学位論文要旨



No 216749
著者(漢字) 本多,剛
著者(英字)
著者(カナ) ホンダ,ツヨシ
標題(和) 液状化被害の軽減技術向上のための模型実験と個別要素法解析
標題(洋)
報告番号 216749
報告番号 乙16749
学位授与日 2007.03.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16749号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 古関,潤一
 東京大学 助教授 桑野,玲子
 東京大学 助教授 石原,孟
 東京大学 教授 堀,宗朗
内容要旨 要旨を表示する

 「地盤構造物の耐震性能をどのように評価するのか」という問題は非常に難しい課題である。この理由は地震動の不確定性や原地盤の材料の種類が変化に富んでいることもあるが、地盤材料が他の土木材料に比べて材料の応力ひずみ関係に強い非線形性を持っていることが大きな理由である。特に地盤の液状化現象のように強度が著しく低下し、応力ひずみ関係に強い非線形性が現れる場合、地震動や地盤条件のわずかな変化によっても耐震性能が大きく変化する可能性がある。また、土の強度変形特性や液状化強度は土の相対密度、応力状態、応力履歴によって変化することが知られているが、加振中に複雑な応力履歴を受ける液状化した(液状化状態にある)土の変形強度特性を室内の要素試験から調べた研究はほとんどない。つまり、現在の技術レベルでは任意の複雑な応力条件下での液状化した土の強度変形特性について未解明な点が多く、数値解析手法による耐震性能の評価には多くの課題を抱えている。また、耐震性能の評価に模型実験を用いることも行われている。模型実験の利点は対策工法の効果を定性的に確認できることであるが、対策効果の定量的な評価には模型実験の相似則の問題が常につきまとう。したがって、液状化被害の軽減技術の確立のためには数値解析手法の予測精度および模型実験の信頼性を向上させることが欠かせない。具体的には、液状化した土の挙動を解明することによって数値解析手法を向上させるとともに、模型実験から得られる結果を定量的に信頼できるものにするための模型実験技術の検証が必要である。

 本研究では、初めに河川盛土及びケーソン護岸の動的遠心模型実験を実施し、既往の液状化の被害軽減技術である地中壁工法(矢板壁、薬液改良、抑止杭)の効果について3種類の模型実験から検証した。河川盛土及び護岸構造物での部分的な対策は、強震動時に効果が著しく低下することがあることが分かった。

 また、液状化した土の挙動を解明と模型実験結果の解釈のために間隙水モデルを用いた個別要素法を液状化現象の境界値問題に適用して解析を行った。この個別要素法解析は、河川の遠心模型実験の結果を地盤の挙動を再現することができ、地中壁工法の一つである連続矢板壁の対策メカニズムを明らかにした。この結果、遠心模型実験において対策の沈下抑制効果が限定的になった原因の解明につながった。さらに、模型実験の相似則の妥当性を検討するために個別要素法による数値解析を実施し、模型実験結果に影響する要因についてミクロな視点から考察した。

審査要旨 要旨を表示する

 兵庫県南部地震以降、液状化被害の軽減を目的とした対策工法は、一部の重要構造物を除くと、「地盤改良による液状化の発生を防止する対策」から「液状化の発生を許容しつつ、基礎の強化や地盤変位の抑制といった方法で構造物被害を軽減する対策」に移行する傾向がある。これはL2地震のような強震動に対して対象地盤全域の液状化防止対策を施すにはコストが膨大になること、既設構造物の対策には十分な地盤改良領域を確保できないといった理由からである。そして、構造物周囲の地盤の液状化を許容しているため、液状化地盤と構造物の相互作用を考慮しながら耐震性能を評価技術せねばならない。

 現在の技術レベルでは任意の複雑な応力条件下での液状化した土の強度変形特性について未解明な点が多く、数値解析手法による耐震性能の評価には多くの課題がある。そこで模型実験を用いることが多い。しかし、定量的な評価には模型実験の相似則の問題がある。例えば、重力場の小型模型実験では実物に比べて拘束圧が低く、遠心力場の小型模型実験では実物と同じ応力レベルを再現できるが粒径の寸法効果の影響が懸念されている。

 このように液状化被害の軽減技術の向上のためには、液状化した土の挙動を解明することによって数値解析手法を向上させるとともに、模型実験から得られる結果を定量的に信頼できるものにするため、実験技術の検証が必要である。そこで本研究では、河川盛土およびケーソン護岸の遠心模型実験と重力場振動台実験の結果から液状化の被害軽減技術の検証を行なった。さらに、間隙水モデルを用いた個別要素法の数値実験を実施した。それらの成果が本論文における全八章に記述されている。以下にその内容を説明する。

 第一章では近年の自然災害の発生状況について調べ、自然災害として豪雨や地震による地盤工学に関連した災害の発生頻度が高く、自然災害の脅威が依然として高いことを示した。そして、これらの自然災害の被害を軽減する技術を確立するための研究手法について、現状の課題とその解決手法について検討した。

 第二章では、地盤に関連した自然災害として液状化被害に着目し、液状化被害と対策技術、液状化地盤の解析手法について既往の研究をまとめた。また、液状化地盤の新しい取扱い方法として個別要素法の利用を提案した。

 第三章では、地中壁工法(連続矢板壁と薬液改良工法)の対策効果をより詳しく評価するため、実物と同じ応力レベルを再現できる遠心模型実験装置を用いて強震動を受ける河川盛土の振動台実験を実施した。この結果より、地中壁工法によって河川盛土直下の基礎地盤の側方変位が抑制され、また盛土の沈下が軽減できることを確認した。ただし、既往の重力場の実験結果に比べ、その効果は小さかった。

 続いて、重力式護岸の遠心模型実験を実施し、抑止杭や矢板壁、薬液改良の効果を検討した。剛性の高い抑止杭を護岸の背後に密に設置した場合、護岸の変位や背後地盤の変位を抑えることができた。一方、護岸海側に矢板壁を設置したケースでは、矢板壁の陸側で過剰間隙水圧が大きく上昇し地盤がもち上がり、対策効果が打ち消された。また護岸直下に薬液改良体を設置したケースでは、改良体上の捨石マウンドに変形が集中したために対策効果は小さくなった。

 第四章と第五章では、液状化中の土の物性を再現するために間隙水モデルを用いた個別要素法による数値実験手法を開発した。具体的には、既存の間隙水モデルを用いた個別要素法を動的な境界値問題に適用できるように拡張し、また二次元の円形要素によって液状化現象を再現するための解析パラメータの決定方法について検討した。そして、河川盛土の数値実験から盛土の変形量に影響する要因を調べ、また液状化中の要素の集合体としての挙動について調べた。

 第六章では個別要素法を河川盛土の的遠心模型実験に適用した。そして結果を実物スケールに換算して比較し、次のことが分かった。

1. 地盤の寸法と粒子寸法を実物スケールに換算したとき、二種の異なる大きさの模型実験が完全に一致する場合には、大変形領域においても変位変形が一致した。

2.  実物スケールでの透水係数を一定に保つよう間隙水の粘性係数を変化させたところ、大きな粘性係数を用いると地盤の変形量が小さくなった。つまり、粘性流体を使用することによって地盤変位は過小評価される。

 続いて、模型寸法が長さで2倍異なる模型(解析モデル)を用意し、それぞれに模型スケールにて同一寸法の要素を配置した。実物スケールでの変位量を比較したところ、次のことが分かった。

3. 粒子の寸法効果が変形量に影響する。実物換算での粒子寸法が大きいケースほど変形量が小さくなった。

4. 相似率(模型/実物)が小さい条件ほど、正規化した変形量(地盤沈下ひずみ)が小さくなった。剛体容器を用いた土槽では変位応答の増幅が起こり難いため、地盤層厚が厚くなるほど正規化した変位量は小さくなる。

 次に、河川盛土の遠心模型実験の個別要素解析を行った。この結果より、この個別要素法によって河川盛土の遠心模型実験の結果を再現できることを確認した。そして、解析結果から得られた地盤内の応力分布から、矢板壁の対策効果のメカニズムを捉えることができた。

 第七章では、重力場と遠心場モデルの矢板護岸の振動台実験の数値実験を行った。ここから得られた知見を次に示す。

1. 加振周波数が小さくなると、矢板頭部の水平変位量は指数的に増加する。

2. 重力場と遠心場モデルの時間の相似則を適用することで、両者の結果は近いものとなる。実物換算した同一の加振周波数では、遠心場モデルの方が矢板の回転量が大きい。

3. 実物換算した矢板頭部の水平変位量で重力場モデルと遠心場モデルの結果を比較すると、約1000mmの変位量までは両者の結果が非常に良く一致している。

4. この解析モデルでは、重力場モデルおよび遠心場モデルともに矢板の回転量が約20度で頭打ちになった。このことから、約20度の矢板の回転量が力学的に安定状態となる限界値であると判断できる。したがって、安定状態に近づいた同一の回転量で両者の変位量を比較すると、重力場モデルの方が実物換算した変位量が大きくなってしまう。これは、重力場モデルの相似則では長さと変位の相似比が異なっていることに由来している。

5. 矢板の限界回転量である20度に対して、約12度までの回転量の範囲までは両者の結果が良く一致しており、この変形量までは両者の相似則が妥当と判断できる。

 第8章では、 本研究の総括として各章の要約と結論を取りまとめた。

以上の成果は地盤の工学から見た地震災害軽減技術の発展に寄与するところが大きく、よって博士(工学)の学位にふさわしい、と認められた。

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