No | 216806 | |
著者(漢字) | 片山,竜二 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カタヤマ,リュウジ | |
標題(和) | 変調分光法を用いた窒化物半導体の界面・表面電場に関する研究 | |
標題(洋) | Modulation Spectroscopic Study on Electric Fields at Nitride Semiconductor Heterointerfaces and Surfaces | |
報告番号 | 216806 | |
報告番号 | 乙16806 | |
学位授与日 | 2007.06.06 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(科学) | |
学位記番号 | 第16806号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1)本研究の背景 窒化物半導体は他のIII-V族化合物半導体と比べ、近年もなお物性の解明が続く材料である渉、現在では青色受発光素子へと応用されている。特にイオン性が強いことにより安定相構造として六方晶構造をとるが、一方で有機金属気相成長法(MOVPE)ならびにrfプラスマ援用分子線エピタキシ(rf-MBE)などを用いて非平衡条件下にて結晶成長することにより、準安定相である立方晶構造を作製することも可能である。立方晶GaNを例にとると、立方晶構造のへき開面をレーザーの共振器端面に利用できることから発光素子材料として利点があり、また結晶対称性が高いことによりフォノン散乱の影響が小さくドリフト飽和速度が高いなど、電子素子としての利点も期待された。ところが電流注入による誘導放出は未だ実現されておらず、また電子素子としての利点も実証には至っていない。これらの問題の共通の原因として、立方晶GaNが準安定相であるため作製が困難であることと共に、その電気的評価が困難であることが挙げられる。というのも、これまで報告のある立方晶GaNの電気的性質のほとんどが、下地の基栖との界面を経路とする寄生伝導機構に強く影響を受けていると考えられ、系統的な結果が得られていないことから、まずその機構を解明する試みが必要といえる。 一方で六方晶窒化物結晶については、近年のMBE法による窒化物半導体の薄膜成長技術の進展により、格子極性や分極という概念が極めて重要となりつつある。本来ウルツ鉱型構造は分極を持たないが、現実には原子位置が理想的な位置から微妙に変位していることから、結晶内には無歪みでも分極が生じる。これを自発分極と呼び、+c面(Ga極性面)に負、-c面(N極性面)に正の分極電荷を誘起する。また結晶が歪むことにより同様に分極は誘起され、これをピェゾ分極と呼ぶ。窒化物半導体はIII-V族化合物の中でも大きな分極を有し、c面をヘテロ界面や表面に持つ構造では巨大な電界が生じることから、量子井戸レーザー構造においては発光再結合効率が顕著に減少する、もしくは高電子移動度トランジスタ構造においてはチャネル中のキャリアを空乏化(ピンチオフ)できないなどの問題が明らかとなった。その一方でこの巨大な分極を積極的に活かす方法、ポラリティエンジニアリングという概念が提唱され、例として周期的に極性ひいては分極を反転させた構造による第二高調波発生、もしくは両極性面の化学耐性の差を巧みに利用したフォトニックナ、ノ構造の作製方法炉試みられている。これにより、これまでは得てして破壊検査であったり巨視的な評価にとどまっていた窒化物半導体の格子極性について、より簡便に評価する方法がいっそう求められている。 これらの課題に共通している事象は、ヘテロ界面や表面に誘起された電場、もしくはバンドの曲がり具合(ベンディング)に強く影響を受けると考えられ、つまりそれを解く鍵はこの内蔵電場を正しく評価することであるといえる。 2)本研究の目的 そこで本研究においては、D.E.Aspnesらにより提唱されたフォトリフレクタンス(PR)やエレグトロリフレクタンス(ER)といった電場変調分光法に注目し、新たに改良を加えた手法を開発しこれを用いることで、背景で述べた窒化物半導体に残されている課題、 1)立方晶GaNIGaAsヘテロ構造における界面寄生伝導の起源の解明、 2)六方晶GaNの格子極性の判定方法の開発、 を解決することを目的とする。 3)実験方法と結果 以下では、本研究にて開発した変調分光的手法による評価結果にっいての説明にとどめ、窒化物半導体薄膜作製方法や構造特性評価結果などの詳細については本文を参照されたい。 3.1)立方晶GaN/G3Asの光バイアスエレクトロリフレクタンス(OBER) n型GaAs基板上に作製した立方晶GaN試料を用いて、表面に形成した半透明Auショットキ電極により周期的電界変調を行い、ERスペクトルを得た。GaAsのみに共鳴する波長488mmのレーザー光を定常的に照射し、その強度を増すことで信号の一部が減衰していくことから、GaN/GaAs界面からの信号も重畳していることが明らかとなった。一方温度依存性により、GaNのEo特異点近傍にて観測された信号は励起子遷移ではなくバンド間遷移によるものであることが分かり、比較的強電界が印加されな領域からの信号であることが分かった。 3.2)立方晶GaN/GaAsの電気的バイアスフォトリフレクタンス(EBPR) 上記と同様の試料に対し・He週eレーザーを励起光とした周期的変調によりPRスペクトルを得、更にスペクトル中にフランツ・ケルディッシュ振動(FKO)が観測された。このときショットキ電極に対して印加した逆バイアスを変化させることで、GaN/GaAs界面の内蔵電場の方向の判定を試みた。振動周期つまり電界強度は逆バイアス増加に伴い単調に増加したことから、当該界面におけるGaAsの内蔵電場はゼロバイアスにおいても表面に向かい上向きにベンドしていることが分かった。このことにより、電気伝導評価にてしばしば観測された寄生伝導が、この界面に存在する正孔が原因であることが、初めて明らかとなった。 3.3)立方晶GaN/GaAsの時間分解フォトリフレクタンス励起分光(TRPRE) 上記EBPRと同様にHe-Neレーザーを用いてGaNIGaAs界面を周期的に変調した場合の、信号位相の周波数依存性を評価することにより、当該界面に光励起されたキャリアの緩和時定数を見積もった。EBPRで観測されたFKOが同様に観察され、またこれに関連する緩和時定数は基板であるGaAs単体の表面やGaAsバッファのそれと比べて極めて長いことが分かった。っまりGaN/GaAs界面に形成された三角ポテンシャルに注入された正孔の緩和寿命が極めて長いため、これが極めて理想的なな正孔の伝導経路として働くことで、寄生伝導が顕若に観測されることが示唆された。 3.4)六方晶GaN極性面のコンタクトレスエレクトロリフレクタンス(CER) RfMBE法において、サファイア基板の窒化前処理やバッファ層挿入などの条件最適化により、高品質なGa極性ならびにN極性のGaNを作製する条件を求めた。これらの極性の異竣る試料について、導電性ガラスを対向電極として用い500Vを周期的に印加し、静電結合による電界変調を行うことでCERスペクトルを得た。極性が異なる試料の間で、明確なスペクトル位相の反転が観測されたことから、自発分極に誘起された分極電場の方向の違いとして、GaN格子極性を電場変調分光法により検出することが可能であることを初めて示した。また得られたデータは理論的スペクトル形状により厳密にフィッティングすることができると共に、更にそのスペクトル位相は、顕微ラマン散乱およびケルビンカ顕微鏡による表面電位評価結果より得られるバンドダイアグラムから予想される絶対位相と一致することを確認した。 4)総括 本研究においては、窒化物半導体のヘテロ界面と表面の特性、特にこれらに誘起された電場を対象とし、新規変調分光的評価手法を開発した。立方晶GaNIGaAs界面のOBER、EBPR、TRPREにより、界面のGaAs側に形成される三角ポテンシャルに蓄積した正孔が寄生伝導の起源であることが判明し、一方六方晶GaNのCERにより、格子極性を見積もることができることを示した。このことから、ここで開発した一連の電場変調分光的手法がワイドギャップ半導体ヘテロ界面および表面における物性解明に有効であることが示された。 | |
審査要旨 | 本論文は、変調分光法における新規な手法を考案し、半導体結晶の界面・表面電場の特性に基づく物性の評価手法として新たに適用することにより、立方晶GaN/GaAsヘテロ構造における寄生伝導現象の起源、および六方晶GaNにおける格子極性評価手法としての有効性を明らかにしたことを述べたものである。本文は英文で記され、全7章からなる。 第1章は序論であり、まず立方晶GaNの一般的物性と応用上の利点を概説した上で、立方晶GaN/GaAsヘテロ構造において電気的評価に基づき、ヘテロ界面の寄生伝導が電気的特性に強い影響を与える可能性について述べ、さらにその機構を解明する上で界面近傍のバンド形状を明らかにすることの重要性を述べている。また、デバイス応用上重要となる六方晶GaNのGaないしN極性という格子極性とその分極電界に関わる諸物性を概説した上で、格子極性の微視的かつ非接触な評価手法の必要性を述べている。これらの課題に対し、本研究では分光学的手法として新規な変調分光法を提案し、窒化物半導体の界面および表面電場の特性に基づく物性を解明することを目的としている。 第2章では、有機金属気相成長法による立方晶GaN/GaAs(001)ヘテロ構造の作製および構造特性と発光特性について述べ、本研究で用いた試料が積層欠陥の混入が極めて少ない高品質なものであることを示している。 第3章では、上記ヘテロ構造におけるHall効果と光伝導による横方向伝導特性、およびC-V測定による縦方向伝導特性に基づく多角的電気的評価から、GaAs中の寄生伝導の存在を示した結果について述べている。 第4章では、上記へテロ構造の変調分光測定結果と考察を述べている。まず光バイアスを用いたエレクトロリフレクタンス(ER)測定では、ショットキー電極により電界変調を行いERスペクトルを得るとともに、GaAsにレーザー光を定常照射し変調電界を選択的に遮蔽することで、とくにフランツ・ケルディッシュ振動(FKO)が減衰することから、ヘテロ界面近傍の強電界領域の存在を明らかにした。続いてレーザー照射の変調によるフォトリフレクタンス(PR)スペクトル測定において、ショットキー電極に印加する逆バイアスを変化させることで、ヘテロ界面の内蔵電場の向きの判定を試みている。これによりヘテロ界面近傍においてGaAsのバンドが界面に向かい上方へ湾曲し、三角ポテンシャル井戸を形成していることを示し、このポテンシャル井戸中を伝導する正孔が寄生伝導の正体であることを明らかにしている。さらに信号位相の変調周波数依存性においても、FKOを示す光励起キャリアの緩和時定数が極めて長いことから、このヘテロ界面のポテンシャル井戸に注入された正孔の緩和寿命が極めて長く、寄生伝導の主要因となっていることが示されている。 第5章では、RFプラズマ援用分子線エピタキシ法によるサファイア(0001)基板上六方晶GaN薄膜の作製、とくにGa及びN極性の高品質GaN薄膜を選択的に得る条件と、これらを面内に任意に配置した格子極性反転へテロ構造の作製法について述べている。またアルカリエッチング速度の結晶面方位依存性および反応機構と格子極性の関係に加え、顕微ラマン分光に基づく微視的結晶品質について検討している。 第6章では、六方晶GaNの分極電場の向きを検出することで格子極性を判定する新規な手法について述べている。薄膜に対し非接触で静電的に交流電界を印加するER測定において、格子極性の異なる試料間で、明確なスペクトル反転が観測されたことから、自発分極に誘起された分極電場の方向の違いにより格子極性の検出が可能であることを示した。またスペクトル形状が理論的予測と良い一致を示すとともに、位相および表面電界は顕微ラマン分光とケルビン力顕微鏡による表面電位評価より予想される結果と一致することを確認している。 第7章では、GaNにおけるへテロ界面および極性表面の諸物性を支配する内蔵電場とバンド形状の評価法として、本研究で開発した新規変調分光法が有用であることを総括的に述べ、GaNの界面・表面電場に関わる新規な知見を含めて、本論文の結論としている。 なお、本論文の第2、3、4章に述べられた内容は小早川将子、黒田正行、尾鍋研太郎、白木靖寛との、第5、6章の内容は久家祥宏、鶴沢英世、中村照幸、小牧弘典、松下智紀、近藤高志、尾鍋研太郎との共同研究によるものであるが、いずれも論文提出者が主体となって実験および解析を行ったもので、本人の寄与が十分であると判断される。 以上、本論文は、分光学的な物性評価法に新規な手法を考案・導入し、窒化物半導体のヘテロ界面・表面の電場特性に基づく諸物性を明らかにしたという点で、物質科学への寄与は極めて大きい。よって、博士(科学)の学位を授与できると認められる。 | |
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