No | 216798 | |
著者(漢字) | 永田,基子 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナガタ,モトコ | |
標題(和) | TGF-βシグナル抑制因子c-Skiの機能解析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 216798 | |
報告番号 | 乙16798 | |
学位授与日 | 2007.05.23 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第16798号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | Transforming Growth Factor-β(TGF-β)はアクチビンやBMPとともにTGF-βスーパーファミリーを形成する生理活性物質であり、細胞膜上のType IとType IIのセリン・スレオニンキナーゼ型受容体を活性化し、Smadを介してシグナルを伝達する。TGF-βの作用は多岐に渡り、おもに細胞増殖抑制因子としての機能が大きいが、標的細胞の種類・状態・微小環境などにより細胞応答が異なる。したがって、そのシグナル伝達機構を理解することは、それらの疾病の解明および克服につながる可能性があると考えられる。このシグナルを負に調節する機構のひとつとして、核内で、標的遺伝子の転写調節に関与するc-Skiがコリプレッサーとして機能していることが明らかとなっている。c-Skiは、形質転換、足場非依存的増殖、および筋分化を誘導する一方、Smad複合体と直接結合してTGF-βシグナルを抑制している。 c-Skiは、おもに核に局在し、転写共役因子として核で機能していると考えられているが、最近になって転移性の悪性黒色腫や食道癌などいくつかの腫瘍細胞においては高発現が認められ、核だけでなく、細胞質にも存在していることが報告された。細胞質局在c-Skiは細胞質においてSmadと結合することによって、TGF-βシグナルを抑制していると考えられている。したがって、細胞質局在c-SkiのTGF-βシグナル抑制作用を明らかにすることで、c-SkiのTGF-βシグナル抑制作用と核内における他の標的遺伝子の作用を区別できると考えられる。そこで、今回、本研究において細胞質局在c-Skiの機能を解析することを目的として、c-Skiの核移行シグナル(Nuclear Localization Signal;NLS)を同定し、その変異体、c-Ski NLSmutを作製し解析に用いた。本変異体を用いることにより、細胞質局在c-Skiは核内c-Skiとその性質および細胞機能の制御機構が異なっていることを見出した。また、c-Skiの細胞内局在の制御機構にプロテアソーム依存的に調節されている過程が含まれていることを新たに見出した(第1章)。 c-Skiのリン酸化については、これまでにC末端領域に推定リン酸化部位があること、および細胞周期依存的にリン酸化されることなどが報告されている。また、c-Skiファミリーのうち、リン酸化が示唆されているのはc-Skiのみであり、構造的な違いが、各分子の特性および機能にどのように貢献しているかはこれまでに明らかとなっていない。また、今回c-Skiの細胞内局在制御機構を解析する過程で、c-Skiのリン酸化との関連が示唆された。そこで、今回c-Skiのリン酸化部位を同定し、リン酸化とc-Skiの局在および特性・機能に与える影響について検討した(第2章)。 | |
審査要旨 | 本研究は・細胞において細胞増殖抑制をはじめとする多様な作用を有するTransformingGrowthFactor一β(TGF一β)スーパーファミリーのシグナルを・負に調節する因子のひとつであるc・Skiの機能解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 Lc-Skiは本来・核内において標的遺伝子上で転写共役因子として機能することが知られているが、ある種の癌細胞においては、細胞質において高発現していることが報告された。そこで、c-Ski核移行シグナルを同定、その変異体を用いることで細胞質局在c-Skiの機能を解析した。その結果、c-Skiの452-458残基のPRKRKLT配列が、c-Skiの核移行シグナルとして機能していることが示された。 2・c-Ski核移行シグナルの変異体を用いた検討から、細胞質局在c-SkiはTGF一βおよびBMPシグナルを野生型c-Skiと同様に抑制し、TGF一βによって引き起こされる細胞表現型を抑制し得ることが示された。この細胞質局在c-SkiのTGF一βおよびBMPシグナルの抑制機構は、R-SmadとCo.Smadの複合体の核移行を抑制することによることが示された。 3.細胞質局在c-Skiは核内局在を必要とする機能を有しておらず、TGF-βシグナルの抑制因子であるSmad7の発現抑制能を失っていることが示された。したがって、細胞質局在c-Skiを用いることで、TGF-βシグナルに依存したc-Skiの機能と、TGF-βシグナルに依存しないc-Skiの核内機能とを区別して評価することが可能であることが明らかとなるとともに、細胞質局在c-SkiによるTGF-βシグナル抑制について新たな機構が示唆された。 4.c-Skiの細胞内局在制御機構について解析した結果、c-Skiはプロテアソーム阻害剤処理により、核内局在を示さず細胞質にも蓄積することが明らかとなり、これは、新たに合成されたc-Skiの核移行が阻害されていることによることが推察された。また、本現象には複数の結合タンパク質の結合部位と一致するc-SkiのN末端(94-210)およびリン酸化の可能性の示唆されるC末端(491-548)部位が必要であることが明らかとなった。 5.c-Skiの細胞内局在制御とリン酸化の関連が示唆されたため、Smad4との結合によりft進し、SDS-PAGE上でバンドシフトをともなうc-Skiのリン酸化部位の同定を試みた結果、欠損変異体からの解析および直接的なMALDI-TOF-MSを用いた解析から・c-Skiの515残基目のセリンがリン酸化されていることが同定された。 6・c-Skiの515番目のセリンのリン酸化がc-Skiの機能に与える影響にっいて、細胞内局在、タンパク質の安定性、TGF一βおよびBMPシグナル抑制効果、Smad複合体結合性およびプロテアソーム阻害剤処理による細胞内局在変化について検討したが、明確な影響は認められなかった。 以上、本論文はTGF-βシグナル伝達機構における負の調節因子であるc-Skiの核移行シグナルをはじめて決定することにより、細胞質局在c-Skiの特性および機能の一部を明らかにした。本研究は癌細胞で見られる細胞質局在c-Skiの機能を解明し、癌細胞におけるTGF-βシグナル伝達機構の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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