学位論文要旨



No 216762
著者(漢字)
著者(英字)
著者(カナ) マリカルユン,タティパムラ
標題(和) 境界モデルを適用したマルチレイヤ光IP網の統合制御アーキテクチャに関する研究
標題(洋) Border Model to Realize the Integrated Control of Multi-Layer IP/Optical Networks
報告番号 216762
報告番号 乙16762
学位授与日 2007.04.04
学位種別 論文博士
学位種類 博士(情報理工学)
学位記番号 第16762号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 江崎,浩
 東京大学 教授 浅野,正一郎
 東京大学 教授 浅見,徹
 東京大学 教授 吉田,眞
 東京大学 教授 森川,博之
 慶應義塾大学 教授 青山,友紀
内容要旨 要旨を表示する

近年のインターネットのバックボーンにおけるIPトラフィックの増加は、高速インターネットアクセス技術やモバイルブロードバンド技術の発展と普及、実時間系マルチメディア通信(たとえば、ビデオオンディマンド、ビデオ会議、インターネットテレビ、映像電話)やピアツーピアアプリケーションなどの急速の普及に伴い、ますます加速する傾向にある。 このようなデータトラフィックの急増に対応するためには、IP技術と光伝送/交換技術を融合した、コストエフェクティブでありながら超広帯域の伝送交換能力を提供可能なネットワークシステムの確立を行う必要がある。その実現の解として有望視されている技術が、IP/MPLS技術を光伝送交換技術と統合化したシステムアーキテクチャであるが、その具体的な実現アーキテクチャが大きな技術課題として認識されている。 事実、光伝送交換ネットワーク(OTN; Optical Transport Network) 上での波長パスの設定に必要な時間は、非常に大きく、IPパケットの交換を実現することは事実上不可能である。

IPパケットのトラフィックの動的特性は、光伝送交換システムに対して、高速な交換動作要求するが、既存の光IP交換伝送ネットワークアーキテクチャにおいては、十分なDWDMレイヤと IPレイヤでの機能分担や制御アーキテクチャに関する実践的な考察と検討が、実実装という観点において不十分なものとなっていた。 すなわち、IPトラフィックの動的特性に対して、どのような制御フレームワークで、反応時定数の異なる光伝送交換プラットフォーム上にそのトラフィックを適切に収容するのかが、重要な技術課題となる。このようなシステムの実現には、マルチレイヤ間における相互制御機能を実現する新しいシステム制御技術の導入が必要となる。 さらに、このマルチレイヤ制御ネットワークにおいては、サービスの仮想化、トラフィックエンジニアリング、プロテクション技術、耐障害対策技術などの本質的な機能の実現を同時に実現を、動的通信資源管理、通信品質制御、信頼性向上、さらにはコスト削減というシステム要件を同時に満足しながら実現しなければならない。

本研究においては、MLSN(Multi-Layer Service Network; マルチレイヤサービス網)に対して、境界モデル(Border Model)を提案し、これを適用したMLSNアーキテクチャとその具体的実装法の提案ならびに評価を行っている。 提案システムアーキテクチャは、「サービスの仮想化」、「マルチレイヤ トラフィックエンジニアリング」、「既存サービス/既存サービスアーキテクチャの継続的収容」を実現することを必要条件としている。 これを実現するために、本研究においては、以下の3つのフレームワークを新しく提案している。

[1] 境界モデル(Border Model)

従来の オーバーレイアーキテクチャやピアモデルとは異なる、境界モデルを 光IPネットワークの制御プレーンアーキテクチャとして提案している。本提案アーキテクチャは、GMPLSコントロールプレーンの制御アーキテクチャ/プロトコルとして適用可能である。

[2] サービス仮想化 (Service virtualization と Service separation)

境界モデルをOTN(光伝送網)をもちいたGMPLS網において、いかにして効率的に IP/MPLS技術を適用するかが、本提案システムの重要な技術課題である。IP/MPLS技術を適用した既存のシステムにおいては、L2VPN、L3VPN、あるいは 6PEなど、さまざまなサービスが共通の通信基盤を用いて統合的に提供されている(=MLSN網)。 「境界モデル」を適用した本提案システムにおいては、論理ルータ(LR; Logical Router)と、仮想ルータ(VR; Virtual Router)を実現する(新しい)実装アーキテクチャを提案している。 提案アーキテクチャは、一般的なIP/MPLSシステムとは異なり、GMPLS技術ならびにONT技術の特性を十分に引き出し、耐障害性に優れた信頼性の高いシステムを実現することができる。

[3] 動的通信資源の管理制御

本研究において提案している MLSN網に適用した境界モデルにおいては、動的で柔軟性の高い通信資源の管理制御を、レイヤにまたがった形で実現することを可能としている。 さらに、拡張されたマルチホームアーキテクチャを適用することで、高信頼性の通信基盤の提供を可能としていることを、シミュレーションにより実証している。

複数のIP/MPLSサービスを提案システム基盤上で同時に、効率的に、かつ動的に必要に応じて提供することが、提案しているNLSN網における境界モデルの適用により可能となる。 具体的には、バックボーンにおいて必要な広帯域リンクを必要に応じて任意の地点間に動的に定義・提供することを可能にする。あるいは、現在のIP/MPLSシステムでは提供不可能な高品質サービスの実現や、高効率での通信資源の利用を可能とする。

トラフィックエンジニアリングの適用により、より、効率的な通信資源の利用を、通信品質の低下を回避しつつ実現することができる。 提案アーキテクチャにおいては、各レイヤにおけるトラフィックエンジニアリングを互いに相互利用・統合化することで、より効率的なトラフィックエンジニアリングを実現している。

以上

審査要旨 要旨を表示する

近年のインターネットのバックボーンにおけるIPトラフィックの増加は、高速インターネットアクセス技術やモバイルブロードバンド技術の発展と普及、実時間系マルチメディア通信やピア・ツー・ピア型アプリケーションなどの急速な普及に伴い、ますます加速する傾向にある。 このようなデータトラフィックの急増に対応するためには、IP技術と光伝送・交換技術を融合・統合した、コストエフェクティブでありながら超広帯域の伝送交換能力を提供可能なネットワークシステムの確立を行う必要がある。その実現の解として有望視されている技術が、IP/MPLS技術を光伝送交換技術と統合化したシステムアーキテクチャであるが、その具体的な実現アーキテクチャの確立が大きな技術課題として認識されている。 事実、光伝送交換ネットワーク(OTN; Optical Transport Network) 上での波長パスの設定に必要な時間(時定数)は非常に大きく、IPパケットの交換を実現することは事実上不可能である。

本研究においては、MLSN(Multi-Layer Service Network; マルチレイヤサービス網)に対して、境界モデル(Border Model)を提案し、これを適用したMLSNアーキテクチャとその具体的実装法の提案ならびに評価を行っている。 提案システムアーキテクチャは、「サービスの仮想化」、「マルチレイヤ トラフィックエンジニアリング」、「既存サービス/既存サービスアーキテクチャの継続的収容」を実現することを必要条件としている。 これを実現するために、本研究においては、「境界モデル(Border Model)」、「サービス仮想化 (Service virtualization と Service separation)」および「動的通信資源の管理制御」の3つのフレームワークを新しく提案している。

第1章では、「Introduction and Motivation (序論と研究背景)」として、現在のインターネット環境における様々な要求から導引される光伝送交換ネットワーク技術とIP技術の統合化の必要性を指摘し、その運用において実践的で実装可能なトラフィックエンジニアリング技術の確立の必要性、さらに、現在のネットワークからの移行を考慮したネットワークの運用フレームの必要性に関する問題提起を行い、本研究の背景と目的および貢献を明確化している。

第2章では、「Integrated Multi-Layer IP/Optical Network Architecture (IP・光統合化マルチレイヤネットワーキングアーキテクチャ)」として、本研究において提案しているアーキテクチャに関連する既存研究に関する背景を概観しその問題点を明確化している。マルチレイヤネットワークの実現には、既存のアーキテクチャフレームワークにはない、クロスレイヤにまたがった統合的な観点から考察されたアーキテクチャフレームワークの構築が必要となる。IP技術とDWDM(密光波長多重化方式)技術を統合化アーキテクチャ(これを、本研究では MLSN(Multi-Layer Service Network)と呼んだ)を、データ転送プレーン、制御プレーンおよび管理プレーンの構成という観点から、その問題点を整理した。これに基づき、光・IP統合化網アーキテクチャに要求される技術要件を、効率性、コスト、大規模対応性の観点から検討し、(1)IP交換とWDM交換レイヤ間での密なコーディネーション機能の制御プレーンでの実現、(2) IP交換とWDM交換レイヤにまたがったサービスの仮想化、動的パス検索とパスの最適化、の2つの要件をAS(Autonomous System)間およびプロバイダ間において実現可能としなければならない。

第3章では、「Design and Architectural Concepts for Border Model for Multi-Layer Service Networks (MLSNにおける境界モデルを適用したアーキテクチャの提案と設計)」として、既存の Peer ModelとOverlay Modelでは解決できないAS間およびプロバイダ間でのIP/Optical統合伝送・交換サービスを実現するためのアーキテクチャフレームワークと具体的なプロトコル設計フレームワークを提案している。柔軟性の高い「境界(Border)」を、各レイヤで定義可能にすることで、プロバイダやASにおける各レイヤごとに異なる運用ポリシーに対応しながら、効率的な光技術を用いたIPパケットの伝送・交換を実現可能にする。

第4章では、「Service Virtualization for Border Model based MLSN Architecture(境界モデルを適用したMLSNシステムにおけるサービスの仮想化)」として、任意のポリシーならびに任意のレイヤにおけるサービス網の仮想化を実現するアーキテクチャの提案を行っている。各仮想化網は、境界モデルに基づき相互接続を行うことも可能であるとともに、従来のVPN(Virtual Private Network)のように各仮想化網ごとに独立なネットワークをマルチレイヤIP/Optical統合網上に定義することも可能とするアーキテクチャを提案している。伝送・交換ノードの制御にはGMPLS技術を適用し、任意のプロトコルならびに任意のレイヤ(L2VPNやL3VPNなど)のポリシーを伝送パスの定義に反映することを、LR(Logical Router)、VR(Virtual Router)およびVRF(Virtual Router Function)を定義することで可能にした。

第5章では、「Path Computation Element (PCE) for Multi-Layer Traffic Engineering in Border Model Based MLSN (境界モデルを適用したMLSN網)におけるトラフィックエンジニアリングを可能にするためのパス計算アルゴリズム」として、AS間およびエリア間にまたがったMPLSパスの計算アルゴリズムの提案を行っている。特に、AS間やISP間の接続においては、サービス提供信頼性の向上のためにマルチホームによる相互接続環境におけるパス管理が、通信資源の浪費をすることなく実現されなければならない。

第6章では、「Realization of Multi-Domain and Multi-Layer Traffic Engineering in Border Model Based MLSN Using PCE (PCEを用いた境界モデルMLSN網におけるマルチドメイン・マルチレイヤトラフィックエンジニアリングの実現)」として、さまざまのサービス(ピア・ツー・ピア アプリケーションやマルチメディアストリーミングなど)における、提案トラフィックエンジニアリングアーキテクチャの評価を、既存アーキテクチャと比較し、その有効性を示している。

第7章では、「Deployment of the Proposed Research Work in Real World Networks(提案アーキテクチャの実ネットワークにおける具体的な展開)」として、本研究において提案した「境界モデルに基づいたMLSNアーキテクチャ」を適用した研究開発ネットワーク(R&D Networks)の具体例を示し、提案アーキテクチャの実践性と有効性を示すとともに、既存ネットワークへのスムーズな導入の実現性を証明した。

第8章では、「Conclusion(結論)」として、本論文での議論の総括と,今後の課題を述べている.

以上のように、本論文は、(1) IP/Optical統合システムに対してアーキテクチャ的な観点からの分析を行い実ネットワークにおいて必要な実現的で実用的な「境界モデル」に基づいたアーキテクチャフレームワークを提案、(2)上記の提案に基づき任意のプロトコルと任意のポリシーに対応可能なサービス仮想化に必要なコンポーネントの提案、(3) 運用ポリシーの異なるエリアおよびドメイン間でのMPLSパスの設定管理アーキテクチャの提案を行い、さらに、(4) このアーキテクチャに基づいた研究開発ネットワークでの実展開を行い、インターネット(IP)技術と光伝送交換(DWDM)技術の有機的な統合を実ネットワークへの実践・展開まで実現することに成功しており、電子情報通信分野および情報理工学分野に対する貢献は少なくない。

よって本論文は博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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