学位論文要旨



No 216707
著者(漢字) 松井,功
著者(英字)
著者(カナ) マツイ,イサオ
標題(和) プラズマ場を用いたナノ粒子の合成と機能化
標題(洋)
報告番号 216707
報告番号 乙16707
学位授与日 2007.02.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16707号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山口,由岐夫
 東京大学 教授 越,光男
 東京大学 教授 大久保,達也
 東京大学 助教授 岡田,文雄
 東京大学 助教授 霜垣,幸浩
内容要旨 要旨を表示する

 最も注目されているナノテク材料のひとつとしてナノ粒子がある。ナノ粒子は"artificail atoms"、あるいは、"building blocks"という言葉にも現されているとおり新たな材料系として重要である。つまり、ナノ材料の中でナノ構造を形成する最も基本的な構成要素の一つであり、分子や原子の特性を残す最小の構造体、離散的な構造形成要素、それがナノ粒子であると考えられる。ナノ粒子の本質的な特徴を生かしたデバイス創成には合成から機能化をスルーした開発が必要である。そのために必要な技術として、ナノ粒子(シングルナノメートサイズ)の合成と機能化が考えられる。つまり、ナノ粒子を合成しこれを用いてデバイス化する技術である。本研究ではナノ粒子の合成と機能化を実現するプロセスとしてナノ粒子をプラズマ場を用いたCVDにより連続的に合成しin-situで薄膜化する技術について検討を行った。

 CVDは薄膜成長方法として一般的なプロセス技術であり、その特徴として、比較的多種類の材料系に適用が可能(例えば他の合成法では難しいGaNなどの窒化物を含めた半導体)であること、結晶性を比較的自由に制御できること、合成粒子を直接基板に堆積させることができ、積層構造の作製や粒子のパッシベーション処理などの薄膜プロセスとしての連続性が保てることなどがあげられる。熱CVDによっても粒子を連続的に気相合成することは可能であるが熱CVDによるナノメートルサイズの粒子生成では凝集体の生成が起こりその抑制が困難である。したがってCVDによって分散したナノ粒子合成を行うにはナノ粒子の凝集を抑制する手段を講じる必要がある。そのためには粒子同士に何らかの反発力を働かせる必要があり、静電気力を用いることが考えられる。粒子を同一符号に帯電させることで粒子同士を静電気力で反発させて凝集を抑制する。その一つの方法として考えられるのが放電空間中での粒子合成、すなわちプラズマ場を利用したナノ粒子合成である。

 本論文の構成は、第1章緒論、第2章プラズマCVDによるナノ粒子の合成、第3章プラズマ中での粒子生成モデリング、第4章ナノ粒子の機能化、第5章結論からなる。

 第1章において本研究の重要性と位置づけを述べた。

 第2章ではプラズマCVDを用いてFePt粒子の合成試験を行い、プラズマによりどのように粒子が生成されるかを実験的に明らかにした結果について述べた。合成試験ではガラス管内に設置した対向する2つの電極を有する平行平板RFプラズマ反応器を用いた。この2つの電極をポーラスプレートとすることで、反応管内のガス流れが一方の電極から他方の電極へピストン流として流れるフロースルー型とした。これにより、生成した粒子を適切にサンプリングでき、プラズマ中での粒子生成を精密にとらえることを意図した。所定の時間、反応ガスにプラズマを印加した後に粒子を捕集しTEM撮影により観察した。その結果、プラズマ合成の初期過程とそれ以降では生成する粒子のサイズ、形態に違いがあり、クラスターの生成、核生成がプラズマ場における反応の初期過程で観察されること、反応過程の進行とともに凝集体の生成がナノメートルサイズの粒子とともに観察されるようになることを明らかにした。一例として図1に凝集体とナノメートルサイズ粒子のTEM写真を示す。

 また、粒子生成過程におけるプラズマの発光を直接撮影し、粒子生成に伴ってプラズマ発光が経時的に変化する様子を観察した。粒子生成に伴ってプラズマ発光の時間的な変化が観測され、反応初期においてシース−バルク境界で観察された発光は時間とともにバルク中心部に向かって移動しバルク部分全体の発光に移行することについて述べた。凝集体の生成などとプラズマ発光の状態の時間変化が関連していることを示した。

 第3章ではナノ粒子とその凝集体の生成について考察し、実験結果を説明できるプラズマ中での粒子生成のモデリングを行った結果について述べた。プラズマ中では粒子が負に帯電することが知られている。負に帯電した粒子同士は粒子間に働く静電気力のため互いに反発する。一方実験的には凝集体が生成されることが観察されている。静電反発と凝集体の生成という一見、相矛盾する現象を説明するため、いくつかのモデルが提案されてきた。これまで報告されているプラズマ中での粒子生成モデルでは、第2章で示した実験結果を説明するためには必ずしも十分ではない。プラズマ中での粒子生成を考える場合、粒子の帯電について考慮することが重要である。そこで、粒子帯電の経時変化を粒子に流入する電子、正イオンのフラックスを考慮したモデルにより推算した。この解析からプラズマ場での粒子帯電の時定数と帯電量を見積もった。また、Arプラズマの電場解析を行いイオン生成速度を求め粒子帯電の時定数と比較した。イオン生成速度を粒子生成の際のラジカル生成速度と同程度とすると1から数nmの粒子生成の時定数と粒子帯電は同程度であること、したがってプラズマ中では初期に無帯電粒子が生成することを示した。次に、帯電粒子がプラズマ内でどのように振舞うかを考察した。帯電した粒子はプラズマ中で電場などから静電気力、イオン粘性力などの力を受ける。プラズマ内での帯電粒子の運動を方程式に基づいて解析し、報告されている結果との比較を行なった。この解析を粒子径の小さな粒子(ナノ粒子)に適用し、帯電粒子はプラズマ中にトラップされるが粒子径によってプラズマ中でのトラップされる位置が異なること、粒子径が小さいほどプラズマバルクに近い位置にトラップされること、ナノメートルオーダーの粒子の場合はバルク内にトラップされることを示した。さらに、粒子の生成に伴うプラズマ構造の変化およびそれにともなう凝集体の生成について考察した。負に帯電した粒子の存在によりプラズマ場がどのように影響を受けるかを考察するために、モデルとして負イオンを含むプラズマを考えプラズマ解析を行った。負イオン生成量が増えるとともに電子密度の低下が起きること、そのため電子衝突にともなうイオン生成速度が低下することをあきらかにした。また、電子密度の低下によって粒子の帯電の時定数が大きくなるため初期に生成した粒子はさらに中性として存在しやすくなりため凝集体が生成しやすくなることが推定された。プラズマによる原料の分解速度をイオン生成速度と同程度と考え、エアロゾル粒子凝集モデルにより凝集体の生成(凝集体粒子径の増大)についてモデル計算を行い、第2章で得られた凝集体粒子径と比較した。モデル計算結果は実験結果とよく一致した。図2にここで提案するモデルの概略図を示す。

 第4章ではプラズマを用いたFePtナノ粒子の合成とin situ薄膜化を行い、その特性を評価することにより、ナノ粒子の機能化に関して検討した結果について述べた。FePt薄膜の組成の制御し、各種基板(MgO(001)、Si、石英)上での薄膜作製を行った。薄膜を加熱処理し、MOKE(Magneto Optical Kerr Effect)、SQUID(Superconducting Quantum Interference Device)を用いて磁化測定を行った。その結果、薄膜を加熱処理することによりFePtナノ粒子が磁化することが観測された。図3に得られた磁気特性の測定結果の一例を示す。磁化測定の指標であるMHループの測定結果に基づいて、アニールによるナノ粒子結晶構造の規則化を進めることで高保磁力が得られること、保磁力に対する粒子面内密度、基板との相互作用の効果について検討した。さらに、ナノ粒子の磁化容易軸の垂直配向に関してナノ粒子単層膜を用いて検討した。基板とナノ粒子界面の相互作用の結果、結晶の配向性が表れることを示した。

 第5章において、本研究の結論としてプラズマ場を利用したナノ粒子合成およびそれを用いたナノ粒子の機能化技術はナノ粒子技術として非常に有望であることを述べた。また、ナノ粒子の利用が期待されるデバイスの形態について図4に示すような整理を行い、ナノ粒子と基板との界面の制御が重要であることを指摘した。さらに、ナノ粒子デバイスの実現の展望について述べた。

図1 プラズマ場を用いて合成したナノ粒子のTEM写真

図2 粒子生成モデル

図3 プラズマ合成したFePtナノ粒子の磁気特性(アニール温度:750℃)

図4 利用形態とシグナルI/Oによるナノ粒子デバイスの整理

審査要旨 要旨を表示する

 「プラズマ場を用いたナノ粒子の合成と機能化」と題した本論文は、プラズマ−CVDを用いて、シングルナノメートルサイズのナノ粒子(シングルナノ粒子)合成とその機能化に関する研究であり、5章から構成されている。

 第1章において、ナノ粒子の必要性とナノ粒子の既往の研究例が示され、論文の目的が述べられている。ナノ粒子研究において、合成から機能化に至る一貫した研究が必要であることが述べられている。さらに、合成法として、放電プラズマ場を利用した気相法の有用性が示されている。ナノ粒子合成と分散には、粒子生成メカニズムの理解と分散の制御技術の確立が必要であると述べている。そのために、放電プラズマ場での粒子成長を観察すること、放電プラズマ場の理論解析や粒子挙動解析を行うことの必要性を述べている。さらに、気相合成された磁性ナノ粒子を薄膜化し、機能評価を行なうことにより、ナノ粒子のデバイス化プロセスとしての確立を図ると述べている。

 第2章においては、FePt(鉄白金)磁性ナノ粒子をモデル材料として、放電プラズマ場を用いたCVDによるナノ粒子の合成結果が述べられている。粒子生成過程においてシングルナノ粒子発生と、それらの凝集粒子が生成することを明らかにしている。合成したナノ粒子は1nmから数nmであり、非晶質と単結晶が混在しており、クラスター形成と核生成が同時に観察されると結論付けている。シングルナノ粒子と凝集体の生成に伴い、プラズマの発光状態は時間的に変化し、プラズマシースとバルク境界で観察された発光が時間とともにバルク中心部に移動しバルク領域全体の発光に移行すること、を明らかにしている。これらの知見はプラズマ場を用いたナノ粒子合成において、新規性の高い重要な知見といえる。

 第3章においては、グロー放電プラズマおよびエアロゾルの物理モデルを用いて、放電プラズマ中でのナノ粒子と凝集粒子の生成に関する数理モデルを確立している。放電プラズマ場中でのナノ粒子は電子付着により帯電しやすく、放電プラズマを変化させると述べている。この数理モデルを数値的に解いて、放電プラズマ中での粒子の生成と運動挙動を明らかにしている。また、負に帯電したナノ粒子同士は反発系であり、凝集体の生成を抑制することを示している。このように、放電プラズマ電界の時空間変化により、ナノ粒子の帯電と電界輸送が起き、ナノ粒子はその凝集粒子と全く異なる挙動を示すことを明らかにしている。本モデリングの結果は、放電プラズマ場における粒子生成と粒子凝集に関して意義があると述べている。

 第4章においては、放電プラズマ場を用いて合成した粒子から、シングルナノ粒子を選択的に反応器の中で分離し、基板上にナノ粒子薄膜を作製している。さらに、磁気特性に着目し、機能評価(保磁力、軸配向性)の結果を述べている。磁性ナノ粒子薄膜の加熱処理による、保磁力や軸配向性の向上を検討し、大きな保磁力を得たこと、さらに基板との相互作用を利用して軸配向性を向上できる可能性を示している。このように、ナノ粒子の合成から薄膜化を経て、高機能を実現するための一貫した研究の重要性が示されている。

 第5章においては、各章で得た結果をまとめている。放電プラズマ場を用いたナノ粒子の合成と薄膜化、さらに高機能化を実現するプロセス研究を展開し、シングルナノ粒子機能性デバイスを作製する方法を確立した、という結論を得ている。また、ナノ粒子デバイスの実用化に関する今後の展望として、ナノ粒子と基板との界面の制御が重要であることが述べられている。

 製造プロセスとナノ材料構造の関係、さらにナノ構造と機能の関係を磁性ナノ粒子に関して明らかにした点は化学システム工学への貢献が大きいものと言える。以上のように、機能を実現するための有効な製造プロセスを明らかにしている点は工学への貢献が大きいものと考えられる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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