学位論文要旨



No 216821
著者(漢字) 田邊,昇學
著者(英字)
著者(カナ) タナベ,ショウガク
標題(和) 20世紀後半期における都市およびその都市圏の変遷に関する比較研究
標題(洋)
報告番号 216821
報告番号 乙16821
学位授与日 2007.09.03
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第16821号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 武内,和彦
 東京大学 教授 下村,彰男
 東京大学 教授 大西,隆
 東京大学 教授 横張,真
 東京大学 准教授 大黒,俊哉
内容要旨 要旨を表示する

研究の目的

この研究は、国土計画・地域計画・都市計画の立案に資する基礎資料として、先ず全国に分布する市町村の実態を把握分類し、次に、経年的な変化を発展動向として解明し、その比較資料を参考として提供するとともに、究極的には今後の計画は生活上一体と認められる広域圏単位で立案するよう主張することを目的としている。

解析に当って扱った主要な研究項目は、市町村における市街地の規模、集積産業、教育、通勤・通学事情とその圏域構成の変遷、及び都市公園整備の実績である。

本研究の解析結果は、以下に示す第1章から第4章の構成でまとめている。

第1章は、主として定性的に市町村の機能面の特性を把握するために行った解析、及び計画単位とすべき都市圏等の変遷、特性等に関する比較分類についての記述である。

第2章は、人口、人口集中地区、就業人口、通学人口等に関する既往の統計値から市町村、及び都市圏等の変遷に関する計量的な解析結果の記述である。

第3章は、都市公園等の現況統計から、昭和35年~平成12年における都市公園等の整備の状況を解析し、併せて将来目標の考研に基づく現況評定から、今後の政策推進に当たって望まれる重点指摘の試みを記している。

第4章は、上記各章の解析により把握した都市、都市圏等の発展・衰退の要因を知る手掛かりを得るため、全国に分布する中心都市等250の昭和25年から平成12年までの人口伸び率を基準として、成長組、減少組、激減組に仕分け、それぞれの立地条件、沿革、既往の地域振興政策、適用された計画制度、市街地整備、都市公園の整備状況等のマクロ的比較を行っている。

第1章 全国都市圏・農村圏及びその構成市町村の体系的分類に基づく変遷比較

第1章は、将来計画のために、1950~2000年に見られた急速な都市化に伴い、わが国の都市・農村等の構成に生じた変化を解明している。

1.わが国には、1995年現在3,180の市町村があった(除く沖縄)。これらのうち国勢調査資料に基づきA~E 5グループに分けて選別した都市(DID人口1万人以上)は、1960年に511存在したが,その後205増加して、1995年には716都市の構成となった。

2.通勤・通学調査に基づき、都市圏、農村圏等を設定した。都市圏は161中心都市をもとに2,666市町村で構成されており、農村圏等は99中心町村をもとに354町村の構成で、市町村の95%が広域圏を形成している。なお、これに属さぬ孤立町村が160存在する。

3.産業大分類別従業者調査に基づく各市町村の産業特性の推移から、純農村の激減、工業の全国進出、三次産業の中心都市集中を解明した。

4.各圏域の抱える計画課題の解決には、都市圏等を対象とする計画立案が必要であるとの問題提起を行った。

第2章 20世紀後半期における全国都市圏・農村圏及び各構成市町村の変遷に関する研究

第2章は、1950~2000年における全国市町村国勢調査データに基づき、将来計画のため都市化に伴う都市・農村圏の変遷を解明したものである。

1.全国人口は、50年間に約4,200万人(1.51倍)増加した。実在する都市圏、農村圏260別の増減は、A,B,C都市圏で大幅に増加し、特に、A,B都市圏へは2,000万人が流入した。

2.就業人口は、1955年以降2,400万人増加した。就業者の97%は都市圏で従業しており、50%はA都市圏である。第一次産業人口は約1,200万人減少した。第二次産業人口は約1,100万人増加し2.18倍,第三次産業人口は2,600万人増加し2.8倍となった。

3.人口集中地区は、1960~2000年の間に、人口は2倍、4,200万人増、面積は3倍、8,600Km2増の結果、密度は2/3に低下した。

4.20世紀後半の都市・地域の急激な変遷がもたらした多くの計画課題に対して、関係者は、鋭意対応に努める必要がある。

第3章 20世紀後半期における全国都市公園等整備の実績、及び現状に関する評定と考察

第3章は、公園緑地の整備実績を都市と都市圏について解明し、今後の計画に資することを目的としている

1.公園統計による全国の供用箇所、面積は、昭和35年の4,443ヶ所、約13,900haから、平成12年には約78,400ヶ所、約90,900haに拡充した。

2.各市町村の整備現況を独自に想定した長期的目標値と比較検討した結果、面積の達成率は、都市規模区分に基づき設定したA都市圏22%,B都市圏43%,C44%,D51%, E62%,EM71%,F62%であった。

3.各中心都市と都市圏の整備水準を六段階に分けて評定し、そのタイプ別分類から、市町村名を記入した都市公園等整備ランク座標を作成し,今後の整備事業において重点を指向すべき地域を指摘した。

第4章 中心都市、都市圏等の発展・衰退要因の解析、及び総括的考察

第4章は、上記各章の解析により把握した中心都市、都市圏等の発展・衰退、或いは都市公園整備現況の評定に見られる格差について、中心都市等の昭和25年から平成12年までの人口伸び率に基づく成長組、減少組、激減組の仕分けから、それらの要因と思われる自然的、社会的、一般通念的な土地柄を比較検討することによって、発展動向を占う何らかの定説が得られるのではないかと試みた解析である。

1.成長都市には、3A、5B、41C, 24D,44Eが含まれる。DID人口4万人以上の都市は、若干の例外はあるが成長の部にあり、DID人口4万人未満の市町村はEの約半数を除くと成長組に留まることは難しいとの結果である。

2.都市圏の発展タイプは、B,C,D圏は主として中心都市リード型、A圏は近郊膨張型といえる。

3.産業大分類に基づく特性比較では、A,B,Cクラスの都市は必要な都市機能を多様に整えつつ発展しており、更に新たな機能を付加する可能性が高い。一方、D,Eクラスの都市は、特化機能の種別が少なく、商業・サービス的な機能の水準が低い。

4.中心都市の地方分布から、成長都市数が減少都市と激減都市の合計を上回っているのは、本州の東半分を占める地方であり、北海道、中国,四国、九州は減少都市と激減都市の合計が成長都市数を上回る地方である。

5.自然的立地条件については、一般的に、平坦地の規模が大きい平野、盆地が都市形成上非常に有利であり、海岸沿い、河川上流沿いの平地・丘陵では成長都市よりも減少が多く、大きな都市は育っていない。

豪雪地帯は、都市の発展を著しく阻害しているとは思われないが、離島、山村、過疎、奥地のレッテルは、非常に厳しい条件である。

6.成長都市に8割以上が関係している沿革上の特性は、城下町、工業都市、商業都市、行政都市、戦災都市であり、宿場町、温泉地も6割以上が関係している。一方、地方港湾のみの港町、漁師町、鉱山町に係わる都市に減少、激減が存在する。

7.既往の計画制度のうち、国土総合開発計画の特定地域、首都・近畿・中部圏整備計画、新産業都市、並びに工業整備特別地域は、都市の発展に大きく貢献したと言える。

8.都市計画法の適用状況は、成長都市に重点が置かれてきたが、都市圏の約6割に留まっており、都市計画は、三巨大都市のほか地方の成長都市とその都市圏に重点を置いて進められてきたと言える。

9.市街地整備事業と公有水面埋立事業の実績合計値を用途地域面積で除した値を計画的市街地率と見なすならば、現在市街地の1/3程度しか良好な市街地が存在しないことがわかった。残る2/3の地域は、生活環境上、防災上改善する必要に迫られている。

10.都市公園整備の実績は、成長都市とその都市圏に重点が置かれてきた。三巨大都市圏の占める臨海成長都市圏では、整備量が突出して高いにも拘わらず圏域人口一人当たりの面積は容易には高まらず、今後一層整備の促進を図らなければならない状況にある。

第1章から第3章までの都市と都市圏の各変遷比較、及び第4章における成長・減少・激減に区分した中心都市等の発展・衰退要因の解析、及び総括的考察をもって、20世紀後半期における都市およびその都市圏の変遷に関する比較研究の報告とする。

審査要旨 要旨を表示する

日本では昭和30年代以降,都市への人口集中が進み,市町村等の行政単位を超えた都市圏が急速に拡大する一方で,農村地域では過疎化が進行し,国土の均衡ある発展という観点からみて多くの都市計画・地域計画上の問題が生じた。こうした問題に対して実効性の高い都市計画・地域計画施策を策定するためには,都市圏形成の動向を予測・評価したうえで,適切な計画単位を設定することが不可欠である。本研究は,20世紀後半期におけるわが国の広域的な都市圏形成の変遷を解明するとともに,都市および都市圏の発展・衰退の要因を立地条件,産業構造,歴史的条件等との関連から明らかにすることにより,戦後の都市計画・地域計画の問題点を考察し,望ましい計画単位と計画目標のあり方を検討することを目的とする。本論文は,研究の背景と目的をまとめた序章および以下の4章から構成される。

「全国都市圏・農村圏及びその構成市町村の体系的分類に基づく変遷比較(第1章)」では,昭和35年~平成7年の国勢調査等の統計資料を用いて,全国の都市圏・農村圏およびその構成市町村を規模および機能拠点性の観点から体系的に類型化したうえで,この間にみられた急速な都市化に伴う都市圏・農村圏の変遷を解析した。まず,人口集中地区(DID)人口1万人以上の市町村を都市と定義したうえで,DID人口規模によって5グループに類型化した。つぎに,通勤・通学調査に基づき,都市圏,農村圏等を設定した。その結果,都市圏は161の中心都市を核とした2,666市町村,農村圏等は99の中心町村を核とした354町村で構成されており,市町村の95%が広域圏を形成していることが明らかになった。一方,これらの広域圏に属さない孤立町村が160存在することが分かった。また,産業大分類別従業者調査に基づく各市町村の産業特性の推移を解析した結果,純農村の激減,工業の全国進出,三次産業の中心都市への集中といった実態が明らかになった。

「20世紀後半期における全国都市圏・農村圏及び各構成市町村の変遷(第2章)」では,第1章で区分した都市圏・農村圏等の類型ごとに,人口,人口集中地区,就業人口,産業別人口,通学人口等に関する既往の統計資料から,人口動態に関する計量的解析を行い,大都市圏等への人口集中と過疎地域発生の実態を全国スケールで明らかにするとともに,都市・地方の急激な変遷に起因する都市・地域計画上の課題を考察した。

「20世紀後半期における全国都市公園等整備の実績及び現状に関する評定と考察(第3章)」では,都市圏・農村圏等の類型ごとに,都市公園等整備に関する統計資料を用いて,昭和35年~平成12年における都市公園等整備の進展状況を解析し,目標水準に対する充足率から現況を評価した。その結果,DID人口4万人未満の小都市圏ではおおむね60%以上,同100万人未満の都市圏でも40%以上の達成率であったが,同100万人以上の大都市圏では20%程度の達成率にとどまっていることが分かった。以上から,都市公園の整備はほぼ全国的規模で推進されてきたものの,三大都市圏および一部の都市圏が今後さらに整備を進めるべき重点圏域として抽出された。

「中心都市,都市圏等の発展・衰退要因の解析及び総括的考察(第4章)」では,上記各章の解析により把握した都市圏・農村圏等の発展・衰退あるいは都市公園整備の格差について,その要因を明らかにするため,全国に分布する中心都市等250およびその都市圏・農村圏を対象に,昭和25年~平成12年の人口動態に基づいて成長,減少,激減タイプに区分したうえで,それぞれの立地,沿革,振興政策,各種計画制度,市街地・都市公園整備状況等を比較した。その結果,各都市固有の自然立地条件,複合化した沿革,地域産業と教育動向,既往の地域振興政策,都市計画等に基づく諸事業の影響と効果が,都市・農村の盛衰と格差をもたらす要因であることが明らかになった。以上の結果から,各圏域の抱える計画課題の解決には,都市圏等の広域生活圏を単位とする計画立案が必要であることを指摘した。

以上要するに,本研究は,広域的な都市圏形成プロセスと要因を全国スケールで解明し,望ましい都市・地域計画単位として広域生活圏の概念を提示したものであり,新全国総合開発をはじめとする20世紀後半の都市・地方計画の進展に大きく寄与した業績として高く評価できる。さらに,本研究の成果は,昨今進められている市町村合併の妥当性を,広域生活圏形成の観点から評価する際の指針となるなど,今後の都市・地域計画のあり方を検討する上での重要な示唆を与えるものとして高く評価できる。よって,審査委員一同は,博士(農学)の学位を与えるに十分値する論文であると判断した。

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