No | 216710 | |
著者(漢字) | 足利,洋志 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | アシカガ,ヒロシ | |
標題(和) | 心臓突然死の基質を有する慢性心筋梗塞における心室エレクトロメカニクス | |
標題(洋) | Ventricular electromechanics in chronic myocardial infarction with substrate for sudden cardiac death | |
報告番号 | 216710 | |
報告番号 | 乙16710 | |
学位授与日 | 2007.02.21 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第16710号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本研究の目標は、心臓のメカニクスと電気生理の解剖学的相関を生体内で評価し、心臓のメカニカルな現象から電気生理学的な現象を予測できるかどうかを調査することにある。その目標を達成するために、本研究は6つの目的から構成される。目的1と2では、心臓の局所におけるメカニクスを評価し、メカニクスと心筋ファイバーやシートといった微細構造との相関を調査した。目的3と4では、心臓の局所におけるメカニクスと電気的興奮伝達との相関を調査した。目的5と6では、心臓全体におけるメカニクスと電気生理学との解剖学的相関を評価した。 目的1:正常心臓の拡張期における局所的なメカニクスを詳細に評価すること。 拡張期のメカニカルなリコイル(跳ね返り)に寄与している構造(心筋ファイバーやシートなど)は、拡張初期において最も早く拡張期の状態に戻るはずである。拡張初期に心筋ファイバーやシート構造が左室メカニクスにどう寄与しているかを調査するために、正常心臓の拡張初期における左室前壁の3次元有限変形をイヌの生体内で計測した。拡張初期の左室メカニクスは、心筋ファイバーとシート構造の大きな変形を伴っており、変形は心筋層によって大きく異なっていた。等容性弛緩期における心外層の心筋ファイバーの延長は、心臓全体のねじれ返りを促進し、充満期初期の左室への血液流入を補助していると考えられる。(第4章) 目的2:肥大心臓の拡張期における局所的なメカニクスを詳細に評価すること。 慢性容量負荷心不全における心筋の受動的特性の変化は、充満期におけるシート構造の異常メカニクスに関連しているという仮説を検証するために、容量負荷肥大心臓の左室前壁の3次元有限変形をイヌの生体内で計測した。慢性容量負荷心不全は、すべて拡張不全を伴っていた。また、容量負荷心肥大で見られる過剰充満は、拡張初期におけるシート構造の過剰剪断によって起こることがわかった。これらの結果から、シート構造のメカニクスが拡張不全の病態生理に重要な役割を果たしているということがわかった。(第5章) 目的3:正常心臓の局所的なエレクトロメカニクスを詳細に評価すること。 心筋ファイバー収縮と伸展は心筋層によって大きく異なるという仮設を検証するために、正常心臓の左室前壁の心筋全層における3次元有限変形と電気的脱分極・再分極時間をイヌの生体内で計測した。再分極時間は心筋層によって均一であるにもかかわらず、心筋ファイバー収縮と伸展は心筋層によって大きく異っていた。(第6章) 目的4:電気的ペーシング下の心臓の局所的なエレクトロメカニクスを詳細に評価すること。 心外層ペーシングは心筋層の電気的興奮方向(心内層から心外層)を変えることによって心筋層のメカニカルな収縮時期を変化させ、正常心筋収縮を阻害するという仮説を検証するために、正常心臓の正常房室伝達時と左室心外層ペーシング時における左室前壁の3次元有限変形をイヌの生体内で計測した。心外層ペーシングによって、心筋は外層から内層にかけて収縮し、また電気的興奮直後の正常なシート構造の伸展および心壁の肥厚が阻害された。これらは、シート構造が正常に動くためには、正しい心筋層の電気的興奮の方向が必要であることを示している。これに対して、シート構造の剪断は心外層ペーシングによって有意に変化しなかったので、局所的な解剖学的構造によってのみ決定されるのかもしれない。(第7章) 目的5:心筋梗塞後心臓の全体的なエレクトロメカニクスを詳細に評価すること。 心筋梗塞によって電気的興奮時期が変化することによって、心筋梗塞境界部における収縮能低下が起こると言う仮説を検証するために、イヌの慢性心筋梗塞モデルにおいて心筋梗塞部位と異常エレクトロメカニクスとの解剖学的関連を質的・量的に評価した。心筋梗塞境界部位ではメカニクスは異常だったが、電気的興奮は正常だった。従って、梗塞境界部位の収縮能低下は電気的要素から起こるのではなく、虚血心筋と正常心筋のメカニカルな相互作用によって起こることがわかった。(第8章) 目的6:心臓突然死の基質を有する慢性心筋梗塞後心臓の全体的なエレクトロメカニクスを詳細に評価すること。 心臓突然死の基質を有する慢性心筋梗塞において、メカニカルな異常伸展(プリストレッチ)が局所的な活動電位時間(APD)を生体内で変化させるという仮説を検証するために、電気生理学的検査で心室頻拍を誘発させることのできるブタの慢性心筋梗塞モデルにおいて、プリストレッチと電気的興奮・回復時間(ARI)との解剖学的相関を定量的に評価した。プリストレッチは伸展部位のARIを延長させることがわかった。伸展により引き起こされるARI延長は、心室の電気的再分極のばらつきを増加させ、結果的に心室頻不整脈への感受性を増加させる可能性がある。プリストレッチを減少させるような早期治療法は、慢性心筋梗塞患者の突然死を減少させるかもしれない。(第9章) これらの結果は、心臓の構造(心筋ファイバーやシート構造など)、電気生理(電気的興奮時間)、メカニクス(剪断、プリストレッチ)は分かちがたく絡み合っており、従って相互依存の関係にあることを意味している。本研究は心臓突然死の予測を臨床的結果として着目したが、今後の研究においても構造、電気生理、メカニクスの相互依存性から臨床的に有用な情報を抽出することができるかもしれない。 | |
審査要旨 | 本研究は心臓のメカニクスと電気生理の解剖学的相関を生体内で評価し、心臓のメカニカルな現象から電気生理学的な現象を予測できるかどうかを調査したものであり、下記の6つの結果を得ている。 1.正常心臓の拡張期における局所的なメカニクスを詳細に評価した 拡張期のメカニカルなリコイル(跳ね返り)に寄与している構造(心筋ファイバーやシートなど)は、拡張初期において最も早く拡張期の状態に戻るはずである。拡張初期に心筋ファイバーやシート構造が左室メカニクスにどう寄与しているかを調査するために、正常心臓の拡張初期における左室前壁の3次元有限変形をイヌの生体内で計測した。拡張初期の左室メカニクスは、心筋ファイバーとシート構造の大きな変形を伴っており、変形は心筋層によって大きく異なっていた。等容性弛緩期における心外層の心筋ファイバーの延長は、心臓全体のねじれ返りを促進し、充満期初期の左室への血液流入を補助していると考えられる。 2.肥大心臓の拡張期における局所的なメカニクスを詳細に評価した 慢性容量負荷心不全における心筋の受動的特性の変化は、充満期におけるシート構造の異常メカニクスに関連しているという仮説を検証するために、容量負荷肥大心臓の左室前壁の3次元有限変形をイヌの生体内で計測した。慢性容量負荷心不全は、すべて拡張不全を伴っていた。また、容量負荷心肥大で見られる過剰充満は、拡張初期におけるシート構造の過剰剪断によって起こることがわかった。これらの結果から、シート構造のメカニクスが拡張不全の病態生理に重要な役割を果たしているということがわかった。 3.正常心臓の局所的なエレクトロメカニクスを詳細に評価した 心筋ファイバー収縮と伸展は心筋層によって大きく異なるという仮設を検証するために、正常心臓の左室前壁の心筋全層における3次元有限変形と電気的脱分極・再分極時間をイヌの生体内で計測した。再分極時間は心筋層によって均一であるにもかかわらず、心筋ファイバー収縮と伸展は心筋層によって大きく異っていた。 4.電気的ペーシング下の心臓の局所的なエレクトロメカニクスを詳細に評価した 心外層ペーシングは心筋層の電気的興奮方向(心内層から心外層)を変えることによって心筋層のメカニカルな収縮時期を変化させ、正常心筋収縮を阻害するという仮説を検証するために、正常心臓の正常房室伝達時と左室心外層ペーシング時における左室前壁の3次元有限変形をイヌの生体内で計測した。心外層ペーシングによって、心筋は外層から内層にかけて収縮し、また電気的興奮直後の正常なシート構造の伸展および心壁の肥厚が阻害された。これらは、シート構造が正常に動くためには、正しい心筋層の電気的興奮の方向が必要であることを示している。これに対して、シート構造の剪断は心外層ペーシングによって有意に変化しなかったので、局所的な解剖学的構造によってのみ決定される可能性がある。 5.心筋梗塞後心臓の全体的なエレクトロメカニクスを詳細に評価した 心筋梗塞によって電気的興奮時期が変化することによって、心筋梗塞境界部における収縮能低下が起こると言う仮説を検証するために、イヌの慢性心筋梗塞モデルにおいて心筋梗塞部位と異常エレクトロメカニクスとの解剖学的関連を質的・量的に評価した。心筋梗塞境界部位ではメカニクスは異常だったが、電気的興奮は正常だった。従って、梗塞境界部位の収縮能低下は電気的要素から起こるのではなく、虚血心筋と正常心筋のメカニカルな相互作用によって起こることがわかった。 6.心臓突然死の基質を有する慢性心筋梗塞後心臓の全体的なエレクトロメカニクスを詳細に評価した 心臓突然死の基質を有する慢性心筋梗塞において、メカニカルな異常伸展(プリストレッチ)が局所的な活動電位時間を生体内で変化させるという仮説を検証するために、電気生理学的検査で心室頻拍を誘発させることのできるブタの慢性心筋梗塞モデルにおいて、プリストレッチと電気的興奮・回復時間(ARI)との解剖学的相関を定量的に評価した。プリストレッチは伸展部位のARIを延長させることがわかった。伸展により引き起こされるARI延長は、心室の電気的再分極のばらつきを増加させ、結果的に心室頻不整脈への感受性を増加させる可能性がある。プリストレッチを減少させるような早期治療法は、慢性心筋梗塞患者の突然死を減少させる可能性がある。 以上、本論文は心臓の構造(心筋ファイバーやシート構造など)、電気生理(電気的興奮時間)、メカニクス(剪断、プリストレッチ)は分かちがたく絡み合っており、従って相互依存の関係にあることを明らかにした。本研究の結果は、核磁気共鳴画像技術(MRI)を利用した、非侵襲的な心臓突然死のリスク評価法の開発に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/42886 |