No | 216793 | |
著者(漢字) | 髙橋,克則 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | タカハシ,カツノリ | |
標題(和) | 酸化バナジウムおよびコンポジットのナノロッドのテンプレートを用いた成長 : 電気化学法および電気泳動法による合成と製鋼スラグからの資源回収への利用 | |
標題(洋) | Template-based growth of vanadium oxide nanorod arrays and their composites : synthesis by electrochemical and electrophoretic deposition and utilization for resource recovery from steelmaking slag | |
報告番号 | 216793 | |
報告番号 | 乙16793 | |
学位授与日 | 2007.05.17 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第16793号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 化学システム工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 工業副産物の再利用は、現在の重要課題の1つであり、安全かつ効率的に利用する様々なアプローチが工学的に検討されている。鉄鋼スラグは、道路材料や土木材料などに以前から積極的に再利用されてきたが、最近では、海洋修復やヒートアイランド対策に利用する材料が提案され、より環境に配慮した使用方法が検討されている。 環境負荷の軽減方法の1つとして、副産物から付加価値の高い物質を抽出、利用することにより、天然原料の利用を抑制することが考えられる。低温で抽出できれば、鉄鋼工場における廃熱利用などによる総合的なエネルギー負荷軽減も期待できる。さらに、抽出時にナノ構造物等を直接製造できれば、従来の副産物利用とは異なる、新しい経済的な高度利用技術へ展開することが可能となる。 本報では、上記の観点から、新しいナノ構造物の合成方法として、水溶液からの電気化学的方法、電気泳動法とテンプレート法とを組み合わせナノロッドの形成方法を提案した。対象物質として、鉄鋼スラグ中に含まれるバナジウムに注目し、酸化バナジウムのナノロッドの合成を試みた。 まず初めに、酸化バナジウムナノロッドの様々な反応ルートからの基本合成技術の検討、得られたナノロッドの電気化学的特性の評価を行った。その応用技術として、酸化バナジウムと酸化チタンの複合系のナノロッド、Niナノロッドを酸化バナジウム化合物でコーティングしたコアーシェル構造のナノケーブルの合成と電気化学的特性評価を行った。さらに、実用技術の検討として、鉄鋼スラグからバナジウムを抽出し、その抽出液からの酸化バナジウムナノロッドの合成と特性評価を行い、実用化の可能性について検討した。 第1章では、鉄鋼スラグの最近の利用状況、水溶液からの電気化学的方法によるナノ構造物の形成について概観し、本研究の目的をまとめた。 第2章では、テンプレート法に、電気化学的な方法、ゾルゲル電気泳動法を組み合わせることによって、酸化バナジウムのナノロッドを水溶液から高速に形成することを検討した。2種類のイオン形態からの電気化学的反応、およびゾルからの電気泳動法の3つの反応経路を検討した結果、いずれからも、均一な長さと径を持つナノロッドが広い範囲で形成された。電気化学的な方法ではナノロッドの径は、テンプレートの孔径の100%から85%の太さを持つ高充填なナノロッドが得られたのに対し、ゾルゲル電気泳動法では熱処理による収縮が50%程度と大きいナノロッドとなった。得られたナノロッドは、いずれのルートにおいても単結晶であり、成長方位は、<010>であった。電気化学的方法では、幾何学的選択成長、電気泳動法の場合には、外部場の影響などによりエピタキシャルな凝集が起こったものと考えられる。 第3章では、得られた酸化バナジウムのナノロッドの電気化学的、電気クロミック的な特性について検討した。酸化バナジウムナノロッドは、薄膜と比較して早い充放電特性が確認され、薄膜と比較して5倍程度の電流密度が得られた。また、エレクトロクロミック特性においても、光透過率変化の応答性、飽和到達時間がともに早かった。これらは、ナノロッドが単結晶であり、リチウムイオンが拡散する酸化バナジウムのレイヤーが電極に対して垂直に分布しているためだと考えられる。 第4章では、複合酸化物系への展開として酸化バナジウムに酸化チタンを添加し、層間の結合力を弱めることによって、Liインターカレーションを容易にすることを検討した。毛細管力によりテンプレート中に酸化バナジウムと酸化チタンの複合ナノロッドを形成することができた。結晶性は酸化チタンを混合することで急激に低下することがわかった。電気化学特性は、酸化チタンを25%添加した条件が最も大きく、さらに酸化チタン添加量が多くなると、特性が低下することがわかった。 第5章では、電気容量の改善と電荷の授受の高速化のために複合構造への展開を検討し、導電体と酸化バナジウムの複合構造化を検討した。ニッケルのナノロッド上に30nm程度のV2O5・nH2Oをコーティングしたナノケーブルを形成することができた。酸化バナジウムの単位重量あたりの電気容量は、最大10倍程度に増加し、通常のナノロッドに比べて高出力、高エネルギーになると計算された。 第6章では、各種の水溶液を用いて実際の製鋼スラグからのバナジウム抽出を検討し、抽出液からのテンプレート+電気化学法によるナノロッドの形成を行った。鉄鋼スラグからのバナジウム抽出は、pH<1.5の硫酸で効率的に行われた。抽出反応は、抽出済みの層内を拡散する速度に律速され、425μm以下のスラグからの回収率は60%程度であった。抽出液から電気化学法によりナノロッドを合成した結果、酸化バナジウムを主相とするロッドが形成された。ただし、成長速度、ロッド密度は小さく、電流値が高い場合には、アルミニウム、鉄が主相となることがわかった。製造条件を最適化する必要があるが、最近の原料価格帯であれば天然原料に競合しうると試算された。 第7章において、本研究の結論と実用化のために残された課題をまとめた。 | |
審査要旨 | 本論文は、「Template-based growth of vanadium oxide nanorod arrays and their composites: synthesis by electrochemical and electrophoretic deposition and utilization for resource recovery from steelmaking slag(酸化バナジウムおよびコンポジットのナノロッドのテンプレートを用いた成長:電気化学法および電気泳動法による合成と製鋼スラグからの資源回収への利用)」と題し、主に、水溶液からの電気化学法、電気泳動法とテンプレート法とを組み合わせた酸化バナジウムのナノロッドの合成と応用に関する研究成果をまとめたものであり、全7章から構成されている。 第1章は序論であり、本研究の背景、目的、既往の研究および論文の構成とその概要が述べられている。はじめに、鉄鋼スラグの特徴と最近の利用状況をまとめ、今後の方向性として高付加価値物質をスラグから抽出する技術を挙げ、対象として酸化バナジウムを提示している。既往の研究について、水溶液を介した抽出技術、酸化バナジウムのナノ構造物の研究を中心に概観した上で、経済的なナノ構造物製造技術として、テンプレート法と電気化学法、電気泳動法の組み合わせによる酸化バナジウムナノロッドの製造を提案し、その可能性を述べている。 第2章では、テンプレート法に、電気化学法、電気泳動法を組み合わせることによる、酸化バナジウムのナノロッドの形成に関する研究結果についてまとめている。2種類の電気化学法、およびゾルの電気泳動法の計3種類の反応経路を検討した結果、いずれからもナノロッドが形成可能な条件があることを見出し、提案した合成プロセスの有効性を示している。得られたナノロッドは、成長方向が<010>の単結晶であることを示し、成長メカニズムについて、電気化学法では、テンプレート壁面との相互作用および成長に伴う選択配向の複合効果、電気泳動法では、外部場の影響などによるエピタキシャルな凝集機構によるものと考察している。 第3章では、酸化バナジウムナノロッドの電気化学特性、エレクトロクロミック特性について検討している。酸化バナジウムナノロッドは 速い充放電特性を持ち、薄膜と比較して5倍程度の電流密度が得られることを実験的に示している。エレクトロクロミック特性においても、光透過率変化応答が速いこと、飽和到達時間が短いことを見出している。この理由として、ナノロッドが単結晶であり、リチウムイオンの拡散ルートとなるレイヤーが電極に対して垂直に分布している、という微構造的特徴と結び付けて説明している。 第4章では、リチウムの拡散を容易にするため、酸化バナジウムに酸化チタンを添加することを提案し、評価している。テンプレート中で酸化バナジウムと酸化チタンの複合ナノロッドを形成できることを示し、酸化チタン添加量には最適値があり、25%を超えて添加すると、電気容量が低下することを実験的に示している。 第5章では、電気化学キャパシタとしての応用を想定し、電気容量の改善と電荷授受の高速化のために、導電体と酸化バナジウムの複合構造化を検討している。ニッケルのロッド上に酸化バナジウム水和物をコーティングしたナノケーブルの形成を2段階反応により実現している。酸化バナジウムの単位重量あたりの電気容量は、通常のナノロッドに比べて最大10倍程度に増加することを示している。 第6章では、実際の製鋼スラグからのバナジウム抽出を検討し、抽出液からのナノロッドの形成を検討している。pH<1.5の硫酸により効率的に抽出が可能で、抽出液から酸化バナジウムを主相とするロッドが形成できることを示している。製造条件の最適化に課題は残されるが、天然原料に競合しうると試算している。 第7章では、第2章から第6章に記載した内容を総括するとともに、実用化のために残された課題について述べている。 以上のように、本論文では酸化バナジウムのナノ構造物の新規合成方法として、テンプレート法と電気化学法、電気泳動法を組み合わせた方法を提案し、その有効性を検討したものである。ナノロッドが合成できる条件を明確にし、本プロセスにより得られたロッドの微細構造を明らかにし、更に電気化学的特性を示した。応用技術として、複合酸化物ロッド、金属との複合構造の提案と評価を行い、さらに、実際の鉄鋼スラグでの適用可能性を示した。本論文の内容は、提案プロセスがナノロッドを効率的かつ均質に作製するために有効であることを立証したものであり、化学システム工学、材料工学への貢献は大きいものと考えられる。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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