学位論文要旨



No 216772
著者(漢字) 吉田,啓史郎
著者(英字)
著者(カナ) ヨシダ,ケイシロウ
標題(和) 三軸織物複合材料の力学的特性に関する研究
標題(洋)
報告番号 216772
報告番号 乙16772
学位授与日 2007.04.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16772号
研究科 工学系研究科
専攻 航空宇宙工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 青木,隆平
 東京大学 教授 塩谷,義
 東京大学 教授 武田,展雄
 東京大学 教授 藤本,浩司
 東京大学 准教授 樋口,健
内容要旨 要旨を表示する

本論文では三軸織物複合材料を宇宙用展開構造に適用することを想定し,当材料の基本的な力学的特性を明らかにすることを目的とする.

この目的のため本論文は以下の構成でまとめられている.

第1章では,まず本論文の研究の着想にいたる経緯など研究の学術的背景について述べている。次に本論文で研究対象とする三軸織物複合材料を明確に定義している。そして本研究に関連する国内・国外の研究動向についてまとめた後、本研究の目的を述べ本論文の構成について説明している。

第2章では,対象とする織物複合材料をこれと等価な均質体と見なした場合の力学的特性を解析する手法を示している.その際,構造材料として最優先に要求される面内特性のみならず,展開構造物に適用する際に要求される収納性の評価などに用いるべく,面外の特性も解析可能な手法を示している.解析に際し,対象とする材料が不均質ではあるがその面内に周期的な構造を有することを利用して均質化法を適用し,単位周期領域のみを解析対象として,これに周期境界条件を考慮して当材料と等価な力学的特性を解析する手法を示している.またこの章では上記の単位周期領域を数値的に解析する方法として有限要素法を用いその定式化を示している.さらにこの定式化に基づき,単位周期領域において幾何学的非線形性を考慮した解析を実施する方法を示している.また,当材料のような不均質な材料をこれと等価な均質体と見なした場合の剛性を評価する簡易な手法として従来用いられている剛性平均法と比較し,剛性平均法による剛性評価の問題点を明らかにしている.

第3章では,当材料の本質的な力学的特性を損なうことなく簡易な解析モデルとして,当材料を構成する繊維束を梁(beam)でモデル化し繊維束の交点部においてこれを連結した解析モデルを提案している.この解析モデルを本研究では梁連結モデルと呼ぶ.この解析モデルに第2章で示す均質化法を適用する方法を示し,その定式化を示している.また梁連結モデルを幾何学的非線形性を考慮した解析に適用する方法についても示している.

第4章では,第2章,第3章に示した解析方法を,三軸織物複合材料に適用して解析した結果を示している.その際解析モデルを作成する詳細な方法についても述べ、三次元有限要素解析モデルとの整合性の観点から第3章に示した梁連結モデルを改良する方法についても述べている。解析結果として、まずは当材料と等価な平板の剛性を算出した結果を示している.またこの剛性を複合材料積層板など他の材料の剛性と比較することにより,当材料の特徴的な性質を明らかにしている.次に,当材料の力学的特性を実験的に評価する場合を想定して,当材料から有限な寸法を有するサンプル取り出しこれに一軸の引張および曲げを負荷した場合の解析を実施し,サンプルの寸法あるいは自由端が存在する場合の影響について評価している.次に,当材料を構成する繊維束単体の引張挙動に関し幾何学的非線形性を考慮した解析を実施し,特に負荷に伴う繊維束の面外方向うねり形状の変化が引張挙動に及ぼす影響を明らかにしている.次に,当材料を構成する繊維束の面外方向うねり形状の変化が当材料の引張挙動に及ぼす影響を評価するため,幾何学的非線形を考慮した織物複合材料の引張挙動の解析を実施している.その際負荷方法により引張挙動に変化が生ずることを示し,織物複合材料を構成する繊維束の面外方向うねり形状の変化がその挙動に及ぼす影響について検討している.なお,上記の解析において三次元有限要素解析モデルと梁連結モデルおよびこれを改良した改良梁連結モデルによる解析結果を比較し,簡易な解析モデルである梁連結モデルおよび改良梁連結モデルの有用性と適用限界についても検討している.

第5章では,第4章で解析的に予測される当材料の力学的特性を実験的に評価している.まずは当材料の引張剛性を評価するためさらには引張負荷下での変形挙動を把握するため,一軸引張試験を実施している.また当材料の曲げ剛性を評価するため三点曲げ試験および純曲げ試験を実施している。また曲げ破断が生ずる際の最大曲率を評価する試験も実施している。なお、上記評価試験において力学的挙動の負荷方向依存性を評価するため,負荷方向を変化させて試験を実施している。また一軸引張試験では、試験片の自由端の影響を評価するため試験片の幅方向寸法を変化させた試験も実施している。上記の評価試験結果と第4章で得られた解析結果を比較し、有限な寸法を有する試験片を用いた剛性評価試験の問題点を明らかにし、また非線形の引張挙動が発現するメカニズムについて考察している。また曲げ破断曲率評価試験の結果より,本材料が破断にいたるまで高い変形能を有していることを確認している。

最後に第6章に三軸織物複合材料の基本的な力学的特性についての結論を示しまとめとしている.

審査要旨 要旨を表示する

修士(工学)吉田啓史郎提出の論文は「三軸織物複合材料の力学的特性に関する研究」と題し、本文6章と付録10項から成っている。

宇宙構造物では、輸送系の搭載能力やコストの点から高比強度、高比剛性の材料を使うことが不可欠で、運用中の過酷な温度環境に対して高い温度安定性が要求されることも多い。これらの条件を満たす材料として炭素繊維強化複合材料が多用されつつある。一方構造様式の点からは、打ち上げ時の重量・容積の制約から軽量・高収納効率を追及した展開方式が一般化しており、同時にその作動の信頼性を確保することが不可欠になっている。繊維束を面内で三方向に等角度間隔に織った三軸織物複合材料は、繊維の長手方向の特性を利用しつつ、繊維東間の相対変位を容易にして曲げ変形を許容する材料システムである。これを展開構造の構成要素として利用することで、アンテナ、太陽電池パネル、伸展トラス構造などの性能や信頼性向上が期待されている。この論文は三軸織物複合材料を宇宙用展開構造に適用することを想定し、材料の基本的な力学的特性を解析的・実験的に明らかにすることを目的としている。

第1章は序論であり、まず研究の学術的背景について述べ、研究対象とする三軸織物複合材料を明確に定義している。次に本研究に関連する国内外の研究動向についてまとめた後、研究の目的を述べ論文の構成について概説している。

第2章では、微視構造を有する材料を均質体と見なして、力学的特性を解析するための基礎式を提示している。基本的な面内特性だけでなく、展開構造の収納性評価基準としての曲げ特性をも扱える解析手法を示している。幾何学的に不均質でも周期性がある材料の解析に適した均質化法を採用し、ユニットセルと呼ぶ単位周期領域をとって、これに周期境界条件を課すことで材料の巨視的な力学的特性を求める方法を示している。さらにこの解析法に基づいた数値解析を行うために、幾何学的非線形性までを考慮した三次元有限要素法による定式化を行っている。また、従来から用いられている剛性平均法と本方法を比較し、前者による剛性評価の問題点を明らかにしている。

第3章では、三軸織物複合材料が持つ本質的な力学的特性を損なうことなく、これを簡易に解析するモデルとして、材料を構成する繊維束をはり(beam)で置き換え、その交差部を相互に連結したはり連結モデルを提案している。このモデルを第2章で示した均質化法に組み入れるための定式化を行っている。またはり連結モデルを、幾何学的非線形性を考慮した解析に適用する方法についても示している。

第4章では、前の2つの章で示した解析方法に基づいたモデル化と解析を行い、その結果を詳述している。まず三次元ソリッド要素によるモデルの作成手順を詳細に述べ、はり連結モデルについては繊維束交差部の性質を考慮した改良をおこなっている。次にユニットセルを使って平板としての等価剛性を示し、三軸織物複合材料の面内及び曲げ剛性が等方性を示すこと、また、引張一ねじりのカップリングがあることを明らかにしている。これらの結果から剛性が等方性であることによる三軸織物複合材料の扱い易さを論じている。一方、有限寸法のモデルも使い部材寸法あるいは自由端が存在する場合の影響を評価している。さらに、幾何学的非線形性を考慮した解析まで拡張し、荷重増加に伴う繊維束の面外方向うねり形状の変化が、引張挙動に及ぼす影響を明らかにし、特に材料方向によって引張挙動に違いが生ずることを詳述している。これらの解析ではいずれも三次元ソリッド要素モデルとはり連結モデルおよびその発展型である改良はり連結モデルによる解析結果を比較し、はり連結モデルとその改良モデルの有用性と適用限界を論じている。

第5章では、三軸織物複合材料の力学的特性を実験的に評価している。まず引張剛性と引張変形挙動を把握するため、単軸引張試験を実施している。また曲げ剛性を評価するため三点曲げ試験および純曲げ試験を行い、さらに曲げ破壊が生じる際の最大曲率を求めるために押し潰し試験も試みている。これらの試験では、力学的挙動の荷重負荷方向依存性を明らかにするため、材料の切り出し方向を変えた試験片を使っている。また引張試験では、試験片の幅方向寸法を変え、試験片形状が測定結果に与える影響を確認している。これらの結果から、解析で予測したとおりこの材料が等方性を示し、一方で有限幅の試験片で見かけの剛性が等方性にならないことも確かめている。また非線形の引張挙動が発現するメカニズムについての詳細な観察を行い、繊維東方向の引張剛性の増大が繊維束のうねりの減少によるものであること、繊維束に垂直方向への引張では荷重とともに剛性が低下し、これが繊維東間の接着部の破壊に起因していることを予測している。

第6章は結論であり、三軸織物複合材料の基本的な力学的特性について、この研究で得られた知見をまとめている。

以上要するに、本論文は三軸織物複合材料の基本的な力学的特性を明らかにし、同時に他の織物材料へ拡張可能な解析手法を提案しており、高性能な宇宙用展開構造の実現に寄与するもので、宇宙構造工学、複合材料工学に貢献するところが大きい。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/42889