No | 216800 | |
著者(漢字) | 小尾,俊太郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オビ,シュンタロウ | |
標題(和) | 門脈腫瘍塞栓を合併した進行肝細胞癌に対するインターフェロン併用5FU動注化学療法 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 216800 | |
報告番号 | 乙16800 | |
学位授与日 | 2007.05.23 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第16800号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | [研究の背景および目的] 肝細胞癌は、世界的に頻度の高い癌の一つであり、本邦においても過去30年来、肝癌の死亡数は増加している。近年、医学の進歩により、肝細胞癌患者の予後は改善した。 しかしながら門脈腫瘍浸潤の出現は、肝細胞癌患者の予後を著しく悪化させる。 門脈腫瘍浸潤は、肝内再発や門脈圧亢進を来たし肝機能を悪化させて、更なる肝細胞癌の治療を困難にする。Interferon-α (IFNα) と5-fluorourasil (5FU) の併用療法は、1989年にWadlerらによって進行大腸直腸癌において報告された。1993年にPattらによってIFNαと5FU(全身投与)の併用療法が、肝細胞癌に有効であることが報告された。 1998年Urabeらによって、IFNα, 5FU, CDDP, MTXによる多剤併用療法の有効性が報告されたが、副作用として骨髄抑制が問題となった。 2002年Sakonらが8例の門脈腫瘍浸潤を伴った肝細胞癌症例において、IFNαと5FU(肝動注)の併用療法が安全で有効性が高いことを報告した。これらの報告をもとに、我々は116例の門脈腫瘍浸潤(VP3,4)を伴う進行肝細胞癌に、IFN併用5FU動注化学療法を行った。そして対症療法で治療した26例のHistorical control群と予後を比較検討した。 [方法] 2000年9月から2004年5月までに、当科を受診した肝細胞癌患者のうち、以下の選択基準を満たす症例を、研究の対象とした。 ・一次分枝から門脈本幹に存在する腫瘍塞栓例(Vp3,4)。 ・Child-Pugh分類 7点以上、1区域以上に存在し、切除や放射線治療が困難と考えられた症例。 ・Eastern Cooperative Oncology Groupの Performance Status 0-2。 ・コントロール不能な腹水を認めない、白血球数3000/μL以上、血小板数50,000/μL以上、総ビリルビン3.0mg/dL未満、血清クレアチニン1.5mg/dL未満。 ・動注カテーテルの植え込みにより、適切な薬剤分布が得られた症例。 さらに本研究中に遠隔転移巣には、動注の効果が得られないことが判明したため、遠隔転移を合併する症例を2001年1月から新たに除外基準として付け加えた。 また1994年8月から2000年8月までの間に対症療法で治療を行った26例を抽出して、これらの症例をhistorical control群として、予後を比較検討した。治療開始前4週間以内に、Performance Statusを含めた全身状態の評価、腫瘍マーカーを含めた血液生化学検査、そしてダイナミックCTによる画像診断を行った。ダイナミックCTは各クール終了時に治療効果判定のため撮影した。治療効果判定はECOG criteriaに準じて行った。 全ての患者に対して、十分にインフォームド・コンセントを行い書面にて承諾を得た。インフォームド・コンセントの後、後述のプロトコールに従って治療を行った。1クールは4週間とした。IFNαは、1回400万単位(4MU) /m2を毎週3回筋注(各週とも第1, 3, 5日目)した。5FU (400mg/m2 /day) は、第1,2週の第1日目から5日目まで、携帯型の薬剤注入ポンプを用いて、動注カテーテルより肝動脈に持続注入を行った。1クールにおける5FU総投与量は5gとなった。各クールの終了時、治療効果判定を行った。IFN併用5FU動注化学療法は、Progressionと評価された時点で中止した。他の場合、少なくとも2クール以上継続した。またECOG criteriaのグレード3以上の副作用が出現した場合も中止とした。ただし血小板数, 白血球数, 総ビリルビンの変化は、肝硬変のため治療開始前よりグレード3となる症例もあるのでそのまま治療を継続した。また、発熱もIFNに起因し得るのでグレード3でもそのまま治療を継続した。 [結果] 2000年9月から2004年5月までの期間に、116例(男性95例、女性21例)の患者を治療した。平均年齢は、64 (39-79) 歳であった。背景肝障害は、C型慢性肝炎77名, B型慢性肝炎 23名, B型慢性肝炎とC型慢性肝炎の併発1名, 非B非C型慢性肝炎15名であった。門脈一次分枝までの腫瘍浸潤(Vp3)は88名、門脈本幹までの腫瘍浸潤(Vp4)は28名であった。肝内の平均腫瘍径は、8 (2-15) cmであった。腫瘍の存在範囲は、1区域28例 (24%), 2区域56例 (48%), 3区域以上32例 (28%)であった。116名全ての患者は、少なくとも1クールの治療を行い、平均2.1 (1-7) クール行った。1クールで終了した患者は48名(41%), 同様に2クール32名(28%), 3クール20名(17%), 4クールあるいはそれ以上は継続した患者は、16名(14%)であった。 Complete Response (CR)は、19名 (16.4%)であった。Partial Response (PR)は42名 (36.2%)、Stableは2名 (1.7%)、Progressionは53名 (45.7%)であった。結果として奏功率 (CR+PR) は、52.6%であった。CR, PRの維持期間は、それぞれ13.6ヶ月と4.8ヶ月であった。治療効果予測因子を各種臨床パラメーターから解析すると、HCV抗体陽性例に著効する症例が多い傾向にあった(単変量解析p=0.0328, 多変量解析p=0.0519)。治療効果は、治療前後(1クール終了時)の腫瘍マーカーの推移によって、早期に予測できた。1クール終了後の腫瘍マーカーが減少した患者の多くは、最終的にCR,もしくはPRとなった(感度90%, 特異度80%)。 発熱は約90%の患者に認めた。一般に最初のIFN投与に引き続いて起こり、IFNの継続とともに減少した。ASTの上昇, 白血球数や血小板数の低下は、60-80%の患者で認めたが、これらのために治療を中止した症例は認めず、G-CSF製剤も不要であった。嘔気, 嘔吐は、ほとんどがグレード1であったが、約50%の症例で認めた。グレード3の口内炎と鬱病を各1例認めた。これらの症例は、1クールで治療を中止した。動注カテーテルが原因の合併症は認めなかった。 動注を行った患者の生存率は、6ヶ月53%, 12ヶ月34%, 24ヶ月18%であった。50%生存期間は、6.9ヶ月であった。一方control群の生存率は6ヶ月27%, 12ヶ月4%, 24ヶ月0%であった。両群間の生存率に有意差を認めた(P=0.0002)。 治療効果は生存期間に影響し、CRの生存率は1年81%, 2年59%と良好であったが、Progressionの生存率は不良であった。生存に対する単変量解析と多変量解析の結果、生存予測因子は、腹水 (p=0.0004) とAST (p=0.0497)であった。 [考察] IFN併用5FU動注化学療法は、門脈腫瘍塞栓を伴った進行肝細胞癌において、実に52%の奏功率であった。特に完全寛解となった症例では、著明に生存期間を改善することができた。Sakonらが報告した生存率は、さらに優れていたが対象症例の相違が原因として挙げられる。 5FU単独動注化学療法は奏功率が低く、IFNα単独ではRCTの結果有効性が見出されなかった。 それゆえ、IFNと5FUの組み合わせは、ある種の相乗効果がある。そのメカニズムの一部が解明されてきた。最近IFNαがp53を誘導することが報告された。 我々は8種類の異なるヒト肝細胞癌のCell line を用いて、IFN+5FUの相乗効果を検討し、5種類のCell lineにおいて相乗効果を確認した。さらにOtaらはIFN-alpha/type I IFN receptor (IFNAR2) のexpressionが、本療法の治療効果に密接に関係することを明らかにした。これらの遺伝子の更なる研究は、分子レベルでの相乗効果のメカニズムを解明し、治療効果予測を可能とするかもしれない。 IFNα併用下に5FUを全身投与することによって、肝外転移巣にも効果があるかもしれない。動注は、欠点の一つかもしれない。もし抗がん剤が非侵襲的な方法でがん病巣にデリバリー出来れば、適応をさらに拡大できるかもしれない。 本研究では幸いにも重篤な副作用はほとんど無く、全ての副作用は対症療法でコントロール可能であった。 以上より、門脈腫瘍塞栓(Vp3,4)の治療方針を提案する。Child-Pugh Cもしくはコントロール不可能な腹水がある症例は、対象療法が推奨される。肝機能が良好で耐術可能な症例は切除が最も推奨される。切除不能であるが、Child-Pugh Aで肝内腫瘍数5個以下、放射線治療後TAEが可能な症例はThree-dimensional conformal radiotherapyが推奨される。これらの適応外となった症例に本療法を行うことを推奨する。 | |
審査要旨 | 本研究は門脈腫瘍浸潤を伴う高度進行肝細胞癌におけるインターフェロン併用フルオロウラシル動注化学療法の有効性と安全性を明らかにするため、倫理委員会にて承認後書面にて同意を得た116例の門脈浸潤を伴う高度進行肝細胞癌患者をインターフェロン併用5FU動注化学療法で治療して対症療法で治療した26例のHistoricalcontro1と予後を比較検討したものであり、下記の結果を得ている。 1.門脈浸潤を伴う高度進行肝細胞癌患者をインターフェロン併用5FU動注化学療法で治療した116例を、26例のhistoricalcontro1群と予後を比較検討した。動注を行った患者の生存率は、6ヶ.月53%,12ヶ月34%,24ヶ月18%であった。50%生存期間は、6.9ヶ月であった。一方contro1群の生存率は6ゲ月27%,12ヶ.月4%,24ヶ月0%であった。両群間の生存率に有意差を認めた(P=0.0002)。門脈浸潤を伴う高度進行肝細胞癌患者をインターフェロン併用5FU動注化学療法の有効性が示された。 2.門脈浸潤を伴う高度進行肝細胞癌患者をインターフェロン併用5FU動注化学療法で治療した116例中、CompleteResponse(CR)は、19名(16.4%)であった。Partia1Response(PR)は42名(36.2%)、Stableは2名(1,7%)、Progressionは53名(45.7%)であった。結果として奏功率(CR+PR)は、52.6%であった。CR,PRの維持期間は、それぞれ13.6ヶ月と4.8ヶ.月であった。CRの生存率は1年81%,2年59%と良好であったが、Progressionの生存率は不良であった。治療効果は生存期間に影響することが示された。 3.治療効果予測因子を各種臨床パラメーターから解析すると、HCV抗体陽性例に著効する.症例が多い傾向にあった(単変量解析p=O.◎328,多変量解析p=O.0519)。また、生存に対する単変量解析と多変量解析の結果、生存予測因子は、腹水(P=O.0004)とAST(P=0,0497)であることが示された。 4.治療前後(1クール終了時)の腫瘍マーカーの推移を観察することによって、治療効果を早期に予測できた。1クール終了後の腫瘍マーカーが減少した患者の多くは、最終的にCR,もしくはPRとなった(感度90%,特異度80%)。腫瘍マーカーの観察によって早期に治療効果予測ができることが示された。 5.治療に伴う副作用として、発熱は約90%の患者に認めた。一般に初回のインターフェロン投与に引き続いて起こり、インターフェロンの継続とともに減少した。ASTの上昇、白血球数や血小板数の低下は60-80%の患者で認めたが、これらのために治療を中止した症例は認めず、G-CSF製剤も不要であった。嘔気,嘔吐は、ほとんどがグレード1であったが、約50%の症例で認めた。グレード3のロ内炎と欝病を各1例認めた。これらの症例は、1クールで治療を中止した。動注カテーテルが原因の合併症は認めなかった。結果としてインターフェロン併用5FU動注化学療法の安全性が示された。 以上、本論文は門脈腫瘍浸潤を伴う高度進行肝細胞癌症例において、インターフェロン併用フルオロウラシル動注化学療法の有効性と安全性を明らかにした。本研究はこれまで標準的治療の確立していない門脈腫瘍浸潤を伴う高度進行肝細胞癌症例の治療に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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