている。調査対象の住宅が保有する56機種の家電製品の82%に当たる46機種において待機時の電力消費が計測された。その結果、待機時の電力消費量は、1世帯あたりの平均で、年間530kWh/(年・世帯)にも達した。これは、1世帯あたりの年間総消費電力の12%に相当する量であり、全国の全住宅に当てはめれば24TWh/年もの電力量に相当することが分かった。この電力量は、実に大型原子力発電所3基分の年間発電量に匹敵する。この調査によって、家電製品の待機時消費電力の問題は広く国民的な関心を呼ぶことになり、政府による規制を待たず、製造事業者が自主的に待機時消費電力削減を公約し、現在市販されている家電製品のそれは劇的に低減している。また、近年開発され普及が拡大しつつあるCO2ヒートポンプ給湯器について、実際の家庭における効率測定を行い、実使用の状況でも高い効率であることを確認している。 第4章では、住宅におけるエネルギー消費の約30%を占める冷暖房用に着目し、マクロ経済モデルと冷暖房需要予測モデルを組み合わせる方法を用いて、現状の冷暖房水準及び将来の需要の推計を試みている。その結果、暖房では、2010年にはおおむね暖房需要は充足水準に近づくことが推計された。これは、暖房用エネルギー需要が建物の保温構造化の進展により減少すること、さらに暖房用としてエアコンの普及が加速し、その効率が向上することが相まって暖房の充足水準への接近は加速することを示唆している。一方、冷房では、保温構造化による冷房用エネルギー需要の低減が望めず、暖房に比べると充足水準は低いレベルに止まることが推計されている。 第5章では、住宅関連の省エネルギーやエネルギー需要に関する分析と考察が論説的に展開されている。家電製品のトップランナー基準の効用や住宅のエネルギー消費に関する今後の推移について述べられている。 第6章では第1〜5章の分析と考察をふまえて、結論が述べられている。すなわち、地球温暖化防止に向けて、即効性のある省エネルギーの実現は簡単ではないこと、そして、われわれが実行可能な省エネルギー行動を一つ一つは小さくとも持続的に実行していくことこそが重要であることが提言されている。 以上のように、本論文は、建築環境学及び建築設備工学のみならず、実社会にも寄与するところが極めて大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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